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ベイラー、水底へ

  龍石旅団がコウを信じた翌日。騒ぎに騒いだ宴会がなりを潜め、着々とコウをシラヴァーズに送る為の準備がすすめられてた。


「カリン様。飲み物と、食べ物、2日分です。これ以上は中で腐ってしまいます」

「ありがとう。よく集めてくれたわ」


  ナットが輸送船から食料を運んでくる。サーラで郵便の仕事を手伝っていたお陰で、彼には特殊な人脈が出来ていた。今回、サーラから来た船の乗組員に、ナットが知り合った軍人がいた為、食料を特別に分けて貰えていた。


「こちら、濡れてもいいように、替えのお洋服です。ベイラーのコクピットの中でも着やすい物を選ばせて頂きました」

「まぁ、そんな物があったなら城で教えてくれれば良かったのに! 」

「あまりに品格のない物です。これが出来たのはサーラに来てからですから」

「ええ。ありがとうマイヤ」


  マイヤからは、毛布に包まれた服の一式を手渡される。毛布は防寒も視野に入れている事を示唆している。入れ替わるようにオルレイトがやって来る。


「シラヴァーズについて書いてある文献をまとめました」

「昨日の今日で!? ありがとうオル。しっかり読んでおくわ……あら、絵まで描いてあるの? 」

「僕が著者の始めての図鑑だ……といっても、絵は上手く描けなかった。真似しているだけだ」

「そんな事ない! とても読みやすいわ! 」


  オルレイトが自身の書物から抜粋した手帳を渡す。一晩で出来うる限りの資料をまとめ、カリンに読みやすいように専門用語も排除した、一種の図鑑のようになっている。


「姫さま。これを」

「えっと、小さいけれど、これはランプ? 」


  ネイラが手渡したのは、吊り下げ式の小さなランプ。普通と違うのは、半分が鏡面になっており、全体を照らす構造ではなくなっている。


「昔、船乗りが言ってました。海は沈めば沈むほど光がなくなっていくと。この部屋全体照らせない代わりに、そのランプを向ければ、向けた方向はしっかりと見るようになっています」

「貴方、船乗りのお知り合いがいたのね。。ありがとう。使わせてもらうわ……それにしても」


  カリンが目を見開く。そこにいるのは、座りこんで動かないコウ。ここまでは昨日と同じ景色だが、その姿がどんどん様変わりしていく。それは海賊たちが手際よくコウに道具を取り付け、白い肌すら見えなくなっていく為。


「な、なにもここまでしなくても」

「こうしなきゃベイラーは沈んでいかないの」


  サマナを含め、海賊たちがこぞってコウの体に岩と、カリンの知らない道具を縛り付けていく。ベイラーは言うまでもなく木製だ。水には浮くし流される。そしてシラヴァーズの住処は海の底にある。まずは、コウの体を沈むようにしなければならない。そこで活躍するのが、海中に沈んだ石と、知らない道具。だがその外見には見覚えがあった。


「これは、甲羅? 」

「バエメーラ、『海の家』の死骸からとった甲羅だ。重いのもそうだが、硬いし柔らかい。別の国では鎧にもしてるって聞いてる」

「あの、おっきな亀? しかも柔らかい? 」

「これがその欠けら」


  ポンと渡された甲羅の欠けら。手のひらサイズだった為に片手で受け取ると、ズシリと重さが来て、思わず取り落とそうになる。両手でとっさに支える事で落とすことはなかった。試しに叩いて見ると、確かに硬い感触が手に響く。カンカンと高度が高い音がする。


「硬い。それに重いのね。あの子達はこんなものを背負って海を泳いでいるの? 」

「あいつら、体のあちこちに体に空気を入れることができるんだそうだ。船の浮きと同じ」

「……えっと、よくわからないけれど、こんな甲羅を持っていても泳げる凄い子なのは分かったわ」

「それだけじゃない。試しに曲げてみると分かる」

「曲げる? これを? どうやって」

「どうやっても何も、くいっとやってみなよ」

「? 」


  言われるままに手で甲羅を割るように曲げて見ると、先ほどまでの硬さを持っていたはずの甲羅が、いとも簡単にグニャリと曲がる。その感触は動物の軟骨にも似ており、驚いて手を離すと、一瞬で元の形に戻っていく。弾性の高い証だった。


