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来たるべきレースに向けて 4 黒い飛竜

「その資料、目を通したら隣の部署にも持っていくんだぞ、バム」


「わかりました!」


飛竜レースはいくつかの町、村を経由する形式のようであった。

新入りである僕は、企画書に目を通して、それを別のギルドに伝える役目を果たす。

守らなければならない、いくつかの点を把握することも業務内容のうちである。

何々―――?


「条件のうち、『ホエイル都市部の宮殿の真東を通ること』―――と、これはどういう意味でしょう、先輩、コースの都合上難しいのでは?」


「―――そのままの意味だな。ご来賓(らいひん)の皆様、ということだ。国王がご覧になるし、諸侯、皆々様も」


国王たちVIPの方々は当然、観客としても最重要である。


「あぁ………」


成程得心がいった。

もちろん安全面を配慮し、町人が多いエリアは避けたいが出資者の考えは無視できない。


「バムよ、安全とは言うが問題ない、問題ないのだ。宮殿にも警護の者は当然増える。心配するな」


「………わかりました。それではそこがレースのクライマックスというわけですか?」


「中盤の山場になるだろうな―――それとスタートだが、四カ所ほどに分けて、最初はスタートする―――一カ所にまとめた飛竜など、大所帯にもほどがあるからな」


「四か所」


「もちろんスタートは同時が最適だ。公平にしたいのだが、何しろ飛竜だ。王家集まる宮殿にたどり着く前に大激戦、それでもって数が減るのでは良くない―――」


ギャラリーの視点を考えた意見、だろう。

商会の上層部も見せ場を多くしたいと考えているようだ。

という事は宮殿の前で激しい攻防を行って欲しいというのか、ううむ。


「その後、山間の川に入る。大空を通るエリアと、そうでない狭いエリアとをいくつか挟むことになるな」


「本当に、谷を通るのですね」


何度か見直された空路、地形図がついに回ってきた。

いくつかの山を越える………周辺の、アオギ、ああこれは、ナツナ=マウンテンも通ることになっているけれど。

新入りの自分が表情を険しくしているのに、気づく先輩。


「狭い川をレースの場に使うことに文句がありそうだな、お前は」


「いえいえ………」


何ともよく絡む上司である。

だが絡んでくる様子はどこか楽しげであった。


「文句、ではないのですが半信半疑ですね。これは公式ですが、公式の催しでこれは………」


下見に行った先輩がぼやいていた。

ここで競争なんて正気じゃあない、と。

見通しが悪く、左右に曲がりくねっているので二つ先のコーナーは見えないと思ってよい。


競技場、教習場と異なり、スピードが出せそうな区間がないのだ。

この世界でヒトが乗ることの出来るモンスターは、実は相当な数の種類存在する………、新人教育、傭兵教育のために訓練をする場所もホエイル市含め、街の中に存在する。

当然、整備されてあるのだが大自然の浸食によりできた谷では、そうはいかない。

もう少し街中ならば舗装(ほそう)するギルドが出向くこともあっただろうが―――。


「整地も(ろく)になされていない場所で―――成り立つのでしょうか?追い抜きなど」







「―――盗み聞きは、シュミじゃあないんだが」


知らない声が聞こえ、僕と先輩が広間(ホール)側に目を移す。

と、そこに一人の男がいた。


「抜ける奴は追い抜ける―――そのポイントは飛んでりゃあ(おの)ずとと出て来る―――谷ってのはそういうところだ」


どちら様でしょう、と聞くことはしない。

ここは商会の中でも客がやってくる広間に面している、窓口である。


御宅(オタク)のところの、ウェルギリウス商会の飛竜レース、申請に来た者だ」


「………こちらの申請書にご記入ください。ギルドの会員証、または領主館の所属証明、家紋などのご提示がいただければ、それも拝見させていただきます」


生命力が濃く表れた黒い頭髪、眼光に強い意志が宿るたくましい男だった。

羊皮紙をにらんだ目つきの下の頬―――険しい表情筋が動く。

記載された名前―――ターゴン・イビャン

僕はやや気圧されながらも、その容姿を覗き見る。


「さっきの話だがな――――盗み聞きはシュミじゃあないが、出先(でさき)で聞こえてしまう場面も、ある」


「は、はい」


「谷は奥が深い―――技術と精神力、ぶつかり合う。疲れる消耗する―――そうやって(ふる)いにかけられているんだ飛竜乗りは。隙が生じるヤツと隙がねえヤツと―――出て来るもんだ。追い抜きはよくあることだよ」


羽ペンにインクを付けながら、彼は言う。

翼を伸ばせば家屋すら覆うというほどの飛竜が狭い谷道で追い抜きをかける。

それをよくあること、と言ってのける。


「隙がある―――?そんな―――そんなものがあったとして道幅というものがあるでしょう、本当にできるのですか?」


どうやら飛竜乗りと関係ある―――いや、出場者という事はこの男がそうなのだ。

そうであるらしい彼に疑問をぶつける。


「本当にできるのですか、とそう言っているうちは出来ねえな―――まあ、俺は今迄たくさん千切(ちぎ)ってきた」


ばさり、と外套が翻る。

見えやしないが金属製の鎧が擦れる音が漏れた。

屈強なので傭兵にも見える彼の参加申請書を確認した頃には、彼は入り口から出ていくところだった。



「ありゃー、随分とでかいのがやってきてるな」


先輩が窓の外を窓の外を見て、感嘆の声を漏らす。

僕も駆け寄ると、思わず息を呑んだ。


黒く、巨大な飛竜、ジガンティ・ライデン。

巨大な四つの翼で力強く羽ばたく飛竜であり、専門家ではない自分にもその威圧感は伝わった。

並の飛竜ではない、その咆哮が聞こえた時、商会の職員が身をこわばらせた。

窓からは、商会の屯所から飛び立つ飛竜が見えた。


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