だれかの為に
「(動揺してる動揺してる。)」
白いベイラーと黄色いベイラー。2人のベイラーを侍らせる事は、シラヴァーズにとっては、とてつもない充足感のある行為である。彼女らは、恋人を複数持つ事を良しとし、その全てを愛でる事を最上の喜びとしている。
恋人とはベイラーに限らない。自分が綺麗だと思った物。自分が手元に置きたいと思った物であれば、恋人として自分の住処に迎え入れ、誇るように恋人を並べる。
重要なのは、人間にとっての恋人とは意味合いがまるで違う事。人間にとって、恋に落ち、2人を結ぶきっかけとなり、双方向の同意があっての恋人だとするなら、シラヴァーズの恋人とは、一方的で、かつ独善的な契約に近い。彼女らは、相手の思想や思考、存在全て自分の所有物とすることを恋人と呼んでいる。それが叶うのも、人もベイラーも、シラヴァーズ達の美しさに心奪われて、自ら海の中へと向かっていったから。彼女らも、自身がそのようにみられている事を分かっている。
だからこうして、地上で根付くベイラーおも海に招き、物言わぬ存在となっても、彼女たちはその行為を辞める事はない。彼女たちは手に入れた物を手放す事はない。もし手放す事があったら、それは恋人がその形を留めることができず、海の中で藻屑と消えた時。
「(ベイラーをこんな風に扱う私たちを、貴方は許さないのねぇ)」
すでに憐れみを超え面白さすら感じてくるメイロォ。白いベイラーの中にいる人間、カリンの心はずっと読めていた。それでも言及せず、コウの中にいさせたのは、その思考が、自分たちに憎悪に変わっていく過程を踏んでいく様を見ていたかったから。
「(剣は持っているかしら。この体を貫くのか、切り裂くのか。どれでもいいわぁ)」
蓄えた続けた憎悪が、どのような形で自分に向けられるのかを想像する。以前、カリンはその腰に剣を下げていた。剣を扱えるのは用意に考えられる。剣の達人であるかどうかは彼女にとっては問題ではない。ただ、きちんとこの体に向けて刃を振り下ろすことが出来るかどうかが、彼女には重要だった。
「(ベイラーの乗り手は繊細だもの。私を傷つければ、その命がつきるまで私の事を忘れないわぁ)」
黄色いベイラーが自分の後をついてきているかを確認しながら、その前を泳ぐ。時折すれ違う仲間のシラヴァーズと挨拶を交わしながら、頭の片隅では、どうやってカリンに傷つけられてしまうのかを考えている。
「(剣を抜くか抜かないかでかんがえてしまうような子だもの。きっと命を奪う事をいけない事だと思っているのね。でも、きっかけさえ与えてしまえば、あとは簡単)」
ベイラー達に意識を向ける。黄色いベイラーにも乗り手がいる事は分かっていた。ただ、今は眠っているのか、支離滅裂な思考しかしていない。一方の白いベイラーも、同じように思考がされていない。同じように眠ってしまったのだ。
「(人は暗いと眠くなってしまうもの。陽の光を浴びせれば……ああ、あそこに行こう)」
思わず笑みが溢れる。話していたシラヴァーズに怪訝そうな顔をされ、口元を隠した。
「(あそこに行くのは久しぶり……もう行くことは無いと思っていたのに)」
忌々しさと、懐かしさと、嬉しさがかき混ざり、そこに、自分へ向けられるであろう憎悪が加わって、 思わず隠した口が大きく広がる。混ざり合った感情が渦巻いて止まらない。
「(ああ。早く行きたいわあ。そうすれば、そうすれば、もう、もう忘れられる事はない)」
その混ざり合った感情の中で、一番の大きさを秘めていたのは、嬉しいという感情だった。
シラヴァーズが恋人を手放す事はない。あるとすれば、朽ち果てた時か、恋人が逃げ出した時。
「(もう、忘れさせない)」
メイロォはかつて、恋人を逃していた。当時のシラヴァーズはその噂で持ちきりだった。メイロォ美しさが、相手には美しく見えなかったのか。奪われたのか。そもそもこの水底でどうやって逃げ出したのか。しかしそのどれも、メイロォは違うと言う。心を固く閉ざして、誰も真意を告げなかった。
