治療するベイラー
ロボットだって怪我をします。そうしたら治さなければなりません。
辛くも勝利を収めたコウとカリン。彼らを待っていたのは祝勝会でも反省会でもなく、すみやかな下山だった。コウが生まれた巨木『ソウジュの木』は山奥にあり、天候が悪くなれば山からおりれなくなる。そうでなくても山のど真ん中で野営するほど彼らの準備も整っていなかった。
《(もしかして、ゲレーンってド田舎では)》
コウが持つこのゲレーンに対する感想はその一言だった。まだ山から完全に下りていないが、そもそも彼にとって山があり、森が鬱葱としげった景色とその単語は同じ意味だった。そんな彼はあの決闘で足が折れて使い物になっていない。歩くことさえままならない彼がなぜ下山することができているのか。
《悪いね。運んでもらって》
「いいんだよ。仕事なんだから」
7mの木製ロボット生命体。ソウジュベイラー。それが彼の今の体の名である。体が壊れようと痛みはなく、代わりにいとも簡単に壊れる。この下山の最中も同行していたベイラーが足を滑らせ腕を壊している。だが一番重症なコウと、決闘の相手のレイダは、担架にのせられ慎重に運ばれていた。
担架。そう担架である。7mの巨体をささえ、2人で前後に配置しもちあげるあの担架で、コウは運ばれていた。決闘後、一番ボロボロになり、すでに体から零れ落ちそうな左腕が、人間と違い釘で仮止めされている。
《(まぁ、僕の体、木だしなぁ)》
決闘の後、倒れてしまった自分の腕に、即座に釘が撃ち込まれていく様子をみて、本当にこの体は人間ではないのだと実感していた。
「しかし、あのレイダに勝つとは。なかなかやるね」
《ど、どうも》
「あたいはネイラ。こいつは相棒のガインだ」
《よろしくな。えっと》
《コウです。よろしくお願いします》
前にいるベイラーの中から声がきこえている。少しハスキーな女性の声。そしてもう一つ。その女性が操る男性の声がするベイラーが笑いながらコウに話しかける。そのベイラー、ガインは、決闘の時に戦ったように体が緑であったが、レイダよりわずかに薄い。さらに白い布を肩に巻き付けているのが特徴的だった。
《サイクルショットの中に突っ込んでいった時にはどうなるかと思ったぜ》
《は、ははは》
「それで姫様を守った。大したもんだ」
《でも、レイダさんの両腕が……》
お互いに納得づくでの決闘。そこになんの後腐れもないが、レイダの両腕をコウは切り落としている。今後彼女は両腕なしに生活していかねばない。そう考えると、見舞いの一つでも行かねばならないと思っていたが、そんな考えは次の発言により消し飛んでいく。
《何。接ぎ木したから大丈夫さ》
《接ぎ木? 》
「断面が綺麗だったから、あれならすぐくっつくね」
《くっつく?? 》
接ぎ木。二種類の枝を人為的にくっつけて一本の木にする、現代日本でも園芸で使われてる技法である。
《だから、レイダの両腕は大丈夫だ》
《それで、治るの? 治っちゃうの?? ……え、じゃぁこの左腕はなんで? 》
コウは自分の仮止めされた左腕をみておもわず抗議した。接ぎ木で治るであれば、自分の腕も同じようにすれば、何も釘を打ち込む必要はないはずだと。
《お前のは応急処置だ。断面がベコベコで、本格的に治すにゃここじゃ材料が足りん》
《へ、へぇ》
《まぁ俺たちにとってはあのくらい日常茶飯事だしな。しかしお前、体の事全然わからないんだな》
《その、お恥ずかしながら》
ベイラーは、ある程度の知識を持ったうえで生まれてくるのが通説のようで、だがコウにはそれが当てはまっていない。
《じゃあ、姫様と一緒に勉強会に参加するんだな。初めて乗り手になった奴はみーんなやるんだ。お前もついでに参加しちまえ》
《そうします、あ、そうえばカリ―――姫様の家ってどういうのなんです?》
《でっかい城さ》
《城? やっぱり石を積み上げた壁とか、そんな感じなんですか?》
