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改造ベイラー

コウ君の受難その2

「《じゃぁ、あとはがんばれ。俺は休む》」

「あたいは往診。細かいのは信頼できる人に任せたから。あとよろしくー」

「え、ええ……」

 

 2人が、そのまま階段を使って降りていく。コウが捨て置かれたまま、カリンのテンションはだだ上がりしていた。


「いざ選ぶとなるとどれにするか悩むわね。うーん」


 カリンが品定めを行う。職人たちの手腕によって作り出されたその椅子は、どれも美しく、工芸品といって刺し違えがない。


「《具体的になにがどう違うんです? 》」

「まず、貼ってある布が違うでしょ。あと座るときの角度」

「《は、はぁ》」


 カリンより感性が若干乏しいコウには、並べられた椅子には大差がないように感じる。


「《もっとこう、わかりやすい差は? 》」

「十分わかりやすいとおもうけれど。あとは、材質ね。全部木で出来ているものと、少し鉄を使ってるものと、全部布でつくったやつ。私は布のフカフカがおすすめ!」

「《……なんかもうそれでいいんじゃないかな》」

「何いってるの。貴方の意見も取り入れるの」

「《俺の? 》」

「椅子を入れればいいっていったのはコウだもの。アイディアを出した人の意見を聞くのは当然ではなくて? 」

「《あ、ありがとう。なら……》」


 コウが思案する。生前乗り物を自分で運転するなどしなかった彼でも、車の後部座席にすわったことはある。思い描くのはその風景。


 自分が高速で動く物に乗る際に、どのような機能をもった椅子があったのか。


 そして、車の座席についていたある物が、自分にはないことを思い出す。


「《……シートベルトだ》」

「なに? 」

「《シートベルト。椅子と体を固定する装置、なんだけど、それがあるだけでだいぶ違うと思う》

「ベルトね。 たしかついているのとないのがあるわ。これとこれは除外して……」


 カリンが無造作に椅子を選別する。シートベルトがそもそもついていない椅子が取り除かれる。


「ほかには!? 」

「《あとは、……水筒だったり、お弁当だったり、とりあえず、荷物を入れるはこが備え付けられてるといいと思う。 》」

「いいわね。 でもそれは外付けでよくなくて? 」

「《それもそうか。 あとは……》」


 椅子を眺める。その中に3つほど、基部ごとに可動がある。


「《カリン、この椅子は? 》」

「ああ、これ? これはね」


 カリンがその椅子を操作する。 脇にあるハンドルを回すと、連動して足置きと背もたれが倒れてる。その光景はコウに見覚えがある


「《リクライニング!?!? 》」

「どうしたの大声だして」

「《そ、それは要るよカリン! 絶対いる! 》」

「そ、そうなの? 」

「《楽だし、なにより横になれる! 》」

「完全なベットにはならないけど、まぁそうね。横にはなれる。なら、この3つを基準に考えましょうか。」

「《……リクライニングする椅子をつくれるのか。 予想外だった。完全に寝床にできれば……カリン、あとでネイラさんに話があるんだ。 椅子選びが終わったら、いいかな? 》」

「ええ、構わないわ」


 カリンの了承を得る。ベイラーの中に椅子を入れる、この国では初の試みをうけて、この国からベイラー病がなくなる可能性ができる。ベイラー病は、足を伸ばせばそもそも起きない。リクライニングする椅子がこの国に普及すれば、根絶もゆめではない。


