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ベイラーと星のふたりのグレート


 空気が震えた。その現象を目にした人々全員が、これから先に起こる戦いを思い描き、絶句する。猟犬との闘い、聖女の軍勢との闘い。アマルガムイスラの戦い。どれも劣勢から始まった戦いである。だが、人々は団結し、思考し、実行し続ける事で、完璧に勝つ事はできなくとも、負けてしまい、滅ぼされる事だけはしなかった。だが、その彼らでも対応できない存在が居る。


「やっと目覚めたわね」

《カリン!》

「見えてるッ!」


 あれほど苛立っていたマイノグーラの声色は、平常に戻っている。そして、コウ達は、彼女とは逆に焦りを隠せない。帝都中央部、今は砕け散り無くなってしまった王城跡地に鎮座していた正十二面体。中央に瞳をもつ構造体の名を『ティンダロス』と言う。その瞳は、ひとつしかないにも関わらず、地上にいる全ての人間と何故か目が合うようになっている。だれもかれも、このティンダロスに『見られている』ような錯覚に陥ってしまう。これこそ、まだ人が国をもたぬ頃にこの星に飛来したモノ。この星の外より飛来した、マイノグーラを運ぶ揺り籠。


 対抗できるのは、この星を守る守護者たる龍。その龍は、このティンダロスを封じる為に、己の体を、壁として、天井として、蓋としてここに居る。


「さぁ、外へ行きましょう」

「―――」


 ティンダロスに意思があるかは、コウ達には分からない。だが、あの目が大きく見開かれた時は、最悪の攻撃が行われる前段階であった。その攻撃は、やはりコウ達に理屈は分からないが、光のように素早く、そして対象に向けて自動で追尾する、回避しようのない攻撃だった。命中したが最後、体の端から氷漬けになって崩れてしまう。冷凍光線としか言いようのない攻撃だった。


 龍は、その時の対処として、2対4枚の翼で羽ばたき、光線そのものを霧散させている。どちらも人の理では考えられ無いスケール感の攻防だった。


《龍が、動かない?》


 当然、今回も龍は同じ対処をするものとばかり思っていた。だが、肝心の龍はとぐろを巻いたまままったく動く気配はない。ティンダロスが目覚めたというのに、その顔をこちらに向ける事さえしない。ティンダロスの眼はしっかりと見開かれ、攻撃は今にも発射されようとしている。それでも対応も対処もしないのは異様であった。


《起きてくれ龍! アレが発射される!》

「これで、龍も終わり。そしてお前達も」


 龍の不可解な行動に気を取られ、マイノグーラの接近を許してしまう。間合いに入られてしまう。マイノグーラは中にいるカリンごと焼き殺す手段を持っている。もちろんそんな事を阻止すべく、がっちりと組み合う。両者の関節のサイクルがガチガチと軋む。


「こうしてしまえば剣は使えないでしょう?」

「(こいつ覚えがいい!)」


 マイノグーラは剣士ではなく、さらには戦士でもない。剣を持った相手の対処など、本来は修練を組まなければ圧倒されるのが関の山であるが、マイノグーラが駆るケイオスベイラー・クリスタルは、何もかもが規格外である。対人剣術のセオリーなど一切通用しない。故に、マイノグーラもまた、戦いのセオリーに則っての戦いなどしてこない。ならばその時必要になるのは、その場その場の機転とひらめきである。


「(こいつにはソレがある!?)」

「二本しかないのは不便よね」

「(そしてこの状況は!?)」


 折れた大太刀よりもさらに短い間合いに入られ、とっさに刀を鞘に納め、両手を使って攻撃を防いだ。そこまではいい。そうしなければ、ケイオスベイラーの両手がカリンをコックピットごと潰していた。だが、ケイオスベイラーには、背中にも腕がある。


「このまま焼き殺して―――」

「コウ!」


 ひらめきと行動の速さにカリンは舌を巻いた。だが、カリンもまた、コウと共に幾多の戦場を駆けてきた。その戦場から得た経験がある。


《サイクルぅう!》


 背中についた5本の腕がコウへと向かった瞬間、コウが体中のサイクルを回す。そして、生み出されたエネルギーを集め、一挙に放出する。接近戦、それも無手の間合いで威力を発揮する、エネルギーの爆発。