《石ぃ? ありゃ、ここの寒さに耐え切れねぇからな。だから俺たちと同じだ》
《(僕たちと同じ?)……待って。ここ、寒いの?》
《まだ暖かいけどな、冬になればすぐさ……おっと見えてきたぜ》
「コウ君! 姫様を起こしてやんな! 」
《わかりました》
返事を返しつつ、首だけを動かして、ガインの言う城を一目見ようとする。山の裾のに人が歩いているのが見えて、たしかに村以上の集落、まさしく国というべき規模の人口がいるような雰囲気を感じる。
《(……どこだ? )》
しかし、コウにとって城のイメージは二通りで、戦国時代にあった、屋根に金色のしゃちほこがのった日本の城か、シンデレラが舞踏会にいくような、煌びやかな城かのふたつ。だが目の前にある光景はふたつとも違っていた。まず、そんな高い建造物がなにもない。どれも木造のログハウスがほとんどだった。だがひと際目立つものがある。
《(確か櫓とか言う見張り台だ)》
櫓。コウの言う通り、主に城の外部に作られる建築物である。これも例によって木製で他の家屋よりも高い位置にある。櫓の前には門があり、その下には堀もある。その中には水がとおっている。
《いや、でも城がないぞ》
城の周りにあるべき建造物は確かにある。だが肝心の城がない。代わりに中央にあるのは、見上げるような巨木。すでにその木には葉どころか、枝すらなく、枯れているのが分かる。高さは300mほどあり、ところどころ穴が空いていた。
《あの、お城なんてどこに? 》
《アレだよ。おーい》
ガインが大きく手をふる。すると、その巨木にあいた穴から、人間がこちらにむかって手を振っているのがみえた。
《まさか、あれって》
コウがもう一度巨木を観察する。あまりの大きさに目がくらんでいたが、よく見るとその枯れた幹は、わずかに白い色を残している。この瞬間、城がどこにあるのか、そして何でできているのかを理解した。
《ソウジュの木じゃないか!? もしかしてあれに人が住んでるのか!?》
「あれが姫様が、そしてあたいたちが住むこの国の天然の城さ」
《歓迎するぜ、新入り》
コウは、なんどもこの国の事を田舎だと評していた。それは風景からとった印象でしかなかったが、目の前にそびえたつ城をみて考えを改める。
《(自然を大切にしている訳じゃない)》
コウは、生前地球環境など目もくれたことはなかった。模範的学生になるため、空のペットボトルをポイ捨てすることはしなくても、ペットボトルを使わないという選択肢がでてこない。ペットボトルに使われるプラスチックごみを減らせば地球環境の悪化を防ぐことができるらしい、というのは頭の片隅にありながら、道端に転がるポイ捨てされたごみを見るたび、自分1人がどうにかしても、意味や意義を感じることができなかった。
《自然と、一緒に生きてるのか》
エコロジーを意識するでもなく、生活水準レベルで浸透している光景におもわず目がくらんだ。いままで灰色の駅しか感じたことのないコウは、広大な森をみても、それが緑色であるとしか認識できなかった。森に対する解像度が低い。森の中には綺麗な花もあれば甘く実った果物もあり、木の幹はそもそも緑ではない。森は緑色だけではない。
《そんな国の姫様なんだな。この人は》
「zzz……わたしの……ベイラー……ムヘヘヘヘ」
そんなコウの解像度をあげてくれた彼女は今、胸にあるコックピットの中で眠っている。コウはその寝顔を独占した。他人に見せるには惜しい寝顔だった。
◇
城に着くとそれぞれ帰路についていった。この時、レイダやガイン以外にもたくさんのベイラーが周りにいたことに気が付く。彼らにも乗り手がいるようだったが、何人かは乗り手を降ろしそのまま別れている。
《僕も、誰かについていった方がいいのかな》
「もう歩けるの? 」
目を覚ましたカリンに己の指針を問う。寝顔の独占は魅力的だったが、まだコウにはこの国、ひいてはこの世界について知らないことが多すぎた。それを説明してくれるカリンは必要だった。
