ベイラーと、マイノグーラの器
マイノグーラの全身から冷気が噴き出し、あたり一面を凍らせていく。その力は敵味方など関係なく全方位に発揮されていた。だが、そのマイノグーラの力と、コウの、ほとばしる緑の炎が、ぶつかり、せめぎ合い、消し合っている。どちらにも共通点など無く、ただお互いの力が、お互いにとって、相反する力だという事しか分かっていない。
「(拮抗してる! でも、それだけ! )」
コックピットの中にいるカリンも、それは重々承知していた。もとより、拮抗できるかどうかさえ怪しかった。これはぶっつけ本番であり、拮抗できた事は喜ばしい。だが。
《カリン! ちょっとヤバイかも 》
「わかってるけど! 」
コウとカリンはお互いを共有し合い、すでに、その領域は『木我一体』にまで瞬時に達している。達しているからこそ、手の平から噴き出す炎は、今まで出してきた炎の中でも一番太く、長く、強い。相手が猟犬であったなら、その核ごと焼き尽くせたのではないかという火力だった。
「敵は、マイノグーラだけ!? 他には」
《見えない、けど、結晶がある。一個は壊れてるけど、もう一個、アレなんだ》
「……あとで調べてみましょう。今はこの状態をなんとか、したい、けど」
マイノグーラのすぐ後ろに、結晶がふたつ並んでいる。それは、マイヤが空中で発見したものであるが、中に何かが入っている事以外は、何もわからない。もし戦力であった場合は、すぐさま破壊するのが安全ではあるが、今は、目の前のマイノグーラの力に対応するので、カリンは精一杯だった。全身に力を籠めて吹き出している緑の炎。だが、その最大火力の炎を持ってしても、この場にいる全員を、凍らせない程度でしかない。
「(押すも、引くも、できないッ! )」
コウとカリンが全身全霊を賭けて炎を生み出している。一方、相手のマイノグーラの方は、顔色一つ変わらない。嫌味なほど平常だった。
「―――本当に、拮抗するのね」
平常であるからなのか、余裕が生まれたのか、マイノグーラが口を開いた。
「でも、なぜ拮抗しているか理解していない」
「何が、言いたいのよ」
「確か、えーと」
片手を向け、目線も動かさず、仕草もなく、何か迷って見せる。その仕草ひとつで、この相手が人間でない事を、カリンはつくづく思い知る。やがて、一呼吸置いたのに、マイノグーラが思い出したように答えた。
「おろかしい、というのよ。あの人は、きっとそう言う」
「おろかしい、ですって」
「星も知らない。宇宙を知らない。時を知らない。そんなの、おろかしいでしょう」
マイノグーラが、いままで片手を向けていたのを、今度は両手をコウ達に向ける。その瞬間、今まで拮抗していた力が、徐々にマイノグーラに傾いていく。コウの指先が少しずつ凍りはじめ、そしてカリンの指もまた凍っていく。
「まさか、今まで全力じゃなかったの!? 」
「知らないから、そんな事がいえたのね。なら、そのまま死に絶えていくといい」
「こ、このぉお! コウ! 踏ん張って」
《星、宇宙……はわかるけど)》
「え、何? 」
さらに力を高めるべく、コウに声をかけようとしたが、肝心のコウが、全く別の事を考えはじめており、カリンは思わず困惑してしまう。
「今はそんな事どうでもいいじゃない! 」
《星、宇宙と来て、なんで、次に時なんだ? 》
「今は集中してって……星と、宇宙って、上の事よね? 」
怒鳴ってでもコウに集中させねばと思っていたカリンは、コウの言葉を受けて、彼女もまた、考えに及び始める。カリンは、まだ実感として、宇宙と星の事を理解していない。瞬く星がどんなものなのか、まだ彼女は知らない。コウは、出来る限りかみ砕いて説明する。なお、説明している間にも、カリンもコウも、その指先がどんどん凍っていく。
《ああそうだ。頭の上に輝くのが星で、星があるのが宇宙だ》
「その中には、時はないの? 」
《無い。少なくとも、並ぶようなものじゃ、ないはずなのに……時……時間……》
「―――どうせ理解できない」
マイノグーラの力はさらに強く大きくなる。手のひらと言わず、足元まで凍り始めてた。もはや全身のサイクルを回す事さえ困難になり始める。あれだけ猛っていた炎が、冷気に明らかに負け始めている。氷漬けになれば、もうサイクルを回す事はできなくなる、
「そのままゆっくりと、眠るように、死ね」
