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空戦ベイラー

戦いは三次元の領域へ入ります。

 3匹のキルクイたちは、三方向、それも上下を交えた三次元的軌道で、コウの体へ齧り付く。下から、上から、左右から、まさに縦横無尽に空を駆けている。


 サイクルショットで「打ち下ろす」ことを想定していたカリンには、これは予想外だった。普段地面を歩く人間が、地に足のついていない状態で、空中にいる目標物に射撃して、当たることなど希であった。


 闇雲に撃ったサイクルショットは既に20を超えるも、キルクイたちは無傷である。

カリンが、息を荒げながら叫ぶ


「まるで当たらない! 」

「《こっちが下手くそなんだ》」

「しょ、しょうがないでしょう! 」

「《カリンだけじゃない。俺もサイクルショットが思った位置にいかない! 》」


 コウたちの訓練は、地平線に経っている的を狙っていおこなう訓練だった。つまるところ、二次元上の訓練である。しかし、今行っているのは三次元での射撃であり、的に当てる難易度は跳ね上がっている。それのことに、二人とも気がついていない。


 さらには、コウはその推力を十二分に制御できずに、空中でただ一方方向に飛んでいるだけだった。カリンにも異変が起こっていたからでる。


「ハァ……ハァ……ハァ……」

「《どうしたんだカリン!? 視界がぶれてる! 》」

「ご、ごめんなさいコウ、頭が、揺さぶられて、定まらない」

「《サイクルジェットがもうちょっと使いがってがよければ、こんなことには》」

「いいのよ。それより……」


 カリンは、初めての空中戦で、事実上飛行機酔いに陥っていた。平衡感覚を失いつつありながら、それでもなお、コウの推で平行に保ち、空中でサイクルショットを撃たんと構える。


「コウ、足を狙いに来る奴を撃つわ」

「《わ、わかった》」


 カリンが歯を食いしばる。推力を偏らせて体を倒すと、コウの空で弧を描いた。

一瞬、体が何倍にも重くなる。


 コクピットの中は、パイロットにとって非常に都合がいい。外気にかかわらず一定の温度を保ち、ベイラーが歩く時の衝撃なら、吸収して影響がない。


 しかし、空中で、それも加速しながら旋回行動を行うことによって、カリン自身に遠心力が働き、不可をかけていた。現代戦闘機なら、対Gスーツと呼ばれる物で軽減されるが、今そんな便利な物はこの世界にはない。


ひたすら、カリンは、自分の体重の2.3倍の重さを体に受けている。耐えきる為に、最低限の指示だけをし、操作に集中する。三匹のうち、執拗にコウの足を狙うキルクイがいた。それを狙って、右腕で狙いを定める。


 そして狙い通り、キルクイがコウの右足を狙って飛び込んでくる。


「「 《あたれぇええ!! 》 」」


 右手から真っすぐ、一本の針が打ち出された。初速も、その針の大きさも申し分ない。風もないこの晴天だからこそ、真っ直ぐその針は伸びていく。


そして、コウのショットが、初めてキルクイに命中した。片羽を吹き飛ばされて、キルクイが墜落していく。

 

「やっっっった! 」

「《よぉし!――ぐあぁ!? 》」


 喜ぶのも束の間。残り2匹のキルクイがコウの半身に喰いついてくる。

その大顎で、コウの体を蝕み、砕いていく。白い破片が、地面へと落ちていく。


 体をひねり、遠心力でキルクイを引き剥がす。自身は推力で体を安定させると同時に、サイクルショットを構えなおす。そして引き剥がされたキルクイは、その姿勢をなおそうと、羽根を高速で振るわせて、一瞬体を静止させる。


 その一瞬を、カリンは見逃さなかった。


「もう一発!! 」


 風に煽られることなく、今度も針が一直線に伸びていく。そして、二度目の命中を果たし、片羽と言わずに、胴体を貫いた。


 キルクイがその大顎から体液をまき散らしながら、二匹目がこの空からいなくなっていく。


「ハァ、ハァ、ハァ、あと、1匹 」

「《カリン、気持ち悪いのか。視界が回ってる》」

「正直に言えば、体が重いし、気持ちが悪い。でも、それだけじゃない」

「《ど、どうして? まさかどこか痛めたのか》」

「そうじゃないの。 気持ちが悪いのと同じくらい、清々しいのよ」

「《……空を、こんなに飛んでいるから? 》」

「ええ。このままどこまでいけるか試してみたくなるくらい」

「《そいつはいい》」

「でも、それも無理ね」

「《ああ、そろそろ落ちる》」

「着地の想像できてる? 」

「《お任せあれ!! 》」


 一瞬の戦いながら、コウたちの落下も始まっていた。最初にとんだ場所から、さらに山に近い位置へと移動している。そして、みるみるうちに地面が近くなる。


「……コウ、着地した瞬間、また全力で飛んで! 」

「《どうして……ってくっそ! 》」


 コウの両肩から出る炎で、ゆっくりと下りつつも、片足が地面に触れる、その足とは逆の足で、今度は大きく地面に踏み込む。落下の衝撃と踏み込む強さが、コウの体の許容を超えて、ヒビが入る。


「《つぅう……ああああああ!! 》」


 踏み込んだ足で、更なる跳躍。炎が蒼く灯り、2人を空へと連れて行く。そしてたったいまコウがいた場所に、着地の隙をねらって、キルクイたちが飛び込む。


「コウ、足が」

「《まだやれる! それより》」


 まだ無傷のキルクイと、先ほど片羽を失ったキルクイ。一匹は空中で追いかけて、一匹はコウを地上から追っている。地表にいる方は、着地の瞬間を狙っているのは明らかだった。


