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ベイラーへの信頼

「《こんなもんかな。相棒、どうだ? 》」

「あたいに言われても……海賊さんはどう? 」

「おう! すげぇ綺麗にひっぺがしたな! これで10個めだ! 」

「お褒めに預かり光栄ー! あ、ガインには別の褒美をやってよ? 」


  ネイラがガインから降りる。20本に別れた指が、静かに戻っていく。


「ああ、そうだった。……拭くだけになっちまうぜ? 」

「それがいいんだよ」

「《卵って言ったって、どうやって食べるんだい? 》」


  カリン達が今日のお昼ご飯を湖で釣っている中、ガイン達は別行動を取っていた。それはここ、海賊のアジトで行われている。吹き抜けの洞窟にあるその中央にそびえる、乱雑な作りの、これまた乱雑な配置をした塔。彼らの寝床である場所で、ガインはベイラーの肌を丁寧に削り取っていた。それは、怪我をしていたベイラーを直していたのではない。海賊のベイラーがガインの問いに答える。


「《外側を焼いてやると、皮がつるりと向ける。塩をまぶしてパクリとしてる》」

「卵なんだろう? そんなんでいいのかい? 」

「いいから食ってみろって。ほれ、先にとってたやつ」


  海賊の手に、先ほどガインが海賊のベイラーから剥がした卵が握られている。ロブーキーという名の、甲殻類の卵であり、ベイラーの脚にそれが植え付けられていたのを、ガインが丁寧に剥がしていたのだ。そのうちの1つが、熱せられたばかりなのか、湯気が出てホカホカしている。ただ、色が少々食欲を減退させる緑色をしていたのが問題だった。ネイラが眉をひそめて言う。


「これ、食うの? 」

「いいから」


  問答無用と言わんばりに、無理やり口に押し込む海賊。モガモガいいながらも、どうにかひと噛みすると、パリッとした食感が先にきた。外側はカリカリに焼けており、たしかに美味しい。だがさらなる衝撃がネイラに迫る。そのパリパリとした食感の直後、卵の内側からとろりとした別の食感があったのだ。


「んー!? 」

「あ、熱かったか? 」


  口から垂れないように、上を向きながら、ゆっくりと咀嚼を始める。少々苦味を伴って居るロブーキーの卵は、苦味以上に濃厚な旨味を伴っている。さらには、外側の皮膜が、熱することで油で揚げたようにパリパリになり、それがまたまぶした塩との相性は最高だった。だからこそ、ネイラはひたすらこの場にアレが無いのを悔やんだ。


