ホエイル都市群、参加登録へ
賞金に釣られたようなものだけれど、俺はコンテストに参加することにした。
せっかく異世界に転生し、飛竜発送団の先輩からも誘いを受けた―――無碍にするのもなんだかなあ、という話である。
ガラム、オロッソ両先輩は俺の生活を案じているらしい―――いい人たちだが、心配されるのはそれほどいい気分じゃアない。
むず痒いだけだよ。
飛び方の感覚を頭の中でリピートしていたいのに、忘れそうで怖いんだよなぁ………あの人達と話すと。
俺は飛ぶこと以外は、あまり楽しいと感じない男だ。
あと、俺は今のところそこまで追い詰められてもいない。
大雑把に言えばパメラが何とかしてくれている。
パメラ。
転生の間に住まう女神にして、俺を異世界に放りだした張本人。
彼らは女神協会とでもいうべき組織ぐるみで、転生者が異世界に馴染めるようにサービスを取り扱っているらしい。
立派というかなんというか、すごいものだ。
別に女に家計のすべてを負担させるつもりはないのだが、どうも異世界転生ではある程度のサポートがつくのが法則?らしい。
確かに、俺も無理矢理送られて飛竜に乗せられたようなものだから、それくらいはしてほしいが………なんにせよ、あれだ。
福利厚生?みたいなものだろうな。
とりあえず住居も女神的権限か何かで用意できていた―――まあ、空き家くらいは俺の地元にもあったしな。
ともかく住む場所は、最初から決まっていたのだ。
だが、そうだな―――飛竜のレースが第一回、俺が異世界転生した直後に計画されているというのも、何かの縁だろう。
参加できるというのならば、してみよう。
どうもその日は国民的ベントであるので、うちの―――もううちのような感覚だが―――飛竜発送団も休日となるらしい。
異世界というアウェイに半ば、押し込まれたようなものだが、最近では相棒に乗って空を飛ぶのが楽しくてたまらない。
ここはその、ウェルギリウス商会のレースに乗り込むのも良いと思う。
ただ―――。
「いいのかな、俺なんかで」
どうやら大きな商業ギルドがやっているようだ。
日本にいた頃も、峠で似たようなことがあった。
俺はクルマでのバトルで命を落としたが、きっかけは誘われたレースだった。
親父も軽くちぎってこい、というようなことを
夜の峠を登っていくと、意外にもガードレールの向こうに人だかりが出来ていて、視線が感ぜられて、何だったか―――自分が東京の動物園のパンダにでもなったかのような、そんな気分にさせられたものだった。
ああいうのはむず痒い---。
「いったい、何が面白いんだろうな、クルマが走ってるのなんか見ていて―――」
ふと、前方を見る。
飛竜が飛んできた。
空に対向車線はないが、大きく存在感がある飛竜だったので風圧を感じた。
黒い、飛竜だ―――隣を通り過ぎたその重量感は鉄か、隕石のような印象を受けた。
飛竜乗りにも、会ったというか少し見えた。
生命力が濃く表れた黒い頭髪、眼光に強い意志が宿るたくましい男だった。
そのまま四枚の翼で、悠々と空に上がっていった。
「………もう、クルマに乗ることもないんだがな」
不思議と寂しさは湧かなかった。
町からつたわる、人々の活気のせいかもしれない。
そうこうしている内に、町の中心部に来ている。
ホエイル都市部―――遠めだが、装飾でわかる宮殿も見えた。
だが、それとは別―――蜘蛛の巣のように張り巡らされた石畳の道路をさかのぼっていくと、それらしき建物が見えた。
成程、一部は三階建てにまでなっている大きな建物に、教えてもらった看板が立っていた。
空から見ているので、わかる―――俺が通っていた高校以上のサイズはある、お店―――。
中世の町のお店というのが、まだ詳しくないが、ウェルギリウス商会がかなり大きい規模であることは、見て取れた。
一瞬物怖じしてしまうが、あの建物で良いのだろうか―――もっとこう、普通の感じの方が落ち着くのだが。
ショッピングモールを完全に木造にしたような見た目であった
安心して飛竜ごと降りられる、広い庭もある。
というか、既に飛竜が三匹ほど、いる庭を見つけた。
敷地が広いことはわかった―――なんだか駐車場を探すみたいな感覚だけど。
飛竜種や、他にも人が乗るために訓練されているモンスターが、近くにつながれていた。
もしかすれば、先程の黒い飛竜も参加をするのか―――いやいや、そうとは限らないが。
どうも、この世界、飛竜が意外にも多いのだ。
大量に、ではないがしかし、珍しいものではないらしい―――住人にとって。
街中にも普通に足で首をぼりぼり掻いている飛竜がいて、通行人も別段、気にかけずに通り過ぎていく。
俺の愛竜も、そんな飛竜たちと同じように、町中に降り立つ。
商会の敷地内の庭は飛竜数匹は羽を伸ばせるようで―――正確には翼を伸ばすのか。
俺の相棒も喉を鳴らす。
「グルルル………」
「ちょっと待ってろよー、参加登録してくるから」




