ベイラーと星の反撃
桜色の花が一輪、大きく、力強く咲き誇っている。ただの花ではない。大きく、気高く、美しい。
「……アレは、何? 」
マイノグーラは、その存在の名を知らなかった、セブンからも教わっていないのか、しきりに形容詞だけで、その花弁を指差す。
「あんなものがあっても、なんにもならないわ。さぁ私の子供たち、あいつらを喰い尽して――」
花弁に気を取られていた間に、さらなる変化が、追い打ちをかける。
突然、その巨大な花弁の中から、膨大な量の水が噴き出し、あろうことか、地上にいた猟犬たちが、文字通り流され出てしまう。水に耐性のない小型の猟犬は、一気に結晶化し、無害化した。大型猟犬は、危機を察知し、より高い場所へと逃げ跳ぶ。飛行型だけは、唯一難を逃れ、悠々と空を飛んでいた。
だが、事態の変化に、戸惑いを覚えるような賢さは、この猟犬たちにはない。無事であった飛行型は、生み主であるマイノグーラの命令を、忠実に実行しようと、空からコウたち目掛け突撃していく。
《こ、このぉ? 》
《―――大丈夫》
コウが気合を込め、折れた大太刀でなんとか迎撃しようとした時、どこからか声が聞こえた。人の物ではない。聞きなれてもないが、決して聞き間違える事もない声が響く。
その声と共に、コウの頭上にあらたな花弁が花開き、中から大量の水が噴出し、迫りくる飛行型は、あっけなく撃ち落とされていく。突然現れた水の本流に、コウは戸惑いながら、巻き添えを食わないように一旦花弁から距離を取った。
《カリン、これって》
「海水、だわ」
《何? 》
「海水、なのよ。海から直接、この場所に送りこんでる」
《そんな事、できるはずが……いや、でもさっきの声って》
海中の水を、港が近いとはいえ、十分に距離のある、帝都中央部まで、直接水を送り込む。コウ達が、生活用水を確保する為に、水路を長い時間をかけて作り上がていた事を考えれば、コレはまさに神の所業と言えた。ならば、コウ達には、神が味方したのかと言えば、否である。
後ろを振り向くと、淡い花弁がひとひら開き、中から、懐かしい顔が現れる。
《間にあったようですね》
《グレート・レター……どうして》
花弁の中から現れたのは、ひとりのベイラー。花弁と同じ桜色をした肌をもち、その声はおっとりとしていて、つかみどころがない。
《貴女たちを、助けにきたのです》
《助けに》
《私の家族ですから》
ベイラーに表情は無いが、口があったら微笑んでいるのであろうと分かるほど、その声は優しく、朗らかで、どこか蠱惑的だった。
新たなベイラーの出現に、マイノグーラは、苛立ちを隠せないでいた。とっても、彼女にとって、もはやベイラーのひとりやふたり、増えた所でさして問題にならない。彼女の力と、ソレに応えるベイラーが居る限り、この星の、いかなるベイラーにも優位に立てる。
「ベイラーひとり増えた所で」
傍らにおりたった大型猟犬と、飛行型猟犬たち。そして、大地を揺らし、空を震わしながら、ゆっくりと、全長50mの化け物であるヒトガタが、彼らの前に立ちふさがる。
「もう絶滅するのよ。貴方たちは」
「……ねぇ、グレート・レター」
《なんでしょうか? ゲレーンの姫》
猟犬が吠えたて、おどろおどろしい姿の化け物が迫り、そして、マイノグーラは悠然とその力を行使せんとしている。その渦中にあっても、グレートレター、この星に選ばれた、偉大なの名を持つベイラーは、まったく怯む事なく、むしろ、まるで意に介していない。まるで、さっきまでお茶会をしており、そのお茶会の続きをしているような、そんな緩い空気が、あたりを漂っていた。
「もしかして、貴女以外にも、もしかして来ているの? 」
《ええ》
ほんの少しの間が空いた。花びらが散り、花弁が舞い踊りながら、グレートレターは、ゆっくり、そしてはっきりと答えた。