「お酒が欲しいッツ!! 」

「おお! わかるのか!! 」

「《相棒がだめな方向に走りそうだ》」

「《君のとこの乗り手は面白いねぇ》」

「《だろう? 》」


  ネイラが海賊と意気投合して居る中、ガインはガインで乗り手の自慢を始める。やれ患者を助けた、俺がベイラーをどう直した等。他愛のない会話が延々と続くかに思われた。


「オルレイト様。まだ服が」

「そんなことはいい! 姫さまは!? 」

「服が、そんなこと? 」

「あ、いいや、決して軽んじたわけではなく、ええと、今は姫さまに伝えるのが先であって」

「今外にいらっしゃいます。いいから服を」

「マイヤ。たしかにほつれてるいるがまだきにする程でも」

「オルレイトさまは寝込んだら3日は服に手を出せないのです。直せる時に直さないと」

「まってくれ。病で倒れる僕の心配はなしなのか? 」

「そういって起き上がるのがオルレイトさまですので」

「苦しみを少しでも分けてあげたいよ……ってそうじゃない」


  外から聞こえる言い争いで、会話が中断され、思わず聞き耳を立てる。


「痴話喧嘩か? 酒のツマミにもなりゃしない」

「マイヤとオルレイトだね。あの2人に限って惚れた腫れたはないわ。でもただ一つだけ」

「なんだよ」

「前、どっちがうちの姫さまをよく知ってるか大会みたいな事してた」

「……面白そうな事してるなぁ」


  俄然興味が湧いた海賊が聞き耳に参加する。野次馬が増えた。ガインと海賊のベイラーも面白そうだからと聞き耳を立てる。


「何を急いでいらっしゃるのですか? 」

「とても重要な事なんだ。レイダに持ち込んだ資料の中でずっと引っかかっていた部分がやっとわかった。でもそれを確認するには、どうしても姫さまじゃないとダメなんだ」

「確認? 」

「『綿毛の川』だ。その事で聞きたいことができた」

「(わたげ? 川? )」


  なにやら想像と違う会話が繰り広げられながら、さらに聞き耳を立てていると、今度は予想だにしない話をオルレイトがしはじめた。


「もし、コウが言っていた『綿毛の川』が、伝承でいう『見果ての川』の事なら、僕はコウにも姫さまにも確かめなければならない」

「何を、確かめるのですか? 」

「『見果ての川』は、1つの考え方に名前がついたものなんだ。命を体と心に分けた時、体は親が故郷になり、心は『見果ての川』を故郷とする。それをベイラーであるコウが見たと言っている。でもそんなことはあり得ないんだ」

「……『見果ての川』の事はよく存じあげませんが、コウさまが知っていておかしいのですか? 」

「『見果ての川』はその心が入るべき体によって姿を変えるんだ。そして、『綿毛の川』は、人が見ることができる『見果ての川』なんだ」

「……話が読めません」

「《おうおうオルレイト。お前今の話本当か? 》」


  ネイラ以外に聞き耳を立てていた者がいた。ベイラーであるガインが話の流れを遮る。


「《コウが変なもん見てるってどうゆうことだ》」

「ああ、ガインが。ちょうどいい。綿毛の川以外にも、コウには、たくさん不思議なことがある」

「《まぁ、あいつはどっか人に近すぎる気がするが。よく悩むし》」

「なら、君は、君の体の事を誰から教わった? 」

「《あん? 》」

「生まれる時にソウジュから教わっているはずだ。体の動かし方、人間の事。サイクルの事」

「《ああ、それがどうしたよ》」

「そうでなければ、君たちは歩く事もままならない。君たちの、体の親は、あの巨木であるソウジュの木だ。だけどソウジュの木は物を言わない。だから君たちが生まれる前に、その知識を与える」

「《あー、そうみたいだな。前の乗り手がそんなこと言ってたっけ》」

「なら、君は知っているはずだ。その知識が丸々なかったベイラーを」

「あん? そんなやつ居るわけ……」


  心当たりが1つあった。出会った時に体のことを知らず、歩き方も知らず、人を乗せることも知らなかった白いベイラー。今、そのベイラーは眠っている。


「綿毛の川にいるベイラー。それはつまり、心は人のベイラーなんだ。本来人に入るべき心がベイラーに入ってしまっているかもしれない。だからソウジュからの教えもない。ベイラーですらないかもしれない」

「《こら。言い過ぎだぞ》」

「だから確かめるんだ。コウは一体何者なのか。ベイラーの恋人とすら言われたあのシラヴァーズに、ベイラーではないなんて言われるコウのことを」

「……コウが、どうかしたの? 」


  その時まで接近に気がつけなかったオルレイトやマイヤ、そして聞き耳をしていたガイン達が一斉に振り返る。そこに声の主は居たのだが、顔が見えなかった。大きなツボを抱え、中から魚が時折跳ねた音が聴こえて超えてくる。後ろには海賊のサマナが、これまた同じようにツボを抱えている。


「オル。みんな。お話しがあるの。広間に来てくださる? コウの事と、これからのことを話すわ……でもその前に魚を置いてきていいかしら。せっかく釣ってきたのだから、皆で食べたいのだけど」


  ピチャピチャと跳ねる音が、シュール以外の何者でもなかった。


 ◆


「頭、手をこっちに」

「おや、サマナかい。ありがとう。」


  アジトの広間。カリンを含めた龍石旅団と、サマナ、そしてタームがぐるりと円になっている。タームが手を取られながら、どっしと座る。


「これから、私はコウを連れてシラヴァーズの元に行きます。」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!? 姫さま、気でも狂ったのか!? 」