「コウ、さっきから機能の話ばっかり。デザインはなにもないの? 」

「《デザイン、かぁ。 でも俺疎くって》」

「張り合いないのね。 好きな模様はない? 綺麗だなぁって思った物とか」

「《模様……綺麗と思った物》」


 思い返すのは、どれもカリンと共に過ごしたこの国と風景ばかり。残念ならが、服や装飾品のデザインをひとつひとち覚えているコウではなかった。


「《あ。一個だけある。あるけど……》」

「歯切れが悪いのね?またいやらしいこと? 」

「《そんなんじゃない! ただ、難しそうだっておもっただけで》」

「どうゆうものなの? 」

「《赤い、宝石。 王様がつけてた王冠と、たしかカリンのにもついていたよね? あれは綺麗だなぁって。でもわざわざ椅子につけるのも……》」

「それって素敵! そうね! 装飾品として宝石をつける! いいわねそれ! 」

「《で、でもあれって貴重なものじゃ……》」

「大丈夫! なんとかする! 」

「《力強い。 じゃぁ、その、お願いします》」

「さて、あとは、こっち側の都合しかないわね。さて、どれにしましょうか!! 」


 ベルトがつき、リクライニング機能を椅子を並べてる。

機能そのものは本体についており、足置きと肘置きは組み替えが可能で、数十種類の形が候補に上がっている。コウが改めて椅子の出来栄えを見る。


「《エングレービングとは違うのかな。金色の線が走ってなんかもうすっごい》」

「職人の腕がいいのよ。 この城の工房で作ってるから、もしかしたらすれ違ってるかも。さてと」


 あれでもないこうでもないと組み替えをおこなるカリン。決して楽ではない作業を、悠々をこなす。 その間に従者たちがコウの周りに集まってくる。指揮を取るのはマイヤであり、先ほど切り開かれた肩に薬をぬっていく。ベイラーの怪我を治りを早くする薬である。


