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ベイラーと突破戦


 ベイラー達による突撃で、『聖女の軍勢』を文字通り蹴散らしていく。


「進めぇえええ!! 」


 カミノガエが声を張り上げ、兵士達が応える。彼が宣言したと通り、その手を祈りに使うのではなく敵を倒す剣を持ち、迫りくる数多の敵を、斬り伏せ、斬り倒し、斬り進んでいく。真っ向から『聖女の軍勢』を突破してく。その勢いは津波のようで留まる事を知らない。


 一秒経つ間に、血が垂れ流され、一歩進む度に怒号が激しくなる。だが、『聖女の軍勢』の攻勢は、ほんの僅かだが揺らいでいるのを、カリン達は肌で感じる事ができた。彼らは統率がとれていない。故に、全軍用いての突撃に、場当たり的な対処しかできていない。


 戦場では、防御側を崩すのに、攻撃側は三倍の戦力が必要だと言われている。それがなぜ、こうも突破できているのか。それは、防御に回すだけの指揮がなく、横に大きく広がっていた彼らは、一点突破してくる軍勢を受け止めるだけの壁を構築できていない。その事に気が付いている指揮官は『聖女の軍勢』には存在していない。防衛とは、潜伏し、奇襲を繰り返すゲリラ戦法と最もかけ離れた戦術である。そしてゲリラ戦は、最悪経験がなくとも実行可能であるが、防衛には相応以上の経験と知識がいる。そのどちらも、『聖女の軍勢』は持ち合わせていない。


 この欠点を補うように、猟犬が活発に動いている。単純に彼らの方が移動速度も対応も早い、そして彼らの目的は人を喰う事。人が多ければ多いほど、この行動理念は強く表れる。結果、一点突破しにきたカミノガエ達を、餌の塊として認識し、一斉に襲い掛かってきている。


 両脇、最後尾に喰いつこうとする。だが、両脇からは『水砲』が絶えず発射され、水を恐れる猟犬が、攻撃の手を緩める。そして、目論見どおり水砲が直撃した猟犬は、その体がヘドロ状になり、ほぼほぼ無力化される。水砲による威嚇と迎撃。そしてそれらを守る最後尾には、ただ一人のベイラーによって防ぎきられている。


「こっちくるなぁ!! 」

「くるなぁああ!! 」


 黄色い肌をしたベイラー、リクが、両手にもったタワーシールドで、突っ込んできた猟犬を押しのけるように吹き飛ばす。鉄の塊を、力任せに降り抜ける事で、最後尾で鉄壁の守りを発揮している。リクは、お世辞にも足が速いとは言い難い。だが、四つの脚を器用につかい、ガシャガシャと音と立て、後ろ向きに走りならが、盾を構え、突撃する仲間質の最後尾を襲わせないように立ち回っていた。


 戦っているのは最後尾のリクだけではない。空を飛び、四方からの攻撃を撃ち落とし、たたきのめしているブレイダーの子機。そして、空中迎撃要塞『コロシアム』から降りた二人のベイラー。


「ヨゾラ! まだいけるんだな! 」

《大丈夫! 大丈夫! 》


 すでにヨゾラと寄せ植えし、空中飛行可能となったレイダ。彼女がサイクルショットで、ヘドロ状になった猟犬、その核を砕き、少しでも猟犬の数を減らす。


《バスターベイラー砲を使わないのですか? 》

「アレは時間がかかりすぎる! お前のショットが今はベストだ! 」

《はい! 》


 背中に背負っていたバスターベイラー砲を使おうにも、発射までにタイムラグのあるこの武器を、突撃しながら使うには、そんな猶予もない。


「遅れるなよナット」

「フランツこそ! 」


 ナットが駆る空色の肌をしたミーンと、フランツの駆る、半身が焼けただれながらも、淡い夕焼けの肌をしたミーン。足の速いふたりのベイラーが、突撃を援護するように旋回している。彼らの脚であれば、もっと先行する事も可能であるが、彼らだけがたどり着いても意味がない。ならば、二人が動ける間は、出来る限りの支援をするのが最もこの突撃を成功させる近道であった。


