ベイラーと戦う為の道具
《これは、真っ二つになったはずでは? 》
「修復されてるな……やはりベイラーと同じ性質なのか」
黒騎士が、引き上げられた道具を観察しつつ、状態を把握していく。バスター・ベイラーが口の中から熱線を発していたが、どうやらコレは、その発射装置のようであった。
「時間が経って治り始めてる。……問題はコレをどうやって撃つかだ」
《まさか、コレを、私に使わせる気なのですか? 》
傍らには、彼の相棒、レイダが居た。黒騎士の考えとしては、この武器を何とかして使用できないかどうか模索したいという物。
「決戦に向け、武器はあるだけあったほうがいい」
《でも、壊れてるじゃありませんか》
「治りかけてるんだ。それに思い出せ。ベイラーの一番重要な部位はどこか」
《……それは》
長年、人を乗せてきたレイダだからこそ、その問にすぐに答えられる。
《頭です》
「それは何故だ? 」
《何故って、頭さえ残れば、私たちは元通りになるからです》
「そうだ。そして、この、バスター・ベイラーは、元通りになろうとしている」
《……まさか、バスター・ベイラーを復活させるのですか? 》
「さすがにそこまではしない」
《どうだか》
すでに、壊れかけたベイラーを武器にしようなどという発想がでてくるあたり、レイダは黒騎士ことオルレイトの考えを、逐一疑いかかっている。黒騎士の方も、レイダの意見は予想できていたのか、自身の考えが、バスター・ベイラーの復活ではない事を事細かに、理由も含めて説明していく。
「まず、いまから全身を再生させるといつになるか分からない。もちろん、コウの力を使えばすぐだろうが、あの大きさだ。バスター・ベイラーを治すより、戦いで傷ついた人たちに使ってもらった方がいい」
《(バスター・ベイラーが小さかったら使わせる気でしたね)》
黒騎士が、最近、義理人情よりも、数字の世界に生き始めている事にレイダは気が付きはじめている。このタイプはいままで、自分のコックピットに乗せてきた彼の一族にはいなかったため、とても興味深いが、それはそれとして、この考え方一辺倒にならないように教育しなければならないと、この時レイダは心に決めた。
「そして、頭以外にもこいつは残っている」
《見ればわかります》
「このつながった部分、奇妙だと思わないか? 」
《奇妙? 》
「首にしては短い」
《……》
レイダは、思わず自分の背中をさすった。首の後ろから背中、そして尻に至る、一本の部位。人間でいう脊椎に相当する部位であるが、たしかに目の前にある頭から下は、バスター・ベイラーのものにしては小さく見える。
《なら、この部位は一体》
「おそらく、コレがあの熱線を出す器官だ」
《アレを!? これが!? 》
「おそらく、だがな。見ろ。発射口に見えないか? 」
《……あまりよく覚えてませんが、そんな気がします》
「そして、その発射口に続くように、この、首のような物が繋がって……最後に、この、なんだ。謎の器官に続いている」
《謎の器官》
謎、としか言いようがなかった。心臓のように左右非対称であり、ベイラーの頭と同じような、発行体が中心部にある。当然、今はその輝きを失っている。
「コウのサイクル・ノヴァ、覚えてるか? 」
《ええ。アレもよくわかって居ませんが》
「以前、コウに聞いたんだが、アレ、要は精神力とか、気力とか、元気とか、そんな曖昧な物を、僕らが目で見える形に変えているらしい」
《そんな事してたんですか? ということはアイも? 》
「同じ技を使っていたのだから、そうだろうな……本題はここからなんだが」
黒騎士が、中心部の器官を撫でながら、持論を展開していく。
「ベイラーには、人間の曖昧な物を、目で見える形に変えられる力があるんじゃないだろうか」
《曖昧な物を、目で見える形に? 》
「たとえば、サイクルで道具をつくるのだってそうだ。僕らが考えた、頭にしかない想像だけの、いわば曖昧なものを、道具として形作る。サイクル・ショット、シールド、ブレード、どれもそうだ」
《……何が言いたいのか、よくわかりませんが》
「つまり、ベイラーには、人の想像を叶える力があるんだ」
《なら、それと、この熱線は何の関係が? 》
「この部品も、ベイラーが作ったものだ。つまり、乗り手の曖昧な『何か』によってコレが生まれている。そして、ソレさえ分かれば、あの熱線が使えるという事にならないか? 」
《……》
レイダは、この目の前の男をどうにか正気に戻せないかと考えてる。理屈はそうかもしれない。だが、その『何か』が変わっていない以上、使えるかどうかなど分かったものではない。