「《あ、ありがとうございます》」

「ネイラ様からの仰せです。」

「《ああ、信頼出来る人って、マイヤさんでしたか》」

「治りがはやくなったとか。」

「《はい。ですから、あんまり薬を使わなくても、俺に使うなら他のベイラーが怪我した時のために取っておいてください。》」

「せっかくの綺麗な白なのですから、綺麗に治るようにと。いけませんか?」

「《じゃぁ、はい。お願いします》」


 複数人の従者が、肩に薬を塗っていく。その所作によどみはない。


「《ネイラさんがそんなことを》」

「包帯を巻きます。肩は動かせますか? 」

「《はい。》」


 ベイラー用の大きな包帯で、かぶせるようにしていく。赤い肩が姿を見せなくなった頃、マイヤが呟く


「たしかに、ネイラ様から薬を塗るようには言われました。しかし、綺麗な肌だといったのは私です」

「《は、はい? 》」

「目の悪い私でも、はっきりとみえるその色が傷つくのを見ているのは心苦しいものがあります。だから、早く治してくださいませ」

「《ご、ごめんなさい……あ、ちがった》


 コウが、自身の発言で目をしかめるマイヤをみて、言葉を変える


「《ありがとうございます》」

「はい。どういたしまして」

「《マイヤさん、目がわるかったんですか? 》」

「見えないわけはないのですが、どうにも」

「できました!! できましたとも! 」


 カリンが歓喜の声をあげる。その先には、10個の椅子を組み替えて作り上げられたカリン手製の椅子が、2つ並んでいる。


「あら、マイヤどうしたの? 」

「コウ様の傷を治しておりました」

「そうだったの! ありがとう。 さてコウ、ちょっとこれ持って。仮止めしてみるから」

「《分かった……どうやっていれるの?》」

「私が触りながら入れば、椅子もいっしょに入るはずよ」

「《なるほど。姿勢はどうする? 》」

「とりあえず座ってくださる? 」

「分かった。 マイヤさん、動くのでどいていただけると」

「丁度終わりましたので、いま退きます」


 コウが立ち上がり、近場にある椅子に座りなおす。そうして、カリンが持ってきた椅子を手にする。

カリンがその椅子に触れながら、ゆっくりとコクピットの中に入る。目論みは成功し、椅子も一緒にコクピットの中に入っていった。琥珀色の表面がいつもより大きく波打つ。


「《カリン、ちょっといいかな 》」

「うん? どうしたの」


椅子を置いて具合を調節しながら、カリンが応える。


「《マイヤさんの目つきって、あれ、そういう顔なんじゃなくって、もしかして目が悪いからずっとああなってるの? 》」

「そうなの。 目を細めれば見やすくなるとかでいっつもとんがってる。でも決してコウを悪く思ってる訳じゃないのよ。 誤解しないでね? 」

「《それはもう》」

「なんとかしようにも、怪我しているわけでも、完全に見えない訳でもないから、お医者様もお手上げ。」

「《そう、なんだ》」

「本当は美人で、気立てもいい人なのよ。笑った顔も素敵。なのに、結構怖い目つきになってしまうでしょう? 損をしているのよ」

「《そっか》」

「なに? マイヤが気になるの? 」

「《色を褒められた。綺麗だって》」

「あら、そう。よかったじゃない」

「《カリン、眼鏡って知ってる? 》」

「眼鏡? 知ってるけど」

「《それ、マイヤさんがつけたら、目がよくならないかな》」

「何度も勧めたけど、あれ、仕事の邪魔になるっていって聞かないのよ」

「《仕事の邪魔? 眼鏡が? 》」

「ええ。ずっと手に持ってる訳にいかないでしょう?」

「《ちょ、ちょっとまって。 眼鏡の話だよね? 》」

「眼鏡の話よ? 」

「《操縦桿握ってくれる? なんか話が食い違ってる》」

「いいけれど、眼鏡は眼鏡以外何もないでしょうに」 


 カリンが操縦桿を握り、視界と意識の共有が始まる。

お互いの眼鏡のイメージを共有する。そして、両者が叫び声を上げた。


「《手持ち!?!? 》」

「耳にかけた!?!?」


 丸いレンズが2つあるのは同じだった。その先が違う。コウの知っている眼鏡とは、つるが伸びて、耳にかけるもの。カリンの知っている眼鏡は、つるがなく、縁を手でもって使うもの。


「《そ、そうか。 片手ふさがってたら家事できないもんな 》」

「これ、折りたためるの? 細かいのねぇ 」


 感嘆の声がお互いからあがり続ける。


「《……それでさ、カリン。これ、作れない? 》」

「折りたたむのは難しそうだけど、そのままでいいなら、たぶんできるわ」

「《きっと喜ぶよ》」

 

操縦桿から手を離し、作業を続ける。カリンが椅子の位置を決め、釘で一箇所仮止めしようとする。コウが不安に駆られて声をかける


「《指に気をつけてね? 》」

「剣に比べればこのくらい」


 瞬間、くぐもった声が聞こえたと思うと、コクピットが揺れる。


「《……カリン?カリン? なんか声が》」

「大丈夫、ええ、大丈夫。」

「《ほ、他の人にやってもらう訳にはいかない? 》」

「コウは、私以外の人間がコクピットに入っていいっていうの? 」

「《それは、嫌だけど、釘打ちしたことなんてないんだろう? 》」

「やってみせます。やってみせますとも」


 悲鳴と揺れが何度も繰り返される。その都度、コウが声をかける見かねた従者が傍にきて、釘打ちのコツを教える。もはや意地であった。やがて悲鳴が聞こえなくなり、小気味よい音が数度。コウの視界がコクピット内部の物へと変わる。


「《取り付けしたんだ》」

「ええ。やってみせました。 」

「《指、大丈夫? 》」

「親指をちょっと打っただけ。大丈夫」

「《後でネイラさんのとこ、一緒に会いにく? 》」

「……いきます」

「《椅子の心地はどう? 》」

「御待ちになって。」


 椅子の乗り心地を確認すべく、カリンがコクピットの中で体を揺らす。腰をぐるりと囲むベルト、取り替えできる布の下地。背もたれは頭までおよび、コの字型になった部分でカリンの頭を受け止める。肘置きには袋が備え付けられ、中にはペンと紙。容量にはまだ余裕がある。デザインは豪華というよりは、堅実な作り。脇にあるハンドルを回し、リクライニングを試す。


 ゴトゴトと鈍い音を出しながら、背もたれと足置きが連動して倒れる。スムーズとは行かずとも、しっかり機能は果たされている。そのまま真っ直ぐになった椅子に、カリンが横になる。


「うーん」

「《気に入らない? 》」

「ベットの様にふかふかとは行かないはしょうがないわね 」

「《寝心地はよくないのか 座り心地は? 》」

「わりといいから気に入らないの!あんなに用意してたのにこんな簡単に決まってしまって悔しいの! 」」

「《そんな理不尽な あ、でも》」

「何? 」

「《ベルトは二箇所のほうがいい。腰と、胴体を斜めに止めるようにで二箇所》」

「大剣を背負う時のように? 」

「《それだ。 そのほうががっちり固定される》」

「じゃぁ追加する。他には? 」

「《頭のやつにもクッション、というか布をつければいいと思う》」

「そもそも、この頭の部分邪魔じゃなくて? 」

「《揺れるときにそこに頭を押し付ければいいんだ。打たなくて済む》」

「……ああ、なるほど」

「《でも、押し付けたときに擦れるだろうから、そこにも取り替えの効くクッションを付けたほうがいい 》」

「色々考えてくれてるのね 」

「《もうあんなに気絶させたくないんだ 》」

「……ふぅん」

「《まって。チャンスをください。ちょっとまって》」


 久しぶりのカリンの「ふぅん」発言を受け、自分の言葉を選びなおす。この言葉を使うときはカリンの求められる言葉と違う言葉を使うときであっただがこれまでの経験で、コウが選ぶ言葉が「わからない」ということが少なくなってきている。進歩といえた。


