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第二次猟犬捕獲作戦


帝都の上空、龍が閉ざした世界では、空に天井がある。その天井スレスレを、ヨゾラが飛んでいる。龍の鱗が肉眼で確認できる距離であった。


「マイヤちゃん! ぶつかりそう! 」

「ヨゾラなら大丈夫」


 乗り手のマイヤは、コックピットの中にいるリオを宥めながら操縦桿を握っている。すでに帝都の上空を旋回しつづけ、二週目になる。風がなく、障害物も特に見当たらない為、とにかく龍の体に激突しない事だけを念頭に置いて飛び続ける。そして、眼下に広がる帝都の有様を見ていると、どうしても目を伏せりそうになる。


「(酷い有様ですね)」


 数日前まで、自分達が悠々自適に過ごしていた国とは思えないほど、帝都ナガラは崩壊していた。中央にそびえていた王城はすでになく、代わりに巨大な虚空が空き、マグマが顔を覗かせている。区切られていた街は、当然ながら人の姿は無く。代わりに、蠢く猟犬が良く見える。すでにこの街は人の物ではなく、猟犬の物だった。そして、山岳地帯の入り口、巨大な六面体の結晶であるティンダロスは、その目を開く事なく眠っている。もしティンダロスが動くような事があれば、人はそもそも生存すら怪しくなる。


「そうなる前に、猟犬の数を何としても減らさなければ」


 猟犬には、すでに生活圏を奪われている。生き残る確率を上げ、ティンダロスを打倒する為も、今回の作戦は成功させなければならない。


「(しかし、リオにコレを見せるのは酷……でも)」


 だが、帝都の惨状を前に、マイヤは嫌悪感を拭えない。そしてそれは、幼く、感受性の高いリオであれば、なおさらであった。現にリオは、先ほどから何度も吐き気を催し咳き込んでいる。


「袋は持っていますが?」

「ダメ! 今ゲーしちゃったら泣いちゃって『見え』なくなる! 」


 だが、一向に吐き出さないのは、嘔吐し、涙が出てしまっては、リオの任された仕事である、猟犬の監視が十分に行えなくなる。リオは、自身の課せられた仕事に対して、責任感を持っていた。それは誰に教わった訳でもなく、リオ自身が考えた末の事。


「(リオはきっと、いい狩人になりますね)」


 マイヤは、こんな状況でなければ、リオの成長を、もっと素直に喜びたかった。責任感を持って仕事をするのは、一人前になる為の一歩。その一歩をリオは踏み出している。だが、その一歩目は、もっと平和な場所と時間の時に、踏み出してほしかった。断じて、自分達の存亡をかけた場所ではなく。故郷ゲレーンで。そう考えると、この作戦の成功は何より代えがたい。


「……絶対に帰りましょうね、リオ」

「うん! ナットも待ってる!」


 マイヤは、故郷に帰ろうと思った。だがリオは、ナットのいる場所、つまり避難船を指した。マイヤは自身の願望が漏れ出た事に一瞬気が付かなかった。


 その事に気が付き、思わず両手で己の頬を叩いた。当然リオは何事かと驚く。


「マイヤちゃん!? 」

「少し気合を入れました。もう少し高度を下げましょう。その方が猟犬をよく見えるでしょう? 」

「う、うん。でもいいの? 建物に当たらない? 」

「ヨゾラと私ならば余裕です! 」


 リオは仕事に対しての責任感を持った、ならば、すでに給仕として様々な仕事をこなし続けていた自分が、手本を見せてやらねば、仕事をする先輩の立場がない。何より、責任感を持たない仕事など、己が許せない。


「ヨゾラ、さらに速度を落として、高度も! 」

《はーい! 》


 無垢な少年のような返事と共に、ヨゾラは機首を下げつつ、速度も落とす。すでに失速しそうな速度だが、速度が遅ければ遅いほど、リオが猟犬をじっくり観察できる。


「リオ、見えますか? 」

「うん。見える。」

「どのくらい居ます? 」

「めちゃくちゃいっぱい! 」

「なら……」

 

