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炎を運ぶ青い鳥

「貴族さんは船に! 私達は海に落ちた奴を拾う! 」

「お願いね海賊さん」


  一言会話を交わして、コウは空から、セスは海から炎の上がる船へと向かう。カリンの操縦桿を握る手が強くなる頃、サマナはセスと、不可思議な船の現象について考えている。波に乗りながら進むボードならば、乗れさえすれば手持ちぶたさになる為に、思考を深くできた。


「《船の上で火遊びでもしたか》」

「やだ。燃えすぎ 」

「《それもそうだ。ならば、海賊の仕業か》」

「火を扱う海賊。初めて聞いたよ。そんなやつがいるんだ」

「《まだ決まってはない。だが起きてる事も無視できん……サマナ、前から何か来る》」

「ん? あれはぁ……」


  船に近寄る程、破片がどんどん大きくなる。船が無残にも砕かれ、進むことさえ難しくなっているのは簡単に想像できた。その中で、一際大きな破片にしがみつく漁師の姿を見つけ、波を立てないようにゆっくりと遠回りに近寄る。漁師はぐったりとして上半身を預け、腰から下は海に浸かっている。近づいて来るベイラーの姿を認めた漁師は、一瞬怯えた表情をしたものの、危害を加えてこないと分かると、片手を上げて助けを求めた。


「セス、船だ。集めておけば後から来たレイミール号が拾ってくれる」

「《いい考えだ》」


  セスが両手を合わせて、サイクルをゆっくり回していく。サイクルボードと形状は同じだが、さらに小さく、そして数も作りだす。ゆっくりと押し出して流れる人の多い場所に文字通り助け船をだす。船がたどり着くと、力なくうなだれていた漁師たちが、苦しみながらも必死にしがみつき、体を引っ張り上げる。セスはその様子をじっと観察し始める。


  いくつかの船は、溺れかけた人の大いなる助けとなった。最初にひとりが助かれば、そのままもうひとりを引っ張り上げ、二人目が助かればもうひとりを助けと、救助の連鎖が続いていく。しかし1隻、ほかの船と違う動きをするものがいた。ひとつの船をひとりが占有し、そのまま、どこからか引っ張りあげた漁船の破片をオールにして、この沖から離れようとしている。周りからみたら身勝手な行動に見え、サマナが怒りをあらわにしてセスを向かわせようとする。


「自分だけ助かる気? セスもどうして止めないの」

「《よくみろ。あれだけ表情がちがう》」

「それは、助かったから安心している、とか」

「《逆だ。『この場から早く逃げなければ』という顔をしている》」

「まだ私たちは勘違いされてるのかな」

「《見向きもしなかった。おそらく違うものだ。ずっと海を見ていた。燃え上がる船でもなく、なぜ海の中を……》」


  ベイラー特有の表情のなさでも、共有をおこなっているサマナには、セスの困惑が流れ込んでくる。しかし、サマナもサマナで、目の前の状況に対応するのが先だと行動を続けた。すでに何隻かの船を作り出して、漁師たちも船を一箇所に集めて、お互いを確認しあう。戻る算段をたてるために、潮の流れをみるために海をみて、潮の流れが変わっていることを確認したときに、ようやく違和感を感じる。それは、些細でありながらも確かな変化。


「……なんで、魚がいないの? 」

「《あのリスクキルもいない。ここに流れてる者たちはいい餌だろうに》」

「魚もいない。リスクキルもいない。潮の流れは沖から陸にむかっている。さっきと逆になってる。なら……ああぁあ!」

「《大きな声をだすな》」

「あの逃げた船は!? 」

「《あれだろう》」


  セスが指をさすと、すでに遥か彼方へとみえる独りの船がそこにあった。オールで漕いでいるというのに凄まじいい速度がでている。その姿をみて、サマナが叫びながらセスを向かわせた。潮のながれと波を味方につけて、急速に加速する。


