飛竜発送団にて
正確に日にちを数えていないが、あれから一週間が過ぎていた。
俺は飛竜にベルトで括り付けた荷物を運んでいた。
そういう業務である。
飛竜発送団の一員―――アルバイトではないにしろ見習いとして、今日も今日とて、空を駆け抜ける。
「お疲れ様でーっす!」
「おお、もう終わったのかミチユキ」
「ええ、少しはマシに―――初日に比べると荷物の配達も、上手くなったかもしれません」
「いやいや、最初からすごかったよ」
ガラムさんとオロッソさんは初対面こそ苦労したが、同僚となってしまえば気のいい先輩というような立場だった。
そう、俺はここで飛竜乗りとして働いているのである。
今は夜も遅くなり、荷物の倉庫で一息ついたところである。
「ミチユキよ、お前も故郷では運び屋か、もしくは飛竜乗りをやっていたのだろう?そうじゃあないか?」
というようなことも言われて、トラックで各都道府県をまたにかけていた俺は、
「まあ、前のところでも――運び屋はマジでやってました」
というような受け答えをしつつ、飛竜を扱うという感覚にも慣れていった。
いや―――慣れていない。
飛竜の馬力は決して俺の愛車にも劣っていないし、それ以上の力強さを感じる瞬間もある。
そして、空中を駆け抜けるという経験値が絶対的に不足している。
もっと、飛びたかった。
もっとうまく飛びたい。
「---どうだミチユキ、疲れただろう、飯くらいなら奢るぞ」
「ああ、すみません。有り難いんですが、もうちょっと飛んでから帰ります」
飛ぶのが楽しくて、俺は倉庫を飛び出す。
少し離れた野原に、竜は翼を伸ばしつつ、座り込んでいた。
犬が伸びをするような、体躯の動きが愛らしい。
俺の乗る竜は、異世界に来た当初こそ、深い緑色の鱗に覆われていた。
自然界の、野生のドラゴンと言った風情だったが、いまはペイントがなされている。
塗装。
それは、自分たちが運び屋である、という証明も兼ねており、この異世界ではそういうルールが出来ているらしい。
飛竜が人間のパートナーであるという、証。
今は夜中なので、月明かりが唯一の光源だ、はっきりとは見えない。
白と黒で塗装されたそれは、まるでパンダのような色合いだった。
ミチユキが夜空へと飛びあがる様子を、開け放った窓から眺めていた、オロッソとガラムの二人。
「意外とマトモなやっちゃな」
「そのとおりだぜ、、あんな素直な青年の、どこが盗賊団だオロッソよ」
「いやお前が最初に言ったんだろ!?」
オロッソとガラムは二人でしばらく、お前が言った、いいや言ってないという押し問答を続けた。
それがひと段落ついたころ、そういえば、と話を持ち出したのはガラムだった。
一枚の羊皮紙を持ち出す。
でかでかとした字体から、堅苦しい書面ではなさそうに思える。
「なんだ、これは―――町での安売り広告か?」
「宣伝ではあるがな。売りものではないよ―――ウェルギリウス商会の広告だ」
それは大きな商業ギルドだった。
町で知らないものはいないほどの、商品流通の要である。
もちろん運び屋を生業とするオロッソとガラムも知らぬはずがない。
お得意様である。
「これは、また何か催し物を始めるつもりだな」
なにぶん、資金を、金を持った組織である。
話題集めというやつだろう―――ただモノを売ったり買ったりする以外の事柄にも関わる。出資者というものである。
普段なら興味をそそられなかった彼らだが、今回はやや、目を見張るものがあった。
「今回は………飛竜乗りでレースをやるというのだ、もちろん優勝者には賞金が出る」