人がいるので追いかけろ
椅子から四本の足を取りはずしたような形状の器具が、竜の背中に取り付けられており、俺はそこに跨って空を飛んでいた。
翼は両翼とも、船の帆のように風を受けてぴんと張っており、左右の青空に向かってのびのびと広げている。
翼の辺りに限れば、鱗は薄かった。
鱗。
全身のほとんどはやや森林のような緑色の鱗でおおわれている。
鱗は艶めき、受けている日光を反射して、一つ一つが磨かれた宝石を思わせた。
尾は細く長く、女神の後ろ、後方にも垂れるように伸びている。
「ドラ………ゴン………!」
なんてことだ、はるか上空を飛んでいる。
しかも、こんなことを言うのもなんだが―――快適なのだった。
視界も良好。
俺は前世で自家用機の類に乗ったことなんてないから、初めてのはずなのに、空中で恐怖心のようなものがない。
どこにでも行けるような、感覚があった。
「スキルのおかげよ―――あなたは空間把握も問題なく出来るはずよ、問題なく」
「いやいやいや―――問題だろ!待てよ女神!初めてだぞ!俺!竜に乗るなんて!竜に乗ってスタートなんて聞いたことがないよ!」
これだったらメリーゴーランドに跨っていた方がまだマシだった。
それだったら同じ騎乗スタートでももうすこしなんとかごまかしようがあるだろう。
そうこう言っている間に、高速道路を走っているような風景の過ぎ去り方をする―――違うことがあるとすれば周囲が街並みや森、山ではなく圧倒的な青空と雲なのだった。
耳のすぐ横で風切り音が続く中、進んでいく。
上を見上げる。
ゴーグル越しに、太陽が近く感じる。
下は―――下を見るのが―――怖い。
だが、イヤでも視界に入ってくるのは、遥か下方に髪の毛のように細く見える土色の道、そして畑か田園かの、の、若草色の絨毯。
「うっ………うわあああ!」
俺は、竜と共に落ちた。
俺の乗る翼竜は、直滑降とは言わないまでも、地面に向かって落ち飛び(?)―――そして、下がったら下がったで、高度のあげ方を知らない。
「なんだ、これは!」
「手綱を握って、命じるのよ!あなたなら、出来るはずよ、転生した勇者さま!」
「そ、そんなこと言ったって初めてだぞ、こちとらぁ初めて―――ええい、上がれ!竜!」
手綱を引く。この方向でイイのかは知らないがとにかく、竜の首が上がり、姿勢を持ち直した。
「あ、あぶねぇ」
「こっちのセリフだ、くそが!」
後ろから、高速で竜が二頭、過ぎ去っていく。
追い抜いていく飛竜乗りがいた。
「どこ見てんだ、危ねえぞォ!」
「なんて飛び方してんだ、馬鹿!」
通り過ぎざまに罵声を浴びせられる俺。
「女神!お前のせいで怒られちまったぞ、くそ!」
慌ててしまったのは事実だが、内心は悪くない。
人だ―――とりあえず人がいたのは助かる―――人が乗っている、飛竜にだが―――。
俺は、竜の頭を前方に向けた―――、竜はばさりと羽ばたき、前方へ進む―――この竜もなかなか素直なものだ。
初めて乗る気がしない。
自分がどうやって操縦(?)しているのか説明はできないが、とにかく思った通りに動いている。
「ちょっとミチユキくん、あんた、どこに行く気!あの人たちは、飛竜乗りよ!」
「俺も竜に乗っているんだから、あいつらについて行くしかないだろうが!」
好都合だ、右も左もわからないが、この状況でとりあえず人に会えた。
俺は町につきたいという意思があった。
そうじゃないとこれからのこととか、装備とか、整えようもない。
そのためには、近くにいる人間いついて行くという選択肢は―――悪くないだろう。
しかし、あの高速で飛んでいった者たち―――飛竜乗りだって?