「これがこの甲羅の凄いとこだ。船の壁に使っとけば岩場に当たって傷つけることもないし、この甲羅が壊れるくらいだったら、それはもう船がダメになった時。まぁこんなだから、加工とかは難しんだが」

「では、これはどうやって欠けらに? 」

「あの海の家を食っちまうやつがいるのさ。貴族さんも見たことある。 白い腹をした馬鹿でかい奴」

「白い、色をした、大きい……ああ! 」


  カリンが思い浮かべる情景は、このサーラの地に来た時の事。はるか遠くの景色だというのにはっきりと見ることの出来た、あの生き物。海より躍り出て跳ね上がる巨大な姿。セスと戦っている時にも見たことのあるその生き物は、単体で津波を起こすほどの、海を操ると言っても過言ではない力と大きさを持っていた。


「あれはなんと言うの? 」

「リュウイ。龍の胃袋を持ってるそうだ。なんでも食えるんだと」

「ベイラーも? 」

「そいつはわからない。でも、口の大きさからして飲み込めると思う」

「……あの亀より大きいのよね? 」

「2、3倍ある」

「ゲレーンにも大きな生き物はたくさん居たけれど、サーラもそうなのねぇ」


  ここにコウが居れば、デタラメな大きさに突っ込みを入れるところではあるが、ここに居るのは、幼い頃からベイラーと慣れ親しんだ一国の姫と、常に海の上で波に乗る為にリュウイを待つ海賊の娘。大きい物への抵抗感などありはしなかった。


「かしらあ! どうですかぁ! 」

「今見る」


  出来上がったコウを、正面から眺める。甲羅と岩が各所に括り付けられたコウは、さながら鎧を着たような姿に変わっている。純白の肌は藻の生えた甲羅に隠れ、頑丈な足には、ゴツゴツした岩が縄でこれでもかと縛り付けられている。これならば、確かに海に浮かぶことなく、コウはシラヴァーズの住処にいくことができる。ただ1つ、問題があった。


「重しをつけたから、起きても泳げないかもしれない」

「な、ならどうするの? 」

「帰りなら引っ張り上げればいいが、こいつを湖に連れて行くには、誰かが一緒に着いて行ってやらないと。こうなったコウはセスじゃ持ち上がらない」

「力持ちのベイラーが居るのね。でもリクは……」

「「ひめさまー! 」」


  掛け声と共にボフンと腰に突進してくる双子。振り向きながらも受け止めて、クオとリオと目線を同じにすべく膝をつく。


「こら。あまり人にぶつかるものではありませんよ」

「ご、ごめんなさい……って、そうじゃないの! えっと。そうなんだけど」

「リクがね、ずっとそわそわしてるの! 運ぶんだって言って効かないの!! 」

「運ぶ? 」


  双子の慌てふためきように目を奪われながらも、足音が側までやってくる。四つ足の足音と共に、4つの目がカリン達を見下げている。


「コウを湖まで一緒に運ぶんだって!! でもそんなことしたらまたシラヴァーズに会っちゃう!! 」

「リク、シラヴァーズに会うとまた変なこと言われちゃう!! もう前のリクと違うのにまたいじめられちゃうよ! 姫さま、止めて上げて! 」

「……リク。どうしても、行くの? 」


  見上げる先に見える顔の表情は読めず、ただ、動かない瞳がじっとカリンを見つめる。やがて、4つの目に虹色の線が走りはじめる。ベイラーの感情が高ぶった時に起こるそれが、今起きるということは、リクはいま、高揚している。言葉も発さずに、ただじっと判断を下されるのを待つ姿は、後ろ向きな考えなど1つもなく、ただコウを無事に送り届ける事を誓うようだった。


「リク、あぶないよ? 」

「でも、いくの? 」


  双子が最後に問いかければ、すぐさま首肯で返した。


「それは、コウのため? 」

「『ーーー 』」


  掌でコクピットを撫でる。その場所は、以前コウと戦った時に着いた傷が、僅かながら残っている。ほんの少しの罪悪感がカリンを覆う。その傷をつけたのは、紛れもなく自分とコウであった。それがまだ癒えきってえいないことに、その傷をつけた理由の大部分に、リクは関係がなかった事に、後悔も迫り来る。だが、そのカリンの心をほぐすように、双子が微笑む。


