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ベイラー、牧場へ行く

別の乗り手の家にお邪魔することもあります。

 道行く人々に頼まれる仕事を断りながら、コウが走っている。あれから椅子はすぐにコウに馴染み、いまや一部となって、カリンの快適なコクピット生活を約束していた。


 そう、ベイラーであるコウが、走っているのだ。


「窮屈だとおもっていたけど、案外いいものね」

「《もう走っても揺れを気にすることはないだろ? 》」

「ええ」


 カリンが操縦桿を握りながら、受け答えする。時折コウが左右に揺れるが、その衝撃は椅子につけられたクッションに吸収される。コの字型に作られた頭受けによってぶつかることもない。以前ならば動き回る時点で怪我をする可能性があった乗り手が、ここまでベイラーを激しく動かして怪我1つないのは奇跡と言えた。


「ネイラの驚いた顔は忘れられそうにないわね」

「《すっごい顔だった》」


 ベイラー病を予防するのに必須な、足を伸ばして寝る体勢を取る。これを可能にした、リクライニング機能付きの椅子を開発し、ネイラに見せにいったところ、スキンヘッドの頭が微動だにしなくなった。


 ベイラー病がなぜ起きるのか。そのメカニズムを知らないままリクライニング機能の付いた椅子を作成したために、ベイラー病との因果関係が説明できず、説得に時間がかかった。幸い、ネイラの医療知識でも、長時間同じ姿勢をとることで、血栓が出来ることを理解され、ベイラー用の椅子の普及が本格的に行われる手筈となった。


「でも、職人の数だって限りがあるし。すぐさまとはいかないでしょうね」

「《でも、ずっとよくなるさ》」


 ベイラーにとっても乗り手にとってもそれは有益である事に変わりはない。時間こそかかるだろうが、きっと普及すると、2人は疑わなかった


 そうして、他愛ない雑談を交えながら疾走していると、柵でかこまれた一帯に出る。そこにはラブレスがいる。この国の主なタンパク源である生物、恐竜のような外見で、頭からしっぽまでは長い。顔はひらべったく、細長い。嘴のないカモノハシのような顔をしている。


 そのラブレスが数頭、放し飼いにされている。

 しかし、コウには違和感があった。その正体もすぐに分かる。


「《なんだか子供のラブレスばかりだけど》」


 大人のラブレスがいないわけではないが、それでもかなりの数が子供のラブレスをしめている。


「ガレットリーサー牧場。ここのラブレスの肉は、他の国からも食べにくる人がいるって評判があるの。でも持ち直すのは大変でしょうね」

「《普段はもっと多いの? 》」

「ええ。 50はくだらなかったはずなんだけど、住民に与えたそうよ。今いるのは、食べられない子供のラブレスね。 最低限子育てするために、数頭大人のラブレスもいるようだけど」


 コウとカリンが訪れたのは、ただの牧場ではない。ガレットリーサー、つまり、バイツの家がある場所であった。


「《バイツさん、牧場をやってたのか》」

「奥様が取り仕切ってるそうよ」

「《いや、そうじゃなくて、納得したというか》」

「何を? 」

「《体型》」


 突如、カリンがコクピット内部で肩を震わせ始めた。もちろん感覚と意識の共有で、彼女が盛大に吹き出したのが分かる。


「そ、それ! 絶対バイツの前で言ったらだめよ! 」

「《で、でもそうだろう? あの体がなにでできてるか一発でわかるじゃないか》」

「そうね、ここのお肉が美味しいのも、育て方が違うんだとか、なんとか」

「《まぁ、今日はお呼ばれしたんだから、カリンも食べるんだろう? 俺は食べられなくて残念だけど》」

「焼いたお肉をコウに持ってくるわけにもいかないからね。我慢して頂戴」 


 速度を落とし、牧場を横目に通り過ぎる。すると、城というには小さく、一軒家にしては大きすぎる家が現れ始める。高さはそれほどではないが、横にやたらと広い。それは、ラブレスの舍も兼ねているからとコウが気がつく。


「広さだけなら、城と引けを取らないのが、バイツの屋敷よ」

「白い、ベイラー、ということは、姫様でいらっしゃいますか? 」


 屋敷の前に、首飾りをつけた婦人がとてとてとやってくる。やせ型で、落ち着きのある、堂々とした態度でそこにいた。その場で膝立ちになり、コウがカリンを下ろす。そのまま、婦人の歓迎を受けた。


