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☆初投稿作品☆「From where I stand 」  作者: 山河新(ユーリー)
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睦月ー9

作中で実在する駅名や地名店名、ブランドや品名等を出すのは小説の世界にリアリティを持たせるためと、実際の現実の世界と境界がないような感覚を覚えて頂くためです。

お楽しみ頂ければと思います。


京急川崎駅を出てすぐの「Wing 」という緑の文字が飾られたビル。


最近改装された「ウィングカワサキ」という複合施設だ。


そのワンフロアにある「サイゼリヤ」で、智輝と小莱は結局昼食を済ませる事になった。


二人とも最初に注文した「辛味チキン」で完全に摂食モードがオンになってしまったためだ。


それぞれ人気ナンバーワンのメニュー、「ミラノ風ドリア」に「田舎風ミネストローネ」、サラダを一皿注文し二人は貪るように黙々と食べ続けた。


サラダは二人で分け合いたまにドリンクバーに立っては右から順に全ての種類のドリンクを制覇する勢いで次々に飲み干していった。


後半戦、智輝はジンジャーエールと野菜ジュースを半分づつ汲んで混ぜたオリジナルドリンクを作っていた。


12時も半を回る頃はいつの間にかかなりの客数が

席を埋めており、満腹になった二人は店を出る事にした。


外の雪の勢いは相変わらず激しく、足元は沢山の人が歩いたあとでビシャビシャになっていた。


「せっかくの綺麗な雪もこうなったら残念でしかないですね。」


傘を開きながら呟く智輝

の背を見つめながら小莱は思った。


金魚(ガムユー)さんが言っていたように、もし僕の初恋の相手がトニー先生じゃなくてこの人だったのなら…僕の人生はどうなっていたんだろう。トニー先生はどうなっていたんだろう。』


