師走
師走編が始まります。
お楽しみ頂ければと思います。
12月、世間はすっかりクリスマスムードに包まれ元より異国情緒漂う横須賀の街も一層華やかに輝く季節になった。
しかしどんなに世間が浮かれようと、どうにもならない事は本当にどうにもならない。
智輝は12回目の仮免試験に挑み12回目の不合格を言い渡されたところだった。
「…暫く休もう。これ以上は俺のメンタルと財布がもたん。」
一度の仮免許一発試験にかかる費用はざっと合わせても
4000円近くはゆうに飛ぶ。
不合格を言い渡される時のショックと合わせると、よほどのメンタルと経済力の持ち主でなければそう何度も繰り返せる苦行ではなかった。
そして智輝の髪は依然金髪のまま、瞳もオッドアイのままだった。
以前思い付いた髪と瞳の色を取り繕って小莱からの熱すぎる視線と彼の気持ちを治まらせる作戦は見事失敗に終わったからだ。
一度母の使っていたシャンプーで落とせる白髪染めで髪を黒く染め、茶色のカラコンを装着して出勤してみたが
店長の壽康や奥さんの玉玲の反応が著しくいまいちだったうえ
米奇には
「葉さんは金髪オッドアイじゃなきゃ絶対おかしい!」
とキッパリ言われてしまい
小莱に至っては余計に見てくる始末で
これだったらありのままの姿でいる方がよほどマシだと判断し今に至っている。
今日も仕事は一日休んだ。
さて余った時間をどう過ごすかと何気なく携帯を開けるとメールが一件ある。
米奇からだった。
開いて読んでみると、どうやら小莱も体調を崩して今日休んでいると書いてあった。
そして今から小莱の住むアパートに「突撃見舞い」に向かうのだが智輝も良かったら一緒にどうだという内容だった。
「突撃見舞い」って何だそりゃ…。
香港人の風習か何かだろうかと思いながら智輝も小莱のプライベートには多大な興味があったため便乗してみることにした。
上大岡駅で待ち合わせる約束を取り付け、途中見舞いの品を何か手に入れようと智輝はスーパーに寄ることにした。
具合が悪い時は咀嚼がしんどい場合も多い。
子供のころ風邪などを引いた時に食べさせてもらって嬉しかったものは確か…
「これだ。」
智輝の手に取ったものはグリコの「プッチンプリンだった。」
甘くて冷たくてつるりと飲み込める。
熱があって食欲が無いときよく母が食べさせてくれた思い出があった。
スーパーで「プッチンプリン」を購入後智輝は上大岡まで向かった。
「葉さ~ん!」
上大岡駅の改札付近で米奇は智輝をむかえてくれた。
「ミック君!良かった。すぐに合えて。」
「葉さん、遠くからでもすぐに見つけられますから!」
改札を抜けながら駆け寄る智輝に米奇は言った。
「ほんともう!何であの日は黒髪になんてしてきちゃったんですか?葉さんそのままで充分カッコ良くて素敵なのに!」
上大岡駅の出入口まで歩きながら米奇は口を尖らせながら智輝に言った。
「そんなに似合わなかったかな?ちょっとしたイメチェンのつもりだったんだけど…。」
「イメチェンだったんですか?…嘘ですね!あれでしょ?廖さんに見られるの気にしてたからじゃないんですか?」
智輝の応えに米奇は鋭く真実を言い当ててきた。
智輝は諦めてこの聡明な少年の前では一切の嘘は通じないと判断し正直に話した。
「その通りだよ。廖さんがあんまり見てくるから…何か昔好きだった人に俺がそっくりなんだって。」
「え!そうなんですか!?」
智輝の話に米奇は興味深そうに身を乗り出してきた。
「うん。で、その人どうやら亡くなってしまってるみたいで、俺がその人にそっくりなせいで廖さんに辛いことを思い出させちゃってると思ってさ。」
智輝はありのままに前日の行動の理由を話した。
「俺がその人に似ていなければ思い出す事も見てくる事もなくなるかなって思って。それで髪と目の色変えてみたんだけど失敗だったな。」
ばつが悪そうに智輝は苦笑いしながら言った。
「そうだったんですか…。ごめんなさい。僕。葉さんに酷い事言っちゃいました…。」
「別にいいって!俺自身も違和感あったから、ミック君の言ってたのが正解だよ。」
反省する米奇に智輝は明るくフォローするように言った。
「葉さん、すっごく優しくていい人なんですね!」
「そんな…。そうそう、廖さんの家、行った事あるのか?今日見舞いに行くんだろ?」
米奇の率直な賛辞に照れながら智輝は話題を変えてみた。
「はい。前に一度遊びに行って道も覚えてます!」
米奇は自身ありげに返事を返した。
「そっか。頼もしいな。廖さんの部屋ってさ。どんな感じ?」
「そうですね。何か普通の日本人の部屋とそんな変わらない感じですよ。」
智輝の問いに米奇は応え更に続けた。
「粗方の生活に必要なものは部屋に初めから揃ってたって言ってました。」
「マジで?家具家電着きってやつじゃん!建物は新しかった?」
「いえ。あんまり新しくはないです。他の部屋も空き室が多くて、土地も訳ありっぽい感じで…。」
「…。大丈夫なのか…?その部屋…。」
米奇は大体真実を包み隠さず言う傾向にある。
智輝は段々小莱の住むアパートが訳あり物件のような気がしてきた。
「そうだ。廖さんの部屋、気になるものがあるんですよ。」
米奇が思い出したように言った。
「何?どんなもの?」
「段ボール箱が1つあるんですよ。引っ越しの時に使うようなやつ。」
米奇は箱を表すように空中に四角を描きながら言った。
「それで、てっきり荷ほどきし忘れてるのかと思って聞いてみたんですけど何も答えてくれなくて。」
「何か、他人に知られたくない物が隠してあるとかじゃないの?」
智輝は訝しげに眉を潜めながら言った。
「そうですね…。廖さんって結構謎めいてるところありますから…。こっちから問いたださない限り自分から話してくる事なんてほとんど無いし。やっぱり何か隠してるのかな。」
「でも、そうやって隠されると余計知りたくなるのが人間の性ってもんだよな。」
ミックの言葉に智輝は悪戯っぽい笑みを浮かべながら言った。
「ですね!」
ミックも同じ笑みを浮かべながら答えた。