《仮に、仮に使えたとして、どうやって私が使うんですか? 》
「それについては考えてある。コレだ」
《(用意がいい)》
黒騎士があらかじめ用意していたであろう、一枚の紙を見せる。その手際の良さに、黒騎士が、この謎の物体にかける情熱が透けて見えた。その紙に描かれているのはどうやら設計図の用で、長細い箱状になっている。箱状のものに器官を詰め込み、発射口だけを外に出している。
「この形なら、肩に担いで行ける。前に弓弩でやったろう? 」
《あー……なるほど》
箱状にはなっているが、重量が重くなる後部にクッションとなるように布が巻かれている。この部分を肩に担ぎ、狙いを定めて撃つ想定だとわかった。おあつらえ向きに、肩に担いだ目線の先に、標的の狙いを定められるように、単眼鏡も備わっている。
「これなら、お前が扱えるようになる」
《……この砲台から、コックピットに伸びる物はなんです? 》
「コレだ」
黒騎士が、指さすのは、器官のはじに伸びた管。
「乗り手に突き刺さるそうだ。奴隷王が教えてくれた」
《なんですって!? 》
「コレに刺さったあと、彼は怒りに身を任せて、あのバスター・ベイラーを操ったそうだ」
《……だからって、そんな》
管は、一本一本は確かに細いが、体に刺さるには十分な太さである。
「もちろんリスクはあるだろう。だがそれ以上に、あの熱線を、こちらが使えるというのが大きい。有象無象を、僕らで一気に引き受けられる。つまり」
《つまり? 》
「カリンとコウを、わざわざ人同士の戦いで消耗させずに済むんだ」
《……》
「レイダ。お前にしか頼めないんだ」
ついに、言われてしまったと、レイダは思った。この男は、絶対のこの言葉を使ってくるだろうと。そしてその言葉は、レイダにとってとても、とても重要な言葉だった。
相棒として頼られる。それはベイラーの一生にとって代えがたい瞬間である。ベイラーと乗り手の組み合わせが多いゲレーンにいると麻痺しがちだが、本来、そんな乗り手と出会える事のほうが少ないのだ。事実、帝都に居るベイラーは、考えを持たない人工ベイラーばかり。人は、もっと言えば国を治める者にとって、物を考えるベイラーは余計でしかない。物を考えず、こちらの動作を伝えるだけのベイラーが、兵士達には広く受け入れらていた。
《……条件があります》
「条件? 」
黒騎士の提案を、このまま提案を受け入れるにはあまりにも癪であった。
《怒りの感情に身を任せたバスター・ベイラーは制御不能となりました》
「そうだな」
《しかし、あの鉄拳王は、怒り以外で制御してみせました。》
「た、たしかにそうだ」
バスター化した原因は怒りであった。だが、鉄拳王は確かに、怒り以外で、バスターを制御し、奴隷王操るバスター・ベイラーと戦った。
《もし、怒りがこの武器の原動力だったのだとしたら、怒りで作動するのでしょう。怒りで、あの熱線を撃つのでしょう》
「あ、ああ。きっとそうだ」
《ですから、怒りでは使わないでください》
「―――何ぃ?? 」
《それなら、この大砲を、使ってもいいです》
黒騎士はおおいに焦った。レイダがこのような提案をしてくるとは微塵も考えておらず、きっと折れてくれるであろうと、心の中で、勝手に考えていた。
「一応聞いておくが、何故だ? 」
《怒りに身を任せた乗り手をコックピットに入れたままにしたくないのです》
「……」
レイダの意見はもっともだった。意識と感覚の共有がなされている中、一方的に怒りを押し付けられたのなら、レイダとて良い気はしない。
「(それは、僕も同じだろうな)」
同じ事をレイダにされると考えれば、確かに、ソレは嫌な事だった。
「分かった。別のもので、代用しよう」
《はい。そうしてください》
「(……安請け合いしてしまった気がする)」
《私以外にも、決戦に向け準備するのでしょう? リクやセス達を呼んできましょうか? 》
「あ、ああ。頼んだ」
《では、また共に》
「また共に」
軽い挨拶ののち、レイダはひとり後にする。レイダの姿が見えなくなった後、黒騎士はどかりと座り込み、両手で頭を抱えてしまう。
「怒り以外で……どーすればいいんだ? 」
彼には、全く持って、怒り以外での、曖昧な物が思いつけずにいた。
◇
極大の宿題がのこりつつ、黒騎士にはまだ使命がある。龍石旅団、レイダ以外のベイラー達に、最後の戦いに向けての道具を用意しなければならない。だが、他のベイラー達に用意するものは、レイダに用意した物に比べれば簡単に入手できた。集めてきた道具を、それぞれ彼らに渡していく。
