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ベイラーと生活圏の拡大

「よくぞ、まぁ」


 半分引きつった顔で、カミノガエは罠の成果を眺めていた。ヘドロ状になったティンダロスの猟犬を、まるで薪でも割るかのように、兵士達が叩き斬っていく。当初は、ヘドロ状になった猟犬を、コップ状の器に移し、より簡単に中央の核を破壊する想定だったが、最初の一匹目がその器を内側から破壊し、闘争した事で想定は覆っている。今は、罠にかかった猟犬をそのままで手作業で処置していた。猟犬を処置した後は血肉も残らず、霧のように消えてしまう為、その点汚れずに済んでいる。


 この場に限り、ティンダロスの猟犬は、恐るべき脅威ではなく、ただの作業内容に落ちぶれていた。


「アレに何人やられたのか、分かったものではないのだが」


 実際にその目で見た訳ではないが、猟犬がこの町の住人を喰らっているのは、直近の帝都の人口数と、現在の避難民の数を考えれば単純計算ができる。無論、戦争に巻き込まれて命を落としてしまったものや、龍が天上を作る前に帝都から脱出していた者も考えられる為、一概には言えない。


 それでも、かなりの数の住人が、この猟犬の餌食になっている。そして餌食になった人々は、自らもまた猟犬となって人々を襲う。猟犬は、こうしてねずみ算式に増えていく。


「(猟犬の数を減らせたと言っても、まだこの第十二地区だけだ。他の地区から猟犬が集まるより先に、何としても基盤を作らねばならない)」


 生活基盤を広げるには段階がある。まず、街を水路で囲う事。これは第十二地区に猟犬が近寄れないようにするための結界の役目を果たすと共に、物資輸送の要でもある。地上の入り組んだ道を走って運ぶのは、太陽の光もなく、明りも限られているこの地では難しい。その点水路を作れれば、水に流すだけで物が運べる。人も明りもその分、空きができ、他に人員を回せる。


 そしてもうひとつ。物資の捜索。今まで船の中で使える物をやりくりしていたが、とくに衣類や消耗品の数は乏しく、少しでも多くこの地で探し、見つけ出す事が重要と言えた。


「水路の方はうまくいっているだろうか」


 水路の工事と、物資の捜索。その二つは現在同時進行で行われている。物資の捜索はナットが、そして水路の工事は、カリンが担当している。



「と言っても、何もできないのだけれど」

「お后様がいるだけでも士気はあがりますので」


 担当、といっても、カリンが実際に工事をしている訳ではない。今は、現場にある端材にチョコンと座って、呑気に眺めている。作業はもっぱら帝都のウォリアーベイラーがおこなっている為、カリンができる作業はたかが知れていた。もっとも、兵士達からしてみれば、作業をサボっていないかの監視役として、カリンの存在はある種最適であった。しかしカリンはこの状況を快く思っていない。


《そうです。そのように作れば、釘を使わずに木材と木材を合わせられます》

「お、おお。手間はかかるかもしれないが、これなら」

「釘も貴重品だ。使わないに越したとことは無い」

「(私よりも適任がすでにいるじゃない)」


 それは、同じ現場に黒騎士がいる事にある。腕を無くしてなお、彼もまた精力的に活動している。己の中にある知識と知恵を余す事なく使い、水路の作成に全力を尽くしている。それは相棒たるレイダも同じで、彼女は腰から下を両断されて、今や自らの力で動く事はできない。だががウォリアー達に連れられて、現場監督のような事をしていた。


 そして、黒騎士がこの場にいるという一点により、兵士達、および大工たちの士気は天井知らずであった。水路の計画はカミノガエの腹心であるコルブラットが立てたものだが、本日の予定作業はすでに終わり、すでに三日後の行程まで着手している。これはコルブラットの計画が甘かった訳ではなく、黒騎士にいいところを見せようと、やる気に満ち満ちた兵士達の単純なマンパワー上昇による物である。