「《ノヴァ!!》」


 サイクル・ノヴァ。高まったエネルギーを炸裂させる技である。コウの身体から極光から放たれ、組み付いていたケイオスがたまらず吹き飛ばされる。サイクル・ノヴァには、一定の収束時間が必要であり、最大威力になるのは時間がかかる。コウは、緊急時故に、即座に炸裂できる程度の収束しかしてない。故に、ケイオスベイラー・クリスタルには致命傷足りえず、全身に細かい傷をつけただけで終わる。


 だがマイノグーラにとっては、細かい傷をつけられたその事実で、再びボルテージが上がっていく。


「そんな事もできるのね」

「こんな事もできないのね」


 マイノグーラの言葉に煽るようにかぶせるカリン。戦闘のひらめきがあるのはマイノグーラだけではない。そしてカリンは彼女の性質に気が付きつつある。


「(怒りに支配されている時は、苛烈だけど)」


 怒りが滲み出る声色のまま振るわれる圧倒的な力の暴力。一撃でも貰えばこちらが致命傷になる攻撃が、永遠と続いてくる。否が応でも対応せざる終えず、恐怖心を押さえつけて大太刀を振るい続けていた。


「(まだ隙がある)」


 それでも、攻撃のパターンは一定であった。向こうの全力を、こちらに叩きつけてくる。そして最終的には、その手で、コックピットを握りつぶす事しか考えていない。つまり、間合いに入られなければ良い。そしてもし入られたとしても、さきほどのようにサイクル・ノヴァで迎撃できる、しかし間合いでの戦いでは別の問題が出てくる。


「(せめて折れてない大太刀があれば!)」


 コウの力が成長するにつれ、自身の生み出す武器では、その力に耐え切れなくなってしまった。ベイラーそのものの強度には限度があり、コウの莫大な力を受け止めるだけの強度が無かった。だからこそ、砂漠で手にした龍殺しの大太刀は、コウとってはまさに折れず、曲がらず、よく斬れる愛刀となった。その愛刀が折れた今、コウは、そしてカリンが十全に戦る状況にない。新たな武器を手にしようにも、龍殺しの大太刀と同じか、それ以上の逸品でなければ、マイノグーラに勝つ想像が難しい。


「(無い物をねだってもしょうがないか)」

《カリン、下になにか動きが》

「下?」


 ずっとマイノグーラに対応し続けた為に、地上での戦いには全く気が回って居な。それは仲間たちへの信頼の証ともいえたが、改めて視界におさめると、その現状に驚きを隠せない。5体いたアマルガムイスラのうち4体はほぼ機能不全に陥ちっている。あと1体も時間の問題といえた。


 行動不能。四肢のうちいずれかを切り落とされていたり、体を穿たれ、大穴をあけたせいで動かないでいる状態であるが、死亡しているようには見えない。その桁外れの生命力だった。


「(マイノグーラを相手どりながら、アレと戦えるか?)」

「さぁ、まずは目障りな龍を堕としましょう」


 ティンダロスの目が見開かれる。そして空気が瞬時に冷たく重く変わったかとおもった次の瞬間、ティンダロスの眼から、あの冷凍光線が発射された。一条の青白い光が真っ直ぐ龍へと向かっていく。


「龍! 動いて!」

《なんで動かないんだ!?》


 龍の行動はいままで不可解な事が多かったが、今回についてはふたりにとってももっとも意味不明な行動だった。避けるも防ぐもせず、ただ命中するのを待っているかのような様子に、苛立ちすら覚える。


 そして、当然の帰結として、まっすぐ進んだ冷凍光線が龍に当たろうとした時、射線に割り込んでくる者がいる。それもひとつではない。


《カリン、アレって!》

「ええ! 彼らが来てくれた!」


 

