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ベイラーと百年の先


 上空、空中迎撃要塞『コロシアム』は、苛烈な戦場となっていた。


「飛行型猟犬、数は三! 」

「なんだなんだ、全然いるじゃないか!? 」


 黒騎士が恨み言を吐き捨てならが、レイダと共に、サイクル・ショットの照準を合わせる。


「翼を狙え! 」

《仰せのままに! 》


 熟達の域に達しているレイダのサイクル・ショット。敵が飛んでいようと、狙いを外す事はない。針が飛ぶ弾道を予測し、宙吊りにされている都合、人やベイラーが動くたびに起こる、要塞の僅かな揺れも計算にいれ、レイダはサイクル・ショットを放つ。三発、すべてを正確に狙い撃つ事で、正確に三匹の飛行型猟犬は翼を打ち抜かれ、そのまま地表へと落下していく。

 

「(あの高さから落ちた後も、おそらく動くんだろうな)」


 地表まで追いかける事はできず、落下していった猟犬がどうなっているかは確認できてない。だが、これまでの耐久性を考えれば、どんな高さであろうと、再び動きだすだろうとは予想していた。


「シーザァー殿が戦線を上げたな。護衛もまだいる」

《避難船にはまだ手出しされてないません》

「こちらも、地上を援護するか。リオ! クオ! 」

「「はーい! 」」

「空はひとまず任せてくれ! 君たちは地上の猟犬を! 」

「「はいはいーい! 」」


 戦場に似つかわしくない声がする。黄色い肌のリクの乗り手たちである。


「地上の……あの辺だ」

「うぇ、まだ来る」


 シーザァー達が戦っている両脇から、数体の猟犬が挟み込むようにしてやってきている。空中である為に、地上からでは見えない位置関係が把握できるのも、この要塞の利点だった。


「「いくよリク! 」」

《―――ッ! 》


 リクが両肩に備えた、巨大な弓弩……城塞を打ち砕く為に使われていたソレを、地上に向ける、間違っても仲間に当てる訳にはいかない。猟犬が人々に近づくより前に発射する。


「「もういっぱーつ! 」」


 第二射にして、もう片方の猟犬の群れへと発射する。バネ仕掛けで、鋼鉄製の弓矢を発射する為、威力はすさまじいが、それでも相手は猟犬。致命傷にはなりえない。それでも、この空中要塞にリクが要るのには、この、一撃が重い攻撃を、遠距離から放てる事にある。


「……よし。地上も気が付いたな」


 さきほどの攻撃で、地上にいた部隊が、両脇の猟犬の存在に気が付き、即座に対応している。地上には猟犬を倒せる水砲がある。そして、リクの攻撃でわずかでも隙のある猟犬であれば、水砲を当てるのは用意だった。すぎさま両脇にいた猟犬たちは、大量の水を浴び、核を露出させた状態となり、そのまま兵士達の手によって砕かれていく。


「(伝達させている暇はない。これなら派手で、目立つ)」


 リクが攻撃した方向に猟犬がいる。それだけでも、地上で戦う兵たちにとって、両側面を警戒せず、前だけを見て戦えるのは、すさまじい利点であった。


「だが、結局は、あいつをどうにかしないと」

 

 戦いは、一応の均衡を見せている。だが、それも、地上にいるヒトガタが、こちらに侵攻できていない為である。空中要塞『コロシアム』からでも、その巨体は良く見える。周りを飛び回っているコウが、蠅のように小さくみえるほどであった。


「次から次へと変な物をだしてくる」

《……黒騎士、なんか突っ込んできます》

「なんか? 」


 レイダの言葉を受け外をみると、赤い肌のベイラー、セスが、猛烈な勢いでこちらに迫ってきている。しかも、その背後には、さきほど撃ち落としたのとは別の猟犬を引き連れている。


「なぁにやってんだアレ」

《呆れてないで助けますよ》

「そう、だなッ 」


 サイクル・ショットで狙いをつけ、セスをすり抜け、飛行型猟犬の翼めがけ針が飛んでいく。先ほどと全く同じ。翼に大穴が空き、猟犬は高度を維持する事ができなくなり、地表へと落下していく。