 メヒンナ・ガレットリーサー。ガレットリーサー夫人である。


「奥様。お久しぶりね。お元気そうでなにより」

「ようこそおいでくださいました。主人は中でお待ちです。ベイラーのお名前をうかがっても? 」

「コウよ」

「コウ。珍しい響きですのね。ああ、決して変な意味ではなく、素敵なお名前かと思います。 コウさま、あちらに見える門からお入りください。息子に案内させますので」

「《わかりました 》」

「じゃぁ、また共に。コウ」

「《また共に》」


 バイツの奥方につれられ、カリンが中に入っていく。コウはそのまま、別の門へと向かう。その先で、少年がひとり待っている。割腹のよい体つきで、なにやらずっとなにかを眺めている


「《バイツさんの、息子さん? 》」

「しー! にげちゃうだろ!? 」

「《な、なにが》」


 すると、眺めていた先から、小動物が数匹、コウの脚元をくぐり抜けながら去っていった。その様子をみて、少年は頬を膨らませている。


「ったく!! せっかくジュリィが遊んでたのに、にげちゃったじゃないか! 」

「《ジュリィ……冬に冬眠する、あの小さなやつのこと? 》」

「ん? ジュリィのことを知らない? 」

「《まだ生まれたてなんだ》」

「生まれたて……白い体……ああああ!! 」


 今度は少年が大きな声を出してその場で硬直した。


「レイダの言ってたコウっておまえかぁ!! 」

「《へ? うん。俺がコウだ》」

「ほ、ほんとに真っ白だ。 でも肩が赤い。でもレイダの赤色とは違うなぁ。なんかくすんでる」

「《ズカズカいうね君》」

「てっことはカリン様がきたのか!? やっべ! 」


 少年はそのまま門をあけるものの、素早くどっかに言ってしまう。あまりの素早さに呆然としながらも、コウが名を聞いた。


「《名前くらいおしえてくれない? 》」

「バレット! 奥に兄上がいるから案内してもらうといい! 」


 バレット・ガレットリーサーはそのまま、カリンを追いかけるようにして屋敷の中に入っていく。姿が見えなくなるまで見送ると、開けられた門の中へ入る。


「《しまった。お兄さんの方の名まえも聞けばよかった》」


 中には、牧場でつかうものや、普段の生活で使うものからその種類は多数に及ぶ。しかし、倉庫といえばそうではない。


 ベイラー用の通路があり、そのまま進んでいくと、屋敷にそのままつながっているようだった。そして、その途中、懐かしい顔を見る。センの実でつけられたよりも深い緑色、戦うことが得意だという証しの、赤い肩。


「《お久しぶりです。レイダさん》」

「《――》」


 バイツのベイラー。レイダが、椅子に座って眠っている。彼女は先の災害の折、復興で長い間、寝ずに作業にあたっていた。そのおかげで近隣の井戸が治り、生活の安定にいち早く貢献したが、そのせいで、人間と同じ様に眠るクセがなくなってしまった。


 ベイラーの寿命は人間よりも遥かに長いが、睡眠の必要が人間より重要度が低い。重要度が低いだけで、眠らなくて良いわけでもない。コウがかつて、まだクセをつけていないころ、一週間以上眠ってしまったことがある。


