皐月ー4
お楽しみ頂ければと思います。
米奇の悩み事も意外だったが智輝自身も相当悶々としていた。
「今更絵の道なんて…イラストレーターもグラフィックデザイナーもアニメーターも、今までずっと成りたくて仕方なかったのになれなかった職だ。今なら何にでもなれるだって?嘘だ。この世がそんな上手く出来ているはずがない。」
京急川崎駅に着き、自宅までの道中、智輝は思いを巡らせていた。
「今のクリエイター職の殆どはパソコンソフトのスキルが必須なんだ。あの忌々しいツールを流行らせたのも悪魔の仕業だ。あの職自体が、あの業界その物が悪魔の巣窟なのに、何だって今更…。」
ぐるぐると重々しい思いが脳内を駆け巡る中智輝は天界での双子の大天使バラキエルについても考えていた。
好奇心旺盛で、思いやりがあり、主に課せられた多くの任務にも笑顔で答えていた大天使バラキエル。
ある一派の教義のひとつでは七大天使の一人にも数えられ、熾天使の長であり、全ての守護天使のまとめ役であり、天の聖歌隊の首領であり、木星と双魚宮と天蝎宮の守護天使であり、“神の雷”の名を冠した、時に神の脅威を地上に知らしめる、恐ろしくも美しい大天使で賭博者の守護天使でもあったバラキエル。
智輝は彼の双子の兄の大天使ザドキエルでもあり、これからまた人間に転生してくるであろう彼の“叔父”にもあたる事になっている。
元々智輝が地上に堕ちてしまったのは先に悪魔に惑わされ堕ちてしまったバラキエルを連れ戻すために追ってだった。
堕天さえしなければ、この世でのこんな苦しみに苛まれる事もなかった。
ザドキエルなる智輝は絵の才能に長けながら認められず道も開かれない事に苦しみ
ミカエルなる米奇は可愛い容姿や語学に長けながら、本当の彼自身の一致しない性別に苦しんでいる。
トニーだったバラキエルも美しい容姿や向上心、努力を怠らない真摯さを持ち、それに裏打ちされた確かなダンスの技術を持ちながら本当に望むものにはなれなかった。
小莱も、本当の愛を分かち合える家族に恵まれなかった。
聖書という書物にもある通り
元々天界に属している魂は地上に居場所がない事が殆どなのだ。
その魂は天国にあるべきなので、地上では歓迎もされず、祝福も殆どされない。虐げられ蔑ろにされるのが宿命なのだ。
良い思いなど出来ようはずもないのだ。
考えを巡らせながらいつの間にか自宅に着いた智輝を、例の“王”に姓が変わった小莱が出迎えてくれた。
「葉さん!お帰りなさい!ずっと帰るの待ってマシタ!」
小莱は二階のリビングから待っていたと言わんばかりに声を弾ませながら
下りてきた。
見ると右手に何か書かれた紙を持っているようだった。




