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☆初投稿作品☆「From where I stand 」  作者: 山河新(ユーリー)
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皐月ー10

小莱も知らなかった手紙の未知の部分が紹介されます。

トニーが荒んでしまった理由も明らかにされます。

お楽しみ頂ければと思います。


便箋11枚目からはこうだった。


『小莱、まさかここまで読んでくれているとは驚きだよ。』


『俺の一方的なクソ面白くもない最低な人生の筋書きはどうだい?』


『嫌になったらいつでも止めてくれていいんだよ。俺がこうやってただ一方的に書き連ねているだけなんだから。』


『そう言えば、小莱、君に謝らなきゃいけない事があったね。』


『君が15の時、忘れもしないレッスン場で互いを求め合った日の事、覚えてる?』


『あの日は凄く暑くてエアコンもろくに効かないままで、レッスン場も凄く熱気が籠っていたね。』


『滲んだ汗を拭いながら君は凄く熱の籠った視線で色っぽく俺を見つめてきたよね。』


『暑すぎておかしくなっていたなんて、今更そんな都合の良い言い訳なんか出来るわけないか。』


『あの時は本当に悪かった。年上の俺がもっと自重するべきだった。まだ15の君の、色気にやられて大切な君の体を汚してしまった。』


『俺はずっと後悔してるよ。今もずっとだ。』


『一応、病院で調べたほうが良いよ。俺あの時からティン以外とも何人もの人間とヤってたから。』


『病気とかうつってたらそれこそ取り返しつかないよね。俺は本当に屑野郎だね。』


小莱はここまで読んで、慌てて病院で各性病の検査を受けに行っていた。

二年前だった。


トニーの行き付けだった、バーで思いがけずトニーに関わる情報を耳にしたのだ。


忘れるはずもない。余りにも衝撃的な事実を。


『トニーはHIVに感染している。』


ゲイの男性の話によれば、前の彼氏が数年前トニーと行きずりの関係を持った後AIDSの症状を発症してしまったとあったのだ。


男性はそのAIDS患者になってしまった彼とは既に別れていて無事だったが


小莱はその事実を聞いた途端頭が真っ白になっていた。


トニーとは数年前自分もたった一回だが体を重ねていた。


まさかとは思ったがすぐに小莱は検査を受けに病院に走った。


幸い陰性たったが、小莱はこの時自身の過去を激しく反省したのだ。


例え好きだったとは言え、勢いで体の関係を持つなんて無用心過ぎると。


トニーがHIVに罹患している事は最後まで信じたく無いのが本音だった。

しかし無情にも手紙の内容は否定できない事実のみ示すものだった。


『それからもう一つ、謝らなきゃならない事があったね。俺の足の怪我なんだけど。』


『あれ、調べたら怪我じゃなかった。骨肉腫だったんだ。』


『骨にできる癌だよ。切断しなきゃ助からないって医者に言われたよ。』


『見つかった時点で、既に別の所にも転移してた。肺と腎臓だった。』


『俺叫んだよ。足を切断したら踊れなくなるって。絶対嫌だって。』


『俺にとって、踊る事は命と同じぐらい価値のある事なんだ。出来なくなるなんて、そんな世界受け入れられない。』


『それにさ。血液検査って本当お節介だよ。俺をどこまで追い込めば気が済むんだろうって本気で思ったよ。』


『HIVの陽性だったんだ。』


『だから、俺もう駄目なんだ。ダンス・スクールにはもう戻れそうにない。』


小莱はここまで読んで一瞬気が遠くなっていた。これも二年前の事だった。


ここまでが辛すぎて先を読むのを止めていた欄だった。 


そして現在、小莱は未知の欄を読もうとしていた。


『小莱、こんな所まで付き合ってくれてるのかい?』


『俺みたいなアバズレの屑、放っておいてくれて良かったのに。』


『君はもしかしなくても観音様の生まれ変わりだろうね。俺にはそんな気がするよ。』


『君はよく色んな寺院にお参りに行っていたね。道教や仏教、教会にまで行っていたね。』


『教会で思い出したけど、俺小さいとき教会の施設で育ったんだよ。』


『マカオの山奥の小さな教会さ。沢山のシスターと、俺と同じ親に恵まれない子供たちと一緒にね。』


『シスターは皆優しかったよ。一緒に色んなお菓子を作ったんだ。畑でルバーブを育ててジャムも作ったよ。オリーブの酢付けも作った。小さかった時は本当に良かった。幸せだったんだ。』


小莱は、ここまで読んで驚きを抑えられなかった。


ここまで読む以前、トニーの故郷を小莱は知らなかった。

智輝がマカオと言い当てるまで。


そして真実、トニーはマカオの出身だった。


先月丁度遺骨を返しに行った記憶も新しい。


『思えば、俺はいつからこんな風になっていたんだろう。昔は俺も君みたいに信仰心はあったはずなんだ。』


『思い出せるかな。しばらくペンを置くね。』


この間、何行かブランクが空いていた。


トニーはこの時何を思っていたのだろうか。


自身が育った教会の景色か、マカオの景色か、それとも、シスター達の事か。


『思い出せたよ。俺が信仰心を無くしたきっかけをね。』


『俺、イエス様に嫉妬してしまったんだ。14の時だ。』


『何故って?小莱は、聖家族って知ってるよね?聖母マリア様とその夫のヨゼフ様とその息子イエス様の事さ。』


『この通り、イエス様には家族がいたんだ。磔にされて死ぬまで、彼には母親のマリア様も寄り添っていたんだよ。』


『俺は教会の施設で育った。つまり俺は親に恵まれない子供だったんだ。』


『ある日何故俺には母親がいないのかシスターに聞いた。そしたらシスターは何て答えたと思う?』


『乳癌で治療が必要だったのに、堕胎せずに信仰を貫いて俺を産んで死んでしまったんだって言ったんだ。』


『彼女は敬虔なカトリック信者だった。カトリックでは堕胎は罪なんだよ。知ってた?』


小莱は天井を仰いだ。

遺書に書かれていた内容はまさにマカオで知らされた内容そのものだったからだ。


『それで俺思っちゃったんだ。信仰なんてクソ食らえだって。』


『イエスには母親がいたのに、俺にはいない。信仰の為にだ。信仰心が俺から母親を奪った、俺は一人ぼっちだ。こんな世界クソ食らえだって。』


『それから俺はどんどん荒んでいったよ。悪い友達も出来て、こっそり施設を抜け出しては夜の町に遊びに行ったよ。』


『麻雀やポーカー、スロット、ドッグレース、色んな賭博場に連れて行かれたよ。』


『俺が一緒だと何故かいつも勝てるからって、フェルナンジーニョ、いつも俺をポーカーに誘ってくれたよ。フェルナンジーニョも施設育ちの仲間だったけど彼とは気が合ったんだ。』


『フェルナンジーニョはいい奴だったからポーカーで勝ったお金を半分俺にくれたよ。使い道が分からなかったからどんどん貯まっていってたけど』


『だけどある日思いがけず使い道が出来たんだ。』


『ドン・ペドロ劇場でバレエの公演が行われたんだ。施設のシスターにもフェルナンジーニョにも誰にも内緒で一人で見に行ったんだ。』


『舞台の上の世界はまるで夢を見ているような素晴らしいものだった。』


『俺もこの仲間に加わりたいって思った。』


『そして舞台裏に乗り込んでお願いしに行ったんだ。仲間にしてくれって。』



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