《最初は皆さま怖がってしまって、大変苦労しました》
「それじゃぁ」
《言葉も通じない者もおりましたので》
「……ん? 」
そして、グレート・レターが手をあげる。
《でも、貴女が、また共にと言ってくれたから、来てくれたのです》
その上げた手を、ふっと下ろした。
《さぁ皆さん。お集まりなさい》
その一声が、合図だったのか。それとも、元々、グレートレターの気性として、相手の反応を見ながら行動する癖があるが、(やる気を出す為に必要のないハグを要求する等)彼女にとって、カリンとコウに会った上で、何故? どれだけ?とその一言が欲しかっただけだったのであろう。
何故。理由は、家族であるベイラーを助ける為。何も特別な事はない。どれだけ。それは、彼女が関わってこれた人々に、グレートレターは声をかけた。
カリンの背後に、再び花弁が開かれる。大きさはさきほどよりもずっと小さい。だが、その数が異様だった。龍の天井ができた帝都、その閉じた空に、淡い桜色の花畑が出来てる。その花弁ひとつひとつから、ベイラー達がやってくる。
それは、カリンが砂漠で出会ったレジスタンスたち。包帯を巻きながら、それでも戦い続けた雄姿を忘れた事はない。
「我が剣。戦う時は今! 」
《ああ! 我が担い手よ! 》
ホウ族の戦士、アンリー・ウォローと、友であり剣である相棒。
それはサーラの海で出会った、海賊のベイラー達。サマナの配下であり、荒々しくも頼もしい。
「おーい! 姫さんよーい! 」
「「俺たちもまぜてくれやぁ! 」」
レイミール海賊団の一団が、髑髏の旗を掲げて、文字通り大船に乗ってやってくる。
それは、カリンの故郷に居たベイラー達。ゲレーンから、遥か遠くのこの帝都に、カリンの危機を、この星の危機を知り、駆け付けてくれた。
《姫様ぁあ! 》
《……助けに来た》
山狩りで共に戦ったワイズ・ミリンダ、あのパームと初めて戦った時に、共に戦ったアネット・ミリンダ。彼ら夫婦を筆頭に、ゲレーンから我先にと救援に駆け付けている、カリンが、今まで助けられ、助けてきた友たちが、サイクルレターの、瞬間移動能力により、この場所へと、続々と駆け付けている。
「皆、よくぞ、よくぞ」
「……この、声は、一体」
ありもしないと思っていた援軍。その声を受け、地に付し、力尽きて倒れていた者たちに、僅かながら活力が宿る。
《……立てますか? オルレイト様》
「はは。膝が笑ってるんだぞ」
墜落し、意識を失っていたオルレイトが、なんとかレイダを立ち上がろうとするも、どうしても最後のひといきが付かない。そんな折に、ひとりの男がふらりと、コックピットに手を付ける。
「変わってやろうか? 」
「―――父、上」
バイツ・ガレットリーサー。オルレイト・ガレットリーサーの父であり、元レイダの乗り手である。彼は、真っ先に息子の安否を確認しにやってきた。そして、その目に焼き付いた緑の肌を一目みて駆け付けたのである。
「ずいぶん、派手になったなぁ」
《派手になった私は嫌いですか? 》
「悪いとは言ってないさ」
「は、ははは。父上が来てくださるなんて」
「ああ。来てやったから、さっさと立たんか」
「……」
頭の、ほんのわずかなスキマにでも、この瞬間、乗り手を変わるように提案してくるのではないかと、オルレイトは疑った。すでに満身創痍。全力で戦えるかも怪しい。そんな状態のオルレイトがレイダに乗るより、もっと長い年月二人で過ごした父の方が、レイダを上手く扱えるのではないかと。だがそんな提案を一蹴する言葉が響く。
「俺からレイダを取っていったのだ。お前が最後までやらんでどうする」
「そりゃ、そうだッ! 」
最後のひと踏ん張りを、父に背中を押されて、やっと立ち上がる。視点の高くなったレイダは、一度だけバイツに目を向けた。そして、バイツもまた、視線を合わせる。
「俺の息子はどうだ? レイダ」