 そして監視役としてのカリンはと言えば、だれもサボる様子などなく、むしろ働きすぎて休もうとしない者たちを、その眼光でにらみつけ、なんとか休ませている。あまりに話を聞かない者がいれば、即抜刀、即決闘、即退場の勢いで、カリンは休憩に向かわせていた。


 黒騎士が皆を奮い立たせ、カリンが兵士のケツを叩くような図である。カリンが決して作業を速める為に兵士達をコキ使っている訳ではないが、少々歪だった。そしてカリンにとって、これはとても不本意な立ち位置となる。


「お后様、我らはこれより睡眠に」

「ええ、過不足なく行いなさい」

「それでは! 」


 カチコチと固まりながら、二人組の兵士が避難船へと向かう。今頃は避難船から変わりの兵士が来ている。人のローテーションも滞りなくできており、今のところ水路では問題はない。


 そう。水路では。


「……コウが、遅い」


 カリンが問題視しているのはコウの帰還が予定よりもだいぶ遅い事にある。オルレイトにもうすぐ帰ってくると見得を切った手前、まだ帰ってきていない事実が恥ずかしくなる。


「(おかしい。確かに帰ってくるはず)」


 といっても、帰ってくるかどうかは完全にカリンの感覚によるところが大きい。ぼんやりとした予感でしかない。その予感は、まだずっと続いており、むしろ前より強くなっている。


「(帰る事が出来ないのは、また別の理由が? )」


 手っ取り早いのは、カリンもまた肉体を離れ、魂となってコウを探しにいくことだが、如何に今の状況が多少なりとも安定したとは言え、黒騎士達を置いていくのも無責任と言える。肉体が動くカリンは仕事できる余地がある。たとえその仕事が今のような監視役でも、誰かがやらねばならない仕事だった。確かに一瞬は仕事を投げ捨て、コウを探しに行くことも考えた。


「(でもそんな事、コウから叱られそうね)」


 コウは、カリンの責務については重々承知しており、その責務を支える事はあっても、投げ出す事は是としない。共にやり遂げようと奮起するのがコウであった。


「(今は、こうして少しでも、皆の手助けをしないと)」


 黒騎士の元に集う兵士達を尻目に、カリンは自身の役目を全うせんと目を光らせる、すると、休憩帰りの兵士と丁度目が合った。兵士達はやうやうしく帝都式の敬礼を返す。


「お后様、ご機嫌麗しゅう」

「ご機嫌よう(肌艶よし。服装にもなんら問題無し)」


 ただの挨拶ではあるが、これもまた必要な事である。兵士達のコンディションを、剣術で鍛えた観察眼を用いて確認する。幸い今回交代で来た兵士たちは問題無かった。挨拶を終え、すたすたと兵士達が大工に交じって作業を始めていく。


「平和とは程遠いけど、少しずつ良くなっている」


 未だ太陽は無く、食糧も乏しい。それでも諦めていない。それが何よりの希望だった。


「おお、干し肉だぞ」

「飲み水だ! たくさんある! 」 

「駄目だ、こっちは腐ってやがる」


 第十二地区、宿屋が集まる場所で、ナット達は家探しを行っていた。ありとあらゆるものをひっくり返し、衣食住に使える物を片っ端から集めていく。避難船に足りない物はいくらでもある。ここで集められるものを集め如何に活用していくかが、明日をより良く生きる為の糧となる。


 この場の総指揮はコルブラットがとっている。彼は冷血漢としてしられており、黒騎士がこちらにいないと知った兵士達の落胆具合はすさまじかった。


「コルブラット卿、さまざまな物があつまりましたが」

「では、まずベイラーが作れない物を優先的に運びましょう」

「ベイラーが、作れない物? 」

「ベッド、イス、机、その他、木を組み合わせてできる全ての物です」

「しかし、それ以外となると」

「……まず」


 コルブラットが集められたものをより分けていく。


「布類は彼らには作れません。よって最優先としていいでしょう。宿屋ならば客に出す毛布が山ほどあるはずです」

「お、おお」

「次に水と食糧。ですが腐っている物は除外します。意味がありません」

 

