見つめる瞳
サイクルショットが空から地上へと乱れ飛んでいる。その1発1発が砂浜を舞い上げて視界を塞ぐ。
「レイダ、 どっちだ 」
「《右。2人来ます 》」
数多のサイクルショットを掻い潜り、塞がれた視界の中で闇雲に動かず、じっと息を殺すのは、緑色のベイラー。その肩は真紅に塗られ、彼女の故郷では絶対の信頼を置かれた証。
レイダがじっと砂浜の中で構える。
「右手にサイクルショット。左手にサイクルブレードだ」
「《仰せのままに》」
乗り手のオルレイトが、レイダの両手を変化させる。右手には針を打ち出すサイクルショット。左手には、サイクルブレード。オルレイト自身が持つ、刀身の短い剣を参考にして作られたソレは、コウの物とも、パームが作る物ともまた違い、片手でも扱えるが、より簡素に、より万能に使える太さであった。こうして2つの武器を持ち、いつでも動けるように構える。構えるが、その姿はどの構えとも似つかない、面妖な姿となる。
両脇を占め、片手にもつブレードを天に向け、足はまっすぐ垂直に。祈る姿を崩したような、武術にはない構え。
「やり過ごすぞ! 」
「《突拍子もない事をよく思いつく》」
やがて、崩した構えからレイダが解放される。砂埃を振り払い、2人の青黒いベイラーが襲い来る。背中には羽を備え、空を自在に舞うアーリィベイラー。手には小さなナイフが握られている。
「サイクルナイフってところか……なんでブレードじゃないんだ? 」
「《そんな事を気にする余裕がありますか》」
「ない! 」
垂直に、棒立ちもかくやのレイダに向かって、アーリィベイラーが迫る。背中からほとばしるサイクルジェットが2人のベイラーを押し上げている。星が持つ落とす力に逆らって、彼らは地上と並行に、足をつけずに疾走する。 間合いの中にレイダが入った瞬間、オルレイトが奥歯を噛みしめる。
レイダを股関節から広げて開脚させる。片方の足を曲げ、片手の足を伸ばしたまま、一瞬で顔と大地を近づける。体操運動であるところの伸脚のように身体が沈んだ。当然、棒立ちからの変化であるために、レイダの身体が一瞬で重心がさがることになり、相手からしてみれば、一瞬で目の前から相手がいなくなったようにも見えた。
レイダのすぐ上を、2人のベイラーが通りすぎる。その交差する一瞬を、オルレイトは狙っていた。
「うわぁあああああああああ!!」
オルレイトは、身体の鍛錬とは無縁の生活をしてきた。生まれつき身体は病に侵されて鍛えるどころではなく、オルレイトの家であるガレットリーサー家特有の、戦斧を使った武術も習っていない。だからこそ彼は、自身の知恵を鍛える事を選んでいる。剣を持ったのも、この旅に出る少し前。まだ素人と言っていい彼が、達人の武芸者と同じような裂帛の気合いなど出せるわけもなかった、ただ自身を奮い立たせるような叫び声となって喉を震わせる。獣の咆哮とも、達人の気迫とも違う、彼自身の出せる最大の力を出す為の、肉体の上限を超える為の声。
乗り手の声に、ベイラーは応える。沈ませた身体を強引に引き起こしながら、ナイフよりは長く、剣よりは短いブレードで、すれ違いざまに切り上げる。肩を下から斬りあげたことで、1人目のアーリィベイラーの進路を大きく乱す。切りつけた後は相手を目視することなく、身体を沈ませたことで、自分の上空を素通りしたもう1人のベイラーに向け、右手にあるサイクルショットを至近距離で何度も打ち込む。背中から何度も針が打ち込まれたベイラーは、高度を維持出来なくなったのか、砂浜へと激突する。
たった一回の交差で、2人のベイラーを落とす事に成功する。だが、レイダにもオルレイトにも喜びはない。
「……手応えが薄い。いや、軽い? 外したか? 」
「《いいえ。ブレードもショットも命中しています。しかし……》」
斬りつけたベイラーは高度こそ落としたものの、旋回を続けて空へと戻る。斬りつけたことよりも、押し出したようになった結果だった。もう1人の方は、地上に激突したことで乗り手が気絶したのか、動くことはない。
「やつらが軽すぎるのか……ブレードの切れ味、あげられるか? 」
