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サイクルグローブ

「……壮観ってのはこの事を言うんだな」


  ケラケラと男は笑う。彼が操るのは、紫色をしたベイラー。その手には、鉈の形をしたサイクルブレード。コクピットで輝く翡翠色もまた、毒々しく日差しを照り返している。


  パーム・アドモントが、ザンアーリィベイラーを伴い、海賊のアジトに踏み込んで、どれほど時間がたったのか。すでに日が傾き始めた。その眼下に広がるのは、砕け散った木々。ベイラー達の欠片。


  龍石旅団のベイラー、レイダ、ミーン。そして海賊のセスが、その場に伏せている。決して寝ているのではない。ザンアーリィベイラーと、乗り手のパームによって、このような姿にさせられている。は、一体複数の戦いでも、遅れを取る事なく、むしろ圧倒していた。


「一体、なんなんだこいつ」

「《ベイラー、のはずです》」

「お前から見ても、そうなのか」

「《私は、アレを、ベイラーと認めたくありません》」

「そうしてくれると有難いな」


  緑色をしたベイラーが立ち上がる。その肌は、ザンアーリィと比べてあまりに傷だらけだった。乗り手のオルレイトが口の中に溜まった血を吐き出す。ザンアーリィの攻撃により、激しくコクピットを動かされたために、口の中を切っている。


「ミーン! ミーン! 」

「《大丈夫。まだ、足は動く》」


  空色の体をしたベイラーが勢いよく飛び跳ねる。サイクルから鈍い軋みがあがりながらも、ミーンがマントを翻して、ザンアーリィを睨む。まだ、彼女も、その乗り手も折れていない。


「《まったく。海は広い。ここまで強い奴が居たとは》」

「だ、駄目だよセス、立ったら駄目! 腕が、腕が!! 」

「《お前はすぐそうやって弱気になる……船長になるんだろう? 》」

「で、でも!! 」

「《いいんだ。コウの時と同じくらいに、セスは高ぶっている。まだ終わらん……だが他の連中は下がらせた方がいい。セスよりひどい》》」


  赤い身体をしたセスが立ち上がる。その右腕はすでにパームに切り落とされている。だが、その両足はまだ砂浜をしっかりを踏みしめ、闘志を隠さないでいる。だが、海賊の仲間、そのベイラー達は、もう動くのがやっとのような姿になっており、サイクルが壊れた玩具のように、バキバキと鳴っていた。


「わ、わかった! おい野郎ども! なんでもいいから逃げろ!! 」

「で、でも! 」

「動けなくなったらそれこそ終わりなんだよぉ!! お願いだから逃げて!! 」

「ッ! すまねぇ頭! 」


  サマナの願いを聞き入れ、這うようにこの場から離れていく海賊のベイラー達。だが、パームはそれを許さない。


「そうはさせねぇよ」


  紫色のベイラーを操り、一直線に走らせる。一歩目と二歩目があまりに遠く、一瞬で距離を詰める。胴体で這いずる海賊のベイラーとでは、まさに雲泥の差。


 掲げるサイクルブレードが、ギラリと光る。狙うはベイラー胴体。振り下ろして、コクピットごと、中にいる乗り手を潰す算段をしている。普通のベイラーではそんな力技はできはしない。コウでさえ、全力の一撃を放って、コクピットにヒビを入れる程度なのだ。それほど、ベイラーのコクピットは、ベイラー自身を超えた強度を誇っている。

 

  だが、ここにいるザンアーリィベイラーとパームであれば、それが可能であると思わせる。それほどの力を、このベイラーは短い時間で見せつけていた。


「《相棒!! いいのかよ! 》」

「良くない、良くないけど、あたい達がロープを離す訳にはいかないだろう!」


  ここに来て、パームと相対してないベイラーが仲間の危機に問いかける。ネイラとガイン。2人はパームが来た時には、すでにサイクルシールドを盾にするのと同時に、砂をかぶせてカモフラージュさせている。なぜそのような事をしているのかといえば、その手に握るロープにあった。


  カリンがコウを連れ戻しに湖に潜っている。それを引き上げるにはコウに括り付けたこのロープが必要になってくる。それがなくては、重りをつけたコウは浮き上がることができない。さらには、コウを動かすために、リクが一緒について行っている。このロープを離すことは、カリンだけでなく、コウも、リクも、乗り手のリオもクオも、海の底に置き去りにするのと同じだった。