「だめ! あれじゃダメ!! 」

「《何がだ》」

「セスのバカ! ここは『あいつ』がいるじゃない!! 」

「《……そうか。ここには魚がいないのじゃない。来ないのか》」


  セスの納得をよそに、勢いを殺さずにふねに急接近する。波を読めるサマナであれば、いくら距離がはなれていようとも、手漕ぎの小舟の遅れを取ることはない。船のすぐ横につけて、顔をだす。


「聞こえる!! 聞こえるっていいなさい! ねぇ! 」

「う、うるせぇ! あんたらも早くにげろ! 」

「『見たの!? 』」


  その一言で、漁師は全てを悟り、サマナに言った


「ああ見た! 海の底から動いてるのを見た! 」

「やっぱり。大きさは」

「あの船なんかひとたまりもねぇ大きさだ! 俺は陸にかえるんだ! ほっといてくれ! 」

「話をきいてってば」

「うるせぇ! 」


  オールをさらに漕ぎ出して、サマナの静止も聞かずに飛び出す漁師。その形相は必死を超え、悲壮をも滲み出していたが、たとえ腕の力がなくなろうとも、ここから助かるという決意があった。


「帰るんだ。嫁さんと子供がいるあの国に、帰るんだ!! 」


  漁師であるために、漁があれば家に帰れないことはざらにあった。それでも彼らが過酷な海の上で戦えるのは、ひとえに家族が待っているという絶対的な安心感がその身にあるからだ。そして今は、その安心感が彼を支配し、冷静な判断と行動力を鈍らせている。帰りたい一心で、折れたオールを漕ぎ続ける。


  そして海は、理性のない行動をするものを決して逃がさない。

 

  最初は船のそばに小さな泡が出ていたことだった。オールを漕いでるからだと漁師は思ったが、反対側から湧き出たことで、その予想は裏切られる。次に、波以外の揺れ。横から前からくる海の波以外に、たしかに別の、下からの波が船を襲った。突然の揺れに耐えられず、オールを投げ出してしまう。すぐさま拾おうと船の淵に身を乗り出し、流れるオールを拾おうとしたとき、最後の変化を見てしまった。海の底から見える翡翠色した2つの宝石。それがこの船めがけて上がってくる。


「な、なんでこっちに! せっかく離れたのにどうして!! 」

 

  船の上でついに腰を抜かし、動けなるなる漁師。しかしそんな事情は、海に住む者には関係がない。ついに、その船に波以外の、今度こそ何かが衝突した振動で船が転覆する。海に再び投げ出された漁師は、決意の固めた顔から、絶望に染まった表情に変えた。


  そして、その漁師を見る2つの宝石……否。双眸。首を岩のような胴体から伸ばし、二対四枚のヒレで泳ぐその姿。背中には岩肌を背負い、生き物たちの楽園となっている。大きさは、海賊船レイミール号と肩を並べた。現代では、海亀と似た外見をしているが、その口には鋭い牙と、甲羅には別の生き物が住み着いている点が違っている。

 

  バエメーラ。サーラの人々は親しみを込めて海の家と呼んでいる。事実、海にすむ生き物は彼の背を借りて巣をつくっているからだ。だが、ときにこのバエメーラは人間を喰うことも、よく知られていた。漁師はこの生き物が燃え盛る船の下に、たまたま居座っていたのを、同じようにたまたま見つけてしまい恐怖に駆り出されて逃げていたのだ。


「うあぁあああ!! 」


  牙のある大口を広げ、漁師が飲み込まれそうになる。牙に付着する海藻がやけにはっきりと見えた。そして、己の死を受け入れ、それでもとっさに身を守るために両腕をあげて目を瞑る。あの牙で自分は粉々にされ、自分たちがいままで魚たちにしてきたように胃の中に収めるのだと想像する。


  だが、その想像とは全く違った衝撃が体を走った。横腹から突如として殴りつけられるよう痛みが走ったかとおもえば、いつのまにか海の上に自分の体がある。自分の体が大きな手によって握られていると分かるのに時間がかかった