 2ヶ月以上起きていたベイラーが、眠るとなれば、それはもういつ起きるか解らない。しかしバイツは、それで良いと許可をだし、こうして一角をレイダのために設けている。


 彼女がいつ起きてもいいように、この雑多な場所でも、レイダのいる場所だけは、綺麗に整えられている。


「《バイツさんがやってる? まさか》」

「その、まさかですよ。白いベイラーさん」


 脚元で声がする。ゆっくりと動くと、バレットよりは年上なことがわかる、青年とよべる人間がいる。


「《えっと、バレット君のお兄さん? 》」

「オルレイトと申します。オルと呼んでください。」


 彼をみて、おもわずまじまじと見てしまう。


 オルレイトも、バイツの息子のはずだが、その容姿はまるで似ていない。やせ型の、はねた髪が特徴的な男性だ。しかし、その目元は、見覚えがあった


「《 (……ああ、夫人似なのか) 》」

「母上にはもうお会いしましたか? 」

「《出迎えを受けたよ。カリンはそちらに》」

「そうですか」

「《……その、レイダさんの体が綺麗なのって》」

「ああ、それは」


 オルレイトがレイダの脚にふれて、その表面をなでる。その肌には埃1つない。


「父上はここで朝、レイダを拭いているんです。水拭きと空拭きで二回。城にいるときは、僕が代わりに」

「《……大切なんだ》」

「家族ですから」


 さも当然の認識として、オルレイトはレイダを家族と呼んだ。その事実が、コウにとってはなにより嬉しかった。


 レイダは、ベイラーでも傍にいる人がたくさんいる、寂しくない人なのだと、安心できた


「こちらへどうぞ。父上が待っています」

「《こっちは、ベイラー用?》」

「他の国からくる人のために、こうして人とベイラーとで通路を分けているんです。」

「《そうえばさっきそんな話を聞いたな。ラブレスの肉が、どうとか》」


 ガコガコいいながら、ベイラー用に設けられた広い通路を歩く。先導するオルレイトは、脚元をつかづ離れずで先導する。けっして無用心なのではなく、ベイラーと歩くのに慣れているようだった。


 しかし、初対面の人間で脚元の近くによられ、踏み潰してしまいそうで緊張してしまう。口にだすのもどうかと考えたが、怪我をさせるよりいいと考え、コウはその旨を伝えた。


「《その、オルレイト君。もうちょっと、距離をとってもらえると、うれしいのだけど》」

「はい?……ああ、すいません。レイダといると、どうしても近くなってしまって」

「《レイダさんとは、小さい頃から一緒なの? 》」

「曽祖父から、レイダは家にいてくれているそうです。バレット、ああ、弟も、いつもレイダに遊んでもらっていました。」


 バイツは、レイダの乗り手としては三代目である。彼の父も、そしてその父もまた、レイダの乗り手として長い間をすごしていた。


「どうかしました? 」

「《レイダさんって、この屋敷に長い間いるんだなぁって》」

「屋敷そのものは、もっと前からあるそうです。レイダがきてから牧場もはじめたとかで。その際、すこし拡張してます。入口がベイラー用に大きくないのはそのなごりなのです。」


 屋敷の構造を教えながら、オルレイトが、バレットの事を口にする。


「バレットの事は、申し訳ない。カリン様に会いたがってずっと興奮気味なんです。その上待つのは嫌いでして」

「《自分の乗り手に会いたがってる人がいるっていうのは、不思議な感じだ》」

「カリン様は、バレットにとって憧れの人なんです。」

「《憧れ? 》」

「カリン様は、強くて、美しいですから」

「《……うん。俺も、そう思う》」

「ベイラーから見てもそうなんですか? ベイラーにとって、人間でいう強さっていうのはあんまりピンとこないと思うんですけど」

「《一度、条件が重なったとはいえ、カリンに生身で倒された事がある》」

「……どうやって? 」

「《頭を蹴飛ばされた》」

「そんなまさか……いやまさか」


 カリンに対する話をしながら、コウはオルレイトの事を見る。思い出すのはレイダの事。今の乗り手はバイツであるが、このままいけば、バイツの息子たちを乗り手とするのだろうと、三代も乗り手を血筋で同じにしていたのだから、そう予想する。


「《 (きっと、レイダさんはまたここで乗り手を選ぶんだろうなぁ。でも、どっちだろう。バレット君のほうか、オルレイト君のほうか) 》」

「どうかしました? 」


 レイダがどちらを選ぶか、気にならないわけではないが、それを詮索して、お互いにいい気分にはならないことは、この短い時間でコウも理解した。


 オルレイトは、身長こそあるが、とても細い。肌の色も白いというよりは、青白さを感じる。健康、というには少々疑問が持たれる色だった。対して、バレットは健康そのものであり、ベイラーの乗り手になるのであれば、あのような丈夫な体の方が良い。不健康であるというのは、カリンやバイツの身のこなしを見ているコウにとって、乗り手として致命的に思えた。


「《オルレイト君》」

「オルでいいですよ」

「《じゃぁ、オル君、君は、体がどこか――》」

「おお! コウ! きたのか!! 」


 問いかけをすませる前に、大きな声がその場で響いた。見れば、先日、酒を飲むと傲慢な態度が抜けることが判明したバイツがそこにいた。しかし、普段と明らかに違う点がある。