「(もう二度と、あんな思いはしたくないもの。だから)」
その噂も、いつの間になりを潜め、シラヴァーズは新しい恋人を作ったメイロォを祝福する。この後、彼女がどんなことを望んでいるのかも知らずに。
「黄色いベイラー? すこし上がるわ。お手を頂戴な」
「《ーー! 》」
「ちょっと手伝うだけ。自分でもちゃんと泳いでね? 」
黄色いベイラー、リクが2本の腕で白いベイラー、コウを、2本の腕でメイロォの手をとる。手の大きさが違うために、リクの指を掴むようにして、尾ビレをはためかせて、水の底から浮上する。
「(この後、なんて言おうかしら。ヤダと一言言えば? やっぱりやめたと思わせぶりな事を言う? それとも、乗り手だけを海に沈めようとすればいい?……ああ、それだとあの白いベイラーが起きるかも)」
「(ゲレーンのお話だけ聞いて、そのあと、その後は……ああ、楽しみ。どんな顔をするかしら。どんな事を思うのかしら。楽しくて胸が張り裂けそう。私を想って海に身を投げてはくれないかしら)」
メイロォは、ベイラーだけでなく、カリンすら恋人にしようとしていた。海に身を投げるというのは、シラヴァーズにとって最上級の、人間に恋された証であった。
期待に胸を膨らませて、メイロォが海の底から浮き上がる。それはかつて、彼女が恋人との逢瀬に使っていた、小さな洞窟だった。
◆
小さい、とカリンは思った。
湖の底から浮き上がると、そこは洞窟の中。その一部にある地底湖。風がメイロォの体についた水滴を横へと動かした。すぐそばに出口があるのは明らかだった。風だけでなく、光がどこからか入っているのか、暗闇というより、薄暗がりのような場所。岩は湿り、黒と緑の岩が入り混じっている。
「ここは私のお気に入りの場所。湖と、あの並べ得る場所と、海と、ここは全て繋がっている。すこしの休憩と、1人になって想いを馳せるはうってつけ」
誰に聞かせるでもなく、メイロォは呟く。思い出すように。懐かしむように。
「大昔、まだ私たちすらいないような、本当に大昔。まだこの国がサーラと名乗っていなかった頃。ここで龍が暴れまわったそうよ。だからこうして。横穴の洞窟ががたくさんあるような国になった。人はその横穴を広げるようにして国を大きくした……らしいわ。ずっとずっと年上のお姉様が言っていた事よ」
ここで、海賊のアジトと海と、さらに地底湖がつながっている事を告げられる。だからアジトと海を行き来でき、シラヴァーズが帰るところを誰も見れない。陸路でいくには、肉食のリクスキルたちをかいくぐり、まず海賊のアジトに辿り着かねばならない。シラヴァーズ達に会うには、人ではたどり着けないような深い海の底に行かねばならない。どちらも、生半可な行動では達成できない道筋だった。
「もう出てきていいのではなくって? 白いベイラーの乗り手」
「……気付いていたのね」
「あらあら。私はシラヴァーズ。私の前では言葉を飾りる事も、飲み込む事もできないわ」
朗らかに笑うメイロォ。その表情とは裏腹に、瞳がコウのコクピットから動いていない。視線もまた、コクピットの中、それも乗り手の目を見てる。これ以上の抵抗は無駄だと理解し、カリンがコクピットの中から出てくる。たが、今までコウを運んでいたリクがコクピットを遮る。メイロォからカリンをまもるべく立ち塞がる。
「リク。あがとう。下ろして」
「《ーー! ーー!! 》」
カリンを見て、大きく首を振るリク。言葉がなくても、それがカリンへの返答だとよく分かる仕草だった。しかしカリンもまた、その仕草で答える。
「ふふ。ごめんなさい。言葉はわからないけれど、あなたが私を守ろうとしてくれているのは分かるわ。でも、私が行かなくてはならなの。コウの為でもあるけれど、これはきっと、これから私が必要になる事なののよ。だから、いいわよ。リク」
「《ーー……》」
リクがじっと体を動かさず、カリンと、メイロォを交互に見る。相手はあのシラヴァーズなんだぞと言わんばかりに、首が何度も行き来する。