「吹き荒べミーン! 」

《あいあいさー! 》


 ミーンの体から煙が吹き上がる。風が逆巻き、突撃を阻むべくやってきた猟犬たちを、ただ走るだけで吹き飛ばしていく。


「歌え!! 」

《”赤き炎はその全てを灰とする”》


 古い詩を紡ぎ、ジョウの体もまた煙を上げる。そして、右手のドリルが高速で回転していく。


《”恐れるなかれ。灰より命が生まれでる”》


 ドリルを突き刺し、猟犬の体を木っ端みじんにしていく。それでも、ドリルに巻き込まれただけでは、猟犬を倒す事はできない。


「”われら獣の愚かを超えるべく血を集めよう”―――ふん、まるでこの状況みたいだ」


 それは古い詩の一節。どんな話なのか、どんな意味があるのか、フランツは知らない。知る良しもない。今はただ、この歌を依り代に、ジョウの力を最大限に発揮する事に全神経を集中させる。


《”大皿に血を集め捧げよう”!! 》


 ジョウのドリルが、無数の猟犬を指し穿つ。猟犬は見るも無残な姿となり、ドリルから肉を取り除くように血を払った。


「フランツ! 地下水道までは!? 」

「もうすぐだ! 」

「わかった! 」


 彼らは、何もこの地上をそのまま突破するのではない。作戦通り、猟犬を掻い潜るべく、このまま地下水道を通り、そして、ジョウのドリルによって、マイノグーラの要る場所に穴をあけ、そこから襲撃するのである。だが、その道のりはあまりに遠く険しい。


《な、ナット! 前見て! 》

「うわぁ、アレってまさか!? 」


 その道行には、困難ばかり待ち受けている。突撃を続ける彼らの眼前に、新たな敵が現れた。先ほどから襲ってきていた猟犬よりも一回り大きい、大型猟犬と、飛行型猟犬が、真っ直ぐこちらに向かってきている。大型猟犬は水を恐れず、水砲による威嚇も通用しない。


「アレって僕らじゃ駄目じゃん!? 」

「あたしに任せなぁ!! 」

 

 現れた大型と飛行型。その二種類の敵を前に、サイクルボートで一気に接敵する真っ赤なベイラー、セスがカッ飛んでくる。


「オラオラオラァア!! 」


 セスが持つ新型水砲を、そこかしこにぶちまけていく。とても狙い撃っているようには見えなかったが、それでも、一発二発が大型猟犬と飛行型にそれぞれ命中する。大型猟犬はわずかに足を止めただけだったが、飛行型猟犬は、その翼にぶち当たり、大穴をあけ落下していく。


《片目でよく当てる》

「トドメだ! サイクルシミター、ブーメラン! 」


 手のサイクルを回し、片刃のシミターを作り上げる。その数6本。指でつまむようにして、それぞれの猟犬目掛け、今度は狙い投げる。


「《六連刃!! 》」


 投げ込まれたシミターが弧を描き、その四肢を切り裂いていく。そして、投げた勢いは落ちる事なく、周囲の猟犬を巻き込んで切り刻み、刃が欠けていくと、空中でパラパラと砕け散っていった。目下の敵を退けた後、サマナが水砲を見て思わず舌打ちする。


「――ヤベ。使いすぎた」

《今度から狙い撃つ事だ》

「ちぇえ」

《まぁいいだろう。そら見えてきたぞ。アレだろう? 》

「ん? ……」


 水砲に残った水の量はすでに半分以下になっている。さきほどと同じように乱射する事はできなくなっていった。だが、そんな懸念を吹き飛ばすような出来事が目の前に見えてくる。


「カリン! 見えてきたぞ! 前に開けた、地下水道に続く穴だ! 」

「はい! 皆! もうすぐです! 」


 カリンが、コウの手にもった大太刀から血を振るい落としながら答える。あまりに長い時間にも感じていたが、それでも確かに自分達は前に進んでいたのだと実感する。そして、その時間は、兵士達に伝播していった。


