ベイラーと海賊たちの雄たけび
アマルガムイスラ。その言葉がどんな意味を持っているのかは、コウ達には理解できなかった。星の外から来た、マイノグーラ由来の言葉であれば、意味も意図も分からないのは仕方ない。その名で呼ばれた、化け物以外の形容が浮かびようが無い、巨大で、混ざった生命体が、ずりずりと不気味な音を立てて、その巨体を這わせている。
大きさにして50m。人の形を取っており、上半身と下半身があるのは見て取れるが、その下半身の脚は使い物になっていない。自重に耐え切れないのか、もしくは、立ち上がる機能そのものが欠如しているのかもしれない。そこら中から、体液らしき赤い液体が噴き出して、あたりの建物に付着していく。そして、その体は、アマルガムイスラに成る為に取り込まれた人々、そして猟犬たちの骨や肉がむき出しになっていた。
総じて、大きて、不気味で、汚らわしい。そんな印象を与える生命体であった。排泄や食事をとるような様子も持たない。それはすなわち、アマルガムイスラは生態系を持たず、その個体だけで完結している事を意味する。まだ猟犬は、獲物を喰らって自身を増やすという力があった。それでも生態系と呼べるかははなはだ疑問であるが、アマルガムイスラに比べれば、立派な生態系と言えた。
この生命には、マイノグーラの尖兵としての機能しかない。その能力すら、洗礼されておらず、ただ大きく、鈍い。尊厳などかけらも感じられない存在であった。
このような存在は、この星にあってはならないと、この戦場にいた人々が、己の生命において直感で理解する。生態系をもたず、自分達を葬り去るだけの存在を、どうして許しておけようか。
「コウ! 」
《全部切り伏せてやるッ! 》
コウがアマルガムイスラに向かうも、行き先をマイノグーラが阻む。
「行かせる訳がないでしょう! 」
《だろうねッ! 》
大太刀を振りかぶり、マイノグーラの操るケイオス・ベイラークリスタルに斬りかかる。カギ爪と太刀がぶつかり合い、両者の手に衝撃が走る。
「あの子たちが、お前達以外をすべて押しつぶして、最後にお前たちだけが残るんだ。そして、残ったお前達は、成す術なくその命を終える」
「(先に皆を!? でもコレでは)」
援護に向かいたくても、マイノグーラを抑えられるのはコウ達だけあった。そしてなにより、マイノグーラの戦力を自由にしておけば、被害はさらに拡大する。
《カリン、皆を信じるしかない! 》
「ええ! 」
「信じても無駄なのに」
両手のカギ爪を振りかざし、コックピットを斬り裂かんと迫る。その攻撃を、コウはサイクルジェットを後方に吹かして回避する。ケイオス・ベイラークリスタルを破る策が思いつかない以上、一進一退の攻防をつ続ける事しかできなかった。それでも、一進一退できる程度にはなった。
《「(でも、この敵をどうやって倒す? )」》
折れた大太刀を構えなおし、コウ達はマイノグーラへと向かった。
◇
「黒騎士様、コウ様の援護を」
《駄目だ。近すぎる。ここからじゃコウに当たる》
コウ達の戦いを遠巻きでみていた黒騎士は、現状をほぼ正確に理解していた。コウ達が、コウ達にしかできない事をしている。ならば、黒騎士たる己は、己の出来る事をしなければならない。
「レイダ! 今は奴らを仕留める! 」
《はい! 》
レイダは背負った大砲を構え、一番最初に、自分が仕損じたアマルガムイスラに狙いを定める。動きは遅く、狙いをつけるのは簡単だが、それでも一抹の不安が勝る。それは、相手がどうすれば仕留められるのかどうか。
《頭に直撃させてなお動く。しぶとさは猟犬以上》
仕留めそこなったアマルガムイスラには頭がない。再生はしていない様子だった。だが、猟犬には効いていた水が一切効果が無く、核があるかどうかもまだ分からない。