「《オルレイト様の技量が伴えば。あるいは》」
レイダが淡々と事実を述べる。結局のところ、剣で斬るというのは、それ相応の技量がいる。切れ味がよくとも、真っ直ぐ刃を立てる事ができなければ、何も斬る事はできない。そもそも、人間の腕は自由に動き回せるが、剣で斬ると言う動作を行う場合には、それが裏目に出る。剣を振るうときに、刃を真っ直ぐ下ろすには人間の腕は自在に動きすぎてしまう。だからこそ、反復練習によって、出来る限り腕の角度、力加減を身につけ、刃を立てられるように矯正する。それは人が乗るベイラーでも同じ話であり、オルレイトはその技量において、お世辞にも高くない。
「サイクルショットがうまく行くんだ……剣に応用さえできれば……できれば……」
「《次! 上です! 》」
思考にレイダが横槍を入れる。今度は紫色をした毒々しいベイラーが、巨大な鉈の形をしたブレードでもって強襲する。
「パーム!! 」
「ほらほら休んでる暇なんかないぜぇ!? 」
その声は、余裕の笑みを感じさせる。事実、レイダ以外の、龍石旅団のベイラーは動く事ができず、まだパームの側には4人のベイラーがいる。その全員が、レイダには無い空を飛ぶ力を持っている。
上空からの振り下ろしを、両腕にサイクルシールドを作り出して受け止める。木々が砕ける切削音がオルレイトの耳にやけに響く。
「そんなベイラー、一体何処で見つけ出した!! 」
「お前が知ってどうするんだよ」
「好奇心だ!」
「分かったぞ、てめぇ馬鹿だな」
「馬鹿だが恥知らずじゃないつもりだッ そうだろうレイダァ!!」
「《そうですとも! 》」
レイダの目が赤く輝く。肩のサイクルが激しく周り、削られた量よりも多くの木を生み出す。そして生まれた剛力は、パームのザンアーリィを弾き飛ばす。
「《私の乗り手は、歴代誰も彼も、馬鹿ではないのですから! 》」
両腕から、サーラで身につけたサイクルショットを向ける。吹き矢の筒から構想を得たそのショットを撃つ為には、長く細い筒を作り出す必要がある。その繊細な作業を、レイダは両腕分、一瞬でやってのける。
「「《サイクルスナイプショット! 》」」
細くも鋭い針が、1つしかない出口の中で、行き場のない力を受け、強引に押し出される。その威力と速度は、どんなベイラーよりも速く届く。
「ああ。てめぇらは悪くねぇ。弱くねぇ。だがなぁ」
パームの声が聞こえた直後。サイクルショットが命中し、爆風が生まれる。砂浜に一陣の風が生まれ、アジトの中で静寂が訪れる。レイダのサイクルショットの威力に絶大の信頼を寄せるオルレイトは、今ので勝負が決まったと、事実を確認もせず認識する。
しかし、その認識は、笑い声によって崩壊する。
「だが、この数の差は如何ともし難いよなぁ! へっへっへっへっへ」
そこには、無傷で佇むザンアーリィベイラーの姿。何故だとオルレイトが問う前に、答えは目の前に広がっている。 青黒いベイラー、アーリィベイラーの1人が、サイクルシールドで射線に割って入っている。その半身は、サイクルショットによって半壊しているが、パームを倒すには至らないでいた。その、パームを守ったケーシィが、自身のベイラーの状態を見て驚く。
「あー! 右腕ぼろぼろぉ!! 」
「なんだ。やっぱり当たってたらまずいかったのか」
あっけからんと、守った事を当然だと言うように、パームがアーリィベイラーを押しのけて、再び武器をその手に持つ。パームの仲間であるケーシィが自身を盾にしていた。
「お、お前、仲間が助けてくれたのに何もないのか! 」
「あん? 何言ってるんだ。俺を助けるなんてこいつには当たり前の事なんだよ」
それは、パームが金で買った奴隷である事。そして、その事でケーシィは絶対的な支配関係になっているを言っているのだが、オルレイトにはまるで理解できないでいた。自分を助けた者に礼を言うのは、彼の中でそれは人間として通常行うべくして行う当たり前の行為だった。それを目の前の人間はやらずにいる。思わず、赤の他人であるはずのパームに問う。それがどれだけ無関係でも、確認をしたくなってしまった。
