神無月ー7
続きです。お楽しみ頂ければと思います。
店の奥の厨房では、店主の孫壽康が近々ガスから切り換えたばかりのIHクッキングヒーターで炒飯を炒めている所だった。
『初めてのお客さんにはミニ炒飯ミニ蟹玉スープセットをサービスするんだよ。』
壽康は後ろで棚から皿を出しているチャイナ娘に言った。
『うん!そうそう。今来てるお客さん、すっごいイケメンだよ!父さんもそこから覗いてみなよ!』
チャイナ娘はミニ炒飯ミニ蟹玉スープセットの器を父親の側に置きながら言った。
厨房の手前には低めの衝立が置かれており、ちょうど客席を覗ける幅の隙間がある。
壽康は炒飯を皿に盛りながら隙間から覗いて言った。
『本当だな!ハリウッドの映画スターみたいだ!あんなかっこいい人が従業員になってくれたら、もっと繁盛すること間違いなしだよ!』
『でしょ!って…うちにはもうイケメンの従業員二人もいるのに…まだ入れたいの?』
チャイナ娘は苦笑いしながら父親に返した。
『そうだったな。だがな。残念ながらイケメン従業員の一人は近々ここを“卒業”していくんだ。』
『えっ!そうなの?』
炒飯を盛り終わり今度は蟹玉スープを器に盛りながらそう言った壽康にチャイナ娘は驚きの声をあげた。
『ああ。よく間に合う子だったんだがなあ。でも次の人も一応紹介してくれるらしいから人手は心配ないよ。』
壽康は穏やかにだが少し寂しそうに微笑みながら言った。
『そっかあ…ちなみにどっちのほう?』
『“ラムさん”のほうだよ。何でも、実家の親父さんが病気だそうでな。家業を継ぐ決心を固めたそうだ。』
出来上がったミニ炒飯ミニ蟹玉スープセットを盆に乗せながらのチャイナ娘の問いに壽康は答えた。
『そうなんだ…ラムさん。アニメの話で気が合ってたのになあ…居なくなっちゃうなんて悲しいよ。』
チャイナ娘は寂しそうに目を伏せ唇を尖らせながら呟いた。
『まあまあ、ラムさんの実家は確か戸塚だったかな?同じ神奈川県内だから、またいつでも再会できるさ!』
壽康はチャイナ娘を励ますようにそう明るく言った。