「《命を助ける医者としちゃ正解だな》」

「急に何? 」

「《お前がいつも医者としての考えが前に出てる時は、いつだって無理してる時だって言ってるんだ……俺を、戦わせたくないのも知ってる》」

「だったら! 」


  壁の向こうから、激しい破裂音が聞こえる。木々が激突し、破片がこちら側にも飛んでくる。たった今逃げようとしたベイラーが、パームの操るベイラーの餌食になったのは想像に容易い。破片は集めておけばベイラーを治すときに役に立つ。拾っておけば後々に彼らの助けとなると冷静に考えて、一瞬破片の色を見る。


  その破片は、水色をしていた。海賊のベイラーは全て緑色をしているのは、はっきりと覚えていた。


「ガイン! サイクルスコープ!! 」

「《あいよ》」


  ガインの目元から、円柱型の筒が伸びていく。丸いレンズは琥珀色。ベイラーの道具の1つ。遠くを見渡す際に使用される道具は、普段ガインがベイラー医としての虫眼鏡代わりに使用している。その道具を用いて、壁に穴を開けて静かに激動を眺める。


  そこには、傷だらけになりながらも、ザンアーリィから海賊のベイラーを守ったミーンの姿があった。ザンアーリィの頬に、始めて傷が付いている。それを付けたのはミーンの蹴りであることが、足元に転がる欠片によって理解できる。


  だが、ミーンもまた、反撃を食らっている。コクピットから横方向に大きな一文字の傷が付いているのが、先ほどの大きな音の正体であった。傷はコクピット周りにも及び、ミーンの身体を大きく削っている。


 それでも、ミーンは、ナットは、一歩も退くことなく、ザンアーリィベイラーに食ってかかっていく。ザンアーリィが一瞬で距離を詰めれば、ミーンの脚力をもってして一瞬で距離を詰め、間合いを自らはずしてその脇を通り抜ける。、ミーン以外を標的にしてその刃を振るおうとすれば、隙を見て背後から、全体重の乗った蹴りをかます。有効打にならずとも、ミーンは遊撃手として凄まじい働きを見せている。


  だが、それも時間の問題だった。先ほどのように反撃を受ける事が増え始める。次第に傷が増えはじめ、その脚力を存分に活かせなくなる。それでも、ミーンの諦めない姿に、奮い立つのは、レイダとオルレイト。サイクルショットを果敢に放ち、時にミーンを援護し、時に体当たりで態勢を崩させる。


  レイダのサイクルショット。ミーンの遊撃。その2つに支えられるように、セスのサイクルブレードによる格闘戦が繰り広げられる。すでに片腕を切り飛ばされたはずのセスは、そんな事は些事だと言わんばかりにサイクルブレードを振るう。片腕でも十分に振るえるように長さが調節された、海賊仕様のサイクルブレードだからこその威力だった。鉈が振るわれるよりも早く切り込み、距離を詰めらた時は防御に徹する。


  今日一日で出来上がった連携は、驚異の完成度をもってザンアーリィベイラーに立ち向かっていた。その様子を、サイクルスコープで見つめるネイラ。しかしその目に熱が籠る事はない。