「リク、もう痛くないって」

「いたく、ない? 」

「でも、コウが居なくなっちゃうのは、もっと痛いからって」

「せっかく、人を、動物を虐めなくてよくなったのに、コウにまだ教えてほしいこといっぱいあるんだって。だから、前は殴ったりしちゃったから、今度は助けるんだって」

「それにね、それにね、コウの為だけじゃないって! 」


  カリンは、リクが何を行っているのかは分からない。双子にはその言葉はわかるようで、屈んでじっとリクの言葉を待つ。リクの言葉を、どこまでも真っ直ぐに、嘘偽りなくカリンへと伝える。

 

「シラヴァーズは怖いけど、怖がって、動けなるなる方がもっと怖いって」

「だから、リクは、リクの為にも、コウを助けたいんだって! 」

「《ーーー! 》」


  リク、リオ、クオが真っ直ぐカリンを見つめる。この固い決意に、カリンは、どう覆そうか考えるよりも、このベイラーと乗り手を信じる事に決めた。


「貴方達はコウを信じてくれました。なら、私が貴方たちを信じなくてどうするのです。でも、絶対に無茶をしないでくださいね。シラヴァーズの住処には、一体なにがあるのかわからないのですから」

「「はーい! 」」

「《ー!! 》」

「ええ、よしなに」


  両腕を掲げて返事をする双子とリク。慌ただしくもコウの準備が、整った。


 ◆


  砂浜に集まるレイミール海賊団と、龍石旅団。オルレイトとサマナが中心となり、2人を囲むようにしている。サマナが小枝で砂に絵を描き、オルレイトが説明する。


「まず、船で湖まで運ぶ。そのあと、リクがコウを掲げて湖まで運ぶ。潜ったあとは、シラヴァーズに運ばれるのを待つ。一番難しいのは、そもそもシラヴァーズに会えるかどうかだが、その後も問題だ」


  サマナが図をスラスラと書いて行くのに合わせ、オルレイトが皆に通るようになれない声量で話して行く。


「コウは海に潜る為に重しをつけている。もしコウが起きても、そのまま泳げる保証はない。行きはリオ、クオでコウを送り届けるが、最後、帰るための迎えが必要だ。そこで、ガイン」

「《俺がサイクルロープを指先から作って、コウに縛り付ける。コウが起きるか、姫さまの合図で、俺たちが全力で引っ張り上げる》」

「送る時の船はコウとリク。それにミーンが船を泳がしてやってくれ。並のベイラーじゃコウとリク、2人ののった船を動かせない」

「《まかせて》」

「そして、姫さま。」


  さっきまで皆に伝える為に張り上げて居た声を、1人に向けて絞る。


「我々は3日待ちます。それ以上は、たとえ姫さまの合図がなかろうと、ガインに縄を引かせます。よろしいですか? 」

「ええ。よくってよ」

「必ず、コウと一緒にもどってきてください」

「ええ……なにオル。もしかして歯痒いの? 」

「当然です! シラヴァーズの伝承はどれもこれもおかしなものばかり! 宝を溜め込むだとか、人を集めて飾っているとか、奴らの寿命はベイラーと同じかそれ以上だとか……姫さまをそんなとこに行かせたくはありません。しかし、しかしです」


  視線の先には、バエメーラの甲羅を身につけたコウが座り込んでいる。白い肌のほとんどは見えなくなっている。砂浜に僅かに沈んでいることで、相当以上の重さを持っている事をわからせた。


「コウは、姫さまにとって必要なベイラーだ。そして、きっとコウにとっても、姫さまは必要なんだ」

「……ありがとう。オルレイト」

「話はおわったかい」


  海賊のタームが一団の中に入ってくる。いつものようにその目に包帯を巻き、杖を付きながらも、足取りは悪くない。


「クラシルスから出した塗り薬は塗っておいた。もう入れるはずだよ」

「ありがとうございます」

「シラヴァーズは、あいつらは、決して悪い奴じゃない。ただ、あたしら人間と考え方だとか、流儀が違うだけだ。だから、あまりいじめないでやっておくれな」

「は、はい」

「あいつも、見守ってくれるとさ」

「あいつ? ……ああ」


  カリンが腑に落ちる。アジトの塔から、一本ベイラーの腕が伸びている。その腕の持ち主は、つい先日、コウを助けてくれた、タームのベイラーだ。もう足腰が動かないのか、ここに来ることが叶わず、それでも、こうして送り出す挨拶をしてくれる。