 高度を下げた事で、猟犬を数えられる量が増えた。だが、あまりに数が多く、数量として数える事ができない。


「リオ、地図はありますね? 」

「ある! 」

「特に多い場所を、このペンで囲ってください」

「特に、多い場所。ええっと」


 マイヤは、絶対数を数える事を止め、分布図を取る事にした。コレであれば、大まかでもどこにどれだけの多さの猟犬が潜んでいるか、避難船に戻った後でも活用できる。


「第十二地区だと……ここと、ここ。あとここ! 」

「(門の周りと、中央の広場、宿屋)」


 それはどれも、人が集まりやすい場所といえた。


「(猟犬は人を喰う。そして食べられた者は、同じ猟犬となる)」


 避難できなかった人々がいたのかどうかは、もう確認する術はない。それでも、猟犬の力を考えれば、状況証拠としてはあまりに揺るぎない。だがマイヤは、分布図を作った事でひとつの仮説を思い付く。


「(猟犬はあまり遠くに行けない? )」

 、

 リオが囲んだ場所以外にも、もちろん猟犬はいるが、それでも数の差はある。理由は分からないが、猟犬はどこにでもいるように見えて、ある一定の場所から離れていないように見えた。


「(……このあたりはオルレイト様にお任せしましょう)」


 マイヤはこの仮説に対して、以上考えるのを止め、旅団の頭脳労働担当に丸投げする事を選んだ。


「(得意な事を得意な人にお願いするのもまた仕事)」


 マイヤの自己評価として、考えるより先に手を動かそうとするタイプであった。おおむねその評価は第三者としても正しい。だが、ひとつ補足するなら、龍石旅団でそもそも頭脳労働できるのがオルレイトだけである。カリンも頭脳労働はできる。できるがしようとしない。する前にやはり体が動く。ナットは肉体労働する為の段取りは立てられるが、じっくり計画を練る事はできない。それでも最近、オルレイトから教わった商売という考え方で、計画を立てる頭の使い方を、ようやく理解し始めている。


 マイヤはというと、作業項目、いわゆるタスクを管理するのは、旅団の中ではずば抜けている。それは彼女が侍女として家事全般を任されていた事に加え、部下の存在もあり、指示を出す事もできる。これは彼女の経験と知識、そして手腕による所が大きい。


 だが、その手腕はあくまで『決められた作業』に限る。人は生きていれば洗い物はでる。部屋は汚れる。食事も要る。すべて必要不可欠な作業である。そして必要不可欠だからこそ、作業はルーチンワークになる。そのルーチンを最大効率で回せるのがマイヤだった。だが、そのルーチンから外れた場合、その効率はガタ落ちする。特にこの非常時はなおさらであった。


「(自分にできる事は少ない。でも、無い訳じゃない)」 


 それでも、己の不出来を嘆く暇はない。マイヤは今、ヨゾラと共に空を舞う事こそが、最大の仕事である。


「あ、最終準備が終わったって」

「わかりました」 


 コックピットの中で、リオがクオの視界を通して指示が飛ぶ。爆弾の配置を終え、これから実働部隊がコロシアムに向かう。そうなれば、あとはどれだけコロシアムに猟犬をおびき出せるかになる。


「こちらも、分布図を元に、誘導を開始しましょう」

「はーい! 」

「しっかり掴まっていてください」


 誘導といっても、地上には降りない。そもそもヨゾラは地上を歩くのが苦手である。やることはひとつ。潜んでいる猟犬に対して、挑発行動をとる。具体的には、サイクルショットでの威嚇である。眼下に蠢く猟犬に向け、サイクルショットで狙いを定めようとしたが、あまりに数が膨大で、一匹に的を絞れない。


「これなら目をつぶってでも当たる! 」


 マイヤもサイクルショットはさほど得意ではない。だが、これなら素人が適当に撃っても当たるような景色だった。


「リオ、始めますよ! 掴まって! 」

「掴まってる! 」


 サイクルショットを適当に、連続して放つ。一発一発の威力はさほどでもない。だが、いくつか撃った内のひとつが、猟犬の胴体を見事に貫通し、その場で猟犬が倒れた。その一匹が倒れたのを皮切りに、猟犬は空を飛んでいるヨゾラ目掛け、猛スピードで追いかけ始めている。


