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更なるベイラー

けたたましい声が空で響く。男の笑い声であるソレは、聞くものに不快な思いしか与えない。耳障りが悪く、低い声が同じ間隔でずっと続いている。声の持ち主であるパームは、再び現れ、笑っていた。


「《脱走したお前が、どうして! 》」

「簡単だ! 生きる為だよぉ! 」


青いベイラーが星の力を味方につけ、コウを大上段から斬りつける。受け止めたコウはベイラーの体重全てを空で受ける。大地がなく、衝撃を支えるのは、肩から吹き出す炎のみ。ただでさえ不安定な空で斬りつけられた事で、体勢を大きく崩す。


「また人から盗みを働くというの!? 」

「おうよ! 」

「また人の命を奪うというの!? 」

「おうよ! 」

「許されると思って!? 」

「それを決めるのは」



崩れた体勢に更なる追撃が走る。胴体を横薙ぎにする一撃。咄嗟にコウは刃ではなく、左手から生み出したシールドで防ぐ。斬撃は盾に一筋の傷跡を残すに留まるも、パームは別の手を打った。先程までの剣術の優位を捨て、零距離まで接近し、盾に掴みかかる。


「このパーム様だぁ!! 」


 つかんだ盾を虚空へと投げ飛ばし、がら空きになった胴体に殴りかかる。ベイラーの重さがそのまま乗った拳がコウの体を揺らした。コクピットに備え付けたベルトが、乗り手の体を締めつける。そのまま、パームは一発だけでは飽き足らず、二発、三発と殴り続ける。懐に入られたコウに為す術はなく、右から左から飛んでくる拳を甘んじて受けてしまう。


「《く、くそ! おい! パームのベイラー! お前なんとも思わないのか! お前の乗り手がやっていることに! お前の体を使ってやっていることに! 何にも思わないのか!! 》」


 何度めかの拳を、ようやく両腕で防ぎ、顔が近くなったと同時にコウが叫ぶ。パームは以前にも、こうしてベイラーを使い悪事を働いてる。その時は、まだ生まれたばかりのベイラーを炎で脅していうことを聞かせていた。雪の中に身を潜ませ、人間を踏みつぶし、ベイラーを殴り壊す。四本角の姿も相まって、破壊の象徴のようなベイラーとして名を知らしめた。しかし今、そのベイラーは双子のクオとリオが乗り手となってのびのびと生きている。名前も、二人からそれぞれ一文字づつもらい、『リク』という名が付いている。


 リクはその体がまず特異で、もとは双子だったベイラーがひとつの体になってしまったベイラーだった。腕も、足も、そして目も、2対で4つある、体の大きなベイラー。だが、代わりに喉がなく、声を発することができなかった。だからこそ、ベイラー同士の意思疎通ができず、自分が脅されていることも話すことができなかった。


 今、コウが目の前であっているベイラーは、リクとは様子が違う。変形をするベイラーというのもまた特異だが、それでもコクピットの色まで違うのは初めての経験だった。いままで、どのベイラーも、形や色は違えど、人間が乗り込むコクピットの色は、どれも同じ、琥珀色の淡い色をしている。だが目の前のベイラーは、翡翠色でありながら、蛍光色めいた、透明度の低い、濁った色をしていた。


「《返事をしてくれ! なぁ!! 》」


 そしてコウの言葉に、まるで反応を示さない。顔も、ベイラー特有のバイザー型ではなく、リクと同じ丸い形状だが、その目が、顔全体を覆っている。一つ目のベイラーだった。


「無駄だぁ! 」


 落下しながら、今度はブレードを作り出し、コウに襲いかかるパーム。余計な行動をせず、ただ一点、コクピットに向けて突き刺す。地上の平行状態から繰り出されるものではなく、空中で刃を下にむけた、かならず相手を串刺しにするという意思を持ってして行われた必殺の剣戟。


「《カリン!! 》」

「ええ、やられない!! 」


 しかし、彼らもまた、あれから成長している。落下しつつも迫りくる青いベイラーに向かって、サイクルショットを発射する。威力よりも連射に重きを置いた攻撃は、ベイラーの体にあたり、突き出された刃をそらすだけでなく、わずかに体も傾けさせた。それは二人が目指した明確な隙。


「「《サイクル・ブレード!! 》」」

 

