表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/29

開戦の炎





飛竜の特性を最大限に生かすレースである以上、飛竜による攻撃も許可する。

種族特性の固有スキルも使用可能。

ただし、勝敗に関係しない執拗な攻撃など、度を越えた悪質行為については、これを禁じ、罰則も存在する。


―――イモール・ウェルギリウス規定 第四条




スタート地点についた俺は、目の前に広がる山々を見た。

緑広がる山頂は、やや青空の色が移っているように思えて、爽やかであった。

このエイ・ブロックのスタート地点では、まずナツナ=マウンテンに向かって飛ぶ。

そしてその谷に立っている旗、監視員の場所にたどり着き、狭い谷間に侵入する。

谷間を出れば、すぐにゴールだ。

それが予選という事になる。


「ミチユキくん、頑張ってねー!」


女神パメラが観客席で手を振っている。

飛竜レースに出るなんて言った時は何か言われるかと思ったが、彼女は意外にも喜んだ。

面白いじゃない―――、と。

転生時のステータスが飛竜乗り特化なのだから仕方がないわよね、と以外にもあっさり承諾した。

一足先にゴール付近に行っている、お弁当作ってきた―――とのことである。

ううむ、まるでピクニック気分か。


「出場者はスタート位置について!」


商会の係りの人間が呼びかける―――いよいよ始まるようだ、スタートラインに付いた。

激戦の幕開けである。

俺は周囲に並んでいる飛竜、特に飛竜乗りが、ある一方向に向けた視線を感じ取る。

クリスという男。

そしてイエローの飛竜はひときわ存在感を放つ。

彼は周囲の多数のライバル―――レース開始前から、喉から重低音を漏らしている飛竜から注目されているようだった。


俺はそれまで、このレースを決して、舐めていたわけではない、侮っていたわけではない。

だが全く理解していなかった、というのが事実。

前方を飛ぶ飛竜を追い抜くことがレースの肝要である。

そのためには、多数の手段がある。


「スタート!」


商会のギルド会員の人間が腕を振り、どういう原理かわからないが炸裂音がした。

それが狼煙(のろし)

大規模飛竜レースのイモール・ウェルギリウスの開催である。

と、この世界に狼煙は存在しないかもしれないが、とにかく全飛竜が、一斉に飛び出す。


空に向かって、地を蹴り、翼を広げて舞い上がっていく。

俺の相棒も加速した。

そして、隣の飛竜が、前方に向かい首を上げ、牙の隙間から熱がこぼれた。

飛竜は、俺の身体ほどはありそうな、炎の球を吐いた。

火球が飛んでいく。


「ちょ………ッ!?」


俺は驚愕する。俺の感情を置き去りにしていくかのように、反対側の飛竜乗りも、飛竜に指示を出し―――訓練されているのか。

炎を吐いた。

竜が炎を吐いたのだ、そしてなおも羽ばたき続ける。



俺は参加登録の際に流し読みしたレースの内容、注意点を脳裏に再現する。

飛竜による攻撃―――飛竜による、火炎。

アリだとは考えていたが、有りだが、あくまでもレース、競争だと思っていた。

こ、これが固有スキル!?


火球が次々と、一番前を飛んでいる、イエローの飛竜に向かって飛んでいく。

気づいたら一番先頭に躍り出ていた---。

あの甲冑の、騎士風の男―――。

予想通り速い!