《誰か手をかしてくれれば、なんとか》
「そりゃそうよね……ガイン。そのまま頼める 」
《おうさ。友を見捨てる訳ないでしょうや》
「友? もうお友達に? 」
カリンがコウに初めての表情をみせた。それは自分のベイラーに友達ができた事への無邪気な喜び。そこには決闘の最中にみせた、人を威圧するプレッシャーや、号令をかける華麗なカリスマは無い。同じ人物でも表情がこうも変わるのかと、コウは感心した
《えっと、はい。話相手になってくれ》
「良かった、馴染めてくれて。初めてでいきなり他のベイラーと決闘させてしまったから、何か嫌なイメージを持っていないかって心配だったの」
《そうえば、バイツさんは》
「お父様にあっているはずよ。私も行くの」
《そしたら、僕も一緒に》
「ダメよ、あなたの体がきっちり治ってから会うんだから。それまではゆっくりして」
《そっか。ボロボロのままで会ったら失礼か》
「それではガイン。よろしくね」
《はい。新入り、こっちだ。立てるか?》
《やってみます》
担架から立ち上がろうとする。予想通りガキガキと耳障りの悪い音が上がり、コウ自身まだ無理だったかもしれないとあきらめかけたが、力そのものは失っておらず、かろうじて立ち上がることができた。しかし、カリン抜きで歩こうとすると、やはりバランスを崩し転倒しそうになる。しかし脇に控えていたガインが、スマートにコウを支えて見せた。
《あ、ありがとう》
《いや、立ち上がったばかりでこれなら十分だ。重心は俺に寄せていいから、歩くことだけを考えろ》
《歩く、歩く》
骨折した人間のリハビリとやっていることは同じだった。カリンと別れた彼らは、現在城の中の、ベイラー用歩行帯と呼ぶべき場所で歩いている。意図的に道幅を広く、天井を高くつくられたその空間にはすでにガインの他にこのスペースで数名のベイラーとすれ違っている。すれ違ったベイラーすべてが、隣で支えてくれるガインと同じ緑色をしている。
《僕の色が珍しいってこういうことか》
《それもあるが、みんな塗ってるんだ》
《塗る? 》
《『センの実』っていう、潰すと色がにじむ果物があってな、それを体につける。だから、別にみんな緑ってわけじゃない》
《……どういうこと?》
《お前と戦ったレイダは元から緑色だけどな。肩が赤かったろ? あれは、この国で特に戦いの上手い奴だけが塗っていい色なんだ。赤いセンの実は貴重だからな。ほかにもいろいろあるが、全身緑色にするのは、この地にしばらくいていいって奴らが塗ってもらうのさ。緑はセンの実でも一番多くとれる。同じ色にしてもらうと、ここが故郷だって言えるんだろ? 》
《色に、そんな意味が》
ふと、コウは他の場所がどうなっているのかが気になった。この歩行帯ではまだ人間と遭遇していない。であればこの城の何処に人間がいるのか。
《ガインさん》
《ガインでいいぜ。俺もお前をコウって呼ぶ》
《えっと、ガイン。他の人は?》
《人間用の場所だろうな》
《人間用?》
《この城は人間用、ベイラー用、共用の三区画に分かれてる。俺たちが今通ってるのはベイラー用だ。だから人とすれ違わない》
《区画まで分かれてるんだ……なんで?》
《なんでってお前、うっかり人間を踏みつぶしたりしたくないだろう?》
いとも平然と言われて、絶句するコウ。それはベイラーにとって、その系統の事故は起こるべくして起こる事故であり、未然に防げるのであれば、防ぐに越したことはないのだと、この城や、国の人々は、そういったリスクを承知の上で共に暮らしており、むしろ、物事の基準は人間ではなくベイラーの方に定められている事を感じさせた。
《(あれ? でも僕らは種で、遠くにいくはずだよな。なんでこんなにベイラーが大勢居るんだ?)》