カリンもまた、頷きをもって返す。リクの首が三度翻り、また戻ろうとした時。首をうなだれ、ゆっくりと後ずさった。
「ありがとう。リク」
「何を言っているのか分からないって不便ねぇ」
やりとりに飽きたのか、メイロォはすでに岩場に腰掛けて一部始終を視界の端で見ているだけで、自分の指を眺めていた。海藻でも付いていたのか、指を払って振りほどく。
「終わった? 」
「ええ。お待たせしました」
「いいのよ。さて、驚いたのではなくって? ベイラーがああなっていたのを」
「それは……はい、驚きました」
間が空いた。それは、一瞬だけ「驚かなかった。貴方達の事を理解するのにちょうどよかった」と、虚勢を張ってでもメイロォに優位性を取られるのを防ごうと考えた。しかし、シラヴァーズの前に虚勢など意味を持たない。そして思い直して、正直な感想を伝える。今度はメイロォが大笑いした。
「今度は隠さずに言うのね! そうそう! それでいいの! 」
「あなたたちは、シラヴァーズ同士でも、心を読みあっているんですか? 」
「人は心を守る壁を、行い以外で作れないものね」
「……? 貴方は、作れるというの? 」
「もちろん。筒抜けにしているお姉様もいるけれどね」
岩場から落ちないように、しかし、じっとメイロォを見つめるカリン。一方的にこちらのする事なす事を見透かされる為に、こちらが何をすべきなのかすら考えないようにしてしまう。全ては、心をよまれないため。その為に、どんどん体を硬くしていく。
「あらあら。何も考えないようになんて出来ないわ。そんな事をしても、何も考えないように考えいくだけよ……そんなに私が怖い? 」
「……怖くなんかないわ」
「へぇ」
カリンの本心であった。一瞬の迷いもなく、選ぶでもなく放たれた言葉を受け、カリンへの認識を改め始める。彼女はたしかに、シラヴァーズの、そしてメイロォのことを知ろうとしている。
だが、メイロォがしてほしいのは、自分を知ってほしい事ではない。人を、ベイラーを、その手中に収めたいのだ。その為ならば、この体がどうなろうと構わないと言うほどに。
「なら、もっといいことを教えてあげる。あのベイラー達のことよ」
「な、なんでしょうか」
メイロォの顔が変わる。笑ってはいる。ただ、その笑みが、楽しいから笑うのではなく、もうすぐ自分の思い描いた、自分が積み上げてきたものが成就する瞬間を心待ちにするような、他人を貶める時にみせるような、邪悪さしかないような笑み。
「あのベイラーはすべて生きているのよ」
「ーーーどう言うこと? 」
疑問と、焦燥。その二つが、怒りの感情に蓋をした。メイロォの目論見は、想像通りにうまく言っている。
「(そう。貴方は、自分の納得をすべてに優先する。だから、どれだけ相手が悪かろうと、どれだけ相手が愚かであろうと、その理由を聞かずにはいられない。その上で判断する。……ずいぶんぬくぬくと育ったお姫様。それが他の、納得いかない人にとってどれだけ残酷な判断になるのか考えもしない)」
メイロォは、カリンの内面を把握しきっていた。だからこそ、最後の最後まで説明を重ねる。もう笑みが隠せない。もうすぐ、カリンによる断罪が自身に降り注ぐことを疑っていない。
「あのベイラー達は、土に根を生やすことなく、陽の光を浴びることなく、一生あの海の底で私たちに愛でられるのよ。その長い命が尽きるまでずっと! ずうっと!!! 」
「貴方は!!」
カリンが、腰の剣を抜いた。タイミングまで、メイロォの想像どおりだった。そのあとに続く言葉まで、重ねてみせる。
「ベイラーをなんだと思っているの」
「ベイラーをなんだと思っているの!!……え」
怒号の一語一句すべてが重なってしまい、ついに笑いを止められなくなった。メイロォはもう楽しくてたまらない。ここまで考えが透ける人がいたとは知らなかった。
「大切な大切な恋人よぉ。それに忘れないで。向こうから会いにきたのだから! 」
