霜月ー8
二月も明日で終わりです。
もうすぐ卒業式ですね。因みに私は小、中、高、短大、専門学校の卒業式のどれひとつとして全く泣けませんでした。
泣いてるヤツの心中が全く理解出来ませんでした。
今も理解出来ません。
子供の成長を見届ける親の側ならともかく、大して思い出もない人間関係も希薄な者同士で何を泣く事があるのでしょう。
お楽しみ頂ければと思います。
京急川崎駅から徒歩15分の家路までの道中も
家に着いてからも
晩御飯を食べ、風呂に入ってから寝床に着くまでの間も
智輝の頭は小莱の事でいっぱいだった。
夜のネオンを映した哀しみで濡れた美しい瞳。
マネキンかと思うほどに整った美しい顔立ち。
柔らかな中音の優しい声。
たどたどしいながら一生懸命に話す日本語。
ふんわりとしていてしかしどこかミステリアスな雰囲気。
小莱のそれらはどれを取っても何かしら人を惹き付けて止まない要素に違いなく
智輝はいつの間にか彼に心を囚われてしまったとぼんやり考えるのだった。
そして最も気になるのは彼の「初恋の人」だったTonyIpの存在だ。
自分に瓜二つの、双子と言っても誰も疑わないだろうほどにそっくりな青年。
原因は不明だが、どうやらトニーは若くして亡くなっているらしい。
それが小莱の心に大きなダメージを与えている事は明らかな事実であり
時折小莱が見せていたあの思い詰めた表情はトニーを思う気持ちから来ているのだとしたら…。
智輝はその事を思うと居たたまれない気持ちになった。
自分がトニーにそっくりなせいで小莱の心の傷をえぐってしまっているのだとしたら…。
トニーと自分に共通する明らかな特徴は髪と瞳の色だ。
髪を染め黒か茶色のカラコンを装着すれば少しぐらいは気休めになるだろうか。
カラコンは以前にも似たような理由で使っていた
事があったため装着に支障は無かった。
髪染めは母親の白髪染めがあったはずだ。
智輝は大きく溜め息を吐くと寝床から起き上がり
再び風呂場へ向かった。