「帰ってこないと心配するやつらなんだ。さくっといってさくっと起こしてきな」

「はい。ターム船長」

「今の船長はサマナだよ。ったくどいつもこいつも」

「では……」


  うなだれるコウに歩み寄り、コクピットに触れる。昨日までなら、ここで固くとざされたコクピットに入ることは出来なかった。しかし、クラシルス出来た薬はたしかに効果があったのか、いつもよりは鈍い反応を受けながらも、たしかに体が中に入って行く。


「行けるわ……ふたりとも。リク。お願いできる? 」

「「はーい! 」」

「《ーー! 》」


  膝立ちで待つリクに乗り込む双子。両腕で1人ずつ乗り込んでいき、やがてリクに力が漲るように立ち上がる。4本の腕を回し、調子を確かめながら、コウを掴む。背中から伸びるサイクルロープはたしかにガインの指と繋がっている。


「途中まで、よろしくね」

「はい! 」

「はーい!! 」


  威勢の良い声が2人から聞こえる。掛け声を聞き届けてから、コクピットの中に収まる。それを見た双子が、コウをゆっくりと持ち上げて、砂浜を歩き出す。湖の淵に、ミーンと、もう1人。赤いベイラーがいる。


「《簡単な船は用意した……人は物好きが多い》」

「でも、力を貸してくれるのね」

「《コウにはあの青いベイラーでの借りがある。借りは返せる時に返しておくものだ》」


  海賊のセスが用意した船に乗り込むリク。大きな体が耐え切れるほどに丈夫な船だった。揺れが治れば、今度はミーンが船の淵を持って進めて行く。


「貴族さん……カリン」

「なぁにサマナ 」


  セスの中にいたサマナが言葉をかける。それは、この国の言葉。


「さらば」

「ええ、また共に」


  今度は、それぞれの国の言葉を交わし、砂浜から離れて行く。カリンはこの時、それは、漁に送り出す事の多いサーラの人々が、今生の別れとならない為に、または、今生の別れとなっても、悔い無いように笑顔で送り出しているのだと、自身で体感することで理解した。


  湖の中腹までくると、ミーンとナットが離れて行く。


「僕らはここまでだ」

「《リク。しっかりね》」

「《ーーッツ! 》」


 担いだリクが、船を蹴って、湖の中に飛び込む。水柱が大きく上がり、ミーンの顔に雨のようにかかって行く。ナットが、黄色い体と、白い体が湖から見えなくなるまで、ミーンをその場で泳がせる。


「コウ。ここまでやって、帰ってこないなんて承知しないんだからな」

「《まだ、コウの手紙もはこんでません》」

「ああそうだ。だから、帰ってこいよ」

 

  リクがあげた水柱が収まり、湖に静けさが戻って行く。 砂浜でコウとリクを待つオルレイトが、ガインの指先から伸びるロープを眺めながらぼやく。


「……いっちゃったかぁ。だよなぁ」

「《どうしたんです。分かりきった事を》」

「いや、自分でも驚くくらい、悔しいんだ。まず引き止められないし、言って止まるような人ではないと分かってるし、知っているはずなのに。彼女の中で、僕が止まる理由になりえなかった。その事実が、ちょっとクるものがあるんだ」

「《……コウ君のことが随分憎たらしいのではありませんか》」

「そうとも」


  事もないようにすっぱりと言い切った。。


「付き合いが長いだけじゃ、心は動かしきれない。それをまざまざと見せつけられて、憎たらしくないわけがない。でもそれはカリンには関係がないんだ。ただ、カリンにはコウが必要だった。それだけなんだ」

「《……訂正させていいただきますと、オルレイト様も、カリン様にとって必要な人ですよ? 》」

「まぁ、そうあってくれれば、うれしいけどね。あー。頭がいたい」

「《薬はありませんから、しばらくそうしているといいです》」

「助かるよ」


  持病が出たようにみせて、顔を隠すオルレイト。操縦桿を握っている為に共有しているレイダには、頭痛など起きていない事は筒抜けになっている。しかし、レイダが言い直す事はない。自分のコクピットで好きなだけうなだれさせた。