 そしてセスは、盛大に転びながら、『コロシアム』の中へと飛び込んできた。だが、着地には成功し、すぐさまレイダの元へと走ってくる。


《黒騎士! あの変な武器はまだあるな!? 》

「変な……ああ。コレか」


 レイダの背中に背負われた、生き物の脊椎そのままの、武器といっていいのか分からない、謎の物体。

 

「『バスターベイラー砲』がどうかしたか? 」

「名前つけたのか。ってなんだその名前!? 」

「アレ、とか、コレ、だと分からないだろう」

「だ、だからって、そんな『すごいでっかい剣』みたいな名前にしなくたって」

「仮だ。それに、どうせ他に呼びようが無い」

「安直な」


 ()()()()()()()()()()()()()()。だから、()()()()()()()()()。とてもシンプルである。後部の炉心から熱量を取り出し、銃口から発射される。通常は銃口は塞がれており、引き金を引く事で銃口が開き、発射されるようになっている。これは、銃口を塞ぐ事で、突然発射されるを防ぐ安全装置でもあった。


「ええい! 名前は今はどうでもいいんだ、」

「で、どうした。地上の手助けはもういいのか? 」

「それより、その大砲で、あのデカイヒトガタを撃て! 」

「あ、アレをか!? 」

「今、コウがいろいろやってるが、大太刀ですら効かない! 」

「コウの、大太刀が効かないのか」


 ヒトガタの耐久性に慄く黒騎士。だが、事態が急を要しているのは理解できた。


「地上の連中を、ヒトガタからできるだけ離れさせろ。もしコレを使ったなら、地上が抉れる事になる」

「わかった。終わったら合図する! 」

「さて……やってみるか」


 サマナが颯爽と地上へと戻っていく。同時に、黒騎士は砲を地上へと向けた。


「レイダ。手筈通りに」

《はい。一番から六番、繋げます》


 バスターベイラー砲から生えた六本の管。コレを一本づつレイダに差していく。先端がコックピットに触れると、自然と中に入り込んでいく。蛇のようにうねうねと蠢き、中へと残りの長さが収まっていく。同時に、乗り手の黒騎士には、全身を虫が這うような違和感が駆け巡る。


《三番まで終わりました》

「の、残りも、頼む(気持ち悪い……)」


 肌を這いまわる違和感に耐えつつ、全ての管がコクピットへと接続される。すると、今まで沈黙を保っていた砲の基部が、怪しく光始めた。同時に、サイクルのように回転し始める。


「良し、やはり動く! 」

《このまま、前に出ます》

「ああ! 」


 目論見が上手く行き、興奮の隠せない黒騎士。レイダは、バスターベイラー砲をゆっくりと持ち上げ、コロシアムのぎりぎり外側までもっていく。銃口に当たる、頭の部分を地表に向け、自分は膝たちになって構える。


「サイクル・スコープ展開」

《展開》


 黒騎士は単眼鏡で、レイダはサイクル・スコープで、地表にいるヒトガタへと狙いをつける。離れているとはいえ、ヒトガタの大きさはよく目立つ。中心部を射抜くのは容易だった。


《的が大きい分楽でいいですね》

「あとは……あとは……」


 バスターベイラー砲の仕組みはまだ解明できていない。だが、現時点でみれば、問題無く起動し、あとは引き金を引くだけになってはいる。少しすると、地表から紫色の煙が立ち上った。サマナが言っていた合図である。