  カリンの宣誓に即座に横槍を入れるオルレイト。


「シラヴァーズに何をされたのか忘れたのか!? 」

「話を最後まで聞いて頂戴。シラヴァーズの元に言って、コウを連れ戻してくるの。そのあと、私たちは帝都までの旅に戻る」

「……連れ戻すって、コウがどこに居るか知っているんですか? 姫さま」


  ネイラが頭を掻きながら問いかける。


「コウは今、心と体が離れているみたいなの、体がここにあっても、心が別のところ、故郷に行ってしまったいる。だから、帰ってきてもらうの」

「それは、何処なのですか? 」


  マイヤが全員分のお茶を淹れ終えて座る。会話だけはきちんと聞いていた為に、質問の内容もおかしなものではない。


「おそらく、『綿毛の川』よ。そこにコウは居る」

「……やはり、そうなのか」

「オル? 」

「コウが一度、うちの牧場で体が燃え盛った時があった。シラヴァーズを怯えさせた時と同じように。その時も、コウは『綿毛の川』と言っていた。姫さま。綿毛の川が何なのかは、ご存知か?」

「いいえ。詳しいことは知らないわ。心の故郷である、としか」

「おおむねあっています。でも、違う」

「遠回しね。どういうこと? 」

「心の故郷ではあるのです。でもそれは、『人間にとっての』です。ベイラーの心の故郷ではない」

「……オルレイト? 」

「姫さま。一体コウは、何者なんですか? 僕らと違う感性を持っているベイラーだとは思っていた。でも、時折みせる着眼点は、僕らと決定的な相違がある。僕らの知らない事を『知っている』事が多すぎる」

「……ネイラも、そう思うの? 」

「あ、あたいですか? 」


  突如として話を振られて、しどろもどろするネイラ。姫さまに味方をする気でしかなかったのに、オルレイトの話を聞いて、心当たりがあってしまった。


「あの子は、よく悩む。ベイラーにしてが珍しいほどに。もしそれが人間由来のものだったなら、納得しちゃいます」

「ナットは? 」

「いちいち人間臭いなぁとは。ミーンも、おんなじように言ってた。ベイラーっぽくないって」

「リオ、クオ? 」

「わかんないけど、他のベイラーが教えてくれなかった事おしえてくれたよ! 」

「カマクラ、とか! 」

「……マイヤも? 」

「……こんな繊細なベイラーもいるのですね、としか。この眼鏡も、コウの発案なのでしょう? 」

「……疑念は皆あったということね。なら、お話しします」


  龍石旅団の全員が固唾を飲んだ。カリンも、誤解がないように、そして、できだけ短く、分かりやすいように言葉を組み立てていく。そしてついに、語り出す。秘密でもなんでもなかったが、たしかに伝えていなかったことを。そしてその事が、今回の騒動の根本であるかもしれないのだから。


「コウが以前言っていたわ。自分は、生まれ変わりなんだと」

「生まれ、変わり? 」

「彼は、元は人間だった。それが生まれ変わってここに来た。そう言っていたわ」


  沈黙が流れる。各々がカリンの言葉を解釈し、咀嚼し、なんとかして飲み込んでいく。龍石旅団の面々は、ただ、そこにある事実をどう処理すればいいのかわからなかった。


「人間だから、火が扱えるのか? 」

「でも、すっごい怖くなったよ。また、コウはああなっちゃうのかな」

「コウ、怒るとお母さんよりも怖い……」


  真っ先に、双子が反応した。それは、コウがこのアジトで見せた姿。怒りに身を任せて体を燃やすあの姿を、子供のリオ達が怖がらない訳がなかった。コウが普通のベイラーではない。それが明るみになった今、違和感に納得がいく。同時に、別の疑念が溢れてくる。


「牧場に居た時、コウは自分を保っていた。でもここでは、姫さまの声が届いていなかった」

「オルレイト、それは」

「キャプテンタームのベイラーが止めて居なかったら、どうなって居たか、僕は、想像できない。少なくとも。あのまま止まるとは、考えられない」


  コウがどうなってしまうのか。コウによって自分達に何が起こるのか、想像してしまう。あの怒りに燃え盛るコウが、果たして自分達に向かってこないのか。カリンですら止める事が出来なかったコウを、果たして自分達が止められるのか。


