葉月―3
新学期が憂鬱な学生さん。無理せずサボって下さい。サボってもいいんです。
パーンダラヴァーシニーこと白衣観音は続けた。
「インドの神話で山羊の頭を持った神の一柱で“ダクシャ”という神がおります。蛇の神は“ガンガー”、ガンジス川を守護する神やナーガ族と呼ばれ、後に仏教で“八大竜王”と呼ばれるようになった神々もおります。」
ラクシュミーは白衣観音の言葉に頷き更に加えた。
「山羊は古くから人々の営みに寄り添ってきた家畜でした。乳や肉、骨、毛皮、角も全て余すところなく人々は大切に利用してきたのです。」
「宗教的な儀式にも欠かせない存在でした。キリストの使いの皆様の“最初の書物”にも扱われていますでしょう?」
ラクシュミーの問いにミカエル、ラファエル、ガブリエル、ザドキエルの四人の天使は顔を見合わせた。
「確かに山羊は“賄罪の供物”としても古くから主に捧げられてきた記録が残っております。」
ザドキエルは過去を思い返しながら呟いた。
「蛇が何故我々にとって神の仲間とされてきたかはご存知ですか?」
ラクシュミーは再びザドキエルに問いを投げ掛けた。
「…脱皮をすることから死と再生の象徴とされてきたから…で合っておりますか?」
ザドキエルは少し自信無さげに答えた。
「そうです。その他にも水辺や湿地によく現れることや細長い体の特徴から流れる水、即ち川の神やそれの化身として崇められるようにもなったのです。」
ラクシュミーはそう言うと身を翻し、先ほど光を当てた「元人間」の哀れな魂に向かって急降下した。
「吉祥天女様!」
白衣観音はそう叫びながらラクシュミーの後を追い地上に向かった。
ラクシュミーは地上に降り、悪魔に惑わされ自らを滅ぼした哀れな魂に寄り添いながら話しかけていた。
「私の姿がわかりますか?あなたが現世で名乗っていた名を教えて頂けますか?」
哀れな魂はゆっくりと顔を上げるとラクシュミーの姿を見て目を見開き声を失っていた。
「私はラクシュミー。別の名をマハー・シュリー・デーヴィー、日本や中国では吉祥天女と呼ばれている神です。」
声を失っている魂の女性はそれを聞いてようやく途切れ途切れにだが話し出した。
「ら…ラクシュミー…様…」
「あなたの現世での名を教えてください。」
やっと声を出した魂の女性にラクシュミーは再び語りかけた。
「わ…私…私の名は…まりな…魔璃那…です。」
魂の女性はか細い声で答えた。
「魔璃那さん。それは本当の名ですか?」
ラクシュミーが再び問いただすと魔璃那と名乗った女性の魂は首をかしげて曖昧な返事を返した。
「わかりません。昔この辺りで働いていた時名乗っていた事は覚えているのですが…」




