イエローの飛竜を追え
コーナーに侵入する直前、甲冑の男のイエローの飛竜が大きく翼を広げる。
俺の相棒よりも多く出せる最高速度をぐっとエアブレーキで落として、コーナーに飛び込んでいく。
道幅が狭いと妙なスピード感を感じる。
掃除機に吸い込まれるように、コーナーの向こうに飛竜が消えた。
俺は一連の光景を見ながら考える。
あのイエローの飛竜、かなり速いな―――そう思いながら、飛んでいた。
ようやくレースの体裁は整ったという感じだ。
マトモなレース。
火の玉が飛ばないレース。
スタート地点の、火の玉が飛び交う修羅場をかいくぐるのは大変だった―――が、俺が前に出てからしばらくたつと、後ろで同士討ちをしているような状況になり、やっと抜け出せたことを知った。
竜による攻撃は無く、あとは風圧のみが襲い掛かる。
パメラめ、そういうレースならそういうレースであると、ひと声かけてくれてもよさそうなものだ。
ダメ女神め。
ブラック女神め。
そうだな、ブラック女神とは何なのか、自分でもよくわからないが、あとでキレておこう。
谷間の道幅は飛竜発送団の配送でも覚えたし、夜の走り込みならぬ飛び込みで、随分覚えた。
俺の相棒も物覚えが早く、このナツナの谷に慣れを感じ始めた。
崖の上から漏れ堕ちる日光がある。
光の量は真昼でも多すぎず、つまり逆光が少ない。
視界は良い―――道幅は飛竜二匹分か、もう少し広い。
イエローの飛竜は力強く羽ばたく。
直線ではじわじわと離される。
だが、曲がる時は距離を詰めることが出来る―――デカいウイングが、狭い谷間には窮屈そうだ。
決して楽ではない空中戦。
一度抜かしたことがある相手とはいえ―――公式のレースとなると緊張するぜ。
そうだ、俺は飛んだり走ったりは好きだが、誰かと競うという事は、実は少なかった。
あのクルマのバトルだって、出来るかどうかわからない勝負だった。
「あの時もそうだった―――」
最後の。
この世界に来る前の、最後のレースも。
煙草をぷかぷかさせてる親父が行って来いと、指令を出したのだった。
「親父のやつ………なにが『軽くちぎってこい』だよ。ちょっとコンビニ走って来いみたいに言ってたけど」
タイヤが軋れる音が、今はもう思い出せない―――上手く思い出せない。
時速百キロの世界だ―――凄い轟音だったはずだが。
飛竜の全力の咆哮に、似ている音だった気がする。
あの時はギャラリーも多かったんだよなぁ………観客。
ガードレールの外側に、結構並んでいた。
それも初めて聞いたことだし―――相手が地元では有名人だったことも知った。
相手は確かに速かったのだ。
「何もかもが場違いじゃあねぇか親父………紐みたいな眼ぇしやがって」
だが親父が行けというからには、勝負をした。
勝負にはなっていた―――コーナーで差を詰めている感覚はあった。
ただ、俺は追い抜きが苦手だったようだ。
何しろ、他のクルマと並んで競争なんて言うのは初めてだった。
追い抜きが今後の課題だ―――なんて。
異世界に来ても、結局はレースから逃げられないのかもしれないな、俺は。
この世界に来てから、練習したこともある。
飛竜ならではの飛び方。
走り方ではなく、飛び方。
そしてナツナの谷のコース………コースっていっていいのかな、これは?
とにかく、それはこの一月ほどでもう覚えた。
重要なところは頭に入っている。
「前世での経験は忘れよう―――っていうかクルマじゃねーし、これ」