覆らない宣告に聞こえた。どれだけ踏ん張っても、コウの炎はこれ以上強く大きくならない。そして、冷気はついに全身に及び始め、その肌にうっすらと霜が生え始める。そこからは、サイクルの勢いが弱り始める。霜が回転を阻害している。回転が著しく下がり、炎はさらに弱く儚くなる。
「このままじゃ……もう」
《凍る……止まる……とま―――》
止まる。頭に過ったひとつの単語。
《……何故、止まる? 》
(―――まさか)
《何が、止まる? 何を、止めてる?》
何故にと問う。故にと答える者はいない。だが、たどれる道筋は、すでに明かされている。
《やっと、分かった。あいつ力を》
「コウ! 本当なのそれ!? 」
《ああ。俺たちが動けるのも、そして、僕ら以外が動けないのが、やっとわかった。 思えば、セブンの時からそうだった》
コウは、マイノグーラの力を理解したその瞬間、今まで、そうあるようにしか見えなかった霜が、氷が、解け消えていく。そして代わりに、コウの炎が、勢いを取り戻し、再び拮抗し始める。凍り付いた指先が、足先が、全身のサイクルが十全に回り始める。その様子を、じっと見ていたマイノグーラは、初めて仕草として首を傾げた。彼女は、コウの理解に疑問を示している。おろかしい者が、理解できるはずがないと。
「知ってる。それはハッタリ、というんでしょう? 」
《ハッタリかどうか見せてやるよぉ! 》
「でもコウ、どうするの? 」
《カリン! 龍殺しの大太刀を》
「こ、ここであの太刀を!? 」
《忘れたのか!? あの太刀にもあるだろう! 》
「―――ッツ! そうか! 」
すぐさま、背中の太刀を鞘から抜き取る。そして、解きほぐれた手でしっかりと握り、天へと掲げた。龍殺しの大太刀には、ベイラーと同じく、サイクルがある。そして、ベイラーの力を伝播する力がある。
コウのサイクル・リ・サイクルを受け、刀身に緑の炎が纏われた。
《斬り裂けぇえ! 》
「ズェアアアア! 」
裂帛の気合と共に、あたり一面に漂うマイノグーラの力を、横薙ぎに振り払う。冷気は炎によってかき消され、打ち払われ、消し飛ばされた。そして、マイノグーラの指先に、今度はコウの炎が焼き付き、離れなくなる。
「まさか、理解、したというの? 」
《そうだ。本当に、凍らせる事ができるなら、そもそも星を凍らせればいいんだ! なのに、彼女はそうしなかった! この力は、星の外から来た貴女由来の物で、そしてその力は、絶対に星には勝てないから! 》
「絶対、ね」
「コウ、マイノグーラの力って、『静止させる力』じゃないの? 」
《ああ、そうだ。全て止める、でも、物体の事じゃない》
炎を弱めず、大太刀からただ強く、強く放つ。
《動き続ける物体が止まるには、それだけ反対方向の力がいる。でもそれは、あくまで物理の話だ。マイノグーラ、お前の力は、物体を止める力じゃない。もっと大きな枠組みの力だ》
マイノグーラの冷気が、徐々にその勢力を弱めていく。それは、勢いだけでなく、冷気として認識できていた現象が、コウが言葉を発するだけ、変質していってる。凍っていたのは、凍って見えていただけであり、本来の、マイノグーラが与える現象とは過程が異なる。
《お前が止めているのは、時間だ、お前以外の時間を止めているから、皆が止まる。物が止まる》
「……じ、時間を止める? 」
《時間が止められるなら、いろんなからくりが一気にわかる》
その過程に、コウは気が付いた。その瞬間、周りの風景が一変する。あれだけ指先が凍るようだった冷たさは、一瞬にして消え去り、代わりに、全く微動だにしない指がそこにある。足も、腰も、そして舞い散る破片でさえ、凍ってみえていたものが、ただその場で静止している。
《セブンが瀕死の重傷を負っても立ち上がれたのは、その体が死ぬまでの時間を止めたんだ。どれだけ傷を負っても、立ち上がれたのは、致命傷になる前に、その傷を止められたから》
「時間って、そんな簡単に止められるものなの? 」
《いや、そんな事はない。でも、星の外から来たやつなら、あるいは》
「―――なぜ、この星のベイラーが、理解できたの? 」
カリンの驚愕ももっともである。今まで、時間はただ進むものである。ソレを、何がどうすれば、止められるようになるのか。止めたとして、なぜそんな事をするのか。疑問だけが浮かんでは消える。だが、その全ては、マイノグーラがみせた、はじめてみせる明らかな動揺に、すべて吹き飛ばされる。