 腰を回し、手首を返しながら、横薙ぎにブレードを振る。パームが作ったものより大きく分厚いブレードは、確かに隙を見せた青いベイラーへ命中した。コクピットよりわずかに下の、腰部分へと刃が立つ。そのまま両断するかに思われる威力であり、カリンもその気で振りぬいた。だが、伝わる手ごたえに、思わずコウまでも驚愕した。


「《か、軽い!? 》」


 両断するには及ばず、刃が食い込んだだけで、そのまま振りぬいた力が大きすぎて、青いベイラーが吹き飛んでしまった。


「なんて軽いベイラーなの」

「《それに細かった。変形するときは気がつなかったけど、体の、腕とか、足とかが俺より細い。》」

「それなんだけど……まずは浮上するわ」

「《浮上? 》」

「私たち落ちてるのよ!? 忘れたの!? 」

「《そ、そうだった!! 》」


 背中側にはすでに海が迫っていることを認識し、あわててサイクルジェットを使う。赤い火はすぐに蒼く力強い炎となって、コウの体を水しぶきを上げながら空へと押し上げる。仰向けの状態からひっくり返り、どうにか体を安定させる。


「《これでよし》」

「《白いベイラー、まだやれるか!! 》」

「《セス!? 大丈夫だった? 》」

「《怪我もない。サマナも無事だ。だが、なんだあのベイラーは》」


 空中で体を立て直したコウのそばに、海賊のセスがサイクルボードを携えて戻ってきた。自分でつかっているものとは別のボードを海に流し、コウの足場をつくってやる。意図をくみ取ったカリンが、そのボードへと不時着した。しばらく波の揺れに身を任せる。


「あの、青い鳥? 腕がのびたり変なの」

「《人より長く生きているが初めてみた。》」

「変なのはそれだけじゃないの。なんというか、そう。体がよくできていないというか」

「《体ができていない? 》」


 セスが興味深そうに聞いてくる。カリンもまだ自分の生まれた感覚を言葉にできず、四苦八苦しながらも、少しずつ少しずつ口に出していく。


「体は軽かったし、細い。それに、サイクルでできた武器もコウよりずっと小さかった。まるで、まだ成長していないような、そう、人間の子供みたい」

「《成長していない?  》」

「もちろん、ベイラーはサイクルを回せばその分強く、早くなるけど、前提として、体の大きさとか、もっと前の話で、あの子は幼い。そんな気がするの」

「《……言葉を知らない? リクみたいに? 》」

「そこなのよ。あの子、別に喉がないわけじゃなかったでしょう? 」

「《よくは見てなかったけど、そもそも、俺の声に反応すらしなかったよ》」

「人見知りなんじゃなの? とうかアレは鳥じゃないの? なんであれがベイラーなの? 」


 サマナは未だに青い鳥が形を変えたところを見ていない為に、ちゃちゃを入れ始める。


「とにかく、あの青い鳥がもう一回来る前に、助けた連中をレイミールの中に入れてやらないと」

「《そうだ! まだ漁師さんたちがいる! 》」

「とっくに助け終わってるよ。一度もどって……おいおい」


 サマナがセスの中で舌打ちする。同時に、カリンらも手に持ったブレードを構えなおした。視線の先には、先ほどブレードで吹き飛ばされたはずの青いベイラーが、再び鳥となって突撃してくきた。


「あの傷でまだ飛べるの! 」

「ったく! 」


 波にのりながら、サマナが青いベイラーへとつかみかかる。今度もまた、体から腕が生えるように、セスの体を妨害しながら飛び去るパーム。


「二度も通用すると思うか! 」


 サマナが叫ぶと、セスが手に持った、船を襲う際につかうロープつきの鉤爪が、青いベイラーの翼に引っかかった。速力を大きく落としながら、青いベイラーはセスを引っ張っていく。ボードに乗ったまま波乗りを続けると、セスがさらなる行動に出る。左手でロープをも持ちながら、右手でブレードを構える。タイミングを見計らい、波が高くなった瞬間、サイクルボードを捨てて飛び上がり、青いベイラーへと斬りかかった。しかしパームもその行動に対応する。青いベイラーを空中で何度も翻し、背面飛行まで行いながらセスを振り落とす。ロープにつながったセスからすれば、突如として空中で振り回されされたために、勢いに負けて振り落とされる。ボードを捨てたために、落下する以外に道がなかった。