「《カリンが心配なんだよ。決闘の時やパーム時みたいに、共有が突然切れるのは、もう嫌なんだ》」


 コウが言葉を変えて伝えると、カリンが目を丸くする。


「そんなに気にしていたのね。ベイラーに乗るならよくあることなのに」

「《カリンが怪我するのとは話が別だろう? 》」

「じゃぁ、怪我しないように守ってくださる? 」

「《当然》」

「いいお返事。 本止めするけど、少し痛むから、暴れないでね? 」


 コウが疑問を口にする前に行動を始める。使うのは釘ではなくノミ。椅子を立てて、コクピットと接する面を適当に削る。綺麗に磨かれた品がカリンの手によって毛羽立っていく。


 椅子側を終えたら、今度はコクピット側。ここまでの経験で、多少なれたカリンの作業はすぐに終え、毛羽立たせた面と面をあわせて抑える。


最後の仕上げに、コウに指示を飛ばした。


「椅子をおさて欲しいのだけど、コクピットのサイクルを回せて? 」

「《やったことある。お任せあれ》」


 コクピットの中がわずかに揺れ動き、椅子を固定する。毛羽立たせた面が合わさることで、接木をおこなう。こうするとで、釘を使うことなく、コウの内部に椅子を固定することが可能となる。


 10本の釘を使って固定するよりも丈夫でしなやかな、ベイラーならではの固定方法だった。


「《こうかな? 》」

「お上手。 ベルトと布を入れて、コウなら1日もしないで治るでしょうから、そしたら完成」

「《だいぶ楽になるね》」

「そうだといいけど」


 カリンがコクピットからでて、狭い場所での作業で固まった筋肉をほぐす。


「ベルトって窮屈で嫌なんだけれど、身を守る為っていわれたら、しょうがないわね」

「《俺からしたら、いままでよくやらなかったなっていいたいけど》」

「コクピットの改造なんて貴方が初めてだもの。普通そんなことしない」

「《旅に出るとき、コクピットが充実してたら便利だとおもうんだけどなぁ。荷物とか中にいれてさ》」

「ベイラーが持ってしまえばいいんだもの」

「《……そうか。そっちのほうがたくさん持てるのか》」

「でも、心配してくれたんだから、私からは何もいいません。」


 ふと、コウがのこった椅子たちを見る。どれも素晴らしい品ばかりでありながら、役目を果たすことなく終わりそうなその品が、これからどうなるのかが気になった。


「《残りの椅子はどうするの? 》」

「飾るくらいしか考えてないわ 足がないから普段で使うこともできないし」

「《そしたら、他のベイラーに配るのって、どうかな? 》」

「……飾るよりはいいか。 つけたがる子がいたら、そうしましょう」


 そのまま、カリンが降りて、突如従者を従えてどこかへ行こうとする。


「《カリン? 》」

「お昼ご飯をいただいてくるわ」

「《そ、そうか、そうだね! もうそんな時間か》」

「だから寂しそうな声ださないの」

「《そんな声だった? 》」

「コクピットの中で食べるのもいいけれど、今は椅子をつけてる最中だから、またこんどね」

「《わ、わかった》」

「じゃぁコウ。また共に」

「《また共に》」


 医務室から去っていくカリンとその一行。さきほどまでの喧騒があったのが嘘のように静寂が訪れる。


「《……寂しい、か》」


 腹を撫でる。普段ならばそこにいる人が、今以内事実に、たしかに寂しさを覚えている。それは、コウにとって懐かしく、久しい感覚だった。


「《お昼がすぎたら、ガインさんのとこに行こう。ベイラー病の予防について話せるはずだ。 きっとネイラさんもいるだろうから、眼鏡についても言っていいかもしれない。あとは……》」