「―――この星で生きた者が、まだ宇宙を読み解ける者も少ない、この星の人間が、この力の意味に、たどりつけるはずがない」
《……》
「だって、あの人だって、最後まで気が付かなかったのに、どうして」
声色はやはり変わらないが、口数が増えている。そして、首をかしげ、光の無い目で、じっとコウを見つめている。
「あの人が理解できなかったものを、なぜ理解した? なぜ、なぜ、なぜ」
手のひらから出る、もはや冷気ではない力が、ついにコウにかき消され、緑の炎が、マイノグーラに襲い掛かる。無論、通常の焼き尽くす炎ではない為、マイノグーラになんらダメージは無い。しかし、マイノグーラの力を打ち破った。その一点が、この場では何より重要だった。
「これで、あの力も怖くない! 」
「……な、なんだ。一体、何が」
周りを見れば、先ほどまで動かなかった黒騎士やカミノガエ達が、状況を理解できずに茫然としている。時を止められていた彼らからすれば、出会い頭にコウとマイノグーラの力を目の当たりにした直後、なぜか、マイノグーラがその場に、「なぜ」を連呼して突っ立っている状況となる。
「カリン、お主何をしたんだ」
「陛下。マイノグーラの力を、打ち払いました」
「それは、誠か」
「はい。これで、もう凍り漬けになる事はありません」
「ならば、勝機はあるな! 」
「はい! 」
マイノグーラとの闘いでの難関は、マイノグーラの使う得体のしれないあの力。だがその力を封じられたのなら、もう怖い物はないと、カリンは操縦桿を握りしめる。勝機を掴んだのだと意気込む。
「コウ! 畳みかけるわ! 」
《ま、待てカリン》
「どうして!? 今が好機よ! 」
《上から何か来る! 》
「上!? 」
カリンが相棒を信じ、その場からバックステップの要領で飛び退く。その瞬間、上空から一条の光が降り注いだかと思えば、石畳の床が焼け爛れていく。カリンが避けなければ、いくら再生力のあるコウと言えど、無事ではすまない威力だった。
「今のは一体」
「おろかしい者たち。なのに、セブンより理解を示した者たち」
ゆっくりと、頭上から、その攻撃者が降りてくる。それは、全身を結晶で覆われた、今までにない、未知のベイラーであった。 マイノグーラが、すぅっと地面から浮いていく。そして頭上から降り立ったベイラーの、コックピットに降り立つ。
「なんで、なんで、なんで、なんで? セブンが理解できなかったのに、お前たちが理解するの? なぜ? なぜ? なぜ? 」
「(マイノグーラが、なんか)」
「なんで、どうしてセブンじゃないの」
「お、オイオイあいつ」
隣で動けるようになったサマナが、驚いた声色でカリンに告げる。
「怒って、るぜ」
「怒ってる? 」
「あ、ああ。そう見える。というか、初めてだ。猟犬が出た時は、何も見えなかったのに、いま、あいつは怒ってる」
今まで、マイノグーラを含め、猟犬にも、サマナには、彼らに心という物が見えなかった。だが、ここに来て、その胸に確かな怒りが宿っている事を知る。
「怒り? ああ、きっとそう、セブンもこうやって怒ってたんだわ」
「(コレも、セブンの真似事? それとも別の)」
「セブンじゃない貴方たちはいらない。消してやる。この器を使ってでも」
「器? ってまさか」
マイノグーラが、コックピットに収まっていく。結晶が再度
《カリン! さっき見つけた結晶のひとつが壊れてる! 》
「なら、アレは、その中に居た奴? 」
よく見れば、マイノグーラの背後にあったふたつの結晶のうち、ひとつが割れていた。それは内側から蹴破ったのか、粉々に砕け散った欠片が、あたり一面に広がっていた。
「またセブンが使ったようなベイラーかしら」
《……さっきの攻撃、セブンの『穿孔一閃』じゃなかった》
「そう言えば、そうね。どちらかと言えば、もっとこう……熱線の……よう……な……」
降り立ったベイラー、その姿を見て、ふたりが絶句する。背中にあるのは、セブンが乗っていたあの、ケイオス・ベイラーに特徴は似ていた。両手の他に、背中に補助腕が5本生えている。3本は肩の上から、2本は脇の下から生えている。だが、大きな違いは、琥珀色のコックピットと、その補助腕の形状。どれも大きく太い。そしてなにより、その指全てに、長く鋭いカギ爪が付いている。その手の平には、コックピットと同じ、琥珀色をした丸い欠片が、中央に鎮座している。バイザー状の顔面には、その中央に、無理くり備えたようなひとつ目が埋め込まれている。
