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☆初投稿作品☆「From where I stand 」  作者: 山河新(ユーリー)
70/130

卯月ー10

卯月編はここまでです。次から皐月編が始まります。

お楽しみに。

マリア・アルマの案内で訪れたレストラン

「Casa de Fado」

の店主、フェルナンジーニョはカウンターキッチンから出てくると智輝に大きな手を差しだし握手を求めながら智輝を頭のてっぺんから爪先まで眺め回した。


『初めまして!トニーニョの兄さん!本当にトニーニョにそっくりだな!あいつに兄さんがいたなんて初耳だよ!』


『初めまして。』


智輝はフェルナンジーニョの力強い握手に答えるようにぎゅっと握り返した。


『声までそっくりなんだな!で、トニーニョは?あいつは一緒じゃないのか?』


フェルナンジーニョの質問にシスターは少し控えめに真実を伝えた。


『あの子は天に召されたの…。今日お葬式を終えた所で…』


『癌で…あっという間でした…。』


マリア・アルマの後ろにいた米奇も補足を加えた。


『僕たちはトニー先生の遺骨をここまでお返しに来たんです。』


小莱も前に出てきて言った。


『嘘だろ…あいつが死んだだって…いくら今日がエイプリルフールだからって…冗談きついぜ…シスター…。』


『わかった!あんたが実はトニーニョなんだろ?またまた…』


フェルナンジーニョは智輝を見ながら肩をすくめ両手を横に上げて言った。


彼にはどうしても信じられないようだった。


智輝は仕方なく鞄からパスポートを出した。

智輝のパスポートには菊の紋に日本国とはっきり記され

開いた身分証明のページには


智輝の顔写真


稲葉智輝と言う日本の名前


日本の神奈川県の川崎の住所等がはっきり記されていた。


『俺は日本人の稲葉智輝です。』


智輝がそう言うとフェルナンジーニョは深く頭を垂れため息をついた。


『トニー先生のお兄さんは訳あって離ればなれになって日本で日本人として育てられたんです。』


米奇の説明でフェルナンジーニョもやっと納得したのか


『本当なんだな…。悪かった…。トニーニョの兄さん。いや、今日は来てくれて本当にありがとう。さ、まずは座ってくれ。』


と先ほどの笑顔に戻り椅子をひいて言った。


手書きのメニューはマカオの公用語の広東語とポルトガル語で書かれてあり智輝には読めなかった。


「俺はシスターのおすすめで良いです。」


智輝は日本語でそう言うとメニューをマリア・アルマに渡した。


『シスターのおすすめはどれですか?』


米奇もちょうど良く同じ返しをしてくれた。


小莱も米奇もマリア・アルマのおすすめに決め全員同じメニューを頼んだ。


しばらくするとマカオの代表料理の「伽哩蟹(カレーがに)」や「アサリのワイン蒸し」「イワシのガーリックチリソースがけ」等が運ばれてきた。


フェルナンジーニョが気を利かせて全て一人分づつにきれいに盛り分けられていた。


「すげぇ!めちゃくちゃ美味そう!」


智輝は思わずタブレットで写真を撮っていた。


『後でトニーニョの大好きだったエッグタルトもおまけするよ!』


フェルナンジーニョはチャーミングなヘーゼルブラウンの瞳をウィンクさせながら言った。


カレー蟹に手をつけようとした所で、智輝の脳内でまたトニーことバラキエルの声がした。


「兄さん。聞こえてるか?」


「ああ。聞こえてるよ。何だ?お前も食べたいのか。」


智輝は蟹の甲羅を上手くはずしながら心の中でトニーの声に答えていた。


「うん!…ってそうじゃなくて…!小莱の事なんだけど…。」


トニーことバラキエルは斜め向かいの席で上品に蟹料理を食べている小莱に目線をやりながら言った。


「小莱は家族と縁を切ろうとしてる。もし、帰っても自分を邪険にしてくるようなら…家族と完全に縁を切って、日本の国籍を取得して日本人になったあと、仏門に入ろうと決めてる。」


「廖さんが!?仏門って…じゃあ廖さんはお坊さんに…マジかよ…!」


智輝は動揺で手元が狂い蟹の身をもう少しで落とす所だった。


「俺達の神の…“主”の導きなのかも知れないが…彼が一生家族と仲違いしたまま離ればなれになるなんて良くない事だと兄さんは思わないか?」


バラキエルはいつの間にか着せ替え人形ぐらいの大きさになってテーブルの上にあぐらをかいて座っていた。


どうやら、霊的な存在になると、服装はおろか、体のサイズも自由に操れるようだった。


「俺も明日は兄さんにくっついて日本に戻るけど…兄さんも小莱の事やっぱり心配だよね?」


「心配に決まってるだろ。本当なら一緒に着いていって廖さんを家庭から追い出したわからず屋の家族にビシッと言ってやりたいよ。でも俺は広東語なんてほとんど話せないし…」


智輝は蟹の爪の奥に詰まっている身をつまようじで器用に引っ張り出しながらバラキエルに言った。


「なら、ミカエルに頼めばいい。ミカエルを初め、小莱に味方してくれる人間を片っ端から集めて全員の力でわからず屋どもをノックアウトしてやればいいんだよ。」


バラキエルはテーブルに置かれてあった可愛らしい鳥の形の調味料入れに腰掛けながら言った。


「そうか。ミックの事だから、嫌とは言わない…いや、俺が言わせやしないよ。」


今度はイワシのガーリックチリソースに手をつけながら智輝は言った。


隣で脇目もふらず夢中でマカオ料理に舌鼓を打っている香港料理店のせがれに智輝は話を促した。


「ミック君。ちょっとお願いがあるんだ。ミック君のその語学力とコミュニケーション能力を百パーセント活かせる頼みなんだけど…」


「何ですか?そんなもったいつけちゃって!僕が大天使ザドキエルの頼みを断れない事ぐらい知ってるでしょ!?」


米奇はコップから水を一杯飲むと苦笑いしながら言った。


「廖さんの味方になってくれる人を出来るだけ多く集めて欲しいんだ!もし家族と口喧嘩になっても廖さん側の数が圧勝していれば確実に向こうを打ち負かせるだろ?何しろ間違ってるのは、自分可愛さに大事な家族を守ろうともしないで追い出した奴ら…廖さんの家族の人達なんだからな。」


智輝の話を最後まで頷きながら聞いていた米奇こと大天使ミカエルは言った。


「その意見には僕も激しく同意だよ!勿論!廖さんの味方を片っ端から集め回って抗議デモだね!任せといてよ!」




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