《ブレイダー各機、突入形態にて防御陣形》


 それは、ヒトガタから巨大な剣へと姿を変える、グレート・ブレイダーと、その子機たち。親機である機体には、ジェネラルと名付けられている。


 総勢50人のベイラーが空中で静止し、そしてそのうちのひとりが、冷凍光線へと真っ直ぐ進んでいく。射線を遮った形となり、光線がもろに直撃する。龍すら凍らせるその力が、ベイラーに命中すれば、瞬く間に全身が凍り、そして動かなくなる。推力を失ったブレイダーは、地表へと真っ逆さまに落ちていき、地面へとぶつかり、氷のまま砕け散る。


「ジェネラル! これでよいのか!?」

《はい》


 ジェネラルの乗り手が、いささか信じられないといった顔で続ける。最初にこの同型の、それも戦力としては貴重なはずのブレイダーを使い潰すかのようなこの防御方法を掲示してきたのは、このブレイダー本人である。


《あの攻撃は一度対象に命中すれば以降は効果を失います》

「だ、だからといって」

《龍を守る為です》

「その龍が動かんではないか!?」

《龍は、消耗した力を補っておるのです》

「消耗?」

《先の戦いで、雷を使い過ぎました。もう1発撃てるかどうか》


 龍の雷。その威力は、ティンダロスを破壊せしめる。だが逆に言えば、その一撃が外れてしまえば、この星で、あの正六面体の化け物を倒せる存在がいなくなってしまう事に繋がる。


「なら、アレは休息なのか?」

《目的はこの場所の封印ですから、二次的な物です》

「にじ……?」

《おまけです……次弾、来ます》


 光線の2発目が発射される。今度は湾曲しながら、龍の体に伸びていくが、あらかじめ広く陣を取っていたブレイダー達のひとりが飛んでいき、再び攻撃を防ぐ。氷漬けになったブレイダーが無常にも地表へと落下し、粉々に砕けていく。コウの力でも治せるかは、もはや判断できない。


「(この調子で、あと何回持たせられる?)」

 

 残り48人。だが、ティンダロスの攻撃は一度に複数行われた事もある。連射、もしくは同時発射を繰り返されれば、こちらの手数は減る一方となる。


「ジリ貧ではないか!」

《いえ、この間にあの表面に、再び楔を打ち込みます》

「何!?」

《龍も、楔さえ打ち込めれば、再び起きてくれます》

「最初からそう言え!」

《盾になれるかどうかの判断が先でした》

「ああいえばこういう!」


 ティンダロスを破壊するには、龍の雷が有効だが、ただ打ち込むだけでは効果は薄い。ティンダロスの肌を削り、楔を打ち込んではじめてティンダロスに威力が発揮される。一度、楔を打ち込み、龍の雷を放ったものの、直前でセブン・ディザスターが己を避雷針とし、回避させてしまった。


「アレを再び行おうというのだな!」 

《肯定。そのためには、ティンダロスに肉薄する必要があります》

「良し! 行くぞ!」


 コウとマイノグーラが相対しているのを横目に見ながら、自身はティンダロスへと向かう。空飛ぶ猟犬も周りにおらず、存外スムーズにティンダロスの表面にたどり着く。氷のように冷たく透き通っているが、氷の先は見通す事ができない。


「(何度見ても気色が悪い)」


 自身のすぐ下には、あの何処にいても目線がある眼球があるのが、さらに気色悪さを加速させた。胸の内から吹き上がる嫌悪感をなんとか飲み下し、以前と同じように、また穴を掘る作業を行う。ブレイダーに乗り込んだばかりのカミノガエは、動作ひとつおぼつかなかったが、この短い間でも確実に経験を詰み、単純作業だけならよどみなく行えるようになっていた。ガリガリと表面を削り取るように穴を掘っていく。