「さぁこっちこっち」


 そして、マイヤ達は猟犬との鬼ごっこがはじまるが、何匹か集めた後、猟犬は高度が足らないとみるや、あきらめてその場から離れようとしない。その半端な賢さにマイヤが思わず毒づく。


「なんて無駄に聞き分けがいい! 」


 猟犬の知能は思ったよりも高い。だがそれはオルレイトがあらかじめ予期していた。囮がマイヤ達だけで済むなら越したことはなかったが、その囮が昨日しない場合、爆破する作戦は無意味となる。故にコロシアムには、空から入り込む事ができ、かつ戦い抜く事ができる、赤い肌のセスが選ばれている。


「マイヤちゃん、こうなったら集めるだけ集めよう! あとはもう、コロシアムにいる姫様に任せるしかないよ! 」

「そうですね! 」


 高度を下げすぎず、上げすぎず、猟犬をできるだけコロシアムへと誘導していく。作戦は危機感を募らせつつも、順調に進んでいる。



「見えてきた! 」

「マイヤ達はうまくやっているようね」


 コロシアムには、すでにサマナとカリンがいた。上空から飛び込んだ形である。コロシアムはすでに人はなく、戦争でどこか壊れた様子もない。実に静かなものだった。


 カリンは、サマナと相乗りする形で、セスの中に縮こまっている。サマナは首を振ってあたりを見回すと、人ではない何かの存在を認める。


「――いるな」

《多くはない。だが》

「三匹、ってとこかな」


 コロシアムに何匹かの猟犬がすでに入り込んでいるのは予想していた。幸い、こちらにはまだ気が付いていないのか、襲ってくる様子はない。


「カリン、地下の作業は終わってる? 」

「ええ、外からマイヤ達がいまに大軍を率いてくるわ」

「そして、その大軍以外にも、あたしたちが引き寄せる訳だ」

「ええ。存分に暴れて」

「言っておくけど、気遣う暇ないぞ? 」

「要らないわ。大船に乗った気でいるもの」

「へいへい」


 カリンの言葉に気を良くしたサマナは、改めて猟犬を見る。犬の形をぎりぎり保っているだけの生き物が、口からよだれを垂らして徘徊している。あまりに隙だらけだった。


「いくぞ、セス! 」

《応! 》

「《サイクル・シミター! 》」


 左手から剣を生やし、右手で柄を折り取る。先端に向けて重心のある片刃。カリン達が作るブレードとこのシミターとでは形状が異なる。一撃一撃に遠心力が乗りやすく、足場の不安定な船の上でも、腕の力で用意に扱える武器である。そのシミターを、不意打ちで猟犬の脳天に叩きこむ。肉を叩き潰した確かな感触と共に、叩きつけられた猟犬が四肢をびくびくとふるわせている。


「コレで死なないのか。どうかしている」

《いい音を鳴らしたようだ。こっちに来るぞ》

「元からそのつもり! 」


 普通の生物であれば、不意打ちで頭を潰されて生きている訳がないが。ティンダロスの猟犬は普通ではない。頭を叩き潰されてなお、立ち上がろうとしている。そして、先ほどの一撃で他の猟犬が気が付き、まっすぐセスの元に向かってくる。


「シミター・ブーメラン! 」

二連刃(にれんば)!! 》


 両手でブレードを作り、狙いを定め投擲する。重心の傾いたシミターを、文字通りブーメランとした扱う。刃は正確に猟犬の首元を捉え、見事に跳ね飛ばした。猟犬の体がどしゃりと倒れる。一度、倒れはする。だが、頭を無くしてなお、二匹の猟犬は立ちある。不死身。そう形容するしかない体だった。


「分かっていたけど、気持ち悪いって! 」

《あれでは、爆弾で死ぬ気もしないな》

「サマナ! 左から別の猟犬! 」

「おうおう! お客さんが増えてきたなぁ! 」


 ブーメランが手元に戻ると、そのまま流れるようにもう一度投擲する。コロシアムからさらに5匹ほどの猟犬が現れるが、シミター・ブーメランで胴体を見事に切り裂かれる。ブーメランはそのまま地面に突き刺さり、さきほどのように戻る事は無かった。猟犬は立ち上がろうとしているが、体を両断されてはさすがに四肢を支えられないのか、そのまま動かないでいる。