 鍛えられた腹筋や上腕二頭筋、長くベイラーにのった結果であろう太くなった首、それら全てが露出している。つまるところ上裸であった。


「しまった。ということはもう約束の時間か。すぐ着替えねば」

「父上。鍛錬の時間をずらせばよかったんだよ」

「何をいう。ちゃんとずらしたんだ。興が乗ってしまったが」

「長くやってたら意味がないじゃないか。……父上、あとは、お頼みしていいでしょうか」

「ああ。ゆっくり休め」

「《……?》」


 オルレイトが、道案内の役目を父に譲ると、そのまま去る。違和感を感じつつも、先導をバイツに変えて進む


「面白い事をかんがえたものだな」

「《は、はい? 》」

「乗り手用の椅子のことだ。考えもしなかった。あの痛い思いをしなくなるっていうのは、寂しくもあり嬉しくもありだがな! 」

「《バイツさんでも痛いものなんですね 》」

「体中たんこぶばかりになる。だが、それもまた経験の証として誇れるものだ。怪我の元になるというのは重々承知なんだがな。みなそれが当然だと思っていた。しかし、そうか。椅子かぁ」


 云々唸りながら、バイツが大きな扉の前に行こうとしたのを慌てて静止する


「《バイツさん、服、服》」

「ああ、すまん。そうだ。着替えねば」

「《そんなに、乗り手用の椅子がきになりますか? 》」

「ああ、俺はまぁいい。……息子のほうが、気になってな。あやつは……少し」


 ◆


「体がよわい? 」

「バレットの方は、それは元気で困るくらいなのですが、その、オルレイトの方が」

「以前お会いしたときは、そんな風にはみえなかったのに」


 夫人と、長い机で隣り合うように語らうカリン。話題は、バイツの息子たちについてだ。


「元からそこまで強くなくて。最近、風邪をよく引くようになりました」

「お兄さんのほうは、たしか・・・・」

「21になります。バレットは15に」

「バレット、そんな歳になったのね」

「しかし、カリン様は、よく笑いになるようになった」

「その、ありがとう。そんなに笑っていなかった? 」

「氷が張っているかのようでした。でも、今や花が咲いているよう」

「……ありがとう。ここに来るのも、随分久しぶりな気がします」

「あの人ったら、まだ来ないのかしら……まぁ、それならそれで、お茶にしましょうか。新茶が入ったのですよ」

「では、ありがたくいただくわ」


 メヒンナが従者を呼び、お茶を用意させる。


 カリンとメヒンナは、というより、ガレットリーサー家とワイウインズ家は、特に今と先代から、家族ぐるみで交流がある。特にカリンとクリンは、この夫人と仲がよかった。


 運ばれたポットとカップは、この国のものではなく、外から持ち込まれた陶器製のものだった。


「これ、めずらしくなくて? 」

「肉の代金としてお客様が置いていかれました。これから御贔屓にと」

「絵が書いてある。可愛らしいのね」


 そのまま、お茶をいただく二人。話が途切れることはない。話が二転、三転しながら、朗らかに続いていく。


「冬場はだいぶ無理をなされたとか。いけませんよ」

「レイダに比べれば全然。 そうだ、牧場を手伝うベイラーは盗賊にさらわれていませんでしたか?」

「はい。 みな、欠けることなく冬を越せました。」

「そうよかった……本当によかった。奥様、聞いて欲しいのだけど、いいかしら」

「ええ。パームという、悪党のことですね」

「……どうして、お分かりに? 私の心をお読みになった? 」

「読んだのではありません。わたくしは知っているのでございますよ」

「フフ。そうでしたわ。すっかり忘れていました。夫人の前で隠し事などできないこを」

「隠してもいいのです。わたくしの前で、隠し続けることができるのであれば」

「では、それをやめてお話しするわ」


 そうして、冬におこった事件を話す。あの、残虐ながら狡猾でな男のことを。そして、名も知らぬ、カリンを助けた盗賊のことを。


 その話を、相槌を交えながら、じっと聞くメヒンナ。 


「あんな悪意の塊のような男、初めて出会いました」

「ええ、類をみない男でしょうね」

「判断も、その結果も、いままで行ってきたことを、根底から覆してくるような、そんな男でした……私、弱い女になってしまったかもしれません」

「それは、どうして? 」

「再び、あんな悪意に当てられて、正気でいられるか、怒り狂わない自信がないのです」