「いけぇ! もうすぐだあああ! 」

「おぉおおおお!! 」


 地下水道の入り口。ここまでくれば、大型猟犬以外は追ってこれない。もし、追ってきたとしても、その体躯が相まって穴の中に入れない。


 この作戦で、待ち伏せも考えられていはいたが、その案はコルブラットから反論があった。曰く、猟犬はそもそも罠を張るような生態をしていない。加えて、多少の水に耐性を持った大型猟犬といえど、地下水道に要る可能性は極めて低いと。なぜなら、地下水道に入るなら、そもそも、大型猟犬が港に来る手段として使われている。しかし、大型猟犬はいずれも地上から現れていた。それは逆説的に、彼らが地下水道に入れない事を意味している。


「もうすぐ、もうすぐ」


 兵士達は、目標の第一段階を突破できると、わずかに喜んだ。その僅かな喜びに、『聖女の軍勢』が隙を見出す。


「―――かかれえぇええ!」

「あ、ああ!? 」


 猟犬は確かに罠を張らない。だが。『聖女の軍勢』にいるのは、人間であり、人間は罠を張る。両脇から突如、伏兵として『聖女の軍勢』と、ティンダロスの猟犬が、矢のように飛び掛かってくる。猟犬を手懐けたのではなく、簡単に壊れる柵を作り、猟犬が道に溢れないように留めていた。そして彼らは、突撃してきたカリン達が来たのを見るや、その柵を壊し、猟犬を一気に解き放っていた。


「(だが数が多くない。コレもまた、統率無しでの、単独の行動かッ!? )」


 数は少数。持っている武器もバラバラで、この行動が、指揮官によって意図したものであれば、この局面で、少数を向かわせる必要は皆無である。ならばやはりコレは、他の『聖女の軍勢』と同じく、各々が、勝手気ままに行動した結果であった。


「(しかし、なんというタイミングで! )」


 思わぬ伏兵による挟撃を受け、突撃していたカリン達がわずかに速度が遅れる。そして、今まで攻撃をかわしていた兵士達もまた、一瞬の隙をつかれ、ここに来て脱落していく。猟犬の牙に体を貫かれ、その場で崩れ落ちる。 


 だが、そうなっても、誰も倒れた者を助けようとしなかった。それは、決して兵士達が冷徹であったからではない。ここで足を止め、戦ってしまおうものなら、勢いにのって突破するこの作戦が進行不可能となる。そうなれば、もう彼らに、いや、人間に、この星に未来はない。 


 不思議と、襲われ倒れた兵士達が、助けを請う事はなかった。彼らもまた、こうなることを知った上でついてきていた。自分ひとりを助けるために、この作戦を止める事はないと。こうなってしまうのは、仕方のない事なのだと。


「ああ、あああ! 」

「振り返るなカリン! 」


 頭では分かっていた。そうなる事を知った上での作戦だった。だが、目の前で繰り広げられて冷静でいられるような、指揮官の才能が、残念ながらカリンにはなかった。わずかにコウの脚が緩まるが、カミノガエがカリンに叱責する。ブレイダーが、コウの手を握り、ひたすら連れていく。


「進め! ソレで慰めになる! 」

「―――はい!! 」

《―――お願い、しますブレイダーさん》

《了承》


 そして、コウもまた、カリンの共有により、意識は伝播している。カリンと同じように、彼らを少しでも救えるのではないかと、一瞬の逡巡をしてしまう。だが、その一瞬すら、後ろに意識を向けるのが、今は惜しい。今はただ、一歩でも前に進むのが彼らの使命であった。


 そして、大穴にたどり着くと、カミノガエは、すでに枯れそうになった喉を奮い立たせ声を上げる。

 

「総員飛び込めぇええ! 」


 地下水道に続く道に向け、全員が飛び込んでいく。子機のブレイダー達が兵士達を抱え、彼らが落下の衝撃で怪我をしないように、最低限の手助けをしていく。やがて、最後の一人である黄色いベイラーリクが飛び込む。これで、カリンの一向全員が、地下水道へと向かって走り抜けていった。


「このまま、結晶の魔女マイノグーラの元まで突き進む! 」

 