《上々ですね》
「俺のときはまぁまぁだったな」
《そんな事言いましたか? 》
「言ったともさ」
《……では、行って参ります。また共に》
「ああ。また共にな」
そして、振り返る事なく、レイダはカリンとコウの元へと向かう。
◇
「おきてくださいって」
「んあ? うぅーん」
「おきてくださいって船長」
「船長じゃなぁーい! ……って、お前達ッ!? 」
遠くで伸びていたサマナとセス。彼らの元には、彼らをよく知る仲間がやってきている。
「レイミール海賊団。全員集合してますぜ! 」
「お、お前達、帝都にどうやって……海は使えなかったはずなのに」
「なんか、グレートレターさんが、こう、いろいろやってくれましたぜ」
「グレートレター……そうか、あいつの力か……いや、そもそもあいつが、どうやってこの事態を知ったんだよ! 海が閉鎖されてたんだぞ! 」
「そこは、あたしの可愛い妹のおかげね」
「そ、その声は」
陸地では聞く事が無いと思っていたその声に仰天し、おもわずセスのコックピットの中から這い出て、その声の主を確認してしまう。そして、出会いたくなかった相手がそこに居た。
「メイロォ!? どうしてここに!? いや、お前達なにシラヴァースと一緒にいるんだ!? 」
「元気がいいわねぇ。安心したわ」
上半身は人、下半身は魚の、人魚、シラヴァーズのメイロォであった。
「半分安心してるけど、半分嫌味だろ!? 」
「あら。呪いが進んでるのね。あーいやいやだ」
「こ、こいつ」
サマナは、その名をフリフラッグと言う。メイロォの元恋人、レイミールの孫にあたる人物となる。そして、シラヴァーズと一度でも愛し合った人間には、呪いが掛かり、他の女と一緒になったとしても、その子供には男が生まれず、必ず女が生まれる。そして、その女には、シラヴァーズと同じ特徴が受け継がれる。彼女の母も、そして祖母も、同じ呪いを受けていた。
「あ、ちゃんと考えている事を読ませないようにできてるじゃない。上手上手」
「で、どうやってこの事を知ったんだ? 」
「えー、と、はーい。ここにいる奴のせいでーす」
メイロォの背中から、おずおずと顔をだす別のシラヴァーズ。髪の色は紅く波打っている。
「クワトロン! あんたが伝えてくてたのか」
「そ、そうなんだ、けど、なんかもう怖いんだけどココ、早く帰りたい」
帝都が龍に覆われる前に、クワトロンは外へと向かっていた。ソレが幸いし、サーラにまで報せが届いた次第であった。
「あの真ん中なんか特に嫌だ。あの女なに? 」
メイロォは気風の良いシラヴァーズであったが、帝都の中央に陣取る生き物たちにすっかり意気消沈してしまっており、肩を頼りなさげに震わせていた。同じシラヴァーズのメイロォも、よく見れば、右手が細かく震えている。
「初めてみたわ。アレ、たぶんこの星で生まれてる奴じゃないでしょ」
「……さすがメイロォ。そんな事まで分かるのか」
感心している為に本心だと分かったのか、メイロォの口調が若干砕ける。
「男を見る目を磨くとできるようになるものよ」
「ほんとかぁ? 」
「ほんとよ」
「……嘘ついてても分かるんだからな」
「嘘ついてないもの」
飄々としているメイロォを前に、サマナはこれ以の追及は無駄だと判断する。経験でも知識でも、今の自分でメイロォで口に勝てるとは思えなかった。
「まだ恋もしてないものね」
「うるさい」
「さ、いきましょう。カリンが待ってるわ」
ずりずりと、半身を引きずりながら、カリンが立っている場所へと彼らは向かっていった。
◇
「なんなの? これ」
戦場に似つかわしくない、花びらが舞い散っている。その中から、ベイラーといい、人といいが現れ、どんどん集まっていく。その様子を、マイノグーラは、奥歯を噛みしめて睨んでいる。
