復活のレイダ
二人そろえば強力です。
「《これでぇ! 》」
「6つ! 」
ブレードを振り抜く。ズルリと繊維状の固形物が落ちて、地面へ垂れ下がる。
刃が欠けて使い物にならなくなったソレを捨て、新たにサイクルブレードを作りだす。ブレードを地面に突き刺し、欠けた右足の代わりとする。
「《倉庫からなんか聞こえたけど、大丈夫かな》」
「見に行きたいのはわかるのだけどね、どうにも、これじゃあ」
首だけあたりを見回すと、6匹の亡骸があるのとは別に、大小まじえて10匹以上がコウを取り囲んでいる。後ろにはバイツの屋敷。従者たちが窓からこちらを見ている。その目には恐怖をにじませていた。決して、退くことはできなかった。
「《もう、どうにもならないのか》」
「森に誘導するっていう手はあったでしょうね」
「《今は? 》」
「お腹がすいてる時にご馳走が目の前にあれば、誰だって飛びつくでしょ」
「《俺はご馳走か。》」
「だからこそ、キルクイを引き受けることができるの。上!! 」
跳躍から羽を振るわせて、2匹のキルクイの複眼が上空でコウを映した。そのまま無視を決め込み、屋敷へと行こうとする。
逃走ではなく、別の得物の元に向かっていった。通常の生物なら、それで事は足りる。陸上の生物が、空を飛び去る生物を追いかけることなどできない。
しかし、コウは違う。
「《サイクルジェット! 》」
「翔べぇええええええ!! 」
背中側。肥大化した肩が、ぱっくりと開く。その中にあるのは、炎を生み出す噴射口。赤く弱い炎から、一瞬で蒼く、鋭い業火へと代わり、コウを押し上げる力を与える。
まだ健在である左足1本で地面を踏みしめ、空へと飛び上がる。カリンの体が、コクピットの中で椅子に押し付けられた。2.3倍以上の体重が加速によって荷重となる。しかしその不利を受け入れることで、足による跳躍を助走とし、コウの体が舞い上がる。
そのまま、屋敷へと向かうキルクイにむけ、無造作に突きを繰り出した。迫り来る刃を避けることもなく、キルクイの体が串刺しとなる。
もう一匹は、コウが斬りかかるには距離が遠すぎた。キルクイは間合いの外へと空高く逃げる。
その頭に、鋭角に尖った棘が突き刺さった。飛行を維持できなくなり、キルクイが落下していく。コウが、サイクルショットで撃ち落とした。
「《これで8つ!! 》」
「嬉しがってないで、着地! 」
「《わ、わかってる! 》」
空中へと飛び上がることができるようになったが、自由に空を駆けるほどではない。数秒の跳躍がまだやっとであるコウが、着地に難儀するのには理由があった。
右足が戦いの最中に膝から下が割れ、自分の体重を預けることができない。だがこれは、ブレードを杖代わりにして事無きを得ている。問題はキルクイたちの行動にある。
着地はどうしても無防備になる。その瞬間を狙い、コウの足を積極的に喰らいつくさんと飛び込んでくるのだ。先ほどから、それを狙われ続けている。
自分に飛び込んでくるキルクイは、地上で迎撃できる。しかし、今のように空を飛んで屋敷へと向かおうとするキルクイは、こちらから向かわねばならない。幸い、空戦となるような戦いには発展しないが、着地時の無防備さはいかんともしがたい。
コウの脚元にキルクイたちが群がる。押しつぶされないように、適度に距離をとり、着地した瞬間を狙っているのは明白だった。故に、コウたちは対抗策を講じる。
「サイクルミルフィーユシールド!! 」
「《5枚重ねだぁあああ!! 》」
自分の足元に今度はシールドを生み出す。そのシールドの上に、コウが乗り込んでいるような形をとった。ほんの少し、空気の抵抗を受けて、落下のスピードが遅くなる。
キルクイたちは、その変化を受け、気がついた個体からいち早く行動を開始する。その場から、羽を震わせ逃げ出した。1匹、まわりのキルクイたちに足蹴にされ、その場から逃げられない。
そして、コウがシールドごと着地した。接地面が広がったことで、落下の衝撃が多少以上に抑えられる。5枚のシールドと、コウの体重によって、キルクイが押しつぶされた。
一瞬の役目を終えて、重ねたシールドが音を立てながら砕ける。膝立ちになる形で、コウが着地を終える
「《これで、9匹》」