「お前は、今まで、ずっとそうやってきたのか」
「……ああ。ずっと。ずっとだ。ずっとそうしてきた」
一歩一歩。柔らかい砂浜を力強く踏みしめてザンアーリィが近づく。いつのまにか笑い声は消え、巨大に膨れ上がった鉈が地面を引きずる。そこには人間らしい意志は感じられず、ただ、目の前の物体を砕くだけの獣にオルレイトは幻視する。サイクルショットを作り出し、真っ直ぐ撃ち放つも、その全てをザンアーリィが只の移動で躱す。ザンアーリィの目は、再び赤く輝いている。ベイラーが、1人ではたどり着けない領域へと踏み込んだ時に輝く光は、レイダの物よりも黒く濁っている。
「何故、そんな」
「簡単だ」
いくつものサイクルショットを躱し、ついの間合いに入られる。振り上げたサイクルブレードを、シールドで受け止める。切削音が先ほどよりも大きく、激しく鳴り響く。足元にお互いのサイクルが回った事で舞い落ちる木々の欠けらが降り積もる。さっきまでのザンアーリィであれば、ここでレイダが押し返す事が出来ている。だが、この瞬間のパームに、オルレイトは恐怖を覚えていた。どこまでも冷たい声が、叫び声でもないはずの声が、その心を縛り付けるようにゆっくりと聞こえてくる。
「俺がずっとそうされてきたからだ」
その瞬間。ザンアーリィベイラーの目が赤く光る。よりどす黒く濁り、光が顔から溢れるように伸びる。
それは、パームのある感情に反映されるかのように、その色を濃く、汚く変えていく。
パームはただ、憎しみでこの刃を振るっていた。
そしてその刃は、レイダのシールドを砕く。邪魔な壁が取り払われた事で、鉈は確かにレイダのコクピットへと向かい、強かに叩きつける。硬度の高い物が砕け散る音がする。木々とは明確に質感の違う、琥珀色をしたその欠けらは、レイダの胸部から落ち、欠けらと共に、赤く濁った液体が滴り落ちている。
「おう。男前になったじゃねぇの」
パームがコクピット越しにオルレイトの姿を見て、止んでいた笑みが再び始まる。ブレードの一撃を受け、コクピットに大穴を開けたレイダ。そして、破片がオルレイトの頭に当たったのか、頭から血を流していた。コクピットの中にあったであろう書物は破れ、内部で散らばっている。
レイダはコクピットを裂かれ、サマナは身動きが取れず、ガインはサイクルショットで吹き飛ばされている。パームとその一味によって、龍石旅団のベイラーは蹂躙されていた。
「まぁ、もう動けないだろう。そのまま運んでやるから感謝しな……さぁ! 久しぶりだねぇミーンちゃん元気してたかぁ! 」
「《お、お前!! 》」
「今度こそ、その脚を二度と使えなくしやるからさあ! へっへっへっ」
そして最後に残ったミーンにパームは向き直る。乗り手のナットは、叔父の仇を目の前にして、頭の中が混沌とし始める。今、ミーンで応戦することは、ロープを離す事になる。それはネイラから託された仕事を放棄する事であり、同時に、コウを見捨てる事になる。
だが、目の前で笑う不愉快な男が、ナットの育ての親を殺した事を忘れてもいない。そして、仲間を傷つけられて、黙っていることができなかった。
「パームゥ!!! !!」
「《だめだよナット! 》」
「ミーンちゃん、なんだそのロープ? 」
ここに来て、ミーンが脚で抑えたロープを見つけるパーム。そのロープは海に続いている事を不思議がる。
「釣りでもしてんのか。悠長だなぁ……でも、ずっと動かないってことは、大事なもんな訳だ」
「《(あの男、冬の時といい、今といい、なんでこんなにも察しがいい!)》」
ミーンが、パームという男の強さの1つに気付きつつある。だがそんなことなど些細にさせるほど、乗り手のナットが猛り狂っていた。怒りを抑える為にまた葛藤し、感情がない交ぜになる。
「《ナット! ナット! 》」
「分かってる! 分かってるのに!!」
その顔には、意志と全く関係なく涙が流れていく。1つの感情が大きくなりすぎて、大きくなりすぎた感情を抑えようとして、ナットの体が、痛覚を伴わない痛みを挙げている。仇を討ちたい心と、コウ達を助けたい心がせめぎ合う。どちらかを選ぶことは、今のナットにはできなかった。そして選べない事でさらに心は削られていく。
