神無月ー9
2018年に入ってからの初投稿になります。
これからも少しづつですが進めていきますので、よろしくお願いいたします(^^ゞ
ミニ炒飯ミニ蟹玉スープセットを初めとした飲茶は思いの外、食べごたえのある品だった。
最後のデザートにエッグタルトを平らげる頃には智輝はすっかり満足していた。
まだまだのんびりしていたかったが、午後から智輝は例の後輩の林亮平と会う約束をしていた。
何でも彼から話したい事があるというのだ。
店の壁に掛けられている八角形のレトロな時計に目をやるとちょうど11時30分を指していた。
勘定を済ませ、チャイナ娘の手厚い見送りにも答え店のドアを開けようとした所、入れ替わりで入ってくる人物とふいに目が合った。
濡れたような艶やかな黒髪に
深く澄んだ濃い茶色の瞳。
その瞳は切れ長の二重のまぶたと、これまた長い艶やかな睫毛に縁取られ影を落としながら穏やかな煌めきを灯しており大変印象的で美しかった。
象牙色の肌は滑らかにきめ細かく整い目鼻立ちも非常に整っている。
本当に一瞬見ただけでも思わず息をのんでしまうほどの美しい人物だった。
智輝が呆気にとられていると、どうやら向こうも同じように呆気にとられていたようで
互いに鳩が豆鉄砲を食らったような顔で見つめあっている事に気付いた。
「ス…スミマセン…。」
そう片言で言いながら黒髪の美人は開いたドアを押さえながら智輝を通すように道を開けた。
「こちらこそすみません。ありがとうございます。」
智輝は気を取り直し微笑みながら黒髪の美人に会釈をして店を出た。
店を出てしばらく歩いている間も智輝の脳裏にはさっきの人物の印象が鮮やかに焼き付いていた。
「あの片言…。あの人も日本人じゃないのかな…。」
そんな風にぼんやり考えている内に京急横須賀中央駅のロータリーが近づいてきた。
後輩の亮平が住んでいるアパートはここから再び京急電鉄に揺られてしばらくの上大岡にあった。
智輝はカバンから携帯を取り出すとメール機能を開き、アドレス帳から亮平のメールアドレスを選択し
「今から横須賀出る。12時頃にそっち着くかも。」
と本文を打ち込み送信ボタンを押した。