「人工ベイラー、じゃない? 」
そして何より、その頭部には、見覚えのある絹のような美しい黒髪がなびいている。黒髪をなびかせるベイラーに、コウは心当たりしかなかった。
《まさか、あのベイラーって》
「―――結晶の形を、あの人は褒めてくれたから、こうしましょう」
マイノグーラの一声で、その、心当たりのあるベイラーの各所が、結晶によって彩られる。肩や肘、出っ張りの部分に、金細工の要領で、結晶の模様が浮かび上がった。同時に、黒髪が、その根元から色が染まっていき、マイノグーラと同じ、白銀の髪へと変化していく。
「いけ。ケイオス・ベイラークリスタル」
三つに増えた目が怪しく光る。同時に、7本になった腕と両足が離れ、それぞれ独立して動きまわった。カギ爪のある手の中央、琥珀色の結晶が怪しく光る。
四肢と背中の補助腕が、体のシルエットを大きく変えながら、その光の全てがコウ達に向いている。
「この攻撃は!? 」
《間違いない! アレは、アイだ! 》
「アイを、利用したというの? 」
《なぜ、どうしては後だ! 今はアレをなんとかする! 》
その姿形は、アイと同じ。違うのは、その力のあり様。『サイクル・ノヴァ』による、全方位を囲んで十字砲火してくる攻撃は、一対一の戦いでは非常に困難を極めていた。アイの時は、両足と、右手の三か所から。今度は両腕両足、そして背中の分を含め九か所。どれも、髪の毛によって接続されている。
《十字砲火どころの騒ぎじゃないぞ! 》
「消え去りなさい」
アイを元にして作られたのか、そうでないのかは、まだコウ達には判断できていない。それでも、九つある全ての光が解き放たれた時、自分達が無事で済んでいるとは到底おもえなかった。大怪我で済めば幸運、最悪の場合、マイノグーラが言う通り、全身消し炭になる可能性すらある。そんな攻撃を受ける訳にはいかない。
「みんな伏せてぇええ! 」
カリンが、せめて被害を少なくできればと、ただその一心で叫んだ。だが、ここに逃げ場はなく、避けようもない。今まさにサイクル・ノヴァが解き放たれようとした時、カリン達の前に、ひとりのベイラーが躍り出る。黄色い肌をして、二枚の巨大なシールドを持ったベイラー。
「リク! 」
「サイクル・パワー全開!! 」
《――――ッツ!! 》
コウ達の盾になるべく、リクがその身を盾として前に出た。四つ足をたしかに踏みしめ、土台とし、絶対に後ろにいる仲間たちを守るという決意と共にそこに立つ。
「無駄な事を」
マイノグーラの静かな呟きと共に、光は解き放たれ、コウ達に飛来する。九つの光は、莫大な熱量を伴って、真っ直ぐコウ達へと向かう。舞い散る破片が光に焼かれ、塵を焦がして進んでいく。
そして、リクの持つ二枚のタワーシールドは、その光を、真正面から受け止めた。バチバチと表面が爛れ解けていく。
「「おおおおおお! 」」
《――――ッツ! ッツ! 》
「リク!? コウ、リクが! 」
《少しでも手伝う! 》
コウが、リクの肩に手を乗せ、サイクル・リ・サイクルの炎を纏わせる。盾を支える手が、なんども砕けそうになるのを、コウの力によって、壊れては復活し、壊れては復活しを繰り返す。そして、サイクル・ノヴァの掃射を受け、リクは一歩も引かずに、防ぎ続ける。だが、光線の熱量は膨大で、鋼鉄製のタワーシールドを、蝕むように溶かしていく。
「リクがいなかったら、もうやられてたわ」
《でも無茶だ! あの攻撃を盾で防ごうなんて! 》
「「無茶じゃない! 」」
リオとクオの声が重なり、抗議する。
「「リクが、皆を、守るんだぁああああああ!! 」」
タワーシールドが融解していくにつれ、リクは自分の手で代わりにシールドを作り上げる。なんの装飾もない、ただの壁といっていい、リクのサイクル・シールド。
だが、コウの炎を受け、そのシールドの強度は、通常の何倍にも引き上げられている。強度の上がったシールドは、貫かれる事はない。だが、サイクル・ノヴァが持つ衝撃そのものにより、リクの体、その全身に多大な負荷がかかる。
衝撃が大きく、攻撃を防ぐには、もっと力が必要だった。そして、その力の出し方を二人は知っている。だが、これ以上力を使えば、自分達に何が起きるかも、二人は知っている。
「(また、血が出るかも)」
「(また、お姉ちゃんと一緒に倒れるかも)」