「盾だ!? 」
「それでっかい!? 」
「お前たちが前に使っていたものより、さらに大きく分厚い盾だ」
「やるじゃん黒騎士―」
「やるじゃーん」
黄色い肌のリオに、二つの巨大な盾、タワーシールドを用意する。以前の戦いでも利用していたが、その時の盾は壊れてしまった。今回はその代わりである。そして、彼女たちにはもうひとつ別の道具がある。
「コレ、覚えてるか? 」
「あ! 空飛ぶベイラー撃ち落とすのに、レイダちゃんがつかってたやつ! 」
「二個もある! 」
「お前達にコレを預ける。使い方はわかるな? 」
「分かる! 」
「分かるよ! 」
それは、特性の矢を撃ちだす、巨大な弓弩。以前レイダが使っていた物の余りである。レイダが使おうにも、今回、レイダは空での戦いに赴く事になり、弩を担ぐ事はできない。だがリクであれば、盾を構えたまま、弓弩を引き絞り、撃ちだす事ができる。矢も、リクであれば、交互に交換を行う事で、それぞれは単発でありながら、絶え間なく連射も可能であった。
「これでみんなを守ってくれ」
「「うん! 」」
そして、双子は満足気に盾を眺めている。この盾は元々、パラディンベイラーが、皇帝を守る際に使われる予定だった物で、その拵えも豪華である。だが、今回、守るべき皇帝は前にでる。さらに言えば、皇帝が乗り込むグレート・ブレイダーは、空を飛ぶ。パラディン・ベイラーは跳躍こそできても、空を飛ぶ事はできない。ましてや、超重量である鋼鉄製のタワーシールドを持ったままなど、動きが鈍って仕方ない。その点、リオであれば、怪力に物を言わせ、重量については無視できる。
「なぁ黒騎士。あたしたちには無いのかよ」
「もちろんある。コレだ」
サマナとセスが、双子のやりとりを眺めながら隣に置いてあった道具を見る。
「コレ……水砲か? 」
「その改良型だ。陛下がひとつ譲ってくれた」
「ふーん」
水砲。猟犬の弱点が露呈した後に作られた、巨大な水鉄砲である。本来は水を入れたタンクと、送り出すポンプ、そして水を放出する放水口があるが、置いてある水泡は、その三つがコンパクトにまとまっており、現代でのライフル銃程度になっていた。懸架できるように、スリングもついている。
「元の水砲から小型、軽量化に成功したそうだ。お前達なら、コレで空から猟犬を撃てるはずだ」
「なるほど。そりゃ便利だ」
「だが水の量は少ない。注意してくれ」
「使い終わったら補給にしにいけばいいだろう? 」
「そうだ」
「なら、問題ないだろうさ。セス。どう? 」
《存外軽い》
手に持った感触を確かめつつ、スリングで肩に下げる。
《邪魔にならないのは良い事だな》
「あの、黒騎士様、私達にも、あるのでしょうか? 」
「ヨゾラには……いや、コレは……その」
「仰ってください」
マイヤが、おずおずと切り出す。彼女の相棒であるヨゾラには、追加で何か武器を持たせるというのができない。彼らが基本空を飛ぶ。何か武器を持たせるにしろ、鎧を着せるにしろ、重量の増加は避けられない。そして、重量の増加はそのまま飛行速度の低下につながる。しかし、用意した道具は、そのデメリットを無視してでも、持っておくに越した事がない物。だが、黒騎士も、全く持って気が進まない道具だった。
「新型爆薬を使った爆弾だそうだ。二個ある」
「……」
「やはりとてもじゃないが、載せてくれと頼めない。他の者に頼もう」
脳裏に浮かぶ、圧倒的な威力と、それによる被害。元々は商会連合が、空爆に用いる為の爆弾だった。ソレを、ヨゾラにも同じようにしようというのは、あまりに酷な話である。だが、その提案を、マイヤはなんの躊躇もなく受けた。
「いいえ。載せましょう」
「しかし」
「必要なければ、捨てればいいだけの話。そうでしょう? 」
「……すまない」
「そこは、感謝してください」
「……ありがとう」
「はい」
こうして、ヨゾラの翼に、それぞれひとつずつ、括り付けるようにして乗せる形になった。そして黒騎士は、おずおずとマイヤに近寄り、彼女の手を握る。
「マイヤにはもうひとつある。コレは君個人にだ」
「私に? 」
「単眼鏡。コレで遠くを見渡せる。正直爆弾よりも、こっちを渡したいんだ。」
「は、はい。これなら」
手の中には、遠くを見渡すための単眼鏡。空からの偵察を行うヨゾラであれば、必要不可欠な道具であった。
「これなら、遠目でも敵の数が確認できる」
「はい。よく見えそうです」
「そして、偵察の後、レイダと共に、戦ってほしい」
「……わかりました」