憎たらしい敵が、増えに増え続けている。なぜこんなに集まってくるのか。なぜこんな数が、どうやってやってきたのか。マイノグーラには知る由もなく、唖然とする。
「……まぁ、いいわ」
だが、睨んでいた目を元に戻す。そして、猟犬たちに目をやった。
「良かったわね。食べ物が増えたわよ」
「―――」
猟犬は答えない。代わりに、その牙の生えた口から、よだれが滴っている。どれだけ、人が戦力を集めようとも、猟犬が弱くなった訳でもない。そのひと噛みでも牙が食い込めば、人はたちまち猟犬へと変貌する。そうすれば、如何に人が、ベイラーが増えた所で、猟犬がソレに応じてさらに増えるだけになる。
一瞬、猟犬に浴びせかけられた海水により、その数を大きく減らしたものの、まだ大型猟犬や飛行型もいる。戦力の優位性はまだ変わっていない。
「……忌々しい」
カリンの元に続々とあつまる人やベイラー達。人種、性別を超え、カリンと共に生きた人々が、グレートレターの声に応え、ここに集まっていく。
「でも、それでどうやって勝つつもり? 」
《……悲しい子》
「何?」
《集まったのが、人やベイラーだけだと思っているの? 》
「……何? 」
グレート・レターが応えたその時、人よりは大きく、ベイラーよりは小さい花びらが開いた。その瞬間、一陣の風と共に、一直線にマイノグーラの元へと向かってくる。
「今更何が来たところで―――」
マイノグーラは、迫りくるその何に、反応できなかった。そして、その生き物……猟犬と同じように四肢があり、だが猟犬と決定的に違う、美しい白い毛並みを持った動物が、鋭い刃となった赤い角を振り下ろす。瞬間、地面を、空気を、音を斬り裂き、マイノグーラの周りにいた猟犬を、その一刀で切り伏せてしまう。
マイノグーラが驚いたのは、その攻撃自体にではない。たった今、彼女は、その力を用いて、対象の敵の動きを止めようとした。だが、敵は、その力を文字通り斬り伏せ、攻撃を続行して見せた。
マイノグーラに拮抗するのではなく、反抗する力。それはいままで、この星には一種類しかいない。それは、星の守護者たる龍。
マイノグーラは、心底軽蔑を含んだ声でつぶやく。
「龍の、眷属ッ!! 」
龍の眷属……リュウカク。龍の角をもつ眷属であり、かつてカリンと出会った、森の調停者でもある彼。
「たかが一匹の眷属で止まる訳が」
リュウカクを前にし、己の力が反発を受けた事で、今までないない緊張感がマイノグーラに走った。己の力に、圧倒的な自身と根拠をもっていた彼女にとって、眷属の登場は全くの予想外である。
「(龍に力が抑え込まれているなら、眷属にも同じ事できるというの)」
事実、リュウカクは、マイノグーラの『静止する力』をすり抜け、攻撃してきた。彼には、マイノグーラの力は通用しないと考えるのが、妥当であった。
リュウカクは、戦場に似つかわしくない、軽快な足どりで、すたすたと歩いていく。そして、コウの足元にまでたどり着くと、満足気に鼻を鳴らした。
「リュウカクまで、きてくれたのね」
《リュウカクだけじゃない……ヒトだけじゃなかったんだ》
コウの目に映るのは、空を覆い尽す、巨大なバッタたち。キルクイの群れ。大きな角をもつキールボア。鉄槌状の腕で獲物を押しつぶすキルギルス。
人など些細な量であった。人種どころか、種別さえ超え、この星を守らんと集まってきている。この星で戦える生物が、カリンと共にあっていいと思った生物たちが集まり、今、マイノグーラを打倒せんと集まった。
《たくさん集まったでしょう? 》
「ええ……ありがとう。皆」
《……グレート・レター》
《あら》
「陛下! ご無事で!? 」
グレート・レターに声をかけるひとりのベイラー。グレート・ブレイダー。マイノグーラとの闘いで負傷したものの、それでもまだ戦う意思は消えていなかった。中にいるカミノガエも、無事であった。そのブレイダーの姿をみたレターは、一瞬たじろいだものの、その体をゆっくりと抱きしめる。