「(野菜の皮をむくのに似ている……)」


 ふと、つい最近経験した事と動作が一致し、デジャブに襲われる。戦場では決して味わう事の無かった結びつきに、思わず笑みが零れた。


「(余はこんな事もしらなかったのだな)」


 自分が箱入り娘ならぬ箱入り息子なのは自覚していた。だが、こうしてカリンと共に生き、避難船で明日生きる為に必死になった。その中で得た経験はあまりに大きく、濃くなっている。彼にとって、この戦争が起きる前に経験した十数年と、起きた後で経験したこの数日では、すでに後者の方が大きくなっているのを感じていた。


「何、これからもっと経験できよう」

《陛下!》

「どうしたジェネラル?」

《後方から接近する物体があります。作業を一時中断を進言》

「う、うむ」

《そのまま空中へと退避を》

「一体何が―――」


 問いかけるより前に、ジェネラルの体を押しつぶさんと、巨大な手が振り下ろされそうになり、即座にその場を離脱せざるおえなくなる。急激な加速にカミノガエは舌を噛みそうになりながら耐える。十分な距離を取った後に、襲撃者の姿を見て思わず天を仰いだ。


「あの大きな奴、登ってきたのか!?」


 そこに居たのは、アマルガムイスラ。巨体といってもティンダロスよりは小さい。その巨体を、まるで子供が木に登るような仕草でよじ登ってきた。滴り落ちる血が凍りのような表皮に垂れていく。


「げ、迎撃を!」

《言え、作業を進める必要が出てきました》

「な、何故だ?」

《すでに9機が撃墜。このペースでは楔を打ち込むまで持ちません》


 ジェネラルの報告に顔をしかめる。報告内容が絶望的であるからではない。その報告に、一切の感情を感じ取れなかったことが不服だった。ジェネラルとの付き合いは短く、始めは、機械的で冷徹なイメージを抱いていたが、このベイラーもまた、コウ達と同じ感情を持っている。喜び、悲しみ、怒る。あくまでその発露が薄いだけだった。そのジェネラルが、なんら問題なさそうな口ぶりであるのが気にかかった。


「……何か隠しておるな?」

《失礼しました。情報の開示が遅れただけです》

「まぁ隠すつもりが無かったのなら佳し。で、何だ?」

《救援が来ております。あの方々に任せましょう》

「あの方々?」


 そう言っている間にも、アマルガムイスラが再び攻撃を仕掛けてくる。攻撃といっても、その方法は原始的で、ただ大質量を押し付ける殴りである。ただ、大質量であるというだけで脅威であり、一撃足りともベイラーは受けてはいけない。脆さという点では、アマルガムイスラより圧倒的に弱いのだ。そして回避しようとした時、アマルガムイスラの態勢が突如として崩れた。ソレが隙となり、再び後方へと逃げおおせる。


 何が起きたのかよく見ると、アマルガムイスラの足の甲にあたる部分が、ごっそりと切り落とされていた。大量の血液が地表へと流れ落ちていく。


「あんなことできるベイラーが居たか?」

《いたのですよ》


 何処からともなく声が聞こえると、アマルガムイスラの体表を何度も削るように、ぐるぐると回転してこちらに着地してくるベイラーが居る。その肌は、薄いピンク色をしている。カミノガエには、その色はまるで花のようだと思った。


「そなたが、救援か?」

《お初にお目にかかります。カミノガエ皇帝陛下》

《……》

《久しいですね。我が従兄弟よ》

《はい。お久しぶりです。グレート・レター》

《今はなんと呼ばれているのですか?》

《ジェネラル、と呼ばれております》


 サルトナ砂漠より来た、グレート・レターが救援としてたどり着いた。その手には大鎌を持ち、その鎌でさきほどアマルガムイスラの足を切り落としたのだとカミノガエが理解する。同時に、この親戚同士のやりとりにむずがゆくなる。レターは切れ味の落ちた大鎌をポイと投げ捨て、ジェネラルに向き合う。


「(余の兄弟が生きてれば同じような会話をしたのだろうか)」

「乗り手様、作業をお早く」

「あ、ああ……ああ!? 子供!? 子供が乗っているのか!?」

「子供ではありません。てまえはアマツと言います。占い師です」

「う、占い……?」

「お話は後で。今は陛下にしかできない事をしてくださいませ」

「う、うむ。ではよきにはからえ」

「はからいますとも」


 舌ったらずな乗り手を後にし、カミノガエが作業に向かう。ひとり残ったアマツとグレート・レターが見送り終えると、敵であるアマルガムイスラを見る。足を落とし進行速度を落としたとはいえ、今だ脅威であるのか変わりない。