 淡々と仕分けしていく作業はよどみない。その中でひとつ、小瓶を拾い上げた。


「そして、コレも、見つけ次第確保すべきです」

「それは……薬、でしょうか」

「熱さましとして使われる、別段めずらしくも無い物ですが、こんな物でも数が足りない。しかし常備している店も多くはないでしょう。見つけ次第で構いません。こんな小さな物ばかり探しているのも、時間の無駄です」

「は、はぁ」

「家屋の損壊は最小限に。では総員心してかかるように」

「は! 」


 帝都式の敬礼(右手の握りこぶしを左の首筋に当てる)を返し、兵士達が作業に戻っていく。すると、空色の肌をしたベイラーが入れ替わるようにコルブラットの元にやってくる。コックピットからナットがトテトテと歩いて地図を渡した。


「壊れてない宿屋はこんな感じです、あとはもう駄目」

「ふむ。半数ほどか」

「他はつぶれちゃったりして瓦礫の山」

「偵察ご苦労。それと」

「うん。一応地下ではフランツがここで穴を開けているよ」

「よろしい」

「……そんなに心配? 」

「最悪の事態を考えているだけです」


 コルブラットの指示はふたつ。ひとつはナットに無事な宿屋を確認させる事。もうひとつは、地図を持ったナットを地下で追いかけているフランツが、ナット指定のもとで穴を開ける事。この穴は地上と地下を行き来する為のものではなく、別の用途で使われる。


「もし猟犬に生き残りがいたなら、大惨事です」

「(ちょっと考えすぎだと思うけどなぁ)」


 懸念はもっともだが、もし猟犬が生き延びていた場合、こうして悠長に物資集めできる訳がない。


「新たに猟犬がこちらに来る可能性もあるのです。対策する必要はあります。穴を開け、水場を通しておけば、最悪そこに猟犬をおびき出せる」

「それは、そうかもしれないけど」


 しかしコルブラットの想定はその先であった。第十二地区の駆除を終えたといっても、他の地区にいる猟犬はその限りではない。猟犬の性質上、水の通った地下水道を渡って他の場所から来るとは考えづらく、あるとしたら、壁をよじ登ってこちらに来るルートだけである。


「門の監視はさせています。いざとなったら作業を中断します。それより貴方は休憩を取ってください」

「は、はい」

「休憩が終わり次第、フランツ殿の状況を見に行ってください。彼にも必要に応じて休憩を取るように」

「ど、どうも」


 コルブラットは冷血漢として知られている。その噂はナットの耳にも届いている、というより、兵士達がナットに気遣って、やんわりと耳打ちしてくれたのだが、ナットの心象はその限りでは無かった。


「(この人、段取りを正確になぞるのが好きなのか)」


 最初は、必要事項だけを機械的に伝えてくる人物だと思った。そしてこの数日の避難生活で、なんとなしにコルブラットの人柄を知り始める。


「(今だって、僕を気遣って休憩に行かせたいからじゃなくって、今のタイミングで僕が休憩にいかないと、たぶん後の作業が回らないから。……でもこの人は全部こんな感じかな)」


 コルブラットが冷血漢として見られる原因。それは彼が、あくまで計画を進める上で人に指示を出すのであって、そこに感情を持ち込んでいない為であった。それは冷静さにも見えるが、計画の成就が目的であって、そこには人の感情が入っていない。


「そこの者、待ちなさい」

「は、はい! 」

「何を運びだそうとしているのですか」

「こ、これは」


 ソレを象徴するような場面が、いままさにナットの前で起きた。兵士のひとりが、ひっそりと樽を持って行こうとしたのを、コルブラットが目ざとく止める。兵士は顔面蒼白となり、直立不動で動かなくなってしまった。あきらかにコルブラットに見つからないように運び出そうとしていた。