《なら、さっきより大出力で吹き飛ばすのみ》
「さ、さっきより? 」
《そうです》
「つまり、どうすればいい」
《もう一回お願いします》
「―――あ、アレをか!? 」
《アレ以外何がありますか? 》
「ああわかった! あー、マイヤ、ヨゾラ」
「はい、なんでしょうか」
「ちょっと耳閉じててくれ」
「は、はい」
ヨゾラと共にいるマイヤに聞かせるのも忍びなかった。そして、この騒々しい戦場で、再び、黒騎士がレイダに誓った。誓いの言葉は誰に聞かれるでもなく、静かにレイダの耳に届く。もう、自分はレイダのものだという宣告。そして、その宣告がレイダに届いた瞬間、レイダの目は虹色に光輝き、そしてバスター・ベイラー砲もまた輝き始める。突然の変化にマイヤ達が戸惑いを隠せないでいる。
「あの、黒騎士様、一体なにを」
「おまじないさ。さぁレイダ。発射するぞ」
《まだです》
「な、何故だ? 」
《もっと溜めます。さっきより、ずっと時間をかけて》
「だ、だがなぁ」
「お前ら戦場のど真ん中で何やってんだぁああ!! 」
ふたりのやり取りを、声ではなく心で見てしまった者が、その顔を真っ赤にしながらやってくる。サマナとベイラーのセスである。黒騎士は、秘めて言葉を口にしたつもりであり、なぜサマナにだけ分かったのか一瞬考え、すぐに答えにたどり着く。彼女は心が読める。
「―――あー、そうか。ならバレるか」
「急に変なも見せるな! 背中がァ! なんかソワソワするッ! 」
「あー、ちょうどいい。ちょっと時間を稼いでくれ」
「時間って、どのくらいだ。てかなんでだ」
「あのふざけた化け物を全部吹き飛ばせる」
サマナは一瞬聞く耳を疑った。同時に黒騎士の心を覗き込んだが、彼が嘘を言っていないのもすぐに分かった。彼は、本当にあの化け物を吹き飛ばせると思っている。黒騎士だけが思っているのなら、勘違いだと切り捨てる事も出来たが、レイダも一緒となると話が変わってくる。レイダはベイラーで、人間よりも嘘をつかない。そして彼女が、嘘をついた所を見た事がない。
「……あたし達を巻き込むなよ? 」
「あ、そうか、その可能性もあるのか」
「のっぽ、お前なぁ」
「いざとなったら君が誘導してくれ」
「……分かった、とにかく時間を稼ぐ」
「頼んだ」
彼も、彼の相棒も嘘を言っていない。ならば、その可能性にサマナはかけた。だが、ただその可能性だけに賭けるのも、癪であった為、一言いい返す。
「あと、別に倒してもいいだろ? 」
「……ああ。いいさ」
「わかった。時間稼ぎは任せな」
自信たっぷり、嫌味たっぷりに返したつもりだったが、当の黒騎士はといえば、驚くでもなく、ただ淡々としている。サマナが見た黒騎士の心には、『まぁサマナならそう言ってくれるか』と、どこか納得すらしており、言い返す前より、ずっと癪に障った。
「(ったく。さてさて。奴らはどこかなっと)」
サマナがサイクルボードで飛び上がり、アマルガムイスラの大まかな位置を把握する。マイノグーラを中心として、扇状に配置している。その全ての固体が、こちらをその巨体で押しつぶさんと、鈍重な足どりで進撃を続けていた。。
「セス、ミーンとジョウ達、どこか分かるか? 」
《右から二番目の奴に取り付いてる。やつらの足の速さについていってない》
「……」
ミーンとジョウは、速さにおいて似た性質を持つベイラー達である。彼らの攻撃が、アマルガムイスラには通用していないようで、ミーンのキックも、ジョウのドリルも、そこら中に肉片をばらまくだけで、進行速度はまるで変わっていない。それでも、アマルガムイスラの方が彼らの速さに全くついていけていない。
《セス、お前アレについていける? 》
「無理だ」
《分かった。なら別の奴だ》
