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イモール・ウェルギリウス


そんなこんなで、いよいよ大会の当日がやって来たのである。

やってきましたよ。

もちろん、俺だけでなく最初に大会の話をした飛竜発送団の先輩二人もやって来た。


「ミチユキよ、俺はシィ・ブロックだから、たぶんかなり別のところからのスタートだ」


「ふん………おれは(けん)にまわるとするぜ………俺は飛竜発送団に入ったんだ、戦場に行くつもりはさらさらない」


とのことである………そんなこんなでレースに出場は俺とガラム先輩とで、ということになった。

だが、俺は四つあるうちのエイ・ブロック。

そこには多種多様な飛竜が飼い主である乗り手とともに、待っていた。


スタート地点にやって来た時点で壮観であった―――どう例えればいいのだろう。

竜オンリーで構成された動物園、というものを見たことがあるだろうか?

俺は初めてその空間に足を踏み入れたようで、身がすくむ思いである。


ざっと二十、三十………?くらいの数の飛竜がいて、色彩もバラバラで、中には今日の日のために張り切ってペイントしてきたのではないか、というようなカラーリングの竜も、翼をゆらゆらと動かし、準備運動のような動きだろうか―――しているように、見えた。


「す、すごいな………この数は。全部飛竜か」


どの飛竜も皆、種族が微妙に異なるようだが、飛竜乗りである人間の競争心、闘争心に感化されてか、どの竜も好戦的に見える。

(わに)のような口から覗く牙と、唾液でぬるりと光る口腔内………。

俺は雰囲気が違うことを感じた。

どんな感情なのか説明がつかないが、プラスの感情、高揚感もある。


飛竜発送団にも、巨大な翼を持つ竜は何匹も並んでいた。

だが、飛竜で物資を運搬します、人々の役に立ちますというような、温かな空気とは、また違う集団、見上げるほどの高さの爬虫類の集まり―――いつの間にか、汗が噴き出すような思いだった。


その中に一匹、ひときわ目立つ飛竜がいた。

他とは離れているその飛竜は、黄色い色―――というよりは、はっきりとしたイエローだ。

冗談染みてデカい(ウイング)が特徴的な、見るからに飛ぶのが速そうな、そんな飛竜だった。

………うん?

なんか、既視感(デジャヴ)がある………どこかで見たなぁ、あの飛竜、最近。


「おい」


声をかけられた。

おれは振り向く―――初めて聞く声だった。

その男は他の飛竜乗りとは違う―――一線を画した、そんな感覚があったのは、確かである。 

つんつんと張った、金色の短髪。

瞳はぱっちりと開いていて、先を見据えたかのような真っすぐな光があるが、どこか少年らしさがある。


身に着けているものも、俺とは違う―――甲冑を着た騎士、と言った風情だった。

もちろん竜に乗って飛ぶ以上、分厚い鉄骨のような重量級なものではないが、飛んで来た矢くらいなら防ぐだろう。

内心驚いた半面、こういった服装こそが、竜に乗る者―――飛竜騎士であるというようにも、思えた。

王道と言えば王道である。



「ようやく会えたぜ―――お前、あの時この竜に乗ってた奴か?そうだよな」


その男が俺の後ろにいる相棒を見て、言った。

俺の飛竜を、知っている?

俺の竜に、何か用があるのか?

親の仇でも見るような、ただならぬ目つきだ。

だがそこに、嫌悪感よりももっと真っすぐなものを感じた。


「ど、どちら様でしょうか………?」


「あ?てめぇ………あんなちぎり方をしておいて、そりゃあないだろうが」


話しているうちに、彼のことは思い出せなかったが、このド派手なイエローの飛竜のことを見ていると―――


「あっ!あの時の!」


思い出した。

以前、夜中に、谷でこの目立つ飛竜を追い抜いたことがあったのだ―――。

昼間に会ったのは初めてなので、すぐに思い出せなかったが。

これは、これは。


「あの時の飛竜………!」


「そうだ、あの時は後れを取ったが、今度は負けねえぞ、アレはそう―――不意打ちみたいなもんで―――いや、違うが」


「クリス」


金髪で好戦的な男の後ろから、涼やかな表情の男が現れた。

まさしく騎士、と言った風な、整った佇まいをしていた。

クリス、というのは俺に今突っかかっている彼の事か?


「アニキ!こいつは俺のだ、俺がやる―――俺の、得物(エモノ)だからなァ!」


「ああハイハイわかったよ………クリス。言われなくても俺はビィ・ブロック―――そろそろここから離れなければならない。だが、直情的な性格は抑えろ、なんか、お前見てるとなんだかな………」


「なんだよ」


「なんだか、すぐにやられそうで仕方がないんだよなぁ………」


「まただ!すぐに馬鹿にするっ!」


二人が言い争っているのを俺は眺める―――甲冑も似通っているし、彼らは仲の良い二人らしいという事はなんとなくわかった。

年齢は俺と同じくらい―――かな、涼しい顔で弟を眺めている男は、やや大人っぽいが。


「―――いいか、ナツナで飛んでた奴!お前にだけは負けねぇからな!」


最後にそうやってビシッと、指をさされて、彼らは去っていった。

ふうむ、ややめんどくさい展開になったようだ。

彼らが去った後、近くにいた若者が近付いて来て、耳打ちした。

金属が揺れている音がすると思ったら、彼も上半身には、甲冑を身に着けていた。


「キミ、大丈夫か?すごいのに睨まれたな………何をやったんだ?アオギ=マウンテンのヴェルシム兄弟に因縁があるのか、恨みを買ったのか?」


「………」


観ればもう二、三人………俺の方を心配そうに見ている男たちがいた。

レースが始まる前から、なんか多少の注目を浴びてしまった。

なんにせよ、出場するからには思いっきり飛びたいとは思っている―――その過程で、抜ける奴は抜いてみよう。

なあに、簡単ではないものの、チャンスはあるだろう。


「ま、まあ、レースなんで………」


俺はそう答えた。

若者は俺のことを心配してくれているようだったが、そう答えるしかなかった。

言ってから、会話としてやや成り立っていないかも、とも思ったが、まあいいか。

レースなんで。

レースだから、相手が誰だろうと、やはり勝ちたいものだ。

ざっと見るだけでも、このブロックだけで何十匹という飛竜が、喉を鳴らしているのだから、今更、これ以上怖くなる要素はないだろう。


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