《サマナ様からの合図です。地上の退避完了との事》

「よし! 最終確認! 」

《狙い、良し、引き金、良し。撃てます》

「撃つ! 」


 言われた通りに、引き金を引く。銃口が開き、あの恐ろしい熱線が発射される……はずであった。


「……」

《……》

「も、もう一度! 」


 狙いを再度つけ、もう一度引き金を引く。だが、虚しく空回るだけで、一切発射されない。


「……だ、駄目かぁ」

《……あの》

「何故だ。何故使えない……基部は動いてる。何か、何かが足らないんだ」

《何を、知らないフリをしているんですか? 》

「えっと、だなぁ」

《やっぱり、まだ思いつけてないんですね》


 黒騎士は、図星であった。


()()()()()()()()()()()()()()と言いました。しかし思いつかず、まぁ動いたのだから発射できるだろうと思って引き金をひいたと》

「……実際、動いてるから訳が分からないんだ」


 バスターベイラー砲は、確かに駆動している。淡い光と、回転音がソレを証明している。だが、バスター・ベイラーが発射したときのような、膨大なエネルギーは感じる事ができない。その理由も、黒騎士には見当がついている。


「僕にはわからない。怒りや憎しみ以外の何で、どうやったらあんな激しい感情になるんだ」

《……》


 バスター・ベイラーが熱線を発する。その時の乗り手は、例外なく、怒りと憎しみで目を曇らせていた。発射されれば、幾人の犠牲がでるかもわらない、いわば殺戮の兵器である。そんな兵器を使ってしまえと願うほど、怒りと憎しみは、そしてその二つが折り重なった殺意は、何よりも大きく激しく、強い。その強さを前に、龍石旅団は苦戦を強いられていた。


 いざ同じ武器を使えるとなっても、やはりあれだけの殺意は抱けなかった。


「今だって、あの化け物を撃ってやるとは思ってる。そう思って、引き金を引いてるのに、この武器は全然応えない……やっぱり駄目だったのか」

《激しい感情が》

「なんだ? 」

《激しい感情が、なにも怒りや悲しみだけだと思いますか? 》

「……な、なにを、言ってるんだ? 」


 レイダは、己の乗り手に、懇々と説明していく、出来る限り、冷静に努めて。


《人には、怒りや憎しみしか感情が無いんですか? 》

「そ、そんな事はない。笑うし、喜ぶ」

《なら、なんでその二つで考えないのです? 》

「……ま、待て。レイダ、つまり君は」

 

 黒騎士が、思わずその仮面を取って確認を取る。


「敵がいるのに、()()()()()()()()()()と言ってるのか!? 」

《敵だろうとも、カリンちゃんは、その敵に手を差し伸べました》

「か、カリンちゃん!? 」

《あと―――もし敵の事を考えたくないなら、私の事を考えてください》

「……れ、レイダの事、か? 」

《私の、事、です》


 黒騎士が、否、オルレイトが、コックピットの中で上を向く。普通なら、レイダがこちらを向いて目が合う。だが、レイダの方は、そっぽを向いて目が合わない。操縦桿を握り、視界と意識の共有が行われたままである。ソレはつまり、なぜ、レイダが目を合わせようとしていないのかも、筒抜けである。


 レイダは、恥ずかしがっている。


 なぜこんな事になっているのか、オルレイトは理解できていない。だが、レイダが望むなら、レイダの事を考え、そして口にすべきだと考えた。


「そりゃ……お前は、強い、美しいさ」

《―――それは、つまり」


 常日頃から言う事は無いが、オルレイトの本心であった。だが、レイダの返事は、想像と違っていた。


《強くなければ、醜ければ、私は、オルレイト様に何とも思われていないのですか? 》

「―――」

《戦いがなければ、私はオルレイト様の、なんの役にも立たないベイラーです。そうなったら》

「――けるな」


 オルレイトの中で、何かが弾けた。何か、己の相棒が、心得違いをしている事を感づき、その事で、妙に腹が立った。コレもまた怒りであるからして、バスターベイラー砲を使えるようになる手段とはまた違った意味で正しい気もするが、今はそんな事は些事になった。なってしまった。


 己の相棒の勘違いを、正さねばならない。


「ふざけるな! 強さと美しさだけで、お前を選んだと思うのか」

《以前、そうおっしゃってました……代々、そう、口説かれました》

「それだけじゃない! 」


 『強く美しいお前に乗りたい』と、オルレイトは確かにそういった。だが、それだけではない。コックピットに座っていることすらもどかしくなり、おもわずオルレイトは立ち上がった。