 寂しさを紛らわすために、ひとりごとを言い聞かせる。


「《しまった。肩を塗る話、いつやるのかきいてない。椅子がくっつく後ならいいんだけど》」


 口を止め、静寂が再び訪れる。


「《……嘘だろう俺。1人が寂しいとか、嘘だろう俺ぇ!!?? 》」


 自覚してから、その寂しさはさらに強くなっていった。


「《明日の事を考えろ。明日、何をするか、どんなことするか。紛らわせろ!! 》」


 ベイラーの医務室から、なにかうなされる声が聴こえるときき、ガインが戻ってくるまで、コウの1人言葉は永遠と続いた。



◆ 


「ふあぁああ。 暇でしょうがねぇなぁ 」


 サーラへ続く街道。ゲレーンから発った一行が出てすでに1週間が経過した。

先頭をクリン・バーチェスカが行き、100を超える行列が、2列で厳かに進んでいる。天気にも恵まれ、食料も水も、十分にある中での進行だった。


その2列の中腹。サーラからきたベイラーたちに囲まれながら、同じくベイラー製の格子の中で、男があくびをしながら体を動かす。


「揺れるのはどうにかなんないのかね。これ」

「黙ってろ」

「おうおう。怖い怖い」


簡素な服をきせられ、手を縛られならが、唯一自由に動く足で器用に耳をほじる。この男の他に13人、同じようのされて格子の中で雑魚寝していた。思い思いの過ごし方をしているものの、娯楽など格子の中にはない。


再び、格子が揺れる。ベイラーが四人掛りで運ぶために揺れが最小限ではあるものの、0にはならない。前方のベイラーに男が話しかけた。


「なぁ乗り手さんよ。この先、山越えがあったよな? ベイラーがこんな調子で大丈夫なのかよ。振り落とされたらたまったもんじゃないぜ」

「振り落とすならとっくにやっている。山を超えるといっても迂回するだけだ。いいから黙って座ってろ。」

「はいはい。 でも山越えするなら言ってくれよ。 足だけでも捕まってなけりゃこの鳥籠の中で俺たちしんじまうよ。」

「調子のいい男だ。 伝えてやるから今は大人しくしてろ」

「はーいよ。お優しい乗り手さんだ。ついでに大人しくしてるからさ、おしゃべりにでも付き合ってくれよ。 暇すぎて死にそうなんだ」

「……なにがしたいんだお前は」

「いやね、これから俺が裁かれるらしい国は初めてなんだ。えっと、なんていったっけ? サバ?」

「サーラだ。侮辱しているのか」

「学がねぇもんでね。 土地の名前おぼえられねぇんだ。 で、どんなとこなんだよ? 」

「海がある。」

「海! きいたかお前ら! これから行くとこには海があるんだとよ!! 」


 格子の中が一瞬で騒がしくなった。


「俺はじめてみるぜ! 」

「でっかい水溜りなんだろう!?」

「しょっぱいってきくぜ! 」


 皆が思い思いに騒ぎ始める。


「ええい! うるさいぞお前たち! 」

「いいだろう別に。何もしたりしないさ メシだって食わせてくれてるんだしな」

「クリン様に感謝するのだな。場所が場所なら即刻首がはねているところだ」

「クリン様ねぇ。俺たちにメシを食わせてくれてるのはクリン様だってよ!」


 一層騒ぐ男たち。中には口笛を吹いて騒ぐ者もいる。


「ええい、静かにしていろ! 」

「悪いねぇ。すぐ静かにさせるから」


 そう、男が言いながら、騒ぐ連中に交じる。中心部に入っていくと、男たちがその騒ぐ輪を広げ始める


男が小声で話し始める。囃し立てた声で、4人のベイラーも、その乗り手も、聞こえていない。

 

「もうすぐ山越えだ。 そしたらかならずチャンスが来る。それを見逃すな」

「へい」


そして男ははやし立てる仲間たちに混じって、何事もなかったように騒ぎだした。


「まったく、この揺れでどうにもならねぇとは、流石このパーム様が鍛えた野郎共だ。なぁおい! っへっへっへっへっへ!! 」


パーム盗賊団と、その首領、パーム・アドモントが変わらぬ笑みでそこにいた。

 


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