セスは素直に彼らの力に、自分が足手まといになると進言する。悔しさが無いと言えば嘘になるが、それ以上に、ミーンとジョウの力に信頼を置いていた。
「他には……何か」
「船長ー! おいてかないでくださいよー! ひー! 」
「船長じゃない! ってお前ら! 船で待ってろって言ったろ!」
戦場の中、ばたばたとせわしなく駆け込んでくるのは、サマナの故郷、サーラからやってきた、海賊団たち。彼らもまた、カリンと共に戦うべく馳せ参じた。馳せ参じたのだが、現れた化け物に、少々肝を冷やしているようで、どこかせわしない。ほんの少しサマナ心を覗き込むと、彼らが、今までにないほど怯えているのが見えてしまった。
「でもあんなの俺たちだけじゃ無理ですぜ! 」
「(来てくれたのはうれしんだけどなぁ……待てよ)」
怯えている。恐怖している。それでも、カリンの為、何より、船長と慕ってくれる自分の為に、彼らは海を越えてはるばるやってきた。その彼らの力を使わない手はない。何より、彼らが持ってきた船がある。
「お前ら、船はまだ壊してないだろうな? 」
「当たり前ですぜ! 」
「舵は? 」
「万全! 」
「帆は? 」
「傷一つ無し! ……でも何するんです? 」
「良し。セス! リクに手伝ってもらう! 捜せる!? 」
《待ってろ》
サマナはひとり得心し、そのまま事態を勧めようとしている。指示を受けたセスも、おおかた彼女のやりたい事を理解し、すぐに、怪力自慢のリクを探し当てる。
《あー、こっち来てるな。デカイの引き連れて》
「好都合! 野郎ども! 船は何処だ!? 」
「あ、あそこでさぁ! 」
リクは、アマルガムイスラから、一心に逃げている。リクの脚はお世辞にも早くないが、それ以上に、アマルガムイスラの脚が遅い。幸いと言えば幸いだった。そして、サマナが振り返り、視線を向けると、そこには、己の住処として久しい、海賊船の姿。グレート・レターが海水を直接流し込んだ際にできた、海水の水たまり。その一部に、海賊船レイミール号は鎮座している。
「良し! 帆を張っとけ! 」
「船長はどうするんで!? 」
「人手を借りてくる! 急げ! 」
「「「お、応! 」」」
言うや否や、男たちは先ほどの、心もとない脚はどこへやら。しっかりとした足取りで船へと戻っていく。ソレを見送り、今度は、リクを迎え入れる。
「おーーい! 」
「サマナちゃーん! 」
「追っかけてくるー! 」
「よしよし、お前らよくこっちに来た。黒騎士のとこだったら危なかったな」
「黒騎士? 」
「なんで? 」
「なんでもない。それより、リオ、クオ。リク。お前達にやってほしい事がある」
「「いいよ! でも何するの!? 」」
◇
「鉄拳王様! これ以上は! 」
「分かっておる! ええい猟犬が居なくなってくれたのはいいがコレでは」
鉄拳王シーザァーは、この場においても冷静に、兵士たちを、仲間を守るべく最善を尽くしづづけていた。彼の直近の部下はすでにおらず、ここに居るのは、名前も知らない、同郷の仲間というその一点でのみの繋がりである。
「(コウ殿は魔女と戦っている。ナット殿とフランツ殿で1匹、リク殿が1匹、残りの3匹が、無造作にまだ歩いている……アレもどうにかせんといかんが……そのうちの1匹が、すぐ近くに)」
敵と味方の位置を整理し、頭を切り替える。生身の兵士達を守るべく、瓦礫を立てかけ、ひとまずの隠れ家とした。アマルガムイスラがいくら足が遅くても、生身の人間よりは足が速い。逃げ場は無かった。
「(ええい、この鉄拳王が、ただ隠れる事しかできんとは! )」
己の無力を悔いる。彼の駆るアレックスは、その両手を鉄て包んだ、まさに鉄拳。ベイラー相手であれば、その威力は絶大である。しかし、猟犬や、今まさに傍を通ろうとしているアマルガムイスラに対して有効打になるとは考えられ無かった。行ってしまえばただ硬いだけである。