「カリン様、一つお考え直しください。怒りというのは、決して切り離せないものなのです。」

「……それは、どうゆう? 」

「人間の感情は道具のように切り替えなどできません。怒るときは怒るのもです。ただし、『怒り続ける』から、いざこざが怒るのです」

「怒り、つづける? 」

「誰だって腹は立ちます。ただ、それを思い出して何度も怒るから、その度にいざこざが起きる。カリン様、パームに出会ったのは、冬でしたね」

「え、ええ」

「ではそれ以降、お会いになったことは」

「ないわ。ただの一度も」

「では、カリン様は、怒った時の理由を思い出して、また怒っていらっしゃることになります」

「……ええ、その通りだわ」

「いちいち怒った理由を思い出すなど、おやめになるとよろしい。代わりに、楽しいことを思い出すのです」

「それは、なんだか、能天気でなくて? 」

「時と場合です。これが戦争ならまだしも。盗賊のことで、怒り続けることはありません」

「…そう、ね。些細なことでこんなに心揺さぶらされて、やはり、私は弱くなってしまったのでしょうか」

「いいえ。カリン様、それは違います。これから強くなるのですよ」

「これから? 」

「はい。酸いも甘いも噛み分けない人間が、果たして強くあれますか? 甘い汁ばかり吸った人間の末路は肥え太ったラブレスと同じ。誰かに食べられてしまいます」

「私は、いままで甘い部分しかすっていなかったのかしら? 」

「いえ、まだ味も解らなかったのでしょう。大丈夫。これから長く生きれば、いやというほど味わいますから」

「奥様のように? 」

「いえ、私以上に、できますとも」


 そのまま、茶器をおく。中身はまだはいっている。


「私、もっと、色々なことを知りたいわ」

「では帝都にいくのは、いかが?」

「帝都、あそこは……」

「しがらみが多いのは、わたくしめも理解しております。しかし、あそこ以上に、いま人間の英知が集まる場所をしりません」

「……考えて、おくわ」

「そうするとよろしいかと」

「なんだか、洗いざらい話してしまった気分。これもバイツが遅いせいね」

「でも、もういらしたようです」


 ばぁんと、扉がひらかれた。そこには、白いベイラーと、バイツ、そしてその息子バレットがいる


「お待たせしました、姫さま」

「いいわ。奥様と楽しいお話しができたから」

「そうでしたか。ささ、今日きていただいたのは、ほかでもありません。ラブレスの肉、その熟成が終わりましたので、ぜひ、自慢の品を食べていただきたくきたのです」

「熟成? 寝かせることよね? でも、よく数があったものね」

「これは嵐の前から用意していたもので、ゲーニッツ様にもお召し上がりいただきたい品です! 」

「自信あるのね」

「もちろん! 」

「じゃぁ、このお茶が飲み終わるまで、少々御待ちになって」

「わかりましたとも! 」


 カリンが静かにお茶を飲み始めた。バイツがうきうきしながら、バレットはカリンがそのお茶を飲み干す姿を凝視しながら、待つ


「奥様、お代わりを」


 そして、希望の絶たれた顔をした


「な、なぜです!? 」

「『お茶が飲み終わるまで』っていったのよ。その間に調理なさい」

「もう終わっております!!」

「あらそう。残念 奥様、また次の機会に」

「ええ、また共に」


 メヒンナがその場をあとにする。そのまま、扉の傍によった。バイツと並ぶことでわかる。メヒンナの方が背が高い。


「何を話しておったのだ」

「たわいない話でしたよ? では、私は牧場をみてきますので。くれぐれも、お仕事の話などなさらぬように」

「な、なぜそれを!? 」

「知っていましたからね」

「た、ただ自慢の品を食べていただくだけだ」

「ええ。そうすると良いと思いますよ。ほらバレット、いきますよ」

「し、しかし母上!? 」

「お前がいても森の木と変わりありません。この母を手伝いなさい」

「は、はい……」


 コツコツと靴を鳴らしながら、バイツは顔を青くしながら、バレットはカリンから目線をそらせず、コウはというと、バイツとメヒンナの力関係をつぶさに観察して


「実は尻に敷かれるタイプかもしれない」と想像をした。



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