 怪訝そうな目でコルブラットは樽に近づくと、匂いで中身を言い当てる。


「酒か」

「こ、これがあれば、皆の英気が養うものと」

「私は言ったはずです」


 兵士に悪気はなく、言い訳として出た言葉も本心であったが、コルブラットはぴしゃりと言い放った。


()()()()()()()()()()()()。麦酒か果実酒かは知りませんが、どれも酒は腐ってから作るもの。今回の物資には含まれません」

「し、しかし」

「同じ言葉を繰り返し言わせるつもりですか? 」

「……は、はい」


 肩を落とし、兵士はトボトボと作業に戻っていく。


「(そりゃ計画には必要ないだろうけど)」


 コルブラットは正論であった。何もかもを持ち出す事はできない。そこまでの人員と時間は無い。酒を持ち出す暇があれば、ソレと同じ量の毛布や薬を持っていく方がいい。だが、彼の言葉には正論しかなく、兵士はただ心が荒んだだけである。

 

「(でも、段取りが崩れたら元も子もない、のか)」


 ナットはここでコルブラットが悪いと一概に判断できなかった。兵士がコルブラットに隠れてこっそり運び出そうとしていた時点で、兵士の方もコルブラットに見つかればこうなると分かっていた節がある。それはそれとして、未成年のナットとしては、酒の魔力がどれほどのものか想像もできなかった。


「あの、コルブラットさん」

「まだ休憩に行っていなかったのですか。はやく行きなさい」

「お酒っておいしいですか? 」

「――」


 なので、直球に聞く事にした。コルブラットも突然の質問に固まってしまう。


「腐ってもおいしいなら、持って行ったほうが」

「……酒は美味いのは認めます、ですが」


 しばし固まっていたコルブラットだが、それでもナットの質問に対して答え始める。


「人は酒におぼれます」

「おぼれる? 海でもないのに? 」

「海でもないのに、です。酒は気分をよくし、辛い事を忘れさせます」

「え、お酒ってそんな感じなの? 」

「ですが、酒で辛い事が解決する事はありません」


 コルブラットはナットに対して誤魔化す事なく続けていく。


「酒は、酔いが覚めればまた飲みたくなってしまう習性があります。そして、酒さえ飲めれば他はどうでもよくなってしまう」

「(……あー……知ってるなぁそんな商人)」


 ナット達が帝都に入る際にであった商人、ネルソン。彼はその日の売り上げを酒に変え、酒が足りなければ借金してでも酒を買っていた。そして浴びるように飲み、泥酔し、二日酔いし、そして、グダグダになりながらまた商売を始める。


「今、私たちは酒におぼれる暇はないのです。ですからアレは必要ありません」

「(お酒におぼれるってそういう事なんだ)」

 

 ナットは酒の有害性を、実感として受け止めつつも、しかし兵士のがっくしと落とした肩を見てしまうと、彼の心意気を汲み取りたくなる。それに、彼の知る酒の知識は他にもあった。 


「あの、でもお酒って治療にも使いますよね? 」

「……む」

「全部じゃなくても、少しだけなら」


 それはかつて供に旅したネイラから教わった事。酒は様々な消毒に用いられる事。特に傷口の消毒には必要だと聞き及んでいた。まさかこの場でその知識が生きるとは、ナット自身驚いている。だが、その驚きをさらに上書きされる事態が起きる。


「治療に使うのは酒ではなくアルコールです」

「あるこ、え? 」

「人が飲めないほどに強い酒の事を言うのです」

「(え、お酒って人が飲むものじゃないのもある!? )」


 ナットが知る酒は、果実酒か麦酒がいいところであり、そもそもアルコールと言う単語すら知らなかった。これは医者であるネイラが、ナットに分かりやすいように酒と言い換えていた事も起因する。


 想定外の知識にたじろいでいたが、コルブラットから出た言葉は意外な物だった。


「確かに治療用としてなら惜しい。樽一つくらいならいいでしょう」

「(や、やった! )」

「貴方が休憩後に避難船に運ぶように」

「は、はい! ……はい? 」


 思わぬ反撃に呆けるナット。対してコルブラットは冷静に続ける。


「貴方の提案です。貴方が責任をもって全うするべきです」

「て、提案? 責任? 」

「責任を持たない提案にはなんの価値もありません。覚えておきなさい」

「(オルレイトともネルソンとも違う、なんかこう)」


 ぴしゃりと言いきられ、その後コルブラットは他の兵士の報告を聞きに行ってしまった。ぽつんと一人残されたナットは、コルブラットに対しての所感がようやくまとまり、つい口に出してしまう。