驚愕の中で、周囲が捲し立てる。


「―――なんとしても撃ち落とせ!アオギの騎士団を撃ち落として、名を上げるんだ!」


「奴さえいなければ、予選トップが可能だ!可能性が見える!」


俺はと言えば、その壮絶なレース・スタートに怯んでいた。

ビビっていた感は否めない。

何しろレースじゃあない―――頬に火球の熱を感じる。

まず一斉にこれだけの数でスタートをしたレースなど体験したことがないし、振動、騒音が周囲に渦巻いた。


その音の本流たるや、凄まじい。

ヘリコプターが二十機、一斉に飛び立とうとフルスロットルで稼働しているような音だ―――。

鼓膜から伝わる情報量が―――こ、これは、無理だ。

人間の限界に近い。

もはや何が何だかわからない中、それでも、おおよその形勢生まれる。

今まさに、順位が組みあがっていく。



周囲の飛竜乗りは必死だった。

必死で飛びながら、優勝候補筆頭(?)の実力者に、立ち向かっている。

食らいつこうとした。

彼らはイエローに主張する飛竜に食らいつこうとして、そして食らいつけていなかった。




「俺狙いってぇわけか! まあ―――そうだよな!」


クリス・ヴェルシムは―――あの金髪の男は叫んだ。

声色に歓喜が混じっていた。

そういえば有名人らしい---。


「当たってたまるかよ、俺のフェルグランドに半端な炎が!」


炎は彼の乗る飛竜に注がれた、集中砲火だった。

だが、基本的に多用する行為ではない。

炎を吐くなど、基本的に全速力で飛びながらは不可能である。

スピードを殺す、リスク、犠牲もあるのだ。

(はた)から激戦を見ていた俺も、それは確認できた―――炎を吐いた飛竜は飛ぶリズムを崩したり、息を乱したりする竜もいた。


「それと、カッコ悪いんだよなぁ………速さでは敵いませんってェ―――言ってるようなモンだからよォオオオ―――ッ!」


そのイエローの飛竜は、青空の中で異様に映える。

野性味あふれるように感じるのは、翼が大きいからだろうか。

避けている。

打ち上げ花火のように飛んでくる多数の火球を、まさしく縦横無尽に、その運動性能で避けている。


「すごいぞ、あの、黄色い奴!」


興奮した観客が空に向かい、指をさしている―――。

ああ、すばやい飛竜だ。

雄々しく、力強く小さくなっていく―――後続を、引き離していく。

谷で見かけた時よりも動きが大きく見える。

そうか、あの時とは違う―――谷とは違い、障害物が周囲にない青空では全開で避けることも出来る。


周囲の飛竜乗りが、歯を食いしばりながら拳で、乗っている竜の背を叩く。

俺も、あっという間に置いて行かれた。




―――――――――――――




「―――ああ、そうだ。反対派もいたことは確かだ。このルールはな」


商会の中心、会長室で葉巻を吹かす男がいた。

トゥリクル・ウェルギリウス。

ホエイル都市群を中心に、数多の商品流通ルートを取り扱ってきた男である。

威厳溢れる彼は巨大な椅子に、その巨体を預ける。


「野蛮な行いである飛竜乗り(ドラゴンライダー)は、戦場の一要素である。そのようなものを上流階級の方々に見せるべきではない―――だとよ。バッカヤロォ、だよなあ、まさしく」


葉巻と唇の隙間から漏れる煙が、周囲に広がる。

彼の肥えた身体と威圧感ある顔筋も相まって、ブレスを吐く老いた地竜のようでもある。


「俺は、今でも飛竜と聞いたら、まず戦場だ―――戦場が似合うと思っている。南方のお得意様のもとに出かけりゃあ、見られるぜ―――攻城兵器として猛威を振るっている飛竜をな」


ウェルギリウス商会の会長は、今回のレースを大きな仕事だと考えている。

ただ飛竜が飛んでいるだけのレースに留まらない、大きな仕事だ。


「躍動感あふれるバトル、私も期待しますがね………ここまでする必要性があったのか、私には疑問です」


目つきがやや疑問、否定的なのは副会長である。

彼は葉巻の煙も、苦手であった。


「元々人間には手に余る―――それで当然だ。飛竜は生き物だからな―――俺も昔、上手く売ろうとしたこともあるが、難しいもんよ、まだ扱いに困っている」


会長の目つきは、台詞とは相反して、ひどく楽しそうであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