「……生きてる? 」

「《生きてるとも》」


  悠然と語るベイラーの声は、海に濡れた体に暖かく響く。セスが波乗りで滑り込み、漁師を鷲掴みして離れた。漁師は未だに自分の身になにが起こったのか分かっていない。呆れたサマナが声をかけた。


「あれが何か分かってる? 」

「バ、バエメーラだろう? 先輩から聞いたことある。あれは人を食っちまうおっかない奴だって」

「半分あっているけど半分は違う」


  琥珀色の透き通った質感をもつベイラーのコクピットからサマナが顔を出す。


「あれは普段はおとなしいし、こっちからちょっかいを出さなきゃ何もして来ない」

「でも人間を食べるんだろう!? 」

「いい? バエメーラは船を魚と勘違いするんだ。とくに『群れから離れた一匹』とか」


  漁師が己の行動を反芻する。ベイラーが助けてくれた、たった今自分が食われようとした場所には、転覆し、無残に噛み砕かれた船がある。なぜ、自分だけバエメーラに襲われたのか。なぜ船が喰われているのか。バエメーラから見れば、それは自分だけ群れから離れる迷い魚でしかない。そしてただ人間であるかどうか関係なく食べようとしただけだったのだと気がついた。


「……国は家族でもいるの? 」

「そうさ。嫁さんと、生まれたばかりの娘がひとり」

「なら、帰ってあげて。でもひとりじゃ帰れるほど海は優しくない。よく分かったでしょ」

「ああ……すまねぇ」

「こうゆう時は礼をいってほしいけどね。セス! 」

「《こいつを連れて行けばいいいのだろう。心得ているとも》」


  芝居掛かった口調でセスが漁師を手に乗せて、今なお救助活動が行われている船にむかう。


「《どうやらちょうどよかったようだ》」

「レイミール!! さっすっが速い!! もう追いついた! 」


  サマナが感激しながら視線の先にある、自らの船に賞賛の声を送る。漁船よりひとまわり小さく、青い海にはよく目立つ赤い色をした外観。頭蓋骨をあしらった旗印。船首には刃が取り付けられた、サマナの船。レイミール号。一足早く船から飛び出したカリンらよりすこし遅れての到着となった


「お頭ぁ! おまたせしましたぁ!! 」

「漁師たちは向こう! それと、近くに『海の家』がいる。出来るだけ離れないこと!! 」

「へい! あとから貴族さんのお仲間もきますぜ」

「よし。ロペキスには収容を頑張ってもらおう。人が多いから、怪我人を先に」


  支持を飛ばし、自分も救助に向かおうとしたその瞬間、海上で爆音が響いた。海賊が、溺れかけた漁師たちの視線が一斉に動く。


  燃え盛る漁船。その中腹から、凄まじい音を携えて、何かが飛び出してきた。黒を基調とし、所々深海のように暗い青味をもつ何かは、おおきな翼を持ち、船の横腹を突き破って、海へと踊り出る。轟音をならししているのは、この青い何かだった。後を追うように、同じく船から白く、肩が赤いベイラーが出てくる。コウがサイクルジェットを起動し、すぐさま追いかけてに出た。


  サマナが驚愕したのは、その何かは、海に落ちることはなく、今のコウのように、自分の知らない力によって空を飛んでいることだった。そして外見の特徴に、ギリギリ似ているものをみつけ呟く


「あれは、リスクキル、なの」

「《青いリスクキルなど聞いたことがない。ないが、目の前にいるのだからそうかもしれん》」


  翼竜のリスクキル。サーラに住う肉食の生物で、翼をひろげれば7〜8mあるベイラーと同じになる。船から躍り出た何かは、それに似てはいた。その何かは、レイミール号にむかって一直線に飛んでくる。コウと肩を並べるほどの凄まじいスピード。


  「(何をしようにも手には漁師がいるッ! )」

 

  セスの手で恐怖に震える漁師を視界に収めながら、わざと遠回りをして進路上から撤退するサマナ。飛び出してきた何かは、そんな彼らなど見向きもせずに、波を荒立せながら飛行を続けている。後ろから追いすがったコウに続くように、セスもまた続いた。