だが、彼がこうして瓦礫で兵士達を庇わなければ、アマルガムイスラに押しつぶされてしまう。ここで、隠れる事こそ、今の彼ができる最善であった。
「(何か、策を練らねば……何ができるか)」
「シーザァー様」
「何かぁ」
「あの、アレは、一体」
「アレぇ? 」
兵士の1人が、瓦礫の一角を指差し茫然としている。シーザァーもまた、透間から覗き込み、その様子を伺う。そこには、見た事の無い船があった。
「船……あんな所に船なんかあったか? 」
黒塗りの船体。大きな一枚の帆。そしてなにより、髑髏の旗を掲げている。風のないこの場でもはためいているのは、船員の1人が、自分の手でむりやりはためかせていた。
「なんだぁアレは」
「シーザァー様、アレは海賊船なのでは」
「そんな事わかっとる。なんでその海賊船がこんなとこにあるんだ。」
「さぁ……あ、あの下にいるのは知ってます! ベイラーです! 」
「何ぃ? 」
目を細めてよく見ると、海賊船は、ひとりのベイラーの手によって持ち上げられていた。船一隻を、いとも簡単に持ち上げるその剛力。そして遠くからでもよくわかる。黄色い肌に、シーザァー達は見覚えがある。
「リク殿だ! 」
「あの双子のベイラーだ! 」
「(な、なにをする気なんだ、)」
兵士達が歓喜に沸いたその時、頭上にヌルっと影が落ちた。そこには、おぞましい姿と、鼻の曲がる匂いを放つ、アマルガムイスラが、ゆっくりとこちらに進んできている。シーザァー達が、突如現れた、奇怪な海賊船に気を取られている内に、すでに肉薄されていた。
「シーザァー殿! 」
「お前達は逃げろ! 避難船へ行け! 」
「は、はい! 」
兵士達は、ここで残って、シーザァーと戦う道を選ぼうとした。だからこそ、今までこうして隠れていた。だが、すでにこの状況は、生身の兵士がひとりやふたりがどうにかできる状況になっていなかった。剣も鎧も、アマルガムイスラには意味がない。そして、シーザァーは、そんな彼らの生存こそ望んでいる。
「シーザァー殿! ご武運を! 」
「応さ」
彼らにできるのは、シーザァーの無事を祈るだけ。足早にその場を後にする。
「フゥー……帝都近衛格闘術! 」
シーザァーは兵士達を見送ると、その場で拳を構え、迫るアマルガムイスラに向かい叫んだ。己の、最も得意とする技と力をぶつける以外、術が無い。
「正拳突き!! 」
効果があるかどうかなど、もう考えている暇はなかった。今は、己の背中の先にいる、この戦いを生き延びてきた人々を、たったひと時でも守る為に盾となる他なかった。
シーザァーの駆るアレックスの拳が、肉を塊を叩き、潰し、砕いてく。手応えは、馬鹿デカい骨と肉の混ざりものを、無造作に叩いたような印象だった。そして、予想通り、アマルガムイスラの進撃は止まらなかった。
「正拳、十連!! 」
一撃で駄目ならば、連撃。左右の拳を振るい、鉄拳の形にアマルガムイスラの肌が歪んでいく。
「ハァアアアアアアア!! 」
息継ぎもせず、気合を込め、拳を振るう。そして、最後の十発目の拳が叩き込まれた時。アマルガムイスラの進撃が止み、そしてその頭が、ようやくシーザァーに向いた。頭、とって言って良いのか、顔には目も口もなく、猟犬の時にはあった牙すらない。おびただしい血肉の塊でできた、顔の付いていない、頭のような何かが、こちらを向いている。
「やっと、止まったな」
目が合った訳ではないのに、ようやく、敵がこちらを認識した事に、シーザァーは歓喜した。この技が通用するかしないかではなく、この技を使い続けた事で、敵が、こちらを敵と認めた事に。
「(だが、ここまでか)」