「じゃぁ、貴方たちは、あの姿に、なんとも思っていないの? もう言葉さえだせなくなったベイラーだっているのでしょう? それを、どうして? 」
「(ここね)」
思考を読むまでもなかった。ここから先はあと一言言えばいい。そうすれば、カリンは激昂し、剣を振り抜くだろう。そのあとは、塞ぎ込むなり、命を粗末にするなりすればいい。剣の刺し傷、切り傷が残るのは好ましくないが、それもまたこちらを傷つけたという事実が、カリンを苦しめる。あとは簡単だ。白いベイラーを、そして黄色いベイラーを海に並べて、それで終わる。
メイロォが仕上げに入る。出来るだけ表情を大げさに。身振り手振りをいれ、大仰に。そして大胆に宣言する。自身がカリンの、彼女の敵であると分からせる為。そして、添える言葉はただ1つ。
「なぁんとも思ってないわ」
獣のような声が響く。足が濡れるのも構わず駆け出して、鞘からは怒りと共に刃が解き放たれ、カリンの肩に収まる。距離にしてあと3歩。カリンにとっては一瞬で詰めることのできる距離だった。彼女の最も得意とする構えが、体に染み込んだままに行われる。その後からもまた、何百何千と繰り返してきたうちの1つと同じ動きを行う。
「ああ!『 そうする』のね! いいわよ! そう言うの!! 」
両腕を広げて待ち構える。待ち望んでいた瞬間がもうすぐ訪れる。その刃が体に触れた瞬間。メイロォの目論見は達成される。納得を優先する人間が、自分の感情のまま動くことは、その結果がどうであっても、必ず後悔する。そして、頼んでもいない贖いを自らに課す。何故ならば。
「(それは納得していないから。自分の行いが納得できず、理解もできず、ただ悩み、悔やみ、やがて狂う。でも狂った人は恋人にしたくない。だから、こっちから贖いを頼む。『私の恋人になって』……これでいい。なにもかも思い通り……私が死んでしまったらそれはそれで。きっと永遠にあの娘は私を忘れない……なんて楽しいのかしら)」
もうカリンを見るまでもなかった。すでに彼女の心は怒りに猛り、刃を担いでこちらに向かっている。あとは待つだけ。それだけだった。カリンは要の右足を踏み込んだ。洞窟内に、その足音が響く。
「…………」
……地底湖に一滴の雫が落ち、波紋が広がる。風は止み、濡れていた肌はすでに乾き始めた。
「何故」
大きく踏み込まれた足。深く深く残る踏み込みは、柔くなった洞窟の地面ではくっきりと残る。ただその刃は、間合いの中にあってなお、カリンの肩から解き放たれる事はなかった。
「許せないのではないの? 許したくないのではないの? 貴方にとってベイラーは大切ではないの」
心を覗いても、怒りは収まっていない。だというのに、その刃がこの身を切り裂く事なく、その口からは糾弾する言葉が吐かれるでもなく、ただ、時だけが置き去りになったように動かない。
「私が許せないならその刃を振り下ろせばいい。振り下ろさなくても罵倒すればい。そんなことさえ出来ないほど、貴方は弱く醜いの? 大切な物を傷つけられて何もしないほど脆弱なの? 」
「……今すぐにでも、この剣を振り下ろせればどれだけいいか」
カリンが必死に口を動かし始める。握る掌はすでに強く握りしめすぎてうっ血し、担いだことで傾いた体で、顔はメイロォからはみえていない。
「貴方を断罪できればどれだけいいか。この怒りのまま、なにも考えずに叩き斬れればどれだけ爽快か。私が正しい事をしたと胸を張って言えるか」
「ならなぜそうしないの」
「できるわけがない!! 」
吠えるまま、剣を投げ捨てた。剣は岩へと突き刺さる。
「それをすれば、私はシラヴァーズに嫌われる。それは、巡り巡って、コウを連れ戻すことができなくなる。それじゃぁ私がここにきた意味がない」
「……なら、貴方は、納得しないまま、この場を去ることができるの」
心を読む。そしてその答えを見て、さらに困惑が深まる。
「それもできない」
「な、なぜ? 」
