弥生ー6
現在ハローワークに通っております。
もう一度叶えられなかった道に再挑戦しようか本気で悩んでいます。
駄目なら、仏道に帰依かカトリックの修道院を考えに入れていますが、あくまでも最終手段です。
本編もお楽しみください。
閉店時間になり、玉玲が車で小莱を川崎まで送るのを見送った後米奇は店の裏に回って空を見上げた。
春先の夜空にはまだ冬の大三角が浮かんでいる。
4月まではまだ完全に春ではないのだろう。
3月も中頃とはいえ、日が沈むとやはり肌寒い。
息の白さはもう無いがまだ少し上着は手放せない気候だ。
『主よ。ザドキエルに“その道”を歩ませるのはまだ少し早過ぎではありませんか?彼は彼の得意とする能力でまだ何一つ喜びを味わっておりません。こんなに早く“天への道”を歩ませるのは僕には憐れに思えます。』
米奇こと大天使ミカエルは星を見上げながら心の中で念じた。
しばらくすると、月が雲から顔を出し、その光に照らされながら一人の御使い、天使の仲間が降りてきた。
白い衣に水色の長い布を左肩に黒曜石に似た石の輝くブローチで止め長い金髪を赤いヘアバンドでアップにした天使だった。
『大天使ミカエル様、私は天の主より使われて参りました。どうぞこのラミエルに何なりとお申し付け下さい。主に直接託けに伺います。』
ラミエルはまるで「受胎告知」のガブリエルのように片膝を付き両手を胸の前でクロスさせたポーズをとり言った。
『ではラミエル。主にこう伝えてくれ。人に転生したザドキエルが何に心を曇らせているのか、修道士への道を模索しだしている。主が望んだ道かもしれないが、決断させるにはあまりにも早すぎる。“あの道”を歩ませれば、バラキエルが再び世に現れるのを待たずしてあまりにも早く天に召されてしまう。かのあまりに若くして帰天した聖人たちのように。』
ミカエルは天使の仲間の御前、天での本来の姿に戻りながら伝えていた。
『ザドキエルはまだ“稲葉智輝”としてもっと人としての生を謳歌する必要があるのだ。何とかしてやってくれ。せめて運転免許のひとつ、絵の道の副業ぐらい楽しませてあげたい。主はこんな願いまで聞き届けないほど心の狭い方ではないだろう。』
ここまで言うとミカエルは大きくため息をついた。
ラミエルは静かに姿勢を元に戻すと言った。
『主に伝えるのはそこまでですね。了解致しました。その御言葉、その通りまま、主にお伝え致します。』
ラミエルはそう言うと再び翼をはためかせ天へと昇っていった。
米奇ことミカエルにはザドキエルなる智輝がこのタイミングで修道士になった後一年足らずで突然死するビジョンが見えていた。
誰よりも敬虔に神に従順に生きる修道士の智輝は修道院では模範生のように扱われるが
教会の営む幼稚園で、ある奉仕活動の最中
園児が車道に飛び出し轢かれる所を庇い即死するのだ。
享年33歳。
あまりにも痛ましい未来のビジョンだ。
そしてそうなった場合数十年後、異例の早さで智輝はバチカンに正式に認められ列福の後列聖される事になるのだ。
日本人で21世紀に福者、あるいは聖人になる存在が出ること
それが、少なくとも世界が滅亡の危機を免れるひとつの鍵なのだった。
しかし、神が示す道は一つとは限らない。視野を狭めてはならない。
智輝はもう充分我慢してきたのだ。
夢に翻弄され、叶えられない苦しみにあえぎ
しかし、それでも道を誤らず、正しく生きた。
もう充分だ。
智輝の智輝自身が喜ぶ本当の道を歩ませてあげたい。
絵の道へ
智輝を歩ませてあげてくれと
ミカエルは次第に雲に隠れて行く月を主に見立てて願った。