「《白いベイラー、あれが海賊か》」

「《わからない! ただ船の中を調べてたら、いきなりあいつが飛び出してきた! 》」


  あれの正体をコウも分かっておらず、ただ、状況証拠だけで追ってるに過ぎなかった。そして、レイミール号を追い越していく謎の青い鳥。コウが追いかけるのをあきらめるかどうかとい判断を迫られた時、あろうことかその青い鳥は反転し、レイミール号に再び迫ってきた。


「お前たち! ベイラーを出して! 落ちた連中がいないかを確認を! あとこいつを頼む! 」

「へい! 」


  レイミール号に漁師を移し、セスが船のそばで臨戦状態になる、サイクルブレードを作り出し、迫り来る青い何かを待ち構える。コウは船の上に飛び上がって、甲板でブレードをかまえた。倉庫から3人のベイラーがボードで海を滑り、救助活動へと向かう最中に、青い鳥は、突如その体をひねり、上空へと高度を取り始めた。このまま向かい合う形を想定していたカリンとサマナは肩透かしを食らってしまう。


「立ち向かうにしろ逃げるにしろ、さっきから変でなくて? 」

「そもそも、なにあれ? 」

「《鳥にしては羽ばたいていなかったな》」


  セスも加わり、あの青い鳥の正体をつぶさに考察しつつも、コウだけは、あの鳥が鳥でないことだけは理解していた。しかし、もし鳥でないとしたら、他に何なのかも、答えが出ない。4人が4人とも謎を解けないまま、頭を捻らしていると、上空から4つ、また何かが落ちてきた。


「……ガラスの、瓶? 」

「貴族さん目がいいなぁ!? 分かるの!? 」

「え、ええ。でも中身まではさすがに……」

「《カリン、やな予感がする! あれを撃ち墜とそう》」

「どうしたのコウ?」

「《俺は、あの中身を知っている気がするんだ。後ろにある燃えた船が、あの瓶の液体が何かを伝えてくれている気がする》」

「わ、わかったわ。サイクルショットできて? 」

「《お任せあれ》」


  コウが構えたブレードを逆手に持ち替え、針を作り出す。打ち出す準備を整え、狙いを定めて、落下してくる4つの瓶を狙う。


「「《あたれぇ!! 》」」


  バシュン! バシュン! バシュン! バシュン!


  小気味好い音が4つ続き、上空へと伸びていく。一番最初に発射されたショットは、一番先に落下してきた瓶に見事に命中し、その中身を海にばら撒いていく。のこる3つのうち1つも、同じ結果になった。しかし、のこり2つは、ショットが命中しない。これには理由があった。海上であるために、カリンが潮風を計算に入れていなかった。風の煽りを受けずに行った最初の2つはそのまま命中できたが、後ろのふたつには当たらずに、そのまま甲板の上に瓶が叩き割られる。コウがすぐさま安否を確認する。破片で人が怪我をすることも十分に考えられるからだ。


「《だれも怪我してない? 》」

「船の中にいたからな! ありがとよベイラー」

「《よかった……でも結局なんだったんだ》」


  落ちた瓶のそばによる。液体はすでに甲板にぶちまけられ、染みとなって広がっている。二カ所とも、船を壊すような液体ではなく、数多くある染みとおなじように、汚れが増えただけだった。


「……水、ではないみたいね。なんだか光ってる 」

「《じゃぁ一体なんだ? 》」

「グェー! いい酒のつまみなのに! こんなに油を捨てやがって」


  ……何気なく海賊の言った言葉に、コウが振り向いて聞いた。


「《油!? なんの! 》」

「ああ? こりゃチシャ油だろう? 舐めるだけでも美味いんだこれが。捨てるくらいのなら俺にくれればいいのに」


 チシャ油。そして、後ろに見える燃え盛る炎。一瞬で全ての点がつながり、コウが叫び、カリンが上をむいて、あの、空へと向かった青い鳥を追った。そして、上から、火種が落ちてくるのは同時だった。