「わたしには、託された願いがある。そのためにここに来た。わたし1人の納得するしないでその願いをふみにじることなんてできない」
「なら貴方はなにがしたいのよ!さっきからできないできなって! 」
心を読めるはずのメイロォが感情のままに叫ぶ。カリンの心と、言っていることは同じ。しかし行動が伴っていない。自分の心を否定しつくしている。今の今まで自分の思い通りであったのに、もうすぐ願いが成就する瞬間だったと言うのに、何故かその願いは叶わぬまま、子供のように駄々をこねるカリンにしびれをきらした。
「そうやってなにもかも投げ出して、なにもしないまま居なくなればいいわ! 貴方には何もできないままおわってしまえばいいい! 」
「いいえ。ただ一つだけ。出来ることがある。しなくてはいけないことがあるのよ」
飛び込んできた心を、メイロォが受け止めきれずに後ずさる。たった今読んだ心は、あまりに身勝手でありながら、自分を度外視した、シラヴァーズにとっては考えられないものであったから。
「そ、そんなことを頼むというの? ここまで貴方を嘲笑った私に向かって? 」
「ええ」
「なにがそこまで貴方を突き動かすの? 」
「わたしの、大切な仲間の為 」
「あのベイラーだって、貴方が死ねば別の乗り手に変えるだけよ。それでも」
「少し、寂しいけれど、しょうがないわ。ベイラーは長生きだから」
「そもそも戻ってくる保証なんてないのに」
「それでも」
踏み込んだ足を揃え、カリンがメイロォに歩み寄る。後ずさるも壁が阻んで、これ以上距離を開けることができない。そして、刃の間合いの、さらに内側へと、カリンが入った。その手は握られることなく、両目をしっかりとメイロォへと向けている。
「お願い。シラヴァーズのメイロォ。コウを、心の故郷から連れ戻して」
頭を、下げた。
今の今まで。自分のことが憎くてしょうがなかったはずの相手が、自分を頼みに頭を下げる。自分の感情など二の次にして、ただ、だれかの為に。
だれかの為に。それはメイロォ達が行う事は一度たりともない。なぜならそれは、シラヴァーズとは最も遠い位置にあるから。自身の快楽と欲求に従い、恋人を選び愛でる彼女らには、決して行われることのない身を削る行為。しかし、彼女は、メイロォはそれを知っている。
その行為の名を、献身と言った。
「……貴方で2人目よ。『誰かの為に』って頼み事をしてきたの」
「そ、それは一体」
「いいこと。帰ってくる保証なんてないんだからね? 連れて帰ってこれるかは貴方次第」
「そ、それじゃぁ」
「いいわよ、協力してあげる。ただし、お話をきちんときかせてね。お茶をしながらゆっくりと」
「ええ、もちろん!! 」
「さて。そろそろ黄色いベイラーの中にいる子を起こさないと。寝るにはすこしだけ早すぎるわ」
リクを手招きするメイロォ。リクが困惑しながらも、カリンも同じように手招くすることで、すぐさま近寄る。中ににる双子を起こすべくコクピットを叩くメイロォ。その胸の内は、決断へのわずかな迷いと、それをかき消すかのようなかつての思い。
「(……手伝ってしまった。これでよかったのかしら)」
双子が起きたのか、中から顔が出てきて、メイロォの姿を見てすぐさま引っ込んでしまう。見かねたカリンがリクに駆け寄っていく。
メイロォはカリンの背を見て、ある男のことを思い出していた。背丈も、性別も違うと言うのに、その有様があまりにも似ていた。そして、その、もう何年も呼んでいない名を呼ぶ。
「レイミール……なんで帰ってこなかったの」
ただ、洞窟の中で1人。だれにも聞かせないように男の名を呼んだ。
かつて、メイロォと恋人となった男の名前だった。
サーラの物語も折り返しになりました。純白のベイラーを書いて1年ほどになります。
ロボットといいつつ畑を耕し波乗りをしとわりと自由なやつらですが、これからも、ベイラーである彼ら彼女らを沢山書きたく思います。
それでは、次週もお楽しみ。