突然の抱擁に戸惑いながら、カミノガエが問う。
「ジェネラル、このベイラーは? 」
《グレート・レター……グレート・ギフトの兄妹です》
「そう、なのか」
《お初におめにかかります。皇帝陛下》
「余の事を知っておるのか? 」
《はい。本当はもっと貴方ともお話したいのですが、今は、少々をお待ちを》
「う、うむ。許す」
《グレート・ブレイダー。貴方も、いいですね? 》
《肯定》
《ああ、その口調、久しぶりに聞けました。懐かしい》
それは、久しぶりにあった家族との会話のようだった。名残惜しくも、レターはブレイダーを解放し、そして、戦うべき相手へと向き直る。
《初めて、共に戦えますね》
《はい》
《お互いにこの『グレート』の名に恥じない戦いを致しましょう》
《無論》
集まった、百を超える戦力。カリンの、コウの危機に応じて集まった、星の守護者たらんとする者たち。ひとりひとりの力は小さくとも、カリンからしてみれば、共に戦ってくれる仲間がいるだけで、僅かに残った胸の内の闘志が、勢いよく燃え盛る思いだった。少し前までは、頼りなくみえた、折れた太刀でさえ、強大な武器に思える。
そして、集まったのは、遠くから来た者たちだけではない。カリンと共に、この旅路でずっと戦ってきてくれた仲間たちも、再び立ち上がっている。
「――――ッ! 」
「どッ」
「「せーい! 」」
瓦礫の中から、勢いよくリクが起き上がった。そして、その下からは、もらったばかりのマントをぼろぼろにしながらも、今だ両足は健在であるミーンとジョウが、そこに立っていた。
《リク! ミーン! ジョウ! 》
《お待たせしましたコウ様》
《オマタセ。オマタセ》
《レイダさん! ヨゾラ! 》
《待たせたな白いの》
《セス! 》
龍石旅団が、全員欠ける事なく、カリンの元へと集まった。その姿は満身創痍であるが、その眼には、一切曇る事のない闘志がにじみ出ている。そしてコウであれば、仲間にまだ、戦う意思さえ残っていれば、体については融通が利いた。
《……カリン》
「ええ。まずは皆に力を! 」
《「サイクル・リ・サイクル」》
全身から緑の炎が噴き出し、燃え盛り、吹き上がる。その炎はゆっくりと旅団の乗るベイラー達に降りかかり、その傷を癒していく。満身創痍だった龍石旅団のベイラー達が、その姿を、戦う前の、強く美しい姿へと戻っていく。
《カリン。眠くなってないか? 》
「ええ、大丈夫」
代償である眠気も、今だ襲ってこない。だが、これ以上治療としてサイクル・リ・サイクルを使うのは、カリンは経験則で危険だと判断した。そして、百や二百はくだらない、この星の戦力と、星の外から来たマイノグーラの戦力とがにらみ合う。
カリンは、ゆっくりと折れた太刀を掲げる。集まったベイラー達、動物たちは、合図を、今か今かと待ち望んでいる。この戦いが、星の命運を決めるものだと誰もが理解していた。敵は強大。だが、恐怖で身を竦めている暇もない。
《「総員」》
カリンとコウの言葉が重なる。この場にいる全員に、聞こえるように、伝わるように、届くように、声を張り上げつつも、ゆっくり、はっきり、丁寧に告げた。
《「突撃ぃいいいいい! 」》
「「「「うぉおおおおおおおお! 」」」」
《《《《うぁあああああああお! 》》》》
「「「「GULAAAAAAA! 」」」」
「「「「SHAAAAAAAA! 」」」」
人が、ベイラーが、獣が、虫が、この星を飲み込まんとする外から来る者たちを前に牙を剥く。
「おいきなさい! 」
「「「「――――――――――――」」」」
マイノグーラが迎え撃たんと猟犬をけしかける。
両軍、策らしい策は一切用いない。用いている暇も猶予も隙もない。
今この時、このガミネストの命運を決める戦いが、始まった。
やっとここまで来ました。