「あとは、カリン達が起きてからだ……間に合えばいいんだが」
レイダ達に、当たらな道具と武器を用意しおえ、黒騎士の使命がひとまず終わった。各々が手渡された武器を眺め、観察し、使えるように慣れていく。リクは、四本の腕のうち二本で盾を持ち上げる。剛力とはいえ、鋼鉄の盾はやはり重く、バランスをとるのに少々難儀している。サマナは、改良型水砲の威力と射程を確認すべく、船の外へと向かった。そしてマイヤは、単眼鏡をもってあたりをぐるぐる見回している。どれだけの距離がこの単眼鏡で見れるのかを確認している。
「(ベイラー達に戦う為に工夫を凝らすのは、あまりいい気がしないな)」
今となっては、もう当たり前のようになってしまったが、本来、ベイラーは共に生きるのが彼らにとっての目的であり、戦う事は、あくまで可能であるというだけで、戦う事それ自体が目的では無い。それは黒騎士も、ここにいる全員が、重々承知している。それでも、ベイラー達の力を借りなければ、この先に待つ戦いで、生き残る事など、できないのだと。
そうして並んだ、龍石旅団のベイラー達。その姿は様変わりしていた。
大きな二枚の盾と、二本の弓弩を構え、まるで動く要塞のようなったリク。
背中に、改良型水砲を携え、兵士のようになったたセス。
その細い体に、不釣り合いな大型の爆弾を、二つも吊り下げたヨゾラ。
この三人の隣には、さらに戦場を指揮するグレート・ブレイダー、足の速さでその場をかく乱するミーンとジョウ、そして、巨大な砲を担いだレイダが並ぶ手筈となる。
「(龍石旅団としての、最後の戦いだな)」
戦いが終われば、旅団は解体され、乗り手たちも故郷に帰る。多少楽観的な考えだが、しかし聖女の軍勢相手に、負けるつもりも、負けた後の事など考えていない。勝たねばならない。そうしなければ、生き残れない。黒騎士とて今更、この状況に不満、不平、不条理を嘆く事はしない。
それでも、このどうしようもない戦いは、人間だけを巻き込んでほしかったと、黒騎士は、オルレイトは、願わずには居られなかった。
「(ベイラーには、できれば、平和な場所だけ、知ってほしかった)」
無論、ベイラーとて戦う事はある。だがその戦いは、例えば森の中で、凶暴な肉食生物に出会ってしまったが為であったり、繁殖期のバッタに襲われたりと、いわば自然の中で必ず発生してしまう場合に限っていた。
「人間同士の戦いに、巻き込みたくなかったな」
「そうではないわ。黒騎士」
レイダ達を眺めていた黒騎士に、ふと声が掛かった。マイヤの物でない。
「星を巻き込んだ戦い。人だから、ベイラーだから、と区切っていては、勝てる物も勝てないわ」
「―――ああ、間に合ったんだな」
「ええ。なんとかね」
そこには、龍石旅団の団長が、その相棒を従えて立っている。
「話は聞いてる? 」
「さきほど、陛下から」
「なら、作戦も分かっているな」
「ええ」
「君に、いや、君たちに、きっと無茶をさせる」
「毎回勝手に無茶やってるだけよ。気にしないで」
「……そうだったな」
カリンが、コウが、その目を覚まし、旅団と合流した。ここに、ブレイダーを加え、6人のベイラーが勢ぞろいする。あとは、敵が、マイノグーラが何処にいるかであった。
◇
カミノガエが、民衆に『聖女の軍勢』の存在を明らかにした。だが予想された混乱は、幸か不幸か、さほど大きくなく、しかしその理由も、日に日に減っていった食糧により、民衆の気力が落ち始めていたからに過ぎなかった。それほどまでに、民衆の、そして兵士達の疲れはピークに達していた。だが、民衆を、兵士を癒す術を探す暇は、もう無かった。
ついに、カミノガエが恐れていた報告が届く。それは、聖女の軍勢が、真っ直ぐこちらに向かってきている。進行速度こそ遅いが、その軍勢には、やはり人が混じっていた。無論、軍勢には猟犬も含まれており、その中には、翼を持ち、空を行き来している個体が、複数確認された。迎撃用の陣は、大工たちの寝ずの働きによって完成し、船の上にブレイダー達の協力もあり、無事、吊り下げる事が叶った。そしてマイノグーラとの軍勢、その雌雄が決する時が、進行速度から割り出される。
精神的にも、体力的にも、物資的にも、ここで戦わなければ、明日は無い。そもそも、もはや逃げる場所もないのである。であるならばと、カミノガエは立ち上がる。最後の戦いを指揮する為に。
もう、かつての無気力さなど欠片も存在しない。国を導く皇帝としてのカミノガエ・フォン・アルバス・ナガラがそこに居た。
龍石旅団、最終決戦仕様です。長かった……