「《うぁああああああああああああああああ!!》」


  コウが叫びながらサイクルショットを連射する。落ちてくる火の進行方向を変えるくらいしか、その手ではできず、かつ、いまコウに出来ることは、これから起こる光景に、すこしでも船にいる人々をまきこまない為に行動することだった。しかし、コウは、ゲレーンの冬に起きた事件が頭を支配し、ただ衝動に任せて乱射している。カリンもまた、そんなコウに感情がひっぱられ、コウを制御できず、サイクルショットの乱射を止められずに居る。しかし、どうあがいても、阻止する方法が間違っている為に、火の落下を阻止できない。


「《針で火が消せるものかッ! 落ち着け白いベイラー!! 》」


  そんなコウを止めたのは、カリンでも無く、サマナでもなく、同じベイラーであるセスだった。サイクルボードで飛び上がり、水を伴って上空を滑空する。その海水を浴びた火種は威力をなくし、ぼとりと甲板に落下した。コウの想像していたようなことは起きず、ただ呆然とするコウに、セスが後ろのから足を狙って蹴りを入れた。よろけながらも耐えるコウ。


「《何を!? 》」

「《怒るのは勝手だが、行動まで違えるな。それはやがて乗り手をなくすぞ》」


  セスが、コウに向かって叱責する。それはセス自身の経験を踏まえての事だというのは言わないでいる。サマナがその事を感じながらも言葉の続きを待った。


「《お前は、この手口を知っているのか。油を撒いて火をつけるこれを》」

「《知っています……そのやり方で、ゲレーンでは、人が殺されています》」


  セスが、そしてサマナが息を飲んだ。命を奪う方法として、人を燃やすというのは、残忍さの極致に思えた。決意を新たにしたセスが、コウの肩を叩く。


「《わかった。追うぞ。やはり空に用がある》」

「《はい。俺とセスさんなら、いけます》」

「《サマナ、それと白いベイラーの乗り手。いけるな? 》」

「ええ! 」

「レイミール号を焼こうとした奴の顔を見てやる! 」


  甲板から飛びだし、再び空に舞い上がるコウとセス。一直線に飛ぶコウと違い、何度も自身で波を作って乱高下するセスでは、上昇幅に違いが出る。結果として、先にコウが青い鳥を捉えた。


「サイクルショットで撃ち落とす! 」

「《今度は外さない! 》」


  腕を前にだし、狙いを定める。空中での狙撃は、すでに経験しているコウだからこそ、素早く飛ぶ青い鳥にも狙いをつけることが出来る。潮風も計算にいれてると、カリンとの意識が合い、瞳が赤く輝く。


「《これでどおぉだぁあ!!! 》」


  カリンとの意志が重なり、ベイラーの目を爛々と赤く輝かせ、コウの腕をからサイクルショットが放たれる。放物線ではなく、直線でもって狙いを定めた相手へと向かい、今度こそ、上空に居座る青い鳥に命中した。衝撃を受け、巨体が海へと落下していく。


「やった!! 」

「貴族さん、もう終わらせたの? やっと追いついたのに」


  サマナがむくれながら、コウのそばにセスをよせる。セスがコウの足にしがみつきながら、滞空を維持する。掴まれたコウも、調節をしてセスが揺れないように安定させていく。カリンはカリンで、落下していく青い鳥を眺めながら、漁船と、今後のことを考え始める。


「どううやっても船の数がいるわね。職人たちに頑張ってもらう以外に何かないかしら」

「いやいや、そもそも材料がないんだってば」

「うーん。私一人ではどうしようも」

「《おい》」

「何? セス、もしかしてどこかやられた? 」

「《青い鳥の様子がおかしい》」


  それは、落下していくだけの青い鳥から、次々と破片が出てきていることに疑問をもったセスの何気ない一言だった。その言葉に耳を傾けていたほかの3人も、青い鳥を見る。そして、信じられない光景がその場で起こり始める。