ベイラーの性質として、二人以上の乗り手がいる事による、共有の危険性。二人乗りは、一人乗りよりも、莫大な力を発揮できる代わりに、乗り手には多大な影響を及ぼす。それは、人間の脳に深刻なダメージを負わせる。
リオとクオには医学の知識は乏しく、人間に『脳』という器官がある事はまだ知らない。それでも、リクと一緒に、二人で力を高め続けるとどうなるかは、先日、セブンとの闘いで明らかになった。
「(起き上がれるかな)」
「(起き上がれないかも)」
恐怖が無いといえば嘘になる。だが、ここで、コウ達を守らないと、世界がどうなるか分からないほど、双子は愚鈍ではなかった。もっとも、世界がどうなるかより、好きな男の子がいる世界を守りたいとだけ、二人は考えていた。
「「だから!! 」」
二人の声と意思が重なり、リクを『赤目』にする。純粋なパワーにより、サイクル・ノヴァの莫大なエネルギーを伴う光線を防ぎ続ける、
「「サイクル・パワー!! 」」
リクの目が光輝き、全身に力が漲る。サイクルが甲高い音をたてて、シールドを支える体が、より力強くなる。強化されたシールドは、たしかに光線を防いでいる。だが、その衝撃はいかんともしがたく、リクの体に、無視できない負荷がかかり始まる。それは両足から始まり、膝、腰、そして肩に至るまで、ひび割れが始まる。コウの力で再生しても、壊れる速度が速すぎて、追いつかなくなる。
《(シールドが硬くても、リクの体の方が持つのか?)》
やがて、四本ある足全てが一斉に壊れ、リクの態勢が大きく崩れ、よろめいてしまう。コウが支えようにも、足が崩れてしまっては立たせる事ができない。
「「まだだぁあ! 」」
リオとクオは、四本あるうちの一組を地面に伸ばし、その場で腕を足とした。足さえできれば立つ事ふができる。
《が、頑張れリク! 》
《―――ッ! ッ! 》
コウが支えてやり、真っ赤に輝いた目でコウに返事する。言葉はなくとも、ソレがリクにとっての返事だと理解できないほど、ふたりの付き合いは短くない。リクは必死に耐え続け、共に旅をしてきた仲間たちを守り続ける。
やがて、大きすぎる光が収まり、あたりに静寂が戻った。さきほどの一撃で、リク以外の場所は真っ黒に焼け焦げ、瓦礫は融解している。船からもってきたタワーシールドはその役目を終え、真ん中からひしゃげていた。そして、コウの力で強化されたサイクル・シールドも、皆を守り続けた後、その場で塵となって砕けていった。
「リク、よくやってくれました……リク? 」
カリンが、リクに労いの言葉を賭けようとした時。そのまま彼は前に倒れてしまう。全身のサイクルを回し続けた結果、関節からは焦げ臭いにおいが立ち込めると共に、両手にいたってはが黒く煤けている。なにより、リクの目に光がなくなっていた。双子の返事も聞こえてこない。
「リオ、クオ? どうしたのです? 」
《ま、まさか》
「コウ! サイクル・リ・サイクルを! 」
《もうやってる! 》
コウが手をかざし、リクの体に炎を浴びせる。ひび割れた両足も、煤けた両手も元に戻ったが、リクはそれ以降目が覚まさない。
「……まずは、一匹」
シュルシュルと音を立て、光を放った両手両足を体に戻していく。
「リク、リオ、クオ、そんな」
「力を理解していようがしていまいが、関係なかった……もう眠るように殺さない。お前達は、この手で苦しませながら殺す」
カリンがどれだけ声をかけても、黄色い肌をしたベイラーからの返事はきこえてこなかった。
そして、ゆっくりと、ケイオス・ベイラークリスタルが迫る。時を止める力をもった事が分かったとしても、現れた圧倒的な力をもつベイラーを前にして、コウは、そしてカリンは見つけた勝機を再び見失った。
・時を止める力
マイノグーラの持つ力。周囲の時間を静止させる。この星、ガミネストにおいて、時間を止める概念が曖昧であったため、正しく認識させるまで、ずっと『凍らせる力』としか発現されなかった。
時は進み、戻らないと考えている者にとって、止まるとは凍る事以外に想像できない、
・ケイオス・ベイラークリスタル
地下深くに落ちていた瀕死のアイは、『聖女の軍勢』が回収。マイノグーラに献上された。そのアイを、マイノグーラが、ケイオス・ベイラーを参考に手を加えたもの。『時を止める力』をアイそのものにかけ、瀕死の状態で停止させている。その力は中にいた乗り手も同様である。