「《器用な! だが! 》」

「ただでやられない! 」


 ロープが遠心力でちぎられ、海に叩きつけられながらも、ブレードを投擲する。半円で大きく回りながら、確かに青いベイラーに刃が向かう。海賊である彼が、少しでも手持ちを少なくするための攻撃手段の一つがこの場面で役にたった。パームが攻撃に気がついた時、すでに刃がベイラーに食い込んで、青いベイラーの破片が海へと落ちる。


「くっそ。視界をやられたか……だがぁ! 」


 再び旋回して襲いかかるパームと青いベイラー。既にボードを失ったセスは、半身を海に沈めた状態だった。青いベイラーは直前に変形し、鳥の状態から再びベイラーの形態へと姿を変える。そこに、全体重でのしかかるように両脚でセスを押し込む。サナマもここで初めて、青い鳥がベイラーへと姿を変えるのを目撃した。


「鳥がベイラーになったぁ!? 」

「そらお返しだぁ!! 」


 セスを地面に見立てて、何度もジャンプして踏みつける。波とは別の波紋が何度も広がり、セスの体がどんどん沈んでいく。ベイラーが海に沈み切ることはない。だが、中にいるサマナは、それ以外の被害を被っている。何度も上下運動をするベイラーの中は、人間が掴む場所のないコクピット。頭をぶつければ気を失うこともある。現にカリンは何度かコウの中で失神している。サマナはそうはなるまいと、必死にコクピットにしがみついているが、服や保存食など、乱雑に散らばった内部があらされることで、どんどん掴む場所もなくなっていく。


「っと。追いつかれたか」


 セスの体に海によってシミが出来始めたころ、突然踏みつけをやめ、一層高く飛び上がってベイラーを変形させるパーム。攻撃がやんだことで、セスの体が浮上していく。


「なんで攻撃をやめたんだ? 」

「《追いついてきたからだろう》」

「追いついた? ってことは! 」


 サマナがセスから顔を出して、海の向こうをみる。そこに見えるのは、慣れ親しんだ赤い海賊船。

   

「頭ぁ! 」

「遅いんだよ! 漁師達は見えるな? 拾ってやれ! 」

「へい! 」

「急げ! ここには海の家が居る! 」

「そりゃ大変だ」


サマナの指示を受けた海賊たちが一斉に動き出す。帆を畳み、外輪を逆回転させ、速度を一気に落とす。波に逆らいつつも流されないように、ゆっくりと近寄っていく。漁師たちは漁師たちで、助けに来てくれたのが海賊だと知り、わずかに落胆する。先程受けた攻撃は海賊が行ったものだと分かっているからだ。そのことを知って知らずか、海賊は海にロープを投げつつも、脅すように叫んだ。


「エサになりたくねぇ奴から登ってこい! 人間なんざ丸呑みする奴が今下にいるんだからな! 」


人を好んで食べる訳ではなく、船を魚影と間違えて飲み込むだけだが、嘘は言っていない。人が口に入る事はよくあることだが、正確に言えば違う。しかし今、漁師たちにとって必要なのは、頭の良い者が書いた専門書を長く喋ることではなく、すぐさま理解でき行動に移せる為の短い言葉が何より必要であり、海賊はその術において何よりも誰よりも長けていた。言葉の意味と深刻さを理解し、漁師たちが協力し合い、すぐさまレイミール号へと入っていく。我先にと争いが起きないのも、さきほど抜けがけした漁師が戻り、状況を伝えているのも救助の助けになっている。


「これなら、すぐにでも離れられらぁ」


 海賊が安心しきって、空を見上げた。喉の渇きを覚え、水筒に手を伸ばし、唇を湿らせる程度に飲み、ゆっくりと喉を潤す。潮風に吹かれる中で、なんの変哲のない真水が極上の酒にも勝るうまさを与えている。酒でもないのに酔いしれそうになったとき、ふと太陽が翳る。


「雲でもでたか……ひと雨降ってくれればいいんだけども」


 海の上では雨は正真正銘天からの恵みだ。飲み水に始まり、体を洗うこともでき、清潔に保つことができる。しかし海上での天気は変わりやすく、飲み水を貯めるにも準備がいる。船長であるサマナに支持を仰ごうとしたとき、ふと陰った先をみた。それは太陽を遮る雲にしては小さく、さらには低い。目視で確認しようにも太陽が眩しく見えない。だがサマナはそれが何かを知っていた。