「でもまだいる……いや、増えてる? 」
「《冗談だろう!? 》」
3匹の亡骸を超えて、いまだ増え続けるアリモノキルクイを目にして、決して冗談ではないことを悟るコウ。上半身はなんともないが、右足の負傷が戦いづらさを助長していた。
「脚の調子は? これ以上壊れたりしてない? 」
「《まだやれる。でも、あいつらよりやれるかはちょっと微妙。カリンは? 》」
「お腹の中から食べた物が出たがってしょうがないみたい」
「《……そうなっても別に俺は気にしないよ》」
「いやよ。 あんな美味しいお肉、ちゃんと私の血肉になってもらうんだから」
キルクイが複数飛び込んでくるのをサイクルショットで迎撃するコウたち。当たればいい方で、飛翔するキルクイ達は悠々と回避する。まるで状況は良くならない。
策を講じる時間もなく、ジリ貧に陥っていた時、カリンの目に別方向からのキルクイたちが現れるのを認めた。別働隊とも言えるそのキルクイ達が、屋敷へと向かう。
「《あいつら!? 》」
「ベイラー用の出入り口から屋敷に入り込む気!? コウ! ショットで足止めでしょう!! 」
「《だめだ! ここからだと屋敷にあたる! 》」
「なら、ブレードで一気に切り裂く! 」
体を支えるために地面に突き刺したブレードを引き抜こうとしたとき、キルクイが、コウ自身ではなく、そのブレードに齧りついた。キルクイの強靭な大顎は、コウのブレードを難なく噛み砕く。
支えを失い、そのまま横倒しになる。土煙と共に、キルクイたちの亡骸が舞い上がった。
「《こんな時に! 》」
「コウ! シールド! 囲むように! 屋根も忘れずに! 」
「《何もしないよりいいか! 》」
両手でサイクルシールドを作り、自分の体を囲むように壁を創りだす。一気に4方向と、蓋を内側から創りだす。すぐさま、立方体の小屋が出来上がった。
「《人が住むにはもうちょっと工夫がいるかな》」
「そうね。でもとりあえずこれで立ち上がる時間くらいは稼げる」
ブレードを作り出し、再び支えとして立ち上がった。コウの体は既に、キルクイ達の噛み跡であちこちがひび割れている。
「《でも、じっとはしてられない。ここで悠長に休んでいたら、屋敷に向かった奴らがどんどん中に入っていく》」
「わかってる。でもなんとかしてここにいるキルクイたちだけでも追い払うなりしないと」
「《方法は? 》」
「サイクルショットで1匹ずつ叩く以外には、全然思いつけない。さっきシールドで押しつぶした時も、こっちの意図をすぐ見抜いて飛び去っちゃった」
「《なんか、こう、キルクイの好物とかない? 》」
「今の所、コウが好物みたいね」
「《他には? 》」
「あの子たちが嫌いな物を教えて欲しいくらい」
「《……罠をはることもできやしないか》」
即興でつくった小屋が、複数のキルクイによって壊されていく。シールドやブレードは食べ物としては人気がなく、噛み砕かれてそのまま捨て置かれる。どうしてもコウの体に食らいつきたいようだった。コウにとっては、たまったものではない。
「せめて、人手がほしい。コウくらい動けるベイラーが」
「《……いる。ひとりだけ》」
「どこに? 」
「《レイダさんだ》」
「ダメよ。寝ているのだもの。それにベイラーが無理やり起きたことなんてないのよ。バイツだってそれを知っているから起こさないのに」
「《でも、他に方法が》」
碌な解決方法も出ぬままに、天井が崩れ去る。上から数匹、キルクイがその複眼でこちらを見つめている。表情の読めないその顔でも、得物を見つけて興奮気味なのが伝わってくる。
「コウ! 」
「《結局一匹づつやるしかないのか! 》」
ブレードを持っていない手でサイクルショットをつくり、空へ何発も打ち出した。顔を除かせていた数匹のうち、1匹の頭を打ち抜く。
「「《 サイクルジェット!! 》」」
二人の掛け声と意思が重なり、コウの目が赤目になった。肩からすぐさま炎があがり、垂直に飛び上がる。この戦いで、ジェットが赤い炎から蒼くなる時間が、最初に比べてぐっと短くなっていた。
加速、上昇するコウに驚いて。アリモノキルクイたちがその場を離れる。飛び上がる炎に巻き込まれ、数匹が焼け爛れた。上空にでたコウを待っていたのは、さきほどサイクルショットをよけた2匹と、小屋へ齧り付いていた多くのキルクイ。