「なら、コウをこのままにしておけというの? 」

「それも選択の1つだ」

「オルレイト、貴方という人は! 」

「あのベイラーは普通じゃないってことだ! あの炎に君が巻かれない保証がどこにある!? 」


  オルレイトが叫びをあげた。


「コウを連れもどすのはいい! でも、連れ戻したことで、いつまた暴走しないかわからない。少なくとも、暴走したコウを止める手出しは、あのコウに一撃を入れなきゃいけないって事だ。今回は一発で済んだ。でも、次一発で済むとは限らない」

「そ、それは」

「ここで、決めるべきだ。コウを、どうするかを。」


  コウを眠らせたままにするのか。それとも、連れ戻すのか。しかし、連れ戻す為に今から行動したとして 、コウの心が体に戻ってくるかはわからない。そもそも、まだ、シラヴァーズの元に行くとしか手段が分からないのだ。龍石旅団の皆が、次第に言葉を失っていく。代わりに、思考を深く深く沈めて言った。これからどうなるのかがわからない不安と、コウの暴走を止められるかどうかの算段。どちらも決断するには情報が少なすぎた。


「また、共に。それが、ゲレーンでの挨拶だったな」


  思考の沼にはまっって動けなくなっているところに、海賊であるサマナが手を伸ばした。


「なら、コウは生まれ変わって誰かに会いに来たんだろう? ただそれだけなんだ」

「……一体、だれに? 」

「乗り手であるカリンなのか、それともまた別の人なのかは、コウに聞けばいい」


  あっけからんとするサマナ。サマナの言葉にはじき出されて、ナットが思考の渦から自力で這い上がる。


「コウが過去にどんなことがあったのかはいいよ。コウが居なかったら僕らは冬でパームにやられてる。いや、あの嵐の時に、流されて居たのかもしれないんだ。なら、僕はコウのこれからを信じる」


  1人が這い上がった事で、徐々に思考が透明になっていく。


「炎は怖い。でも、だからってコウとバイバイしたくない」

「まだたくさん遊んで欲しいもん」


  リオとクオがナットと共にコウを信じ始める


「……コウ君が生まれ代りなら、前はちょっと世間知らずで、おっちょこちょいな、普通の男の子だったのかもね。なら、教えてあげなきゃ。ここのことを。間違いなんかさせない為に」


  ネイラが、己の過去を反芻するように、そしてその過去と同じ轍をコウに踏ませない為に、コウを信じる。


「コウ様は、カリン様のベイラーです。私は、カリン様を信じ、カリン様の信じたコウ様を信じます」


  他人に委ねる決断をしながらも、コウを信じることを決めたマイヤ。


「……楽観的だ。みんなもしもを考えていない。コウがまた獣のようになれば……」

「コウが獣だというの!? 」

「人の言葉が届かないベイラーなんて獣と何も変わらないだろう……だから、止めるのは僕らだ」


  オルレイトが信じられないのは、あの湖での一幕。だから、その決着は自分でつけると決意する。


「もし、また暴走するような事があれば、レイダと僕が止める。この中で一番戦えるのは僕らだ」

「オルレイト? それは」

「僕はコウを信頼はしない。いつまた燃え盛って眠るか分かったものじゃない。でもそれは僕も同じだ。いつまた、体を壊すかわからない。……その点、コウはここにいる誰よりも戦えるし、姫さまのことを守れる。いままで、姫さまを守って来たように……だから、その点で、僕はコウを信用する。」


  信じはしない。でも、やることは果たすことのできる奴だというのは、この旅でよく理解していた。そして、カリンの最初の宣誓に同意する。


「姫さま。コウを連れ戻そう」

「なぁんだい。なんだかよくわからない話は終わりかい? 」

「ええ。ありがとうございます。キャプテンターム。このような場に同席してくださって」

「いいんだよ。若いもんの話し合いは聞いていると若返る」

「これから、再び湖に足を運ぼうと思います……シラヴァーズは連れていくでしょうか」

「まぁ、怖がりはするだろうが、それも一瞬だ。ベイラーと見れば見境がない。さて、乗り込んで準備だ。飯と水と、持ち込むもんはたくさんあるよぉ」

「ええ。そうですね。乗り込んで……乗り……」


  ここに来て、カリンが致命的なミスを侵した事を自覚する。それは今、コウのコクピットは硬くと閉ざされていること。今のコウの状態では、どうやっても、乗り込む事などできなかった。