 地下水道は予想通り静かで、猟犬の影も形もない。なにより、『聖女の軍勢』が居ない。あとは行軍するだけとなった。



「……」

《カリン》


 決死の突撃は、ほぼほぼ、目論見通り成功した。全軍による、中央突破を成し遂げ、カリン達は今、地下水道を進軍している。兵士達の顔には、意外なほど疲労が見えない。戦闘時間にしてわずか数分でしかない為、体力の消耗そのものは少なかった。


 だが、疲労の代わりに、顔色は重く暗い。


「何人、喰われたの……」

《まだ、分からない。数えている暇も、ない》

「そう。そうよね」


 兵士達、そしてウォリアーベイラー、突撃の前にいた者が、この場に居ない。カリンは、兵士の名前を聞いていない。ウォリアーベイラーは人工ベイラーである為、名前はないが、それでも、閉ざされたこの地で濃い時間を過ごした仲間である。


「マイノグーラを倒せば、こんな事終わるのよね」

《ああ。きっと、そうさ》


 それ以上、会話をする事ができなくなった。沈黙と足音は、足元に流れる水流がかき消していく。行軍している間にも、水砲と持ったベイラー達は、貴重な水を補充し、満杯の状態にしている。そして、先頭には、穴を拡大し続けているフランツとジョウ。彼らの働きにより、こちらの全ベイラーが通れるほどに穴を拡張し続けている。行軍速度が徒歩と変わりないのは、主にこちらが原因だった。


 やがて、沈黙に耐え切れなくなり、カリンから口を開く。


「……まるで、『果ての戦場』みたいだった」

《ああ。似ていた》


 ほんの僅かな時間だったが、その様相は、宇宙の果てにあった、あの地獄と似た質感を持っていた。誰もかれもが、戦う為に戦っていた、あの地獄。


「マイノグーラは、ひとり。こちらは大勢」

《数の有利はあるけど、それだけで勝てる相手じゃない》

「わかってるわ……一応聞くけど、勝算は? 」

《サイクル・リ・サイクルだ》

「あの炎が? 」

《マイノグーラの力と、なぜか拮抗できた。きっとこの力が、勝利の鍵……》

「勝利の鍵、ね」

《だと、思う》

「フフ。なぁに? 自信ないの?」

《マイノグーラの力、覚えてるだろ? 》

「ええ。なんでも凍らせて止める。セブンの時もずいぶん苦労した」

《……でも変なんだ》

「変? 」

《だって、俺の力は生きる力を後押しする力だ。それがどうして、物を止める力と拮抗するのか……俺には、よくわからない》

「……うーん」

《俺の力にまだ何か秘密があるのか。それとも、もしかしてマイノグーラの力に、何か秘密があるのか》

「もしくは、両方、とか」

《両方、かぁ》

「いずれにせよ、ここじゃ答えは出ないわよ」

《それも、そうか。でいつもの》

《「ぶっつけ本番」》

《ほんと、なんとかならないかなコレ》

「もうー無理かも」

《無理かぁ》

「きっと、いままでも、そしてこれからも、そうなのよ、私達」

《……ああ、そうだな》


 これからも。この戦いが終わっても、きっと何か困難にぶち当たり、その都度、ぶっつけ本番でなんとかしていくのだろうと。カリンが未来の話をする。ようやく、未来の話まで、頭が回りはじめていた。


「まぁ、まずは帝都の再興ね」

《きっと時間かかるな》

「それでも、付き合ってくれるんでしょう? 」

《……》


 カリンが考える、その先。未来の話。そのどんな場所にでも、カリンは無邪気に、コウがすぐそばにいてくれていると信じている。その事が、コウは何より嬉しく思っている。


《ああ》


 だが、コウはベイラーで、カリンは人である。寿命が違う。未来の話は、必ず、カリンが先に老いて、死んでしまう事が含まれている。その時、自分はどうすればいいのか、コウにはまだその答えが出ていない。