その小屋も、サイクルジェットの余波で燃え盛っている。
「コウ! サイクルステーキブレード! 」
「《すて、え、なに? 》」
「分厚くて重い! ステーキみたいなブレード! 」
「《ああ! ミルフィーユから変えたのか!? ってそれでいいの? 》」
「それがいいの! ほら早くする! 」
もう何本目か解らないブレードを作りだし、空中で腕を十字に組む。作り出したブレードを元に、さらに大きなブレードを創りだす。重さも、長さも大きくなったそのブレードを、キルクイ達が迫ってくるのも厭わずに天へと掲げる。
「このまま斬り込めぇえええ! 」
「《お任せあれぇ! 》」
赤い目が爛々と輝いく。地面へとステーキブレードを叩きつけるべく、肩の炎でコウを空中で疾走させた。狙いは、燃え盛る小屋。
追いかかてきたキルクイ達を、新たな名称を与えられたブレードで一気に切り裂いていく。分厚く鋭くなったブレードは、いくつもの虫を斬ろうともその刃が欠けることはない。
片足で大地に着地し、脚が軋みをあげるのも無視して、小屋を真上から両断する。その凄まじい衝撃で生まれた風が、燃え盛る炎を一瞬にして消し飛ばした。同時に、群がるキルクイを全て軽々と吹き飛ばす。
土煙と、無理やり消火されたことによる煙が、コウの体を包んだ。
「《……だいぶ減ったはずだ》」
片膝をついたまま、ステーキブレードに付いた大量の体液を煙りと共に振り払う。視界がひろがると、そこには、無数のキルクイたちが、亡骸にはならずとも、身動きがとれない程度の負傷をしていた。片羽を失ったもの。脚を砕かれたもの。体を焼かれたもの。負傷の種類は様々。
「これで、屋敷に向かったキルクイ達を追いかけ……コウ! 扉が破られてる! 」
「《クッソ! 遅かったっていうのか! 》」
立ち上がろうとしたとき、コウの体に異変がおこる。
ついに、その両足が砕けた。
前のめりに体が倒れる。カリンがベルトによってコクピットで体を吊るされる。気絶こそしないものの、一気に体が締め付けられて、うめき声をあげる
「《カリン!? 》」
「大丈夫、ちょっと締め付けられただけ。それより、脚はもうダメなの? 」
「《ごめん。さっきの衝撃たえらなかった》」
「解った。これじゃ追いかけられない……でも、それならそれで、やることはある。」
「《どうするんだ》」
「まだ両手は使えるのね? 」
「《ああ》」
「ならここでサイクルショットを撃つわ。ベイラーで要塞になるのよ」
「《それくらいしかもうやることはないか》」
踏み込みが効かなくなったことで、ブレードはもう用済みとなる。放り投げて、両腕でサイクルショットを作り出して構えた。
「追いかけることはできなくても、これ以上入れることを阻止することはできる。屋敷に入ったベイラーは……もうバイツに任せるしかない」
「《バイツさん、生身でも強い? 》」
「軍を任されてるほどよ。大丈夫。ただ、数が多すぎるとバイツでもあぶない。これ以上屋敷に入れないようにすれば」
サイクルショットを牧場へと向ける。視線の先にいる、迫り来るアリモノキルクイたちは、先ほどよりもずっと少ないが、いなくなったわけではない。
「《サイクルショットはあれから練習してたっていうのに》」
「そんなものよ。1年2年でうまくなるほど、単純なものじゃ……コウ、屋敷からなにか聞こえなくて? 」
「《屋敷? 》」
瞬間、ベイラー用の出入り口が、爆音と共に吹き飛んだ。その音に反応したのか、キルクイたちも動きを停めて、警戒を強くする。コウたちも、腰と首を動かして、窮屈な姿勢になりながらも、その轟音の元を見る。
扉が吹き飛んだ先には、キルクイたちの亡骸と扉の破片。そして、見覚えのある緑色の棘がいくつも転がっていた。
中からは、ゆっくりとした足取りで、ひとりのベイラーが出てくる。その姿を、二人が見間違うことはなかった。
「《レイダ、さん》」
「……レイダ、起きたのね。でも、なにか様子が」
コウ達の知るレイダは、歴戦のベイラーであり、その動きは実に洗礼されたものだった。それが、今のレイダは、歩行もおぼつかない状態だった。
「寝起きで体がうまく動かないのかしら」
「《そうかもしれない……カリン! 前だ!! 》」