「レイダは、ベイラーが本来人と暮らして生きるようにできている事を加味しても、他のどんなベイラーよりも礼儀正しく、そして、気高い」

《気高い? 》

「そうだ! 戦いがなければ不要? そんな馬鹿な事あるか! お前は、ゲレーンという国で、一体何人の人間を助けていると思ってる! 西に土砂崩れがあれえば駆けつけ道を治し、東で川の氾濫があれば橋を直し、北の山で遭難者がでれば捜索し、南で旅人が滑落したらその手助けにいった! 」

《……それは、すべて、先代の》

「そうだ! 僕の父上や祖父、曾祖父が、聞かせてくれた事だ! 」


 レイダは、オルレイトを乗り手として、すでに四代目である。百年以上の付き合いである。


「他にもある! 何より、僕だけの事が! 」

《……》

「レイダは、母上を助けてくれた! 僕が生まれそうになって、鳥車で医者に向かっている時、車輪がはずれて身動きが取れなくなった。その時、母上を持って医者に連れて行ってくれたのは君だレイダ! 」

《よく……よく、覚えています》

「僕は、なぁ」


 オルレイトが立ち上がり、思うが儘に言葉を発している時、バスターベイラー砲の基部が、何倍もの光を放ち始めているのを、まだ二人は知らない。


「助けてくれて、本当にうれしいんだ」

《なぜ? 》

「だって、お前に、レイダに会えた。体は頑丈じゃなかったが、それでも、旅に出て、ゲレーンから離れて、こんな遠くの帝都まで来れた! 信じられるか!? 砂漠にまでいけたんだぞ! 」


 すでに、また飛行型猟犬が『コロシアム』に迫ってきていたが、オルレイトの目には、今はレイダしか映っていない。


「全部、全部君がいてくれたからなんだ」

《―――》

「これからも俺と共に居てほしい! 」

《そう言って、どうせ》


 今まで沈黙を保っていたレイダが、初めて口を挟んだ。

 

《どうせ、他の女の元にいくのでしょう? 》

「……ん? 」

《奥様は、皆、いい人達でした……本当に、何か、欠点のある人だったら、どれだけ良かったか。それを理由に、憎む事だってできたのに……きっとオルレイト様だって、いい奥様を見つけて》

「そうか、お前は、そう思っていたのか」

《ええ。だから、オルレイト様も、他のガレットリーサーと同じように》

「なら、僕が初めての男になろう」

《はい? 》

「僕は、誰も娶らない」

《……は? 》

「お前だけの男に、僕がなろう」

《……は? 》


 思わず二度も聞き返した。そしてつい、視線もコックピットへと移る。すでに操縦桿から手を放している為、共有は成されていない。


「ああ。やっと、目が合ったな」

《な、なにを》

「ずっと仮面を付けていたから、素顔でお前を見るのは、なんだがずいぶん久しぶりな気がする」

《さっきの言葉は、一体》

「そのままの意味だ。僕はお前だけの男になる。誰も娶らない。子供も作らない」

《そんな、ガレットリーサーの家督はどうするのです? 》

「弟にでもまかせるさ」

《ぼ、牧場を継いで、その後は》

「まぁ、そうだな。僕が死ぬ前に、信頼できる奴をなんとか見つけて、だな」

《そんな事をして、一体、何になるのです》

「お前に、もう二度と、そんな事を考えてほしくないからだ」

《そんな、事? 》

「『どうせ他の女の元にいく』とか、そんな事さ」

《だって、だって》

 

 レイダの声色が、少しずつ変わっていく


《だってしょうがないじゃない。貴方は、人で、私は、ベイラーで……寿命も、生き方も、何もかもがと違う》

「レイダ、お前」

《初めて乗ってくれた人が、奥さんと愛し合って、子供が生まれて》


 堰を切ったように、レイダがまくしたてる。その口調は、いつもの上品な声ではなく、まるで駄々を捏ねる少女のようで。


《また私に乗ってくれて、嬉しかった。でも、また誰かと、愛し合って……でも、その子供が、またこうして乗ってくれている……でもそれはベイラーとして、これ以上なく、嬉しい事のはずなのに。きっと他のベイラーに嫉妬されるくらいに》