国の事情を知ると、ベイラーの存在意義との乖離に行き当たる。もし自らが種であり、遠くに行くためにベイラーがその知恵を借りるべく、人間を乗せるスペースを用意しているのであれば、こうしてたくさんのベイラーが一か所に集まっているのは片手落ちと言える。すでにソウジュの木は1日でいける距離の山の中にあるのだ。
《(なにか訳でもあるのか)》
《コウ、コレに乗るぞ》
《ああ、すいません……ってなんですこれ》
疑問が頭の中で渦巻いていると、格子状の籠が目の前に現れる。例によって木でできたその籠は、ベイラー数人が入れるほど大きく、コウとガインをのせてもまだ余裕がある。ふすまのようになっている格子を動かし、乗り込んだ瞬間、その籠自体が揺れはじめ、おもわずガインに必要以上に体重をかけてしまう。
《な、なんなんですかこれ!? 》
《元気がいいな。しっかりしがみついとけ》
ガインが陽気に答えつつ、上にむかって叫んだ。
《おーい上げてくれえ! 》
《あげる? 》
次の疑問にこたえるより前に事が進む。コウ達の乗せた籠が、ガコ、ガコ、ガコと、上へと昇って行った。この時、コウがこの籠の正体に気が付く。
《エレベーターか! めっちゃ楽!》
《えれべ、なに?》
《ああ、いえ何でもないです》
《この登り籠のおかげでだいぶ怪我をするベイラーが減ってな》
《(まぁ、ベイラーって人がいないと歩くのもままならないし)》
《階段もあるんだが、お前を連れては無理だ》
《(ん? 動力は? これ何で動いてるの?)》
やがて籠が上り切ると、そこにはたくさんのベイラーが椅子に座っている光景が目に飛び込んでくる。誰もかれもコウと同じようにどこか怪我をして仮止めされていた。そして、登り籠からでると、その動力が判明する。
《ありがとうな!》
《いいってことよ》
《(動力ベイラーだったぁ! 綱引きだぁ! )》
登り籠の原理は大変シンプルで、滑車で籠を人力ならぬベイラー力で引き上げているだけだった。数名のベイラーが呼びかけに応じ綱を引くことで籠があがり、綱を話して籠を降ろす。
《(ああ、登る時しか使わないから登り籠)》
命名の法則に納得しながら、ガインに促され椅子にすわる。完全に介護のソレであった。
《さて。相棒がくるまでしばらくまっててくれ》
《わ、わかりました》
「もういるんだなぁこれが」
《なんだ。ネイラ。もう診察はいいのか? 》
「急ぎの人もいないから弟子に丸投げしてきた」
《いいのかよそれ》
「でもその子、すぐ診ないとだめかなぁって」
《まぁそうだな。コウ、今から……どうしたよ》
《どうしたって……え? 》
コウは目の前の光景が今度こそ信じられずにいた。ネイラの声は聞いており、頭の中でなんとなくの想像図を描いていた。ハスキーな声に姉御肌な性格。きっと素敵な女性であると信じていた。髪はさらさらのロングヘアーか、すぱっと切ったショートヘアーか、どちらかであろう。どちらでもよかった。
だがそこに居たのは、白衣のような白く長い服を着た男性だった。それもただの男性ではない。服裾からでもわかる太く大きい腕。正面からでもわかる隆起した僧帽筋。裾から覗くはち切れそうな大腿四頭筋。
端的に言えばムキムキのマッチョである。髪なんてものもなかった。そのスキンヘッドは日差しを受け光り輝いている。
《(……声で、人の外見を判断してはいけない)》
戒めとしてコウは刻んだ。もう消えることはない。
《あの、今から何を?》
「左腕を治すんだけど、生まれたてなんだから、まず払ってやらないと」
意味も分からず、とりあず、ベイラー用の大きな椅子に座る。そうして待っていると、ネイラが棒を持ってやってくる。こん棒にしてはずいぶん長い。
「足からやってくからねー」
《ま、まさかその棒で僕を叩くんですか!?》
「ん? ああ、違うよ。これはこうして」
棒で叩かれるかと身構えるが、ネイラが笑いながら否定する。慣れた手つきで棒に毛足の長い布を手早く巻いて、留具で留めた。真新しい繊維質の布は、雑巾にも見える。
「足、膝を伸ばしたまま浮かせられる? 」
