師走ー2
私の誕生日に公式のラジオが放送されるのですね。
因みに私の誕生日の3月17日はセント・パトリックスデーと言う世界的に有名な祝祭日でもあります。
漫画週刊誌の日でもあり、ヘタリアのイタリア君の誕生日でもあり、豊臣秀吉の誕生日でもあります。
この日に産んでくれた母にはとても感謝しています。
お楽しみ頂ければと思います。
上大岡駅から徒歩20分弱。
以前智輝の後輩の林亮平が下宿していたアパートからそう離れていない所に小莱の住むアパートはあった。
こちらも亮平の住んでいたアパートといい勝負なぐらいの古さだ。
築50年ほどだろうか。
米奇の言っていた、「土地が訳あり」というのも確かにそのようで
周囲は廃屋や枯れた雑草が生い茂った荒れ放題の空き地が目についた。
しかも小莱のアパートの裏手は墓地だ。
墓地に対面するようにアパートの裏面が向いているため、このアパートは
「全室墓地ビュー」
という事になる。
智輝は米奇と階段を上がり小莱の住む部屋のある二階に向かった。
奥から二番目。
「廖」と一文字だけの手書きの表札がかけられた所が小莱の住む部屋だ。
小莱の部屋の両隣は共に空き室のようで人の気配はない。
しかし錆びたドアの郵便受けには郵便物やボロボロのチラシが無造作にはみ出し
格子のついた窓越しに薄暗く見える部屋にはまだ誰か住んでいるような家具類の影が見えた。
智輝はこれだけで「訳あり物件」の臭いが半端ないと思った。
「廖さーん!来ましたよー!」
ドア越しに米奇が大声で叫ぶ。
「大丈夫か?そんな大声で呼んだりして。」
不安そうに横目をやる智輝に米奇は
「平気ですよ。それにどっちみち呼び鈴壊れてますんで。」
見ると古めかしい呼び鈴
は無惨に壁から剥ぎ取られたように内部の機械を剥き出しにしながらぶら下がっていた。
「うわぁ…。」
智輝が感嘆の声をもらした時
ドアがガチャリと開き小莱が顔を出した。
部屋着姿で足は裸足だった。
寝ていたのか髪が乱れている。
「…っ!葉サン…!い、一緒ダタデスカ…!」
驚きの表情を見せる小莱の顔はやはり具合が悪いのか頬から赤みが消えていた。
代わりに目の下に青黒い隈が浮かんでいる。
「廖さん、ごめんなさい。押し掛けちゃって…。」
智輝が申し訳なさそうにそう言うや否や
「イエ!ソンナ…!ド、ドゾ…入テクダサイ…!」
小莱はドアを押さえ、智輝と米奇を中へ招き入れた。
小莱の部屋は確かに米奇の言っていた通り、普通の日本人の部屋とほとんど同じだった。
一般的な学生の独り暮らしには持ってこいな1Kの部屋。
必用最低限の家具家電。
さりげないインテリア。
香港人留学生だからといって特別中華中華した感じ等はほとんど見受けられない。
というより、そう言った気配すら感じさせない部屋だった。
米奇は先にトイレを借りに行ったようで姿が消えていた。
「お邪魔します。」
智輝はそう言いながら小莱の部屋に入った。
部屋の奥にはさっきまで小莱が寝ていたとおぼしき布団が乱れた状態で床に敷かれてあった。
智輝は何やら見てはいけない物を見てしまったような気分になった。
「…ベッドじゃないんですね…。」
智輝は自身で何を口走っているのだと一瞬思いながら小莱のほうをちらっと見た。
「は…はい…。」
小莱は片足に体重をかけながらしんどそうに立っている。
細身ながら、いつもはしゃんと背筋を伸ばして真っ直ぐ立っている彼らしからぬ姿勢だ。
「…廖さん。辛いなら寝ても大丈夫ですよ。」
智輝は小莱のそばに寄り優しく後ろからそっと肩を支えた。
「…!」
その時の小莱の表情は本当に“恋する乙女”のそれとしか言い様のない顔だった。
「…っす…スミマセン…」
小莱は寝床に腰を下ろし
恥ずかしそうにうつ向いた。
智輝もどうやり過ごせばいいか分からず、取り敢えず部屋を見渡し
「この部屋、家具家電付きだったんですよね…。」
と話題を出してみた。
「はい…。僕、ハジメテ日本…来タ時カラ…ゼンブアタデス。前二誰カ使テタミタイデシタ…。」
「…え?前に誰か…って」
智輝は小莱の片言を一瞬聞き間違いかと思いもう一度聞き返した。
「…炊飯器、ゴハン炊イテアル…ソノママ…靴箱…誰ノカワカラナイ…靴ソノママ…」
「おいおい…それって…」
もしかしなくてもヤバイ部屋じゃんと言いかけた所に米奇が来た。
『廖さん、トイレありがとう。ついでに掃除しといたから。』
「…?」
米奇は小莱に広東語で話しているが智輝には理解できなかった。
『ありがとう。汚かったでしょ?ごめんね。』
米奇の言葉に小莱も広東語で何事かを話しているがやはり智輝には理解できなかった。
『いいですよ。気にしなくて。』
「何だよ!さっきから二人して、サイサウガーンとかンーゴイとかンーサイハッヘイとか!何喋ってるか全然わかんねっての!」
しびれを切らした智輝が思わず叫ぶと
米奇と小莱二人は顔を見合わせて笑いだした。
「あはははっ!っ…て…葉さん、さっきのでそんなに聞き取れてたなんて凄いですよ!」
「耳だけは良いからな!英語のヒアリングでも結構な点数取ってたぜ?…じゃなくてさ!二人だけでしか分かんない言葉で喋られたら俺だけ置いてきぼりになっちゃうだろ!?」
笑いながら感心する米奇達に智輝はため息をつきながら言った。
「すみません。気を付けます!」
「スミマセン…。」
二人は苦笑いしながら言った。
「そうそう、廖さん、具合はどうですか?熱はありますか?」
智輝は先程購入したプッチンプリンを鞄から出しながら言った。
「は…はい。熱アリマス。少シ…。アト…背中イタイデス…。昨日、イタクテ眠ルデキナカタ…。」
小莱は背中を指差しながら言った。
「背中…。ちょっと見てもいいですか?」
智輝は小莱の後ろに回り服の下を覗いた。
「あっ!何か出来てる!」
横から覗き込んでいた米奇が叫んだ。
「帯状疱疹だ。」
智輝は確信したように頷きながら言った。