「ああもう! 」
窮屈な格好から戻ろうとするも、姿勢を元に戻す工程で、バランスを崩してしまう。両足はすでになく、立ち上がれる状態ではないまま、左側に横倒しになる。前方からは、キルクイが襲いかかってきていた。
それを好機とみたのか、他のアリモノキルクイたちが、コウめがけて一斉に動き出した。
「コウ! サイクルショット! 早く! 」
「《だ、だめだ。いまので腕が下敷きになった! 体を支えられない!》」
「片腕だけでもいいから! 」
下敷きになった左腕の代わりに、右腕を伸ばして、サイクルを回す。銃口が一つに対して、襲いかかるキルクイは10倍以上。一片には片づけられない。
「《数をできるだけ減らすだけでいい! 少しの怪我くらい! 》」
サイクルショットを放つも、進撃は止まらず、キルクイがコウに飛びかかる、まさにその瞬間。
いくつもの針が、同時に、それも高速でキルクイ達に突き刺さる。全て撃ち漏らしもなく、それでいて、コウをよけている、
一瞬で亡骸となった虫たちに呆然としていると、その手を差し伸べるベイラーがひとり、赤い肩に、深い緑色の体。
「《気のせいでしょうか。いつもボロボロになっていますね。コウ様》」
「《レイダ、さん。おひさしぶりです》」
「《はい。冬では迷惑をかけましたね》」
倒れたカラダを、レイダの手を借りて起き上がる。
「《じゃぁ、いまのショットは》」
「サイクルバーストショット。全部狙い打ってるんだ」
「その声……オル? オルが乗っているの? 」
聴こえる筈の声が聞こえず、予想だにもしなかった人物の声をきき、思わずカリンが、ベルトを緩めてコクピットから顔を出した。それに応えるように、レイダの中から、ひとりの青年が顔を出す。
肌は色白く、不健康さが垣間見えるが、その目は爛々としているオルレイトがそこにいた。
「カリン様、ご無事ですか」
「え、ええ。でも、貴方は? 顔色が悪いようにみえるけれど」
「大丈夫です。慣れない操縦で少し疲れただけですから」
「《それに、ご自身の心配もしたほうが良いと思います。カリン様」
「私? 」
「《コウ様、動けます? 》」
「《足が動きませんが、それ以外なら》」
「《両腕は? 》」
「《動きます》」
「《結構。 では、久しぶりに教官としてコウ様とカリン様に稽古をつけてさしあげます》」
「れ、レイダ? 乗り手はオルレイトなのよね? 」
「《問題ありません。これより、バイツ様命名のサイクルバーストショットを教えます。ぶっつけ本番ですが、今より早い連射を教えるより楽ですので》」
「《は、はい? 》」
「《まずは乱れ撃ちで構いません。そのうち、全部の針を狙った場所に撃てるようになります。それでは構えて。片腕だけで構いませんよ》」
「《あ、あの》」
「《早くやらねば、迫り来るアリモノキルクイを撃退できません。お早く》」
「《は、はい! カリン! 》」
「もう何がなにやら」
言われた通りに、コウが片腕を前につきだし、もう片方の腕を支えとして向けた。
レイダは。両腕を前に。
「《オルレイト様。準備はよろしいですか》」
「できてる! やってくれレイダ! 」
「《では》」
レイダはその両腕に、何十本もの針を出し始めた。
「《腕の中心部にまず針を作り、その両脇に、同じ大きさの針をつくっていきます。それがそのまま、腕の周りにぐるりと回るようにして続けるのです》」
「コウ、できて? 」
「《な、なんとか》」
コウの腕に、出来上がった針の横に、2本。同じ大きさの針が出来上がっていく。
普段とは違うサイクルの回し方をしているからか、なかなかうまく針が複製できない。それでも、計5本の針ができあがる
「《これ以上は、どうにも》」
「《よろしいかと。ねらいつけなくてもよいです。では撃ってみましょうか。ちょうど相手もしびれを切らしたご様子》」
レイダの言うとおり、アリモノキルクイたちが戦列とはいかずとも、ある程度の数が集まって、レイダとコウに向けて飛翔してくる。その数20。
「《また増えてる!! 》」
「そろそろ諦めてほしいのだけど! これ以上キルクイ達を退治したら、今度はこの子らを食べる生き物が飢えてしまうのに! 」
「カリン様! それなら大丈夫です」