しかし、正拳突きをいくら放っても、こちらを意識させるだけで精一杯であった。これ以上の抵抗する術が残っていない。
「最後まで、抗う。帝都近衛兵団長として。ひとりの人間として! 」
拳を握り直し、相対する。巨大すぎる敵に対して、あまりに無力であった。
だが、一瞬、敵の意識は、シーザァーに逸れた。それが、勝機を呼び込む。
「鉄拳王! 」
「……その声、サマナ殿か」
「いまそっちにいくぞぉおお! 」
「やめよ! 今来たとて遅―――」
救援に来られても、命を無駄にするだけであると、論じようとした時、視界の端で信じられない者を見た。黄色いベイラー、リクが、海賊船を、文字通りこちらに投げ飛ばしていた。
「―――は? 」
自分でも信じられないほど間抜けな声が出る。敵を目の前にして出す声ではなかった。それでも、目の前に現れた、黒い海賊船は、異様で異質で、それでいて快活としていた。
男たちが、船の上で雄たけびを上げている。よく見れば船の大きさはかなりのもので、ベイラー数人が、湧きから乗り出していた。その手には、海賊が好んで使っていると噂されていた片刃の剣を振り上げている。海賊が、海賊の流儀の元で、船と共にやってくる。
「いくぞ野郎どもぉおおお!」
「「イヤッッハァアアーー! 」」
海賊船の船長がその歯をギラつかせ、部下に号令をかけている。その船長こそ、すでにこの地で行動を共にし、顔見知りとなったはずのサマナであった。だがそのサマナの顔は、今までになく荒々しい。こちらの顔が。本来の彼女であるのだと、シーザァーは気が付いた。
気が付いたついでに、海賊船には付き物の、ある武器の存在も思い出していた。サマナは、その武器を、このアマルガムイスラに叩き込む為に、わざわざリクに投げ込ませたのだと。
「喰らえ! レイミール号必殺のぉ! 」
「「「波割りだああああああ!! 」」」
波割り。波を裂くのではなく、割る。それは彼らの海賊の隠語であり、その意味とは、船を叩き折るという意味である。レイミール号の先端に備え付けらえた、鋼鉄製の衝角。木製の船なら、横面から突っ込むだけで、その竜骨を叩き折れる威力と衝撃を生み出せる。圧倒的物量で、アマルガムイスラを文字通り叩き折るべく、サマナは雄たけびと共に突っ込んでいく。
巨大な、人の姿をとったはずのアマルガムイスラ、その横腹に、巨大な船が文字通り突き刺さる。膨大な質量による、単純な攻撃。その攻撃により、巨体がくの字に曲がっていく。そして、いままで反応らしい反応すらしていなかったアマルガムイスラは、まるで苦悶するように、その体を大きく捩じらせた。
「野郎ども! 遠慮はいらねぇ! 喰らわせなぁ! 」
「「「「サイクル・シミター!」」」」
セスが、両手いっぱいにその剣を生み出す。海賊船にのる気風のいい彼らもまた、片刃で重心の偏った、船の上で使うに都合のいい剣を、抱えられる最大の数抱え、目標を見据える。そして叫び出すのは、レイミール海賊団、その全員で行う、彼ら最大の攻撃。
「「「ブーメラン! 百連刃!!」」」」
抱えるだけ抱えたシミターを、ひたすら投げつける。数にものを言わせた攻撃。数を数えた訳ではなく、このくらいをこの人数集まって投げられないのではれば腑抜けであると、先代船長、サマナの祖母、タームの匙加減で決まった技名である。
実際に百のブーメランがあるかどうかは分からない。それでも、50mの巨体に、はっきりと分かるほどの数のブーメランが、斬り裂き、突き刺さり、突き抜けていく。くの字に曲がった巨体が、その威力についに耐え切れず、レイミール号は、そのまま巨体を突き抜け、あたり一面に肉塊をばらまいていった。
「よっしゃぁ! まずは1匹!」
アマルガムイスラ、5匹のうち1匹が、その場に崩れ落ちる。黒騎士の想定より、ずっと早く戦いが進行し始めていた。