《怖いですか?》

「こわい。おおきい。血の匂いが嫌だ」


 アマツ・サキガケ。それは代々受け継がれる名である。彼女はまだアマツとなって短い。占い師としての仕事もやっと慣れてきた矢先のこの戦いであった。


「でも、やる。そうしないと星が死ぬ」

《貴方ひとりが背負う必要ありません》

「でも、まだレター以外居ない」

《いいえ。少なくとももう2人》

「……2人?」


 アマツが首を傾げた時。静かな足音が聞こえてきた。アマルガムイスラのものではない。グレート・レターと同じ、ベイラーの物。ゆっくりとサイクルを回し、少しずつこちらに向かってきている。その姿を見て、内心飛び跳ねるのたくなるのを抑えていた。歩いてきたのは、すでにその両足が朽ち果てそうで走る事ができないから。だが、その手にもった大鎌の切れ味を、レターは良く知って居る。


《……遅れてすまない》

《いいえ。大丈夫ですよ》


 そしてたどり着いたのは、淡い緑色をした、年老いたベイラー。レターは彼にゆっくりと近づき、その頬を撫でた。


《ずいぶん、無茶をなさってきたようですね。兄様(あにさま)

《そうかもしれんな。我が妹よ》


 もうひとりの援軍。グレート・ギフト。彼はいつも、同じベイラーに対しては『我が兄弟姉妹』と一括りに呼ぶ。彼の後に生まれた全てのベイラーは、彼にとっての弟であり、妹であるが、そのいずれも、広義の意味である。彼の前にも、彼以外の出会った事のないベイラーが生きていたかもしれないが、生憎、出会った事がないため、『兄』と呼べるベイラーはいなかった。その中で、唯一、彼にとっての『妹』は、この桜色をしたグレート・レターであった。


「(こ、これが、援軍?)」


 アマツは、援軍が来ることは占いで知っていたが、どんな援軍が来るのかまでの子細は見る事ができなかった。しかし、蓋をあけてみればその心もとない姿をしたベイラーに、思わず怪訝そうな顔をしてしまう。


「(頼りに、なるのでしょうか)」


 幼いアマツにとって、強大な敵と戦うのにその姿はあまりに頼りない。


「(やはりてまえでなんとかしなくては)」

「グレートレターの乗り手殿。聞こえるか?」

「は、はい! 貴方は?」

「グレートギフトの乗り手、ゲーニッツだ」

「は、はい(乗り手の人のほうが頼りがいありそう)」

《さて、レター。勝算はどれほどかな》

《手足を手折れば、十全かと》

《ふむ》


 グレートギフトが一言頷く。


《右を頼みます兄様》

《では左を》


 ふたりはそのまま息を合わせ、同じ武器を作り上げる。


《《サイクル・サイト》》


 生み出したるは、両手持ちできる柄の長さと、大きな刃渡りを持つ本来草刈用の大鎌、鎌は本来対人の武器としては不適切で、それも大鎌となれば、重量、間合い共に、槍に軍配が上がる。


 しかし、それらはあくまで()()として考えた時。これがもし、斬る面積が大きい必要があり、かつ間合いを広く大きくとる場合……対人以外の戦いであれば、大鎌は槍に勝る武器となる。


《……フフ》

《どうした?》

《兄様とまた肩を並べて鎌を振るえるなんて、夢のようです》


 あまりに戦場に似つかわしくない声だった。そこ居るのは、戦いに赴く戦士というより、大好きな兄の元に少しでも長く居たいという妹のソレであった。


《変わらんなぁ》

《変わりませんとも》


 そうして2人は、アマルガムイスラを前に大鎌を構えた。従兄弟が仕事を成す為に、邪魔をするその悉くを刈る為に。

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