水無月ー3
お楽しみ頂ければと思います。
6月18日の朝だった。
テレビで緊急地震速報がけたたましく鳴り響いた。
テレビ画面では関西は、大阪、高槻市を震源とする北部を中心に大きな揺れとあった。
智輝の姉、照美が住む京都にも揺れが広がり、関西一円の公共交通機関は全面ストップしていた。
姉とお腹に居るバラキエルを案じ、智輝はすぐに照美に電話をかけた。
「もしもし。智輝!ありがとう!心配してかけてくれたのね!安心して!ちょっとびっくりしたけど、無事だから!」
かけて数秒もせずすぐに照美の元気な声が返ってきた。
「転んだりしてない?今何処にいるの?」
「自宅のマンションよ。ちょうど座ってた時で助かったわ!近くのクッションで頭も守ったしバッチリよ!」
尚も心配げな声で尋ねる智輝に照美は明るく答えた。
「多分、大丈夫とは思うけど、水とかガスとか電気とかね。止まる事も想定して準備はしてあるわよ。そこもとりあえず安心して。」
「そうか。なら一応安心だな。くれぐれも無理だけはしないでくれよ。困ったらまた電話かメールして。」
気丈な声で答える照美の様子に智輝は安堵の表情を思わず浮かべながら言った。
「照美さん、大丈夫でしたか!」
側で見ていた小莱が心底不安げな表情で智輝の顔を覗きこんで言った。
「はい!ちょうど座っていて無事だったって言ってました。」
ガラホをパタンと閉じながら智輝は明るく言った。
「地震、すごく怖いです。この後も何度か続くんでしょうか。」
小莱は不安そうにうつむきながら呟いた。
「ですね。でも、これより強いのは当分来ないはずです。心配なのは雨の方ですよ。」
智輝は照美の安否確認のために途中になっていた朝ごはんの用意に再び取りかかりながら言った。
「こんな風に梅雨が遅れがちな年ほど、後に降らなかった分がまとまって大雨になって降ったりしますから…。」
「大雨…」
小莱は窓から依然晴れ続きの空を見上げながら言った。
「自然に宿る神様…地上の神々って俺達天使はそう呼んでますけど、言葉を持たない場合も結構多いんですよね。」
「そうなんですか?」
スクランブルエッグを人数分皿に取り分けながらの智輝の言葉に小莱は目を見張った。
「はい。でも、ロイさんの国の神様、関羽さんとか、馬祖さん、他にも仏教の観音様やなんかは皆言葉通じてますよ。」
「そうですよね!でなければお経あげても仕方ないです!」
小莱は智輝の話に苦笑いで答えた。
「言葉を持たない神様の場合は、ああして天災で人々に脅威を示そうとするんです。昔からそうでした。」
「…どうやって収まらせれば良いんでしょうか。」
ざるの中の洗い立てのレタスを小皿に手で千切り分けながら小莱は尋ねた。
「天使の場合は、ミカエルのように力づくで抑え込む方法がほとんどですけど、一番は人間がちゃんと供え物なり用意して崇めている事を行動で示し返す事ですよ。」
いつの間にかお手伝いモードの小莱に微笑みながら智輝は答えた。
「力づく…!?」
「まあ…力仕事はほとんどミカエルの仕事ですけど…」
智輝はかつてから現されて来たミカエルの絵画や彫刻の姿を想像しながら言った。
小莱も正に同じ想像をしていた所だった。
大抵は勇ましい甲冑姿で翼を広げ剣を振りかざし足元に“悪魔”を踏みつけている姿がスタンダードだった。
「あの、踏みつけているのは、人を惑わす悪魔ばかりとは限らないんですよ。」
「地上の神様、可哀想です。僕、何とかしたいです!」
小莱は、身を乗り出して訴えた。