《(……その時は、またその時で、考えるか。今はただ)》


 この、純粋にうれしいと感じた心を胸に、彼女と共に戦う事を誓った。


《お任せあれ》

「……穴が、空くわ」


 先頭で拡張を追え、この地下水道に新たな空気の流れが入り込む。明りがなく、光が入ってこないのは不気味であるが、すでにこの閉ざされた地で過ごしてきたカリン達におっては、もはや当たり前の光景だった。


「佳い。ほめて遣わすぞ。夕焼けのベイラーよ」

《仕事》

「ああ。いい仕事だ」


 カミノガエが、ジョウの働きに敬意を払う。そして、カリンと、兵士を一瞥し、再度、彼らに声をかける。


「もう後戻りはできん。―――いくぞ! そして、我らに勝利を! 」

「「おおおおお! 」」 

 

 カミノガエのベイラー、ジェネラルと、コウが並んで進む。龍石旅団の皆も、人工ベイラーに乗った兵士達も、ここにいる全てが、穴を抜け、マイノグーラの要る場所へと向かっていく。



「……ティンダロス。まだ浮いてない」

《龍が閉じてるから? 》

「きっとそうだ……そして、居た! 」


 穴を通り抜けた先は、かつて王城があった場所。今は見る影もない。城の代わりに、正六面体の、巨大な結晶が鎮座している。そして広場の正面に、目指すべき敵がいた。


「いた……け……ど」

《これは……結晶、か? 》

 

 結晶の魔女、マイノグーラがそこに居る。だが、彼女の周りには、不自然な結晶が沸き立っている。ティンダロスと同じ正六面体だが、サイズは、7.8メートルほど。


「……使えない」


 マイノグーラがこちらを認めると、一言つぶやく。どこまでも感情の籠っていない、棒読みスレスレ声。だが、コウ達がいままで見た彼女と違い、その仕草に変化がある。


 彼女は、肩をおとして、つぶやいている。それは、すこしやりすぎなくらい、『がっかりしている』仕草だった。


「もう突破されたなんて。まだ時間がかかるのに」

「……貴方が、あの人達をけしかけたの? 」

「うるさい」   

 

 そして、そのやりすぎなくらいの仕草のまま、マイノグーラが手をかざす。すると、あたりの気温が急激に下がっていく。彼女の足元が凍り付き、徐々に広がっていく。マイノグーラの持つ、物を凍らせて止める力が発揮されている。


《カリン! 》

「分かってる! 」

《「サイクル・リ・サイクル! 」》


 そして、コウ達は間髪いれず、己の力を解放する。背中と足のふくらはぎに備わったサイクルジェットが緑の炎を噴き出し、コウの体を大きく魅せる。


 やがてその炎は全身に纏われ、まるでドレスのようになった。


《「させるもんかぁあああ! 」》

 

 二人の声が、マイノグーラの力を押しとどめる。


《(やっぱり、拮抗できる! この力なら! )》


 コウは、己の力に確信を得ていた。この力であれば、マイノグーラに対抗しうると。対抗しうるのであれば、まだ戦いようがある。一方のマイノグーラは、コウの姿をみて、ひとり得心がいったように、やはり大げさに、棒読みのすれすれの声で応えた。


「ああ。だから炎の魔女なのね」

「……炎の、魔女? 」

「ここに来た人間がこぞっていっていたわ。マイノグーラ様が結晶の聖女様で、敵は、帝都の皇帝をたぶらかした、炎の魔女だって」

「魔女と言われる筋合いはないわ」

「でも、その姿のついた名前としてはわかりやすい」


 笑う事もなく、泣く事もなく、ただ事実を淡々と答えていくマイノグーラ。カリンは、会話しているはずなのに、どこか壁に向かって話しているような違和感を覚える。


 だが、マイノグーラの方はそうではない。


「(……なんていえばいいのかしら。たしか挑発ってこうだったような)」


 記憶している、ただひとりの人間。彼が話してくれた中にあった、挑発。それを実践する。


「さぁ来なさい。炎の魔女。来れるものなら」


 その言葉は、棒読みで演技もなにもあったものではないが、何よりカリン達に不気味さを与えさせた。

ぬるっとラストダンジョンに入りました。ようやくです。

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