「……なぁ」

《だから、そんな事を言うはやめて》

「さっきからレイダは、誰の話をしているんだ? 」


 オルレイトは、ひたすら、相棒の勘違いを、丁寧に正していく事しか頭にない。


「さっきから、ずっと、()()()()()()()とか。ずっと他の奴の話をしている」

《もう納得しているの! ソレが幸せな事なの! 貴方たちの血にとって! 私はずっと、貴方の血と供にベイラーとして生きれる。だからそれでいいの! 》

「だからさ、レイダ」


 たまらず、オルレイトがコックピットから出て、レイダの顔に近づいた。


「レイダは、どう思ってたんだ」

《どう、って》

「お前は気高い。ソレは素晴らしい事だ。本当に、尊敬している。でもその気高さが、お前から、わがままな部分まで抜き取ってしまったんだな」  

《……》

「レイダ。()()()の事、お前はどう思っていたんだ? 」

《……》


 一瞬の沈黙。そして、ぽつりぽつりと、少しずつ言葉が紡がれていく。


《さび、しい》


 先ほどまで、まくしたてるようだったのに、今は、雨の一粒のように。

 

《はなれないで、ほしい》


 隠していた。隠すべきだど思っていた言葉が、少しずつ。 


《私だけを、みて、ほしい》


 レイダも理解している。コレは独善なのだと。ひとりよがりなのだと。わがままなのだと。そしてそれこそ、百年前にもう納得させたはずの心なのだと。


「―――分かった」


 オルレイトも、また理解した。レイダにとって、その言葉がどれほどの意味を持つのか、そしてこれから先に、己が言う言葉が、一体どれほどの意味になるのか。


 だが、言わねばならない。もはやバスターベイラー砲の事など頭になかった。


「レイダ。死ぬまで、お前と共に居よう」

《……貴方の、家族が? 》

「違う。()()()だ。俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

《……》


 誓いの言葉は、軽口混ざりで、短くて、それでいて少々軽薄かもしれない。もっと何か他の言葉があったかもしれない。贈り物の品すら用意がない。戦場にいるのだから当たり前であるのだか、今、この場で、この言葉で本当にいいのか。オルレイトはほんの少しの間、疑心暗鬼に陥った。


 だが、疑っていたのはほんの僅かな間で、今は、操縦桿を握っていなくとも、相手にとってはうれしい言葉を、しっかりとと口にだせたのだと、オルレイトは安心していた。


 なにせ、レイダの目は、今まで見た事が無いほど、虹色に輝いていた。


《貴方、馬鹿です。大馬鹿です》

「なんだ。知らなかったのか」

《知って居たはずなんです。貴方の、ひいおじいさまの時から》

「残念だったな。僕はひいおじいさまじゃない」

《……ええ。そうでしたね……ほん、とうに》


 レイダが、左手を、顔に添える。ピカピカと己の顔が光っている事に、自分でもようやく気が付いた。ベイラーのバイザー状の顔は、発行体のある目と共によく光る。ただの光として、乗り手と心が通じ合えば赤く輝く。だが例外的に、虹色の線が走る事がある。それこそ、ベイラーが、興奮や高ぶりに呼応して起きている。高ぶりは、嬉しい時にだって起きる。


《うれしい、です。オルレイト様》

「そうか」

《私、こんな気持ちになったのは、生まれてはじめてです。こんな、こんなにうれしいのは、はじめてなんですよ》


 瞬間。レイダのコックピットに刺さった管からバスターベイラー砲へ光が走った。すると、ベイラー砲の内部で、サイクルにも似た、何か高速で回転する音が聞こえてくる。


「……まさか、これは」

《えっと》

「レイダ! そのまま! 」

《は、はい》


 オルレイトは急いでコックピットに戻り、操縦桿を握りしめる。感覚と意識の共有が成された瞬間、レイダがさっきまで感じていた、『嬉しい』という感情が、一挙に流れ込んでくる。その勢いは体を月さささんとするほどに。


