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☆初投稿作品☆「From where I stand 」  作者: 山河新(ユーリー)
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弥生

弥生編がスタートしました。


そして“悪魔”と“夢”の正体も明らかになります。

ショックを受ける事が予想されますので覚悟のうえでお読み頂ければと思います。


「天におられます我らの父よ。願わくばその名が崇められますように。御国が来ますように。御心が天にあるように地にもありますように。我らに日ごとの糧をお与え下さい。我らに罪を働いた者を我らが許す如く我らの罪もお許し下さい。我らを悪の誘いから遠ざけ正しい道を歩めるようお導き下さい。御国と栄光と力は永遠にあなたのものだからです。アーメン。」


「聖ヨゼフ病院」の病室の一角で智輝は米奇から「主の祈り」の唱え方を習っている所だった。


2月の終わりごろのある日、京急横須賀中央駅で刃傷沙汰に合い、出血多量、意識不明の重体でこの病院に運び込まれて処置を受けた“3日後”、智輝は目を覚ました。


生まれて初めて体験した“臨死体験”で行った先がキリスト教の天国で

しかも自分の前世が天使で

恐れ多くも“主”と対面して地上に下ろしてもらうよう願い出た事や、まさかのあのトニーが自分の双子の弟の天使だった事や米奇の正体があの大天使ミカエルだった事実も何もかもが壮大な事実過ぎて目が覚めてからしばらく本当なのかどうか智輝自身中々受け止めるのに時間が必要だった。


しかし、智輝が目を覚ました後、小莱が語った話が何よりの真実だった。


「僕、思い出しマシタ。僕は遠い昔、白衣観音としてこの世に遣わされマシタ。でもある年、中国から日本に運ばれ、そこで…」


「長崎県の“隠れキリシタン”と呼ばれてイル人達に拝まれるようになったんデス。」


小莱がそう言いながら見せた携帯電話に保存していた画像には“マリア観音”という名称が添えられていた。


白い布を頭から被り長い衣の袖を棚引かせ慈悲深い穏やかな表情を浮かべ首から下げたネックレスも十字架に見えなくもなく、優しく手を差し伸べる姿は確かに聖母マリアに重なるものがあった。


子供を抱いている姿のものはは正に聖母子像のそれで

まるでキリスト教の聖母と仏教の観音菩薩が融合した姿のようだった。


「天界で“主”の言われた通りだ…」


智輝は“ザドキエル”として天界で“主”と対面して聞かされた話を思い出しながら小莱の携帯の画像を見ていた。


中世日本に存在していたキリスト教徒達は迫害を免れるためクリスチャンである事を隠しながら白い衣を頭からベールのように纏った姿の観音菩薩を聖母に見立て祈りを捧げていた。


小莱はその時の記憶を引き継いだ状態で再び現世に降りてきたのだった。


この世はあらゆる悩み苦しみで溢れている。

一つの時代を救いきった後も小莱こと白衣観音は仏の国からこの世の有り様を憂いていた。


何故貧富の差が無くならないのか


何故戦争が繰り返されるのか


何故差別が無くならないのか


何故自然破壊が繰り返されるのか


何故人は“夢”を抱いて生き、その“夢”のために苦しめられるのか


何故病が後を立たないのか


何故人々は悪の道へ進み自らを破滅させるのか


小莱こと白衣観音はいても立ってもいられず遂に再びこの世に降りた。


そしてそれを“別の天国”から見ていたのがまさに“主”だった。


“主”もまさに同じ思いを抱いていたのだ。


彼は自らの息子、イエスを世に送り、人々の罪をその一身に追わせ磔にし、地上の人々を救おうとした。


しかし、地上は正しい人々より最早、“悪魔”の数のほうが圧倒的多数を占めている状態だった。


“真に救われるべき正しい人々”


は初めからほとんど1割近くしかいなかったのだ。


そしてそのような純粋無垢な正しい人々を“悪の幻想”で惑わせ誘いだし堕落させようとする企みを働く“悪魔”こそが


“この世での成功者”


と呼ばれる存在だった。


つまりは


“夢を叶えた者達”

だったのだ。


そう、バラキエルが堕天したきっかけにもなった


“夢”


こそが


“悪の幻想”


だったという事なのだ。


小莱は自身が白衣観音だった事を思い出してからとうとうその事実を悟ったのだった。


一方で智輝は思い悩んでいた。

智輝が目覚めたのは意識を失ってから“3日後”

イエスが甦ったのと同じ日数。



運ばれたのはまさかのあえての


「聖ヨゼフ病院」。


臨死体験で行った先はキリスト教の天国。


自身の前世は天使。


「やっぱり、クリスチャンに改宗するべきなのか…洗礼を受けるべきなのか…」


智輝がもやもや考えている時も、そばにいる米奇は何かに突然気づいた素振りを見せると手を合わせ小声で何事かを呟くという言動を繰り返していた。


天界で“主”が話していたあれだ。


「自身が天使である事を忘れるな。」


「世界中から何かしらの“祈り”が届けられている。」


「その“祈り”には“返しの祈り”で応えよ。」


「“正しい心”があれば“祈り”は必ず“奇跡”に変わる。」


一言一句全て覚えていた。

意識を失っていたはずなのに天界の有り様までありありと思い出せる。

紙とペンを渡されたら恐らくその様子を迷いなく描きあげられるだろう。


やっぱり、いるんだ。神様も仏様も、地上の八百万の神々も皆…


智輝には目覚めてからそれらも完全に“見える”ようになっていた。


窓の外に見える桜の枝にも薄紅色の衣を纏った天女のような存在が微笑みかけていた。


まだ肌寒いはずなのに、その存在はノースリーブのドレスを纏っている。


見ると枝の先にはまだ小さいが確かに桜の芽が膨らみ出しているのが確認できた。


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