「駄目だ。あと5手かそこらで対応される」

「《おいおい冗談だろう? 》」

「あたい達が見くびっていたんだ……」

「《あのベイラー、そんなにすげぇのか》」

「違う」


  冷静に、自身も信じられずとも、事実を伝える。


「パームだ。あの男、一度見た技だったら、躱せるみたい」

「《なんだそりゃぁ》 」

「レイダのサイクルショット。ミーンの蹴り。海賊のサイクルブレード。……全部、さっきから当たってない。さっきのミーンの反撃も狙ってやってる」

「《……相棒も、そんなことできんのか? 》」

「まさか。1回見たからって、全部わかる訳……わかる訳……」


  その時、脳裏に浮かんだのは、カリンの姉。クリン・バーチェスカ。彼女はその美貌と才能、特に武術に

 おいて、国中で彼女に敵う物はいなかった。そんな彼女の話を、一度カリンから聞いたことがあった。


 それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という自慢話。


  だがもし、目の前のベイラーを操る男が、クリンと同じように、1度みれば全てを理解し、対応できる人間だとしたら。そんなベイラーの乗り手がいたとしたら。


「……あの男も同じだったのね」

「《おいおい、まさか、姫さまのお姉さんとパームが同じだって、本気で言ってるのか? 2人共まったく違うじゃねぇか》」

「性格とか、性根とか、そう言う話じゃない。あの2人はもっと根本の部分……強いて言うなら」


  ガインの作り出した壁が、突如として崩壊する。ベイラーがこちら側に投げ飛ばされた。そのベイラーは、先ほどまで果敢に戦っていたミーン。他にも、セスは蹴飛ばされ、仰向けに仰け反り、レイダはその首を掴まれ、身動きが取れなくなっている。ほんの一瞬ので、状況が一変していた。


「才能って部分が同じなんだ……天才なんだよ」


  その目を赤く輝かせ、ザンアーリィベイラーが猛威を振る。その姿を見たネイラが、ガインのサイクルスコープを仕舞わせる。 壁を壊しながら転がるミーンを受け止め、自身もザンアーリィに相対する。


「ミーン。聞こえる? 」

「《ネ、ネイラ。まだやれる。2人はコウの為にここでまってて》」

「交代だよ。ロープを足でしっかりおさえといてくれ」

「《ネイラ? 》」

「《そう言うことだ。頼んだぜミーン》」


  ミーンに、コウと繋がったロープを預ける。訳も分からないまま、踏みつけるようにして抑え込むと、ガインは手のサイクルを回し、ミーンの足とロープを固定する。接木する際の手際と同じだった。


「《ガイン? まさか》」

「《おう。ちょっくら行ってくるわ》」


  ガインが立ち上がる。その目は、すでにザンアーリィベイラーに向いている。


「《まって! ガインはベイラー医じゃなかったの! 戦いなんて無理だよ! 》」

「《お前だって郵便屋だろう? だから……やるだけやってくる》」

 

  ミーンが、いつもの、ふざけながらも、文句を言いながらも身体の傷を治してくれるガインが、急に別人になってしまったような気がして仕方なかった。今から行うのは、ガインらしくない、もっとも遠く離れた行為をする為に向かっているような、そんな遠巻きの風景に見えた。


「相手は獲物を持ってる。日和ったら(ビビったら)負けだよ」

「《だな。空を飛ばれたらどうする? 》」

「あんたなら飛ぶ前に()()()()

「《いいねぇ。相棒はそうでなくっちゃ》」


  一歩一歩、たしかに足を踏みしめてそこにいる。パームが新たなベイラーに気がつき、首を掴み上げたレイダから、一瞬気をそらした。その瞬間。パームは、自身の操るベイラーの顎先に、小さな、本当に小さな銃口が出来上がっている事を見逃していた。


「あ? 」

「サイクル……スナイプショット!! 」


 レイダの目が赤く輝き、針が一瞬で出来上がり、 顎を打ち上げるように、銃口から発射までのラグをゼロにして打ち出すサイクルショットが放たれる。まったくもって飛び道具らしからぬ使い方をして、レイダがその場から離れる事に成功する。転がるようにして、サイクルショットだけは構えたまま、木片が飛び散る様を、目を凝らして睨む。


「少しは効いてくれたらいいんだけど」

「《ええ。それは……まさか》」


  木片が吹き晴れた時、顎先をわずかに傷つけながらも、未だ健在のザンアーリィベイラーがそこにいる。


「バカ見たいな硬さだ。コウ以上か」

「今のは悪くなかった。だが威力が足らなかったな」


  パームがケラケラ笑いながら、再び鉈を振るう。大上段からの振り下ろし。動作にすればそれまでだが、その威力と速度は、単純だからこそ強力になっている。


  パームが鉈という獲物を使用しているのには2つ理由がある。1つ目は、狩りで自分がよく使い、使い勝手をよく知っている為。武器の性質としては、鉈と斧はそこまでの差はないが、自分の慣れた武器ほど、心強い物は無い。この点は、カリンと意見を同じくしているのは、ある程度、武術しかり、戦いを知っている人間が至る結論だった。そしてもう1つは、相手に簡単に恐怖を与えることができる為。鉈の分厚い刃で潰されれば、どんな事になるのか、目の前に立つ人間に想像させやすかった。そして恐怖とは得てして、自分がどうなるかを想像した結果生まれる感情であること、パームは良く知っていた。