  さきほどまで体のほとんどを占めていた翼が、途中から『折れて』、その体から離れていく。それだけではない。胴体と思しき場所から、液体を撒き散らしながらも、膨らんだ部品が、これも胴体から離れていく。一瞬にて体を細く、軽く変えた青い鳥は、再び上空へと舞い戻ってくる。速度は先ほどよりもずっと早く、あっという間にコウたちのいる高度へと達した。その速度と飛行方法に、コウは心当たりがあった。


「《ま、まさかあれは》」

「コウ? 」

「《ジェット、じゃないのか? 》」

「あ、あなたと同じってこと? 」

「《ただの鳥が、風も使わないでこんな早く高度を稼げるもんか!! 》 」


  コウの予感は的中していた。舞い戻った青い鳥は、たしかに背面から炎を吹き出し、体を飛ばしている。コウと全く同じ飛び方、ただ、より飛びやすくした形状をしていた。


「《ジェットが何かは知らないが、こっちに来るぞ! 》」


  セスが警告しながら、コウの足から手を離す。素早くサイクボードを作りだし、滑空を繰り返して空を進む。そして、目の前に悠然と青い鳥が向かってきた。


「サイクルブレード!! 」


  サマナが叫び、セスが答える。右手に片手でもてるサイズの刃を携えて、すぐさまスナップを利かせて、正面から飛び込んで来る青い鳥に切り込んだ。タイミング、狙い、すべてがうまくいき、その翼を切り落とすことさえ出来た斬撃が生まれる。


 瞬間、その斬撃は横から『生えた』腕に邪魔され、かつ、セスの体を滑走路にするように、飛び上がる台にしてさらに高度を稼いできた。突如として起きた出来事に対応できず、今度はセスが殴り落とされる。コウもまたサイクルブレードを構えて迎撃戦と勇んでいた。そして高度を超えられながらも、コウが青い鳥を見上げる。 太陽を背にして輪郭のぼやけたその体は、翼をもち、頭をもつ、鳥にしては威圧感のあるフォルム。色は黒を基調とし、暗く、重い青色が各所にあった。


  思わず、カリンが眩しい太陽を避けるように、顔を遮る。コウもまた、太陽から目を守るように腕で遮る。二人とも視界お大幅に制限しながらも、見据えるのをやめない。だからこそ、この後の変化に漠然とした。


  その青い鳥は、突如羽をたたみ、どこからか畳まれていた『腕』を出し、平たく形を変えていた『足』を出し、胴体にはよく回る『腰』が見える。最期に、長い首に隠れていた『頭』が、コウたちを見据えた。


  青い鳥は、たった今、コウ達の前で姿を変え、ベイラーとなった。


「青い鳥は、ベイラー!?!? 」

「《変形をしたぁ!? 》」


  カリンやコウの言葉など聞かずに、ベイラーとなった青い鳥が、刃の短い、片刃の細いサイクルブレードをつくり、自由落下に身を任せてコウに突撃してくる。コウは状況の変化に追い付けず、呆然としながも、乗り手のカリンを守るべく 、上段で受ける形で刃を止める。


  普通のベイラーとは違う、翡翠色をしたコクピットから、乗り手の声が聞こえてくる。それは、コウ達が忘れもしない笑い声だった。


「っへっへっへ。 こんなところで会うとはなあ! 」


  コウの、カリンの感情が、一瞬で激情へ駆け上がる。今、眼前にいる男を、今、目の前でブレードをベイラーに握らせているを、二人はよくしっている。人を人と思わず、奪うことをなんとも思わないその男は、このサーラの地で脱走を果たし、今もどこかで生きていることを知っている。だが、そのどこかが、この海になるとは思ってもみなかった。感情のまま、コウがその名を叫ぶ。


「《パームアドモントォ !! 》」

「おうよ!! このパーム様、待望のご帰還だぜ!! っへっへっへっへ!! 」


  パーム盗賊団団長。パーム・アドモントが、空を飛ぶ、かつ、変形するベイラーを伴って、ふたたびコウ達の前に現れた。



パームさんはとっても自由

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