「……」

「《どうしたのさ》」

「空中で、剣戟ってできると思う? 」

「《……なんでわざわざ? 》」

「いま、私はあの虫の動きを予測して、それに合わせてショットを撃ったわけだけど」

「《まさか、それより剣降ったほうがはやいって思ってない? 》」

「流石コウ。私のことをよくわかってる」

「《それにしたって敵が小さすぎる! っとぉ! 》」


 真っ直ぐ飛んできたキルクイを躱し、咄嗟に拳での一撃をお見舞いする。体を殴りつけられ、墜落とは行かずとも、態勢を崩して落下していく。すぐに追いすがってくるだろう。


 しかし、重要なのはそこではない。「空中での何気ない格闘が命中した」ことが、2人にとって光明となる。


「……」

「《……》」


二人の意思が、重なった。それは「慣れたやつでいこう」という経験からくる自身。


「「 《サイクル・ブレードォオオオオ!! 》 」」


大空で叫び声を上げながら、大仰に腕を振るう。その手には、使い慣れた大きさの刀が出現している。


キルクイの方は、何をしているのだといわんばかりに、自身を旋回させて、コウの背後へと回る。コウの後ろ斜め上に位置取る。


 

「コウ、キルクイがどうくるか分かる? 」

「《俺の後頭部を喰おうとしてる。しっかり死角を狙ってくるあたり容赦がない》」

「でも、だからこそわかりやすい」


 ブレードを上段に構える。空中で静止できず、フヨフヨと飛び上がら、なんとか一定の位置にとどまる。視界には、いまキルクイはいない。完全に死角へと回り込まれている。


「……そっか。地面がないのだものね」

「《ん? 》」

「いや、それならそれで、斬り方も空中でしかできないことがあるっておもったの」

「《……ああ、そうゆうことか! 》」


 キルクイが、後頭部めがけて仕掛けていく。自身が炎に巻かれないように、コウの肩よりも上から、首をも喰らい尽くさんとして飛び込む。


 カリンは、振り返りもせず、ただじっと、羽音だけに意識を集中する。あの虫が、いまどれほど近くにいるのか、それを、目視ではなくするのは、一重に、コウの頭を抑えられないためだ。


 そして、キルクイがその大顎を広げ、コウの頭上にまで接近した。その瞬間。


「コウ! ジェット全開! 『回って』! 」

「《うぉおおりやぁああ!! 》」


 ジェットの炎が一際大きくなり、コウの体を浮かす推力以上の力を得る。その方向は、下に。


 ブレードを振り下ろしながら最大推力を使用したことで、コウの体は前転を始める。これが地上であれば、このままコウは地面に激突することとなる。


 しかし、今は空中。前宙となり、なにも遮るものはない。


 コウの体は綺麗に縦回転し、くるりと回る。そのブレードが上段から振り下ろしたまま。


 アリモノキルクイは、自身が食い破ろうとした者が眼前から突如としていなくなり、混乱の為に一瞬空中で止まった。


「 「《そこだぁあ! 》」 」


二人の意思が重なり、目が紅く輝く。そして縦回転のまま、キルクイを腹の下から両断する。


 背中で、キルクイの落下を感じながら、その体液で汚れた刃を振り払う。


「よし、あと1匹! 着地して探します! 」

「《わ、わかった! 》」


 炎を弱めながら、静かに落下していく。蒼い炎が、その勢いを失い、赤い色に戻るころ、コウの体が、地面に接した。地響きと共に着地する。


 先ほどまでなら、片羽を失った虫は着地の瞬間を狙ってきたというのに、その予兆もない。そして、目のいいカリンが、叫ぶ


「コウ! あの虫、さんざんコウを狙っておきながら宿舎に向かってる! 」

「《追いかける、まだ、ジェットは使え――》」


 コウが駆け出そうとした瞬間だった。自身の右足が、音を立てて裂けていく。何度も大顎に食いつかれたことで、着地の衝撃に耐えられずに、コウの足が砕けた。バランスを崩すも、咄嗟に手をついて、転倒を防ぐ。


「《くっそ、こんな時に! 》」

「怪我はどれくらいなの! 」


首をひねり具合を確認する。ふくらはぎにあたる部分が大きく欠けて、膝から足首までが大きく裂けている。こうなってしまえば、もう立ち上がることができない。


「《……でも、支えがあれば、まだ行ける! 》」

「いいのね? 」

「《あんなのに人が襲われるなんか考えたくない! 》」

「分かった。ブレードを使って。いざとなればそのまま斬りつけてしまえばいい」


 ブレードを作り出して、その刃を地面に突き刺し、ゆっくりと立ち上がる。肩への意識を重ね、ハッチを開いて噴射口を露出させた。


 肩に、今日3度目の火を入れて、再び爆発的な加速を得る。片足でなんとか体を起こして、その加速に体をのせた。最高時速に達するわずかな時間で、カリンに確認をとる。


「《宿舎にいるのは、奥さんと、バレットか》」

「まだ従者もラブレスもいるだろうし、とにかく急ぐ! 」

「《はい! 》」


 蒼い炎に変わった瞬間、会話が終わり、そのまま、コウが宿舎へと突撃をかけた。


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