《こうですか?》
ネイラの指示通り、座ったままで右足を少し浮かせる。踵が地面から少し浮いたところで、足を伸ばしていく。ギギギギと、例によって木が擦れる音がする。いつもより音が甲高い。
「ごめんね。あたいもガインもレイダに付きっきりで。君たち、肌はすぐ良くなるんだけど、こういう隙間のはあたいらが取っておかないといけないんだ。もうちょっと時間が経てばそれもいらなくなるけど、君はまだ生まれたてだし」
ネイラが両手を使って、取っ手をぐるぐると回す。複雑な形だったのは、棒を回転させる機構があったからのようだ。そのまま、ちょうど足首にあたる部分をこすられる。バババババと、すぐに足首からあらぬ量の何かが出てきた。
《な、なんですかそれ?》
「ん? 君から出た木屑だよ。動いたときの削りカス。サイクル回しても細かいのは溜まるんだ」
足首、足の裏、膝、両足。順々に、ネイラは手早く払っていく。なんというか、とてもむずがゆい。しかし、嫌な感じはしなかった。
《気持ちいいですね、これ》
「でもここまで。残りは君の左腕が治ってから。あとは……ガイン! 出番だよ! 」
《あいよ。じゃ、治療といこうぜ》
ネイラがガインに乗り込む。コウの左腕につけられた仮止めを少々強引にひっぺがし、その惨状を目の当たりにした。
「やっぱり……レイダの針が残ってる」
《こりゃ時間かかりそうだ》
《あの、針がのこってたらまずいんですか? 》
《サイクルに影響がでる。ほっとくと面倒だ。こいつらから取っちまおう》
《どうやって? 》
《そういえば、コウは俺とネイラが何してるか言ってなかったな》
ガインがその両手を広げ、意識を集中し始める。
「あたいは人間の医者。そしてガインは」
《ベイラーの医者だ。この白い布巻けるのは医者だけけなんだぜ。すごいだろ》
肩に巻かれた布の意味をようやく知った。ガインのように白い布を巻いているベイラーは確かに道ですれ違っていない。同時にこの共用スぺ―スは、医療スペースであることを知った。
《僕は患者?》
「その通り。さてガイン。準備はいい?」
《いつでもいいぜ、相棒!》
2人が意気投合したその時、ガインの両目が赤く光る。人とベイラーの意思が重なることで更なる力を発揮する赤目と呼ばれる現象がガインに起こる。そしてその結果として、両手の指先に変化が起きた。
両指が、突如として二股に割け、その先でさらに別の道具へと変化していく。よくみればそれは、のこぎりに始まり、かなづちに、のみに、バールのようなものに、その他計20個の道具へと形をかえていった。
《(サイクルは、生やす力。その形も用途も、慣れればいろんなものになるってカリンは言ってたけど、この人たちはなんかそんな次元じゃない!? )》
コウも、自分のサイクルを回し剣をつくった。だがそれも一度使ってしまえば刃こぼれし、二度と使い物にならない粗末なものだった。だがガインは、刃物どころか他の道具を、それも同時に20個を瞬時に、そして精密に生み出している。
《さて、大体は削ってとりだしてだ》
《よろしくお願いします》
《目、閉じてたほうがいいぞ》
《……なんで? 》
《まぁ、見たきゃ構わないけど》
ガインの発言の真意を図り損ね、そして後悔する。
自分の体がリアルタイムでガリガリ削られていくのを目の当たりにし、そのあまりの絵面に、痛覚がないにも関わらずコウは叫んだ。オペは二時間におよび、それが終わった後に、コウから出た大量の削りカスは、ネイラの手によって丁重に保管された。
《あの、それ、どうするんです? 》
「ああこれ? コウ君がまた壊れた時とかに補強で使えるからとっとくの」
《……壊れないように頑張ります!! 》
「うん。できればそうして。結構大変だから」
《はい! 》
ネイラとガインに世話にならないように、とにかく自分の体をどうにかする術を手に入れねばならないと、全身を削られたながら思うコウであった。