  しばらく待っても、湖には平和そのもので、シラヴァーズが出て来ることもない。そのまま日も陰り始めてしまう。事がそう簡単に運ぶ事はないかと、アジトに帰ろうとした頃。オルレイトが顔をあげた。


「……ん」

「《どうしたのです? 薬はコクピットの脇にあると》」

「違う。音だ。……大きい」

「《音? 》 」


  オルレイトが耳をすませる。何処から聞いた事のある音でありながら、馴染みがない爆音。なぜならそれは、この前までは、コウしか出した事がない音だった。


「どうゆう事だ? コウのサイクルジェットの音が聞こえる? もし聞こえるなら湖からのはずだ。それがなんで上から? 」


  オルレイトが疑問に思いながら、それでも警戒を緩めない。爆音が徐々にこのアジトへと迫っている。ただ、その爆音の正体を知っているサマナが驚愕している。


「……なんで? たしかにコウが叩き切ったはずなのに!? 」


  海賊のアジトは凶暴なリスクキルのいる崖を超えなければいけない。だからこそ今まで誰も海賊がどこからくるのか知らなかった。だが何より、その爆音は、先日海に落ちて消えたばかりだった。


「ほうほう。選り取り見取り」


  爆音が、吹き抜けの空から降って来る。その姿は、鳥の翼を持ちながら、人と同じように両手両足を持つ、鳥の姿から人の形へと変わり、砂浜に着地する。その色が、また別格にベイラーらしくなかった。今空から来たベイラーは、紫色をしていた。毒々しさしかないそのべイラーは、コクピットも翡翠色で、ふつうのベイラーとなにもかもが違っていた。


「よぉ。海賊団ってのはここだな。白いベイラーを出しな」

「その声はッ!?」


  ナットが叫ぶ。聞きたくない、かつ、許せないその男の声が、あろる事かべイラーから聞こえてくる。


「パーム!? 」

「おうおう。ナットちゃんとミーンちゃんじゃねぇの。でもとりあえずいいや。依頼主がどうしても白いベイラーが見てみたいって言うんだ。で、どこだ? あの白いベイラーは」

「誰が教えるもんか! 」

「まぁ、そうだよなぁ……このパーム様は少々イライラしてる。あの後海を漂流して死ぬかと思った。このまま引き渡されてはいおしまい、とするほど優しくなれねぇ。で、だ」

「ここはお前のいるようなとこじゃない! レイダ!! 」

「《はい!! 》」


  サイクルを回し、サイクルショットでパームを狙い撃つ。問答など必要はなく、相手もまた、その行動は想定に入っていた。


「ほぉ」


  片手を無造作あげ、サイクルシールドを作り出す。サイクルショットを受け、木っ端微塵に砕け散るも、その身を守る事は出来ている。


「レイダのショットを防ぐ? こいつ、一体……」

「のっぽ! そいつは空が飛べる! 気をつけろ! 」

「の、のっぽって……何? 空が飛べる!? 」

「こう言う事だ!! 」


  一歩前に出たパームのベイラーが、一瞬で姿を変えて、レイダへと突撃する。背中の翼が伸び、足が畳まれて、嘴にも似た機首ができる。レイダの脇を通り過ぎ、高度を取ったパームが サイクルを回し、サイクルブレードを持たせる。そのブレードは、コウの物とも、セスの物とも違う、鉈のように分厚さを重視した、叩き潰す事しか考えていない物。それを一気にレイダへと振り下ろした。重力を味方につけて斬りふせる。


「そんな大振りが当たってたまるか! 」


 変形するベイラーに あっけにとられながらも、前転のしながらその場から回避する。だが、オルレイトの想像していた一撃とは、なにもかもかけ離れた威力を見せつける。


  砂浜が、パームのベイラーによって抉られた。回避しはたずのレイダが、えぐられた砂に足を取られ転倒してしまう。


「な、なんだ今の!? 」

「前のベイラーよか強いぜ。こいつは。へっへっへっへ」


  笑い声がこだまする。翡翠の1つ目がレイダを写す。


「さぁ。蹂躙してやる」


  ブレードが怪しく光る。紫のアーリィベイラーが、レイダへと襲いかかった。

パームさんリベンジマッチ。

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