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開戦の炎 2




レースが始まったと知らされて、女神協会のパメラは、しかし観客席で話に華を咲かせていた。

会話をしていた。

のん気にくっちゃべっていた。

相手は、久しぶりに出会った同族、いや同僚。

パメラも所属する女神協会の友人だった。


「あらあら、パメラじゃん!久しぶり」


「ヴァネール………あなたここの地域だったの?この地域担当?」


「そうよー」


まさしく欧風美人、といった風な金髪をなびかせるヴァネール。

二人はゴール地点周辺の人ごみの中で、出会った。

パメラはレースに夢中なミチユキから離れている今、話し相手が出来て嬉しい。

これは偶然かどうかはわからないが、自然と笑顔になる。

ひとしきり『キャー久しぶりィ状態』を楽しみ、ひたすらに声が高いだけで中身がない会話を繰り広げたのちに、ヴァネールは口に手を当てて驚いた。


「えっ!じゃあパメラが担当の勇者くん、このレースに出場してるの?」


「ゆ、勇者?ミチユキは………ミチユキは勇者………じゃあないけれどね、彼は違うわ、飛竜乗りなのよ」


「そう―――」


ヴァネールの反応はそれほど楽しそうではなかった。

どこか神妙な―――静かな反応。

パメラはなんとなく、気がかりである―――確かに、この世界への転生者がいきなり飛竜乗りというパターンは初めてだ。

噂でもほとんど耳にしない。

友人も知識が豊富ではなさそうだし、そもそも女子で好き好んで飛竜乗りをしている人間は、この世界の人間でも、少数派である。

畑違い、を感じるかもしれない。


「ヴァネールは今日、どうしたの?私はお弁当係!作って来たのだけれど」


「私?私は散々よ―――勇者のサポートなんて大変なのよ」


話を聞けば、こういうことだった。

彼女も女神協会の人間なので、いや神なので、転生者の初期サポートを職務として真っ当している。

担当する男子がいる。

傭兵向きの才覚を持っていた男のサポートをしている。

ミチユキとは異なり、剣を扱うスキル、格闘技能、武具知識、詳しくは守秘義務だがそういう系統だと推測できる。


だが勇者を名乗りこの世界のモンスターや傭兵との戦いをしていくと、生傷(なまきず)が絶えない。

戦闘の数々、それが―――日常。

彼の身体に回復魔法(ヒーリング)をかけるのはもっぱら、ヴァネールの仕事となる。

出先から帰ってくる、何らかの大けがをして戻ってくるその頻度の高さ。

馬車馬のように魔力を消耗させられ、ヴァネールはなんだか最近、自分が老けたような気さえ、する。

紆余曲折あって。

今は喧嘩をして、男を村の医療所に置いてきたとか何とか。


「い、色々あるのね………ヴァネールにも」


「本っ当にもう!なんで男ってこう―――勇者をやりたがるのかしらね!一にも二にも勇者、モンスター討伐!転生者の(ジョブ)は、他にも色々あるのに………」


そういった転生者が近頃多いということは、女神協会の中では常識であった。

勇者は王道と思われがちかもしれないが、ものすごく大変だ。

そしてこの世界で生きる人間は、何も戦いに身を置くだけではない―――いろんな人間が暮らしている。

強大な国の国境など、今も戦争をやっている地域はあるので、戦闘系のスキルに需要はあるのだけれど。

戦争では敵味方すべてが血眼に戦うし、人間でないほうもだ。

人間でない、モンスター討伐などの生業でも、例えば前世での日本の動物よりも厄介なモンスター、巨大なモンスターに出会う。



「な、なんだか悪いことを聞いちゃったわね………聞いちゃったかしら?」


「いーのよ!いいの、今日はなんかイベントごとやるっていうから、ここに羽を伸ばしに来たの私は」


「という事になると、ミチユキくんはそのあたり、まだマシなのかもしれないわね」