そして肝心の仇は、 ナットの心など考える事はない。
「とりあえず乗り手には寝てもらうか」
ブレードが無造作に振り下ろされる。ナットは最後の最後まで、その刃を泣きはらしながらしかと見ていた。コウ達を助けるにはロープを離す訳にはいかず、仇を打つにはロープを離さなければならない。2つを選ぶ場面に来て、結論を出すことができなかった。ミーンを逃す事も出来ず、ブレードで叩き切られる想像が頭を支配した瞬間。振り下ろされるはずの刃が途中でぴたりと止まる。
自分に振り下ろされるはずの刃が、届かずに静止している。涙を拭って目をこらせば、ザンアーリィの両腕を、レイダが押さえつけていた。
「……よく、耐えた」
「オルレイト! 怪我は」
「してるさ。してるが、寝ている訳にもいかなくなった」
すでにレイダの体は戦いでボロボロになり、かろうじてザンアーリィの動きを止めているような状態だった。そんな状態で、縦一文字に切り開かれたコクピットから、オルレイトの顔が見えている。ベイラーも、乗り手も、体は限界に近い。
だが、戦う意志はどちらも萎えていない。
「ミーン。姫さまに一体、冬に何を言われたかは知らないが、これだけは言うぞ。その後の事だ」
「その……後」
「パームをどうこうして、お前は、その後、どうするつもりなんだ。いつものように、お前は郵便を
運べるのか。人を殺した手で、手紙を運べるのか」
「そ、それは……」
ナットは、かつて似たような問いを受けたことがある。それは、パームと始めて会敵した冬。雪の降る街道で、カリンに言われた事。自分がパームを殺したと、亡き叔父に自慢出来るのかという問い。その問いに、直前までナットは首を横に振れなかった。パームの首を落とそうとしたその瞬間、剣を落として、泣き叫びながらも、出来ないと答えた。
そして、今のオルレイトの問いには、今度は即答できている。
「出来ない……手紙は人の想いが乗った大切な物だから……人を殺したて手で渡す事なんて出来ないよ……」
答えた瞬間、ナットがある種の慧眼を得る。それは賢者の閃きにはおよばずとも、今の今まで答える事ができなかった物への回答を得た、確かな前進。「なぜ人を殺してはいけないのか」という、当たり前でありながら、明確な理由を答える事が出来ない命題。その命題に、ナットは答えも持ち得ていなかった。しかし。今この場で、その答えを得る。
「殺したら、もう、元に戻れない。僕だけじゃない。僕以外の、僕に関わった全ての人が変わってしまう……だから、いけないんだ……だからお前は、いけない事をしているんだ」
ナットの中で、思考が透明になっていく。あれだけ恐怖と憎悪が入り混じっていたはずのパームへの感情が、自身の中で正当性をもって、理論的に反論できるようになる。もう、笑い声が恐ろしくなかった。
「パーム、お前は、もう変わり過ぎてる。誰にも、何にもなることはできないよ」
「ーーーーしったような」
毅然とした態度で、パームと、ザンアーリィと向きあう。笑い声が止むことは、先ほどからあった。怒鳴り声が上がる事もあった。だが、その場の空気が凍るような、冷たい人間味のない声が出たのは、これが初めてだった。
「しったような口を、きくな」
声の冷たさとは裏腹に、ザンアーリィはその力で強引に抑え込んでくるレイダを引き剥がす。レイダは砂浜を転がり、オルレイトは何度目かの血を吐く。さらに、体に変化が起きる。
「(こ、こんな時に頭痛が)」
持病がオルレイトの体を蝕み始める。あまりに体を痛めつけ過ぎて、連鎖的に症状が起きてしまう。
「な、ナット」
激痛がはしりながら、オルレイトがナットを呼ぶ。ザンアーリィはそのヤイバを今度こそナットとミーンへ振り下ろそうとしている。この場ではもう、動けるベイラーはいなかった。
しかし、刃を向けられているはずのナットは、むしろ真っ直ぐにパームをみつめ、視線を逸らしていない。
「お前が僕を殺しても、きっと誰かに覚えてもらえる」
「……」
「でも、お前は違う。お前は、だれも、何にも、覚えられない」
「だまれ」
