神無月
初投稿作品です。
作者自らの現実に起こった(起こっている)境遇等をふんだんにネタに使っている、即興作品です。
ご笑納頂ければ幸いです。
平成二十九年も残り2ヶ月にさしかかる、10月のある昼下がり。
稲葉智輝(31歳独身)は肩を落として深い溜め息をついていた。
「また、減点超過かよ…一体何回通えば合格させてくれんのかね?」
彼のいる場所は神奈川県内のとある免許センター。
今日で七回目の仮免試験に挑み七回目の不合格をもらった所だった。
筆記試験は猛勉強の末奇跡の一発合格を果たしたものの、実技試験はさっぱりだった。
しかし、彼はこれでも去年まで教習所に通いラストスパートの本免試験まで一度上り詰めていた。
つまりほんの数ヶ月前は仮免許を持ち、教習車で実際の公道を路上教習で走っていたのである。
しかし、本免試験は二度不合格になり、運の悪い事に二度目の試験の日が仮免許の期限切れの日だったのだ。
それが今から2ヶ月前。
検定期限は10月までまだあるから、それまでに仮免試験を受け直して仮免許を取り直す。
仮免許を取り直したらもう一度本免試験に挑み、合格して免許を取得…
と、こういう手筈だったが
とうとう取り直しがきかないまま10月を迎えてしまっていた。
初めは智輝自身も、何とかなると信じていた。
だが、まさか免許センターで直接取り直す行為がこんなにも難易度が高いなどとは努々思っていなかった。
免許センターは教習所とは違い、不親切であると噂では聞いていた。
ミスした箇所のポイント、適切なアドバイスなどはほぼ皆無に等しく、ただただ淡々と減点方式で試験を進められるだけなのだ。
試験中、助手席に乗っているのは警察官。
当然、教習所での仮免試験などより評価がシビアになるのも納得はいくが
まさか、ここまでとは。
今でもう七回目である。
このまま一生合格しないのでは、自分は一生車の免許を持てないまま年老いて死んでしまうのでは
等と絶望的な考えが智輝の頭を横切った。
バス停まで向かう智輝の頬を撫でる風は冷たく、彼の心に一層の侘しさとやるせなさを呼び起こしていた。
10月にしては肌寒い日々が続いていた。
関東地方にはこの時期では違例の寒波が押し寄せ、この日も10度以下を下回っていた。
智輝はおもむろにタブレットを取りだし、電源を入れた。
画面をスワイプさせロックを解除すると
次は薄青い小鳥のアイコンをタップし、Twitterの画面を開き
「仮免試験今日も落ちた(;´д`)もう無理誰か助けて」
といったツイートを投稿し再び溜め息をついて空を見上げた。
遥か上空には鳶が旋回し、更にその上空には飛行機が青い空に白い線を描きながら飛んでいる所だった。