無駄とさえ言える大怪我をしないという点では。

飛竜乗り(ドラゴンライダー)という職業(ジョブ)は。

最近、彼が行っている飛竜発送団も、良くしてくれているようだったし。


「飛竜乗りになれば、大けがはしないものね」


パメラがそう言うと、ヴァネールは驚く。


「はぁ?」


そんな簡単なものではない、と彼女は言う。

パメラの驚きに、その表情にさらに付け加える。


「飛竜のレースは激しいわ、冒険者とは違うけれど危険なの、とても―――空の格闘技だって評判なのよ?」



――――――――――――――――――――――




「くっ………そおおおおおォ――――ッ!」


打ち上げ花火だ―――打ち上げ花火の中を、飛んでいる。

打ち上げ花火のような飛竜の吐炎(ブレス)

入り乱れる………!


俺は歯を食いしばりながら、相棒の飛竜の手綱を握っていた。

聞いてない………聞いていないぞ。

レースじゃあ、無かったのか、これは!

飛竜乗りの、ただの競争では。


バシン、バシンと。

(たたみ)でいうと、三畳ぐらいはあろうかという飛竜の翼が、激しく大気を叩く。

そうして身をよじり、俺は相棒と、空中を回転して飛んでいく。

直ぐ近くを、熱球が通り過ぎた。

先ほどまで俺が飛ぶはずだったルートを火の玉が通り過ぎ、そのままぐんぐん伸びて、俺の前の飛竜の翼に激突した。

飛竜はバランスを崩して順位を落とした。

だがまだ後方で羽ばたき始める。

激戦、続く。


ジグザグに、とりあえずはジグザグに行くしかねぇ!

火の玉飛んでくる、ジグザグに避けろ、頑張れ相棒!


『ゴ ヒャアアアアア!』


まだそれらの直撃は避けている俺の相棒は、咆哮を炸裂させる。

快調である、今のところは!

だが。


「パメラァ―――ッ!パメラ、出て来い女神よ!これは()ェ!これは予想から、違うぞ、くっそ――――ッ!」


とはいえ、参加登録をしに商会に訪れた、行ったのは俺であった。

参加申請書をもっと読んで、質問もすべきだった。

俺は炎を吐いている連中に向かい、叫ぶ。


「そんなに頑張って疲れないか! 普通にレースしろ!危ないだろ!」


飛竜(ドラゴン)だぜ!お前、見ない顔だが―――お行儀のいいレースだと思っていたのか!?これが!」


羽ばたく飛竜の上から、大声で叫ぶ、ライバルの飛竜乗り。

(ガラ)の悪そうな男だ、好感は抱かなかったが、俺も俺である―――。

どうやら俺は未熟、完全にシロウト丸出しのようだった。

場違いなのはどちらかが理解できると、歯ぎしりしたくもなる。



「これは空の格闘技だぜ!この―――坊や!」


言って火球が敵飛竜の牙の隙間から、解け溢れて生み出される。

ライターでの着火というには、あまりにも巨大だ―――目を疑う光景である。

首を振りかぶって吐き出された飛竜の吐炎から目を離さないようにして―――避ける。

革製の衣服で身は守られているが―――すれ違いざま、頬に熱を感じた。

何とか躱したが―――。



―――俺は飛竜発送団に入ったんだ、戦場に行くつもりはさらさらない。


オロッソ先輩が何とも気まずそうに言った、あのセリフの意味が今更ながら理解できる。

俺はスタートするまで、何もわかっていなかった。

空の格闘技だと?


「格闘技だってぇ―――そういうなら炎を出すなァ! ―――格闘技をしろよ、せめて!」


本心を吐き出しつつ、飛ぶ。

俺の相棒は鮮やかに攻撃をかわすが、順位を上げられるはずはない。

苦しいぜ………!


俺は逃げるしかない。

戦場―――そう、戦場だ、先輩が言っていたことはどうやら、飛竜乗り全体の共有感覚らしい。

そしてもはや思い知るしかない―――体感する、している。

飛竜というのは、炎を吐くものだと。


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