「嫌な人! あ」


 言った直後に口を押える。幸いコルブラット本人には聞こえなかったようで、淡々と報告を聞き、即座に指示を返している。


「(でも、段取りを組んで、他の人に正確に指示を出す人、っていうのは、きっとあんな感じの方がいいだろうなぁ)」


 嫌悪感はさておき、コルブラットの手腕は目を見張るものがあった。彼の指示ひとつで、あれほど乱雑に積み上がっていた物資が的確に仕分けされ、滞りなく避難船へと運ばれていく。何が必要で、何が不要か。そして何をすべきかを理解した上で指示をだしていなければこうはならない。そしてその指示に迷いはなく、間違いもない為を訂正する時間のロスもない。まるで機械のように正確だった。


「(この人と同じようになりたい訳じゃないけど、僕もこの人のように考えるのは、いつか必要な気がする)」


 ナットはミーンに詰め込む為の酒樽を抱えその場を後にしようとする。重さはそうでもないが、中の液体が揺れる為運びにくい。


「あー、コレ、コックピットに入れば楽だけど、入らなかったらどうしよ」


 呑気に構えつつ、休憩の事を考えていると、ひとりのウォリアーベイラーが猛スピードでこちらにやってくる。走り方から何から、見るからにがむしゃらで、とにかく早く走ろうという気持ちがありすぎて、体の動作が追いついていない。さらにはここまでくるのに相当数転んだようで、あちこちに傷がついていおり、特に膝下の怪我は痛々しかった。


 そしてついには、ここまでくるのに無理をさせ過ぎたのか、ウォリアーの膝から下が割れてしまい、その場で転がってしまう。その衝撃で、コックピットから投げ出された兵士は、受け身はとれつつも、ゴロゴロと無様に転がりつ続け、やがてナットの目の前で勢いが止まった。


「だ、大丈夫ですか? 」

「き、きみ、コルブラット卿はいらっしゃるか? 報告が」

「何をしているのです。貴方には監視を任せていたはず」 

 

 尋常ではない様子に、流石のコルブラットも無視できなくなったのか、兵士の元にやってくるものの、倒れた兵士の顔を見るなり冷徹に言い放った。


「貴重なベイラーをこんな姿に。貴方が持ち場を離れてどうするのです。戻りなさい」

「コルブラット卿、ご報告が! 一大事です」

「ハァ……聞きましょう」


 要領を得ない返事を前にため息交じりで答えるものの、兵士の答えで態度は豹変する。


「猟犬が、壁を、猟犬が壁を登ってこちらに来ようとしています! 数は、あまりに膨大でわかりません! 」

「――場所は」

「十一地区の門前です! 」

「中央からではないか……」

「(嫌な奴の、言う通りになった!? )」


 猟犬の再来。生き残りはいなかったが、他の猟犬がこちらに迫っている情報がもたらされる。そしてコルブラットは、今までと同じように即座に判断した。


「総員荷物をまとめなさい! この場より退避します! 」

「え!? 迎え撃たないの? 」

「貴方は馬鹿ですか」


 ナットの言葉に、コルブラットは純度100%の暴言で返した。


「敵はまた数も分からぬほど大量です。こんな人数では一瞬で食い尽される」

「じゃ、どうやって」

「時間は稼げます。その間に避難船に戻りましょう」

「時間を稼ぐって、どうやって」

「フランツ、といいましたね」


 コルブラットは細い目を向ける。狐のように細い目には、しかし確かな強い意思を感じる瞳が見えた。


「彼がサボっていなければ、なんとでもなります」


冷血漢と呼ばれた男が、ここで初めて、かすかに微笑んだ。


ルビコンから浮上しました。今後もよろしくお願いします。

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