神無月ー6
まだまだこれからなので気長にお付き合い頂ければ幸いです。
智輝はとりあえずチャイナ娘の薦めてくれたメニューの方を頼む事にした。
先程の小さなメモのような紙の注文表の先程の料理名の欄にチェックを入れ
「ではこれでお願いします。」
と言ってチャイナ娘に渡すとチャイナ娘は
「かしこまりました!しばらくお待ちくださいませ!」
と言ってお辞儀をすると奥へ下がって行った。
しばらく待っている間、智輝はもう一度店の内装を眺めてみた。
外から見た外観も昔の香港映画に出てきそうなレトロな造りだったが、内装も同じように懐かしさを感じるレトロチャイナモダンな雰囲気が漂っている。
壁には古めかしいタッチで描かれたチャイナドレス姿の娘が二人並んだ昔の中国の広告が額に入れて掛けられており、天井からも赤いチャイナランタンや鯉や龍などのモチーフをあしらった極彩色の吊るし飾りが下げられていた。
入り口のドアには内側にも四角い「福」のタペストリーが上下反対に貼られており、店の隅に置かれた音楽プレイヤーからは優美な二胡のメロディーを主旋律とした、いかにも中華なBGMが流れ、何だか本当に中国か香港のレトロな飯店にいるような気分にさせられた。
店の奥の厨房から調理器具がぶつかり合う音や水を流す音、何かを炒めている音、それに混じって時折早口で広東語と思われる会話も聞こえている。
さっきの娘の声で間違いない。
ということは、あの娘は広東語も話せるのだ。
しかし日本語も大変に上手かった。
というよりもはやあれは日本人レベルだ。
智輝も初めはチャイナドレスを着た日本人のバイトの娘だと思っていたが実際はどうなのだろう。
厨房からはだんだんと良い匂いが漂い初め、智輝は食欲が急激にレベルアップするのを感じていた。