  オルレイトは先程から、この恐怖にずっと晒されている。それでも、心を折ることだけはしなかった。だからこそ、この瞬間まで戦い続ける事ができた。


  だが今度こそ、明確に自分の身体が潰される想像ができてしまい、その想像を振り払うべく、必死に頭を巡らせようとした時、突如として目の前のザンアーリィが殴り飛ばされる。景色が唐突に変わりすぎて、自分がすでにやられてしまったのかと勘違いした。だが、確かに目の前にはよろめいたザンアーリィがおり、また、殴りかかったベイラーは、緑色をして、肩に白い布を巻いている。それは夢でも幻でもなく、ガインがザンアーリィを殴り飛ばした現実だと知る。


「……ガイン、か? 」

「《おう。やっとネイラがやる気だしたからな。手伝うぜ》」

「やる気だしたって、ロープはどうしたんだ?」

「ミーンちゃんに頼んだわ。今は休んでね。あとは……なんとかする」


  ネイラの声色が、いつもと違う事に違和感を感じはじめる。先ほど殴りは、明らかに素人が殴ったのでは無く。カリンが身につけた武術のように、ある程度の型を修練で繰り返し身につけた、熟練の動きだった。


 しかしそれが、なぜ人間の医者であるネイラが、ベイラー医であるガインが、全く結びつかない2人が行ったのか、まるで分からなかった。


「回数は変わってない? 」

「《おう。6回。左右で12回。今ので左手は5回……でもいまの1発でカンはもどったな? 》」

「もどったよ。でも、もどしたくなかった」

「《しょうがねぇさ。そう言うもんだ》」

「……ガイン、準備いい? 」

「《いつでもいけるぜ相棒》」


  指先を、1つの節ごとに、ゆっくりと曲げていく。出来上がったその拳に隙間はなく、繊細な動きをするベイラー医の手にはとても見えない。同時に、両足を肩幅に開き、僅かに腰を落とす。


「「《サイクル・グローブ》」」


  声とともに、両拳を盛大に打ち鳴らす。ガインの拳から細かなカスが飛び散り、砂浜へと落ちていく。そして、両拳を包むように、四角いブロック状の、グローブができあがる。このグローブは、ガインの手首を固定し、ブレをなくしてくれると同時に、ガインの手を守る為の防具。肘にまで伸びた武具で構えを取る。左足を後ろに、右足を前にして半身となり、踵をわずかにあげる。上半身は両脇を締め込んで、右手は前に、左手は腰に据えられた。


帝都(ていと)近衛(このえ)格闘術(かくとうじゅつ)……不思議と体が覚えてるもんね」

「ネ、ネイラ、さん? 」

「オルの坊や。サイクルショットで援護して」

「わ、分かりました。レイダ!! 」

「《仰せのままに》」


  レイダがサイクルショットを向ける。後方でザンアーリィベイラーを狙いをつける。当のパームは、自分が殴られただけは理解して、刃のこぼれサイクルブレードを捨て、新たなブレードを作り出す。


「さてと……行くぜオイ!!」


  ネイラが叫び、ガインの足裏にあった砂が爆ぜる。踵を一瞬浮かせたのは、後ろ足を踏み込む為。これにより、最初の一歩から最大の加速で前に出ることができる。速度の到達点は同じだが、到達するまでの時間を短くするための工夫であった。だが、今は野原を駆けている訳ではなく、たった3歩、前に出るだけでいい。その3歩が、格闘という空間では非常に重要視される。

 

  3歩前にでれば間合いであるのなら、如何にその3歩を素早く終わらせるかが課題となる。100歩でどれだけ前に出れるのかは重要ではない。3歩で限りなく早く前に出る為はどうすればいいか。1歩であるときは、2歩である時は、それ以外の時はどうすればいいか。


  ガインの使ったこの技法は、その最初の一歩に使われる技巧。最初の、たった一歩をより早く、遠く前に出る為の、側から見ればやたらと大きな1歩としか映らない。これが対面するパームであるならば、一瞬で間合いを詰められ、ともすれば、ガインの姿が大きくなったように見える。たった1歩でありながら、劇的な1歩であった。