「(今、レイダが、うれしがってる、そしてその感情に、バスターベイラー砲が反応した!? )」


 レイダの右手に持ったバスターベイラー砲は、甲高い音をあたりにまき散らしながら、その銃口にまで光が届き始めている。基部から漏れる光があまりに強く、『コロシアム』の内部を明るく照らすほどの光量にまで達していた。


「これなら、行ける! レイダ! もう一度狙いを定める! 」

《はい! 》

「サイクル・スコープ展開! 」

《展開! 》


 先ほどよりも、より避難船に侵攻してきたヒトガタに向け、バスターベイラー砲を構えなす。まばゆい光が、爆音と共に銃口に集まっていくのを肌で感じる。


《狙い、良し、引き金、良し。撃てます》

「よし! 」


 膝たちで銃口を眼下のヒトガタへと向ける。集められた光は、解き放たれるのを、今か今かと待っている。そして、その火蓋を、オルレイトが落とす。


「バスターベイラー砲、発射ぁああ!! 」


 引き金を引き絞る。同時に、今まで基部から聞こえてた音が、銃口の方へと移動し、そして、最後のは、あれほど忌々しかったバスターベイラーの口から放たれた、あの熱戦と全く同じ物が一気に放たれていく。あまりに強く激しい光に、『コロシアム』に居た全員の目が眩んだ。


 熱戦は迫りくる飛行型猟犬を、その掠めた熱量のみで翼を焼き焦がし、再び地面へと葬り去った。そして、狙いっていたヒトガタ、その顔面から体の端まで、一直線に熱線が走る。


《(やった……やった)》 


 ヒトガタに当たった事を、レイダは喜んだのではない。ずっと叶わないと思っていた願望が、願いが、わがままが、叶った。叶ってしまった。叶えられてしまった。その青年は、今、自分の胸の中で操縦桿を握りしめている。


 その事実が、あまりに嬉しかった。


《やったああああああ! 》


 ついには、声に出てしまった。それほどまでに、嬉しかった。そして、その嬉しさが、熱線の熱量にダイレクトに影響していく。最初は細く弱い熱線が、徐々に太く、大きく、強く成る。その威力は、コウの一撃を受けてもびくともしなかったヒトガタが、後方へと吹き飛んでいくほど。


「これが、感情の力なのか!? 」


 熱線が直撃したヒトガタは、第十二地区から押し出されるようにして、かつて王城があった場所まで、盛大に吹き飛んでいく。やがて、熱線の光が収まる頃。ヒトガタの姿は第十二地区には無く、代わりに、熱線を受けて黒く焼け焦げた石畳だけが残っていた。


 地表は、突然起きた出来事に呆気に取られていた。だが、地上に居たカリンが、コクピットから体を出し、すぐに兵士達に向け声を荒げる。


「機なり!! 押し返せぇええええ!! 」

「「「オオオオオオオオオオ!!! 」」」


 兵士達の士気は、これ以上なく高くなった。聖女の軍勢を、一挙に押し返していく。飛行型猟犬も姿を見せない。戦いの行方はまだ分からないが、避難民側が、初めて優位に立ったと言える状況だった。


「や、やったな、レイダ」

《は、はい、そうですね》

「これからも頼むぞ」

《――はい! ……って、あの》

「どうした? まだ何かあるのか」

《ち、違います! 今度はヨゾラがこちらに来ます! 》

「ヨゾラが? ……まさか! 」


 喜びを分かち合う暇もなく、ヨゾラが『コロシアム』へとたどり着く。コクピットからマイヤが這い出ると、さらなる吉報が届けられた。


「マイノグーラの居場所が分かった!? 」

「はい。王城のあった中央部、そこに居ます」

《……では、もう迎撃する必要はありませんね》

「ああ。地上の連中と連携をとって作戦の第二段階だ! 」


 作戦の第二段階。それは、籠城できない避難民たちの最後の攻勢。


 全軍を持っての、突撃である。

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