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来たるべきレースに向けて 



僕が務めるウェルギリウス商会は、大陸を股にかけてあらゆる流通を取り持つ、巨大商業組合(ギルド)である。

来たる飛竜乗り(ドラゴンライダー)の空中レースに向けて、企画準備に奔走していた。

飛竜の飛行能力、その都合上フィールドは広く必要になるので、必然的に巨大ギルドを中心にしか、企画できない。

いくつかの山、町を跨いで、長距離のイベントとなるだろうことは予想されている。


「思い切ったことを考えましたね、今まではこんなレースがあったのですか?」


入って半年もたっていない新人の僕は何気なく浮かんだ疑問。

それに先輩は答える。


「あぁ、昔は馬車のレースがあったと言っていたな、それとモンスター同士の拳闘も、コロシアムでやったことはあるが、その中に競争もあったかな」


髭の()り跡をなぞりつつ、思い出そうとする男。

書類には、隣町への通達状が書きかけの状態である。


「レースだ!レースだよ!しかも飛竜でって、誰が勝つんでしょうね!」


こちらも新人の女、書類仕事なのに妙に楽しそうなリーメが楽しそうに言った。

だがそれに対し、先輩はやや憐れみを込めていった。


飛竜騎士団(ドラゴンナイツ)だよ優勝は。まずそれは決まっている」


「えっ………あれー、そうなのですか?」


リーメの間延びした声は、いつ聞いてものんきそうで真剣さに欠ける。

だが感想自体は僕も同じだった。

飛竜騎士団………アオギ=マウンテンを拠点としている甲冑の集団に優勝が決まっているというのだろうか。

それでは………それは何か、違うのではないだろうか。


「この飛竜乗りレース自体が、王族からの申し出、それが発端だ。のちの国王となられるお方の―――な。この新しいイベントは、王宮守護を任されている騎士団の権威を示すためでもあるのだよ」


当然のように説明されるその事情を、ただ聞くこととなった。

飛竜乗りというのはこの世界において、一部のトップクラスの乗り手は徹底したスター性を持つ。

民衆の娯楽として十二分に成り立っているが、国王はそれとなく示したいのである。

この国は強力な飛竜騎士団により、治安維持が出来ていると。

強靭なモンスターである飛竜が、ただ人間の害、厄介な敵であった時代も存在はしたが、今はそれを乗りこなす者たちがいる。

王宮を、国を守っているのである。

我が国は素晴らしい。


「はぁ………素晴らしい思想であると思います」


僕は別段、お世辞を言ったつもりはなかったが、先輩は浅黒い肌に刻まれた皺を意地汚くゆがませて、僕に言葉を投げかける。


「バムよ………今お前―――それじゃあ、出来レースだ、と思っただろう?」


「いえ、そんなことは―――」


名を呼ばれてやや威圧される。

現国王の評判、悪い噂は聞かないでもない。

だが自分が住んでいる土地が闘争の場にはなっていない。

度重なる戦で滅んだ国もあるというこの世界で、いまだ争いの渦中ではなく、明日も通い詰める勤め先があることもまた事実である。


「俺たちは、舞台を作るだけさ、しかしこれは飛竜乗りのためのルールであり、アオギ飛竜騎士団(ドラゴンナイツ)だけが有利なルールだとか、そういうことはあり得ないのだ」


最初は威圧されたと思ったが、先輩は重心を椅子に預け、少し楽しそうに笑うのみだった。

飛竜乗りを遠くの集落からではなく、別種族からも参加を望む。

それだけでなく、飛竜の魅力を最大限に活かすようにと、国王(スポンサー)から釘を刺されているのである。


「………?で、では先輩、優勝が決まっているというのは」


「この辺りの知名度で言うならば、疾風怒濤(しっぷうどとう)の戦場を駆けまわり、先代を御守りして王族に仕えるまでになった飛竜乗りの集団に敵う者はいない。実力を疑うなんてとんでもないぞ、お前はまだ若いから知らんかもしれんが―――」


葉で巻いた香草、虫の(さなぎ)のような形状をした嗜好品を口に咥えて、灯石(ともしいし)で火を点ける。

その不健康な中年の雰囲気は、まだ自分にはないものであった。

意味もなく見入ってしまう。


「―――出来レースなんぞするまでもねェや、あの騎士団、速いし、強いんだよねぇ」




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