智輝の背には相変わらず翼のような影が見える。


やはり、はっきりでは無いが間違いなく翼の形をしている事がわかった。


これは幻覚ではない。

小莱は思った。


意識もはっきりしているし、至って正常な精神状態でもある。


「廖さん?どうしました?」


立ち尽くしている小莱を気にかけた智輝が後ろを振り向いて声をかけてきた。


「あっ!すみマセン!」


小莱は慌てて傘を開いた。


「あっ!」


傘を開いた途端小莱は思わず叫んでしまった。


何と傘の骨が折れているではないか。

所どころ破れてもおり、完全にそれは傘の機能を失っていた。


そう言えば、先程の店で傘立てに一本傘が置き忘れてあった。


それと自分の持っていたのを間違えたのだろう。


「いいですよ。俺の所に一緒に入ってください!」


小莱の様子に智輝は優しく微笑みながら自分の傘を差し出し言った。


「すみマセン。ありがとうございマス…。」


小莱はそう言いながら智輝の側に寄った。

僅か60センチの八角形の天蓋(てんがい)の下、否応なしに距離を縮めさせられる状況の中。


小莱は自分の心臓の脈が激しく高鳴るのを感じていた。


「相合い傘って言うんですよ。これ。」


智輝はいたずらっぽく微笑みながら言った。


「アイアイガサ…」


小莱は智輝のイタリアのフィレンツェの大聖堂に飾られているフレスコ画の天使のような横顔を見つめながら呟いた。


「男同士でやるなんてBL の世界だけの話だと俺も思ってましたけど…」


「あ…ソノ…スミマセン…」


小莱が申し訳なさそうにうつむきかけたその時


「廖さんとなら、全然嫌じゃないですよ。」


そう何気なく放たれた智輝の言葉に小莱は思わず顔を上げた。


「葉さん…。」


「ラゾーナ行きましょう。香水売ってる所あるんですよ。廖さんの探してるのあるかも知れませんよ。」


智輝はにっこり微笑んでそう言うとそっと優しく小莱の肩に腕を回した。


ラゾーナとはJR 川崎駅西口に広がる大型商業施設「ラゾーナ川崎」の事だった。


五階まであるフロアには実にありとあらゆる店舗が入っており、丸一日かけても廻りきれないほどだった。


智輝の言う香水を扱う店は二階にあった。


「東京小町」と掲げられた店の内装は落ち着きのある中に可愛らしさも見受けられる、いかにも女性の好みそうな内装だった。


日本製を中心に種類豊富なあらゆるメーカーのコスメグッズが揃い小莱達の他にも若い女性客が数人来店していた。


金魚(ガムユー)さんも連れてきたら喜びそうだな。』


店を見渡しながら小莱がぼんやりそう思っていると智輝が呼びに来た。


「こっちですよ。ほら、種類が沢山あるでしょ?」


智輝に案内されたコーナーには思わず溜め息を漏らすほど多くの種類の香水が並んでいた。


「この小さいタイプのなら安くて気軽に試せるんですよね。これだけあるんだから、絶対見つかりますよ。」


智輝はコーナーに並んでいる可愛らしい小さな瓶を1つ手に取りながら言った。


香りのサンプルの小瓶も並んでおり、蓋の部分に香水のメーカーと品名が書かれたシールも貼られてある。


これを片っ端から嗅いで見つける作戦だった。


小莱はかばんを探ると例のアトマイザーを取り出し言った。


「持ってキテマス。」


「ナイスです!廖さん!さ、それ俺に吹きかけてください。」


智輝はそう言うと上着の袖を捲り手首を差し出してきた。


小莱は智輝の透き通るような白い手首に例の香水を吹きかけた。


二人の間にふわりと柔らかな香りが広がった。


トニーが生前、漂わせていた香りを今、彼に生き写しの青年が放っている。


『トニー先生…。』


トニーが生きて還ってきてくれたような錯覚すら覚えられる。

視覚と嗅覚のダブルの相乗効果で、今の小莱には智輝がトニーに思えて仕方なかった。


一方智輝は真剣に「香り探し」をしていた。


手首の香りを嗅ぎながら次々にサンプルの香りを嗅いでいき、違うと感じたものは元の置き場に戻しを繰り返す。


エンジェルハートにライオンハート、シーケーワン、バーバリー、サムライ、セクシーボーイ、アナスイ、ディオールと他十種類以上かぎ分けた後最後に手に取った1つで智輝の手が止まった。


「これだ!」


智輝の手には「ランバン・エクラ・ドゥ・アルページュ」と書かれたシールの貼られたサンプルの瓶があった。


「廖さん!さっきのアトマイザー、もう一度見せてください!」


「…はい!」


小莱は返事をしながらアトマイザーを取り出し智輝に見せた。


「間違いありませんね。ほら、この液体の色も同じですよ。」


アトマイザーの中には淡いパープルの液体が入っている。


智輝が指差すケースの中にある、瓶の中にも同じ色の液体が入っていた。


「これが…!」


小莱は智輝が差し出す「エクラ・ドゥ・アルページュ」のサンプルの香りを嗅ぎながら智輝の放っている香りも嗅いでみると目を見開き言った。


「同じデス!」


「でしょ!?見つかりましたね!トニー先生の香り。」


智輝は穏やかな笑みを浮かべながら言った。


「…!何故…ソレヲ…」


小莱は驚き、思わずサンプルの瓶を落としそうになった。


「…っと…!」


智輝は素早く小莱の手から落ちかけたサンプルを受け止め、小莱の手の上に自分の手を重ねながら話し出した。


「ずっと、知ってたんですよ。トニー先生の遺品なんでしょう。その香水…。」


「……!」


小莱の目にはみるみる涙が浮かんできた。


「廖さんが俺にトニー先生を重ねていた事も知ってました。」


智輝は目を伏せ、手に取った「エクラ・ドゥ・アルページュ」のミニサイズのパッケージを見つめながら言った。


「…!ご免ナサイ!僕…本当に失礼な事を…」


小莱は慌てて智輝に頭を下げようとした所智輝に止められた。


「いいんです。いいんですよ。廖さん。俺にトニー先生を重ねて頂いても…俺の事、トニー先生だと思って頂いても構いませんから…」


智輝は穏やかな笑みを依然たたえたまま(かぶり)を振りながら言った。


「でも…」


小莱の目から一筋の涙が流れ落ちた。


智輝はそれを優しく指で拭いながら言った。


「トニー先生の事、もっと話してください。俺も、もっとその人の事知りたいんですよ。」


二人の美しい青年のただならぬ様子に周囲の女性客がちらちらと目線をやってきていた。


「まずい。BLに見えているんだ。」


智輝は焦りながら辺りを見渡した後


「これ、買ってきますね。小さいのでいいですよね。」


そういうと足早にレジに向かった。


精算をしてくれた女性店員も思いがけず天使のように美しい青年の様子にうっとりした表情を浮かべていた。

その間小莱は店の外で静かに待っていた。

女性達の視線が余りにも気になったためだ。


しばらくして戻ってきた智輝は小莱に先程買った香水の入った小さな袋を渡してきた。


「はいこれ、俺からプレゼントです。」


よく見ると、包みは可愛らしいリボンのシールが貼られたプレゼント仕様になっていた。


「…葉さん…。」


小莱は感激のあまりまた涙をこぼしていた。


「ははっ…!もう廖さんてば本当に泣き虫だなぁ!ほら、せっかくの美人が台無しですよ!」


智輝はそう言いながら小莱の濡れた頬を優しくさすった。


その腕からはかつて愛したトニーと同じ香りが漂っていた。


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