「このままじゃコウに乗れない!! 」

「ッハ! なんだいなんだい。威勢がいい貴族さんもおっちょこちょいだねぇ。サマナ! 奥からツボを取って来な! 一番小さくて、底にクラシルスって名前が書いてある奴だ」

「は、はい! 」


  サマナが飛び出すように出て行く。しばらくすると、小脇に抱えるように、しっかりと栓のされた、ツボというには少々小さい物。タームに分かるように手をさしのべて、壺に触れせる。


「そうそうこれだ。よくやったね。」

「これを、どうすれば」

「中身は腐ってないかい? 」

「中身? 」


  壺を置き、栓を抜く。キュポンと心地いい音が鳴りながら、アジト一体に、何やら生臭い香りが充満する。別段体に異常が出るわけではないが、あまり嗅いでいたくない、そんな塩梅の香り。


「これは、一体? 」

「海藻のクラシルス。それを刻んで、絞ったもんだ。これをベイラーのコクピットに塗ってみな。丸一日は、誰もがベイラーの中に入れるようになる。内側からクラシルスを塗れば、また出られるようになる。こいつは今年の全部の分だ」

「海藻に、そんな効果が? 」

「普段は海の中でベイラーと溺れた奴を助けるために使う。だが今年はどうにも海藻の生えが悪い。この分しか取れなかった。まぁ摂るのをサボってたんだろうけどね! 」

「さ、さぼってないって! 本当にあたり一帯取り尽くされてたんだ! お陰で魚は隠れる場所探して色んなとこに逃げちゃってたいへんだったんだからな! 」

「ずべこべいうんじゃないよ! さて。そいつは3回は乗り降りする分はある。上手く使いなよ」

「あ、ありがとうございます」

「さて、今日一日はシラヴァーズ共はこない。やるなら明日だ。なら送り出しの宴会をしてやらなきゃ。サマナァ! 酒をだしなぁ! 今日は飲むよぉ〜」


サマナの肩をバシバシ叩くタームは、それはそれは楽しそうに笑っている。


  かくして、龍石旅団の面々と、レイミール海賊団との宴会が開催される運びとなる。 釣り上げた魚の何匹かはこんがりと焼かれ、一部は兜焼きとなって皆の胃を満足させる。ロブーキーの卵の旨さを知ったガインが、オルレイトに酒を飲ませながら付き合わせる。体の弱いオルレイトは、一杯も飲まないうちに外に出て体を休めたが、それでも、食べた卵の旨さは理解できた。双子は酒を飲めない事に不満げになりながら、海賊のベイラーが遊び相手になってくれた事で満足し、ナットはナットで、数々の海賊由来の料理を平らげることに夢中になっていた。龍石旅団の皆は、コウを信じ、助ける意思を重ねて言った。


  しかし、ただ1人、コウを信じていない、ましてや、自分をも信じていない人がいる。


「生まれ変わりで、私に会いに来た? でも、私の事をまるで知らない。なら、生まれ変わって会いに来たのは、私じゃない? 」


  1人、アジトの外で盃を眺めるカリン。喧騒に混ざる気にもなれず、ずっと空を見上げては、思い出したように酒で唇を濡らす。それは、コウの事を信じていたからこそ起きた疑念。サマナが言った、そして自分が言い続けてきた、約束にもなる別れの言葉。


「『また共に』……もし、会いに来たのが、私じゃないなら、私以外の、コウが出会うべき人に出会ったのなら、私は……コウの、乗り手を、やめたほうがいいのかしら。その方が、コウの為になるのではないくて? もう、私の声で、コウは止まらないのだから」

 

  ただ1人、カリンだけが、コウの事を、乗り手である自分を信じていなかった。


感想、ブックマークお待ちしています。すでにブックマークしてくださっている方、ありがとうございます。感想を下さった方、ありがとうございます。今後、少々現実の方が激動編状態で、更新時間がぶれます。


それでも読んでくれたら、うれしいなぁ

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