霜月ー4
オリンピックで日本人が続々メダルを獲得しているようで誇らしいです。
北野天満宮でも梅の花が咲きだしてています。
受験生の皆さまにも暖かい春がきてくれるよう祈ります。
店で出される“まかない”は全て先週の分の売れ残りの惣菜を温め直したものだった。
蒸籠にレタスの葉を一枚敷き、人数分ちょうど売れ残っていた海老焼売を並べ、
鍋に水を入れて沸騰させその上に蒸籠を置き蒸気で蒸す作業を手際よく米奇がやり
その隣で小莱がお粥を煮立たせ、智輝は中華鍋でこれまた売れ残りの青椒肉絲を炒めなおしていた。
13時を指した所で従業員全員一斉に昼御飯に入る合図を店長である壽康が出したのだ。
この料理は客に出すものでは無いので味がどうであろうと関係ない分気が楽だ。
その上、料理の練習にもなる。
しかもIH“電磁調理機”なので、鍋から火柱が上がる事も無いので安心して料理に集中できる。
最高だった。
「葉君がIHに慣れてル人デ助カタヨ。 」
棚から人数分の皿を出しながら壽康が言った。
「はい。俺の実家もオール電化なんですよ。IH便利ですよね。」
手元の火力調節ボタンを操作しながら智輝が言った。
「前に東日本大震災があったでしょ?それで火が出るガスのコンロだとまた何かあった時に火事になりそうだからってIH に変えたんですよ。」
米奇が蒸し料理のタイマーを設定しながら言った。
「そうなんだ。確かにガスはある意味危ないからその方がいいですよね。」
智輝は米奇の日本語の上手さに感心しながら答えた。
米奇も華僑で日本人ではない。
父親の壽康や、香港人の小莱と話す時は流暢な広東語で話している。
英語も得意なようで、謂わばトライリンガルというヤツであった。
店の手伝いも喜んでしてくれるし、何より可愛い。
きっと自慢の息子だろうと智輝は思った。
ふと気になって小莱の方を見ると、今度は珍しくこちらを見ていなかった。
整いすぎと言っても過言では無いほど綺麗なその顔は横から見ても非常に魅力的だった。
長い睫毛が影を落とした切れ長の目は何とも言い様のない憂いを帯びており、智輝は思わず何かが胸にこみ上げてくる感覚を覚えるのだった。