「オル? それは、どうゆう」
「産卵の時期になって凶暴になるのは、雌の中でも一部なんです。元からカラダの大きい雌は、最初から山から降りません、ここにいるのは、産卵間近でも体が小さくて、餌を食べて大きくしようとしている、焦った個体なんです」
「……そんな習性があるの? 凶暴になることしか知らなかったわ」
「その凶暴な奴が、人間を襲うからだとおもいます。特に子供くらいなら、キルクイは食べてしまうんですから」
「《じゃぁ、ここに来るやつらをなんとかすれば》」
「応急処置みたいな方法ですが、なんとかなります! 」
「《では、そうしましょう。みなさま。きます》」
雄と雌が入り混じった20匹が襲いかかる。その頭を狙い、レイダが、コウが、横並びで構えた。純白のベイラーと、深緑のベイラーが並び立つ。
これから起こることを予測できない虫たちが、それでも警戒を怠らずに、全員地上から離れてと飛びかかる。レイダの足で押しつぶされることを危惧しての行動であるが、それは、今この二人にはなんの意味もなかった。
「《――オルの坊や。カリン様。いまです》」
「いっけぇえレイダァ!! サイクルバーストショットぉおお! 」
「「《当たれぇ!!》」」
2人の乗り手の声に応え、2人のベイラーの目が同時に、紅く光り輝く。腕から、おびただしい数の針が、一斉に発射される。
キルクイたちが、針の雨から逃れようと散開するも、それすら見越していた射撃と、最初から狙いをまるでつけていない射撃とが混ざり合っている。射撃されてから回避して、よけられる様な物ではなかった。
その体を尽く貫かれ、20を超えたキルクイ達が、例外なく全滅した。
レイダが両腕を払う。久々に動いたことで、サイクルから出た木クズが溜まっていた。そして、コウに肩を貸す。
「《近くに羽音は聞こえません。 まずはひと段落と考えていいでしょう》」
「《レイダさん、ありがとうございます。でも、ずっと寝ていたのに、どうして」
「《ああ、それは……》」
コクピットの中で、精根尽き果てた様相で背中を預けるオルレイトを見つめる。片手でギリギリ操縦桿をにぎっているような状態である彼をみて、紡ぐ言葉がこころなしか軽くなる。
「《……ようやく、彼が私を必要だと言ってくれたので》」
「《……彼? 》」
「《とりあず、その両足をなんとかしましょうか。治療用の道具の数はおおくないですが、接木くらいはできますので》」
「《ガインがいなくてよかった……またどやされる》」
「ネイラにもね」
「《引きずるようになってしまいますが、ご容赦を》」
「《這っていくよりずっといい。お願いします》」
レイダの肩を借りながら、それでも両足が無いために、ずるずると引きずりつつ、屋敷に向かう。
その途中、服をキルクイの体液まみれにしながら、両手で持つほどの大きな斧を肩に担いで、バイツがやって来た。屋敷の中に入ってきたキルクイを、彼が全滅させたのだと簡単に予測できる装いだった。
レイダの姿を認め、その髭を蓄えた顔をゆるめる。やがて、レイダの動きを見て、中に誰が乗っているのかを看破した。
「……起きたか。レイダ」
「《はい。おいさしぶりです。また共にあれて嬉しく思います》」
「ああ。……そうか。オルレイトを選んだのか」
「《はい。ご不満が? 》」
「いや、いい。……カラダこそ弱いかもしれんが、自慢の息子だ。よろしく頼むぞ」
「《はい。赤目にもすんなりなれました。いい乗り手になりますよ》」
「そうか。そうか……レイダ」
「《はい。バイツ様》」
「ありがとう」
その言葉を受け、レイダの目が虹色に光った。喜びの感情を隠すこともなく、言葉を続ける。
「《……いいですよ。ガレットリーサーの血と共にあると選んだのは、この私なのですから》」
その言葉は、これからも長く、バイツやその家族として共にいることの宣誓でった。
それとは別に、コウがレイダの言葉を聞いて、思案する。
「《 (血と共にあるベイラー。そうゆう生き方も、ベイラーにはできるのか) )」
肩に担がれながら、コウはレイダの行き方に、ソウジュベイラーとしての本懐以外の行き方を見出していた。そして、バイツと共に歩くレイダの目は、屋敷の中に入るまで、虹色が収まることはなかった。
 