「人を殺し過ぎたお前には、一瞬の憎しみ以外誰の心にも残らない!! 」
「だまれぇええええええええええ」
振り下ろされるブレードから、凄まじい風切り音が響く。その刃がミーンを襲う事を、この場にいる誰もが疑っていない。
だから、その刃が弾き落とされた時は、静寂よりも、全員が虚をつかれた事で空気が淀んだ。
「……あ? 」
「あ! 外したぁ!! ヤバイヤバイ」
今まで聞いたことのない声が、湖から聞こえてくる。ザンアーリィが振り向くと、そこには、髪を2つ結びにした人魚がおり、その身の丈より大きい弓弩を構えている姿に、唖然とする。パームはその道具を知っていた。ザンアーリィが湖へとにじり寄る。
「なんで、お前そんなもん持ってるんだ」
「こ、こっちくるぅ!! メイロォの恋人さん! 後お願いしまぁあす!! 」
そして、臆病風に吹かれて、人魚……シラヴァーズであるシロロが、文字通り尻尾を巻いて逃げる。一体今のはなんだったのかと問う暇もなく、今度は、ミーンの足元で異変が起きた。その異変こそ、ミーンが待ち合わびていたものだった。
「《ナット!! 》」
「……やっとかぁ!」
湖から、小さな泡が何度も吹き上がる。それは一粒一粒は小さくとも、数が膨大になり、最後には、盛大な水柱が上がる。砂浜にけたたましい足音を立てながら、4つ足のベイラーが着地する。4本の腕でしっかり砂を掴み、体を安定させる。4つの目が、あたりを見回す。
「とーちゃーく! 」
「すごかったぁー!」
「こ、こいつ、今までどこにいやがった」
元気の良い2人の子供の声が聞こえてくる。そしてパームは湖から上がってきたベイラー、リクに向けて呟く。ベイラーが潜水するなど、彼の知識にはなかった。そして、泡の出から、もう1人のベイラーが出てくる事を察知する。
「もう1人くる。テメェら! 出てきた瞬間をサイクルショットで狙い撃て!! 」
「《まずい、坊や! 》」
「わ、かって、いる、んだが」
出血と頭痛で、まともな思考がまとまらないオルレイトに、急な制動などできなかった。そしてリクが射線に割り込んでも、5人分はまかなえなかった。
やがて、再び盛大な水柱があがる。パームが予想した通りに湖から1人のベイラーが飛び上がった。
「間抜けがぁ! 撃てぇえ!! 」
アーリィベイラーと、ザンアーリィベイラーの集中砲火が始まる。5人のベイラーの一斉射撃がどれほど協力かは、ガインが受けた傷を見れば明らかだった。やがて、水柱の中から、爆音のような炸裂音と、何かが引きちぎられるような異音がする。だが、命中したのは明らかだった。
「さて、そのうち浮かんでくるか」
湖へと向かおうとしたその瞬間。未だ収まらない水柱の中から、武器の名を叫びながら、湖から疾走する。
「「《サイクルブレード》」」
「この、声はぁ」
目視する暇もなく、ザンアーリィベイラーが刀のように長く鋭いサイクルブレードで斬りつけられる。パームが、その斬撃をわざと後ろに飛び退くように回避すると、そのベイラーの姿に吠えた。
「てめぇは、てめぇは!! 」
ベイラーが答えることはなく、疾走を砂浜で止める。身体中のいたるところに突き刺さったままの針が痛々しく残っている。やがて、役目を終えた装甲が、砕けるようにベイラーから剥がれ落ちる。苔の生えた装甲、もとい甲羅が砂浜に1つずつ落ちていくと、ベイラーの肌があらわになった。
その色は、何人たりとも犯すことができないような、純白をしていた。
「……はは、ははは。遅いんだよ」
その姿を見て、憎まれ口を叩くナット。
「また、変わったのか」
以前よりもさらに輝きを増した肌にいち早く気がつくオルレイト。
「やっちゃぇー!! 」
「やっつけろー!!」
その姿を見て囃し立てるリオとクオ
「………頑張ったのは無駄じゃなかったな」
そして、意識を取り戻したネイラ。
龍石旅団の全員が、その帰還を心待ちにしていた。
龍石旅団の全員の姿を見て、乗り手が問い、白いベイラーが答える。
「コウ。やれるわね」
「《お任せあれ》」
コウが、カリンが、アジトへと帰ってきた。
オルレイトくん怪我させすぎ問題
 