「こいつ今までどこに隠れてやがった!! 」


  無造作に鉈を横に振るう。素手で殴りかかる相手には、横薙ぎで距離を置かせるか、前に出させるかの2択を迫ることができる。距離をおくのであれば追撃を加え、己の流れとし、前に出てくるなら、今度はこちらの膝蹴りが待っている。パームの経験からくる組立ては完璧だった。


  だが、ガインが行ったのはその2つのどれでもなかった。


  ガインは、ザンアーリィに向かって、みじかく左拳を放った。威力も何もないその拳は、ザンアーリィに届かない。そもそも胴体に届くまでにまだ距離があった。だが、ガインの狙いはそこではない。


  コツンと、小さな音がする。それは木々が楽器のように叩かれた音。


  ガインは、胴体ではなく、鉈を握る腕に狙いをつけて拳を振るっていた。それも、全力で殴ったのではなく、あくまで速さを重視した軽い打撃。その意図は、振るわれた鉈の軌道を変える為。腕を押し上げれた事で、鉈はガインの頭上を振り抜け、そこにあるのは、がら空きで隙だらけになった胴体。


「撃! 」


  ネイラが吠える。足をその場で深く踏み込み、足元の砂が吹き上がる。両足から回転を伝え、腰にすえた左拳を存分に叩き込んだ。


  今度は、確かな手応えと爆音がザンアーリィから上がる。


  ミーンのつけた傷が、今の突きでさらに広がる。倒れることは無くとも、たしかに、ザンアーリィは一歩後ろに下がった。ガインとネイラは、たった1発の拳で、状況を対等にまで巻き返す。


「あと、4発」

「……なんだ。今度はベイラーが素手で喧嘩仕掛けてくるのか。ったく、びっくり箱か、ここは」


  ザンアーリィベイラーが構え直す。ガインへとブレードを向けて、殺意を隠そうともしない。


「白いやつは空を飛ぶわ、黄色いやつは腕が4本だわ、緑のやつはやたら素手の喧嘩が強ぇわ、ったくメンドクセぇ連中ばかりだ……だが、もうその手は食わねぇ」


  笑い声が、途絶える。その瞬間、ザンアーリイが肉薄する。 振り上げたブレードが、ガインへと迫る。横薙ぎではなく、叩きつける振り下ろし。全体重の乗った一撃を受ければひとたまりもない。


  だが、ガインは冷静に、鉈の振り下ろされる、さらに一瞬前。ガインを鉈の間合いの中へと滑り込ませた。構えの中では後ろにあった左足を、一歩だけ踏み込む。ザンアーリィとガインの距離が限りなく近く。


  そして、顎を打つようにして、再びパームのベイラーの腕を止める。


「(近けぇ! だがそれじゃぁ振り抜けねぇ! )」


  パームは相手の立ち位置をあざ笑う。ガインは自身の腕の長さよりもさらに短い距離まで、ザンアーリィに踏み込んでいる。先ほどのように殴りぬけるのであれば、距離が近すぎて威力などだせなかった。

 

  だが、ネイラの狙いは別にある。


両手(もろて)だ!! 」

「《おう!! 》」

 

  肉薄したガインの目が赤く光る。サイクルが高速で周り、唸りを上げた。両拳を握りしめ、腰に据える。


「撃!! 」


  再びの裂帛の気合い。そして放たれるのは、片手での突きではなく、両腕で行われる両手突き(もろてづき)

 

  ガインが踵を踏みしめ、砂浜を掘り返す。踏み込む力が大きすぎて、砂浜の足跡は穴を掘ったように深く大きくなっている。


  そして、たった今ネイラが放った両手突きは、片手での間合いより狭く、短い。肩が範囲になっておらず。文字通り両腕の腕の長さが間合いとなる。


  短く、鋭く、疾く放たれたその突きは、ザンアーリィのコクピットを直撃する。今度は仰け反るだけではおさまらず、大きく態勢を崩し、尻餅をつかせた。

 

「さぁ。型ならいくらでもある。1個見せる度に1個新しいのをみせてやるさ」


  ガインとネイラが、その拳を打ち鳴らす。威嚇の為でも、相手を煽る為でもない。仲間を信じるさせる為の拳が、まだここにある事を証明するために、高らかに音を打ち出した。

技の型をその場で組み換え、アレンジし、昇華することで、その数はいくらでも増やす事ができます。


効くか効かないかは相手次第。

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