「上だぁあ!! 」

「な、なんですかいお頭!? 」

「なんでもいい! 上から来る鳥を撃ち落せ! 」

「鳥……? あれが鳥なんですかい? 」

「いいから早く!! 」

「あいあい!! 」


 サマナの指示が飛び、再び海賊たちがせわしなく動く。船内から弩を運び出し、空へと向ける。弓矢にロープがついているソレは、本来は船を襲う際に使う。こうして上空への迎撃として射角が取れるようになっているのは、人を食べるリスクキルに向けて使用する為。こうしてベイラーに使うのは初めてだった。


「どうせ弓矢は帰ってから補充できる! 撃って撃って撃ちまくれぇ!! 」


海賊のひとりが発破をかけて弓矢を発射させる。何度も何度も発射される矢を、パームの操る青いベイラーは同じく何度も躱していく。ときに翻り、時に回り、時に変形を繰り返し、弓矢では傷一つ与えられない。


「だ、だめだぁ! 相手がはやすぎらぁ! 」

「《なら任せて! 》」

「し、白いベイラーか!? 」


 海賊が後ろから聞こえた声に振り向くと同時に、海から舞い上がる白い体。艷やかな肌が遮られた太陽でも美しさを伴って輝きすら垣間見せる。その白さとは裏腹に、肩と脚から出る青い炎が、やたらと目に焼き付く。コウがレイミール号へと追いつき、パームのいる空へと舞い戻る。


「へっへっへ。マメだねぇ」

「今度こそ逃がさない!! 」


サイクルブレードを携えて、大上段からの一撃を青いベイラーへと向ける。さきほどよりも早く鋭い斬撃は、横薙ぎではなく縦の一文字へと剣戟を変える。これならば、吹き飛ばしても海に叩きつけるだけで、距離を置かれることはない。ましてや海にはセスがいる。カリンには、そしてコウには逃がすつもりは毛頭なかった。 


「やべぇやべぇ」


 その渾身の一撃を、パームが青いベイラーにブレードを作らせ、ギリギリのタイミングで防いでみせる。鍔迫り合いの中で、お互いのサイクルが甲高い軋みを上げる。


「前よりも強くなったってトコか。しかも戦い方まで上手くなってやがる。面倒くせぇ」

「あれから鍛錬もしているのよ。同じ私とコウだと思わないことね! 」

「そうだ。同じじゃねぇ」


 鍔迫り合いの中で、コウと青いベイラーとが錐揉みし、お互いに位置を変え合う。


「あれから時間も経った。盗賊団もおんなじ連中はもういねぇ。だがな」


 ぴたりと、錐揉みを強引に止める。コウを太陽を背にし、青いベイラーは太陽を覗ける形に。


「同じじゃねぇのはこっちもだ」


 カリンの背筋が一瞬凍る。それほどまでにパームに声は、冷ややかで、恐ろしい物に聞こえた。どこまでも自分にまっすぐに向けられた殺意であると、カリンが直感的に気付く。同時に、なぜこのタイミングでそれが自分に向けられたのかを思案した。今、パームがこうしてコウと鍔迫り合いをし、どうあがいてもコウに一撃を加えられる状況ではない。だというのに自信すら垣間見せる殺意がなぜぶつけられるのか。


 答えがわかるまえに、コウの背中に衝撃が走った。その数三回。衝撃で体が安定せず、一気に高度を落としていく。


「コウ!? 何があったの!? 」

「《背中だ! 背中をサイクルショットで撃たれた!! 》」

「サイクルショット!? まさか」


 カリンとコウが上空を見上げる。ここに来て初めて、太陽を遮っているのが、パームの青いベイラーだけではないことを認識した。


「そうさ。同じじゃねぇんだ。このパーム様もなぁ! へっへっへっへっへ」


 青いベイラーと共に書き誇るように笑うパーム。そのとなりに、ゆっくりと降りてくる、もう一体の、別のベイラー。サイクルショットを構えたその姿は、色は同じく青。違うのは、肩に白い線が一本走っていること。その姿に驚愕しながら落下するコウを、サイクルボードにのったセスが受け止める。


「《空を飛ぶベイラーが、もうひとり!? 》」

「《厄介なことになった》」

「さぁ! 2対2だ! 仕切り直しといこうぜ!! 」


 パームにも、新たな仲間が加わっていた。 


人型に飛行機のパーツがそこかしこについてるタイプの変形です。別タイプだとマク○スがあります。

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