「(後方に三、いや四か? いや右からもまだ来る)」

《どんどん集まってくるぞ》

「好都合だぁ! でも一旦退避を――」


 サマナは動かなくなった猟犬たちの足元と見た。血が滴りすぎて、すでに池のように溜まっている。その溜まった血が、ゆっくりとセスの方に近づいてくる。


「(なんでこっちに流れてくるんだ? )」


 コロシアムは平坦な場所で、液体が一方に流れてくるなどありえない。まるで血そのものが意思をもっているかのような動きだった。そしてその様子を見たカリンが耳元で叫ぶ。


「サマナ! その血から今すぐ離れて! 」

「っとぉ! 」


 反射的にセスを飛び退かせる。その瞬間、猟犬が体を持った状態で、血の中から飛び出してくる。その牙はセスを捉える事はせず、むしろ飛び出した後、着地する事は考えていなかったのか、猟犬は無様に転がっていく。


「カリン! 今のは!? 」

「私は()()()やられたの。やつら血の中を移動できるみたい」

「そんな事までできるのか!? 」

《……で、結構囲まれているが、どうする? 》


 猟犬の生態は、聞けば聞くほど驚きの連続であった。だが、今はその生態を解き明かす時間はない。猟犬はセス達の事をかぎつけ、次から次へとやってきている。


「そろそろマイヤとリオが来てくれる頃だ。そしたらあいつらに拾ってもらう」

《っと、噂をすれば》


 コロシアムの上空に、ヨゾラが飛び出してくる。体をレイダと同じように緑に塗り替えたその姿が見えるのと同時に、おびただしい数の足音がサマナの耳に飛び込んできた。


「……いや、確かにそういう仕事だけどさぁ! 」


 そして猟犬が――100や200はくだらない数の猟犬が、コロシアムになだれ込んでくる。それも、ヨゾラの背後からだけでなく、コロシアムの全方位、ありとあらゆる場所から猟犬が餌を求めててやってきている。


 あまりに数が多いせいで、地面がまるで見えない、猟犬たちは無造作に、そして折り重なるように走っている為、時折猟犬が猟犬を押しつぶしており、足蹴にされた猟犬は見事につぶれている。それでもお構いなしにコロシアムへと突撃してくる、潰さ動けなくなった猟犬から、あふれ出た血の中から、さらに猟犬が顔を出しては駆け出していく。


 猟犬が猟犬を殺し、そして殺した中から猟犬が増えていく。同族を気に掛ける理性の欠片も、猟犬には存在していない。


「セス! サイクルロープ! 」

《応! 》

「届けぇえええええええ! 」


 ヨゾラがこちらに近づくのは困難だと判断したサマナは、すぐさまロープを作り先端にカギ爪を括り付ける。そして、全力でヨゾラに向けて投げ渡した。ひゅるひゅると音と立てながら、カギ爪は上空を飛ぶ。


「ヨゾラ! 」

《ツカマエル! 》

 

 ヨゾラは腕を持たない。体を傾け、カギ爪をあえて食い込ませる。セスの分体が重くなり、失速してしまうのを、加速して相殺していく。


《ソォオオオレ! 》


 失速した体を、こんどはバレルロールさせる。カギ爪は、そのまま巻き取られるようにしてセスを地上から引き離した。その直後、セスのいた場所に猟犬が飛び込んでいくも、そのことごとくが虚空を切る。放り出されたセスの、丁度いい場所にヨゾラが滑り込みむ。


《よくやった翼持ち! 》

「なんとかなったな」

「サマナ様、カリン様、ご無事で? 」

「無事も無事だが、コレは」


 一同はコロシアムから脱出できたものの、眼下に広がるのはコロシアムに群がるおびただしい数の猟犬たち。動いているのが半数、動けなくなっているのが半数。つぶれた血の中から出てきているのもまだまだ居る。


「すさまじいな」 

「リオ! 合図を! 」

「はーい! 」


 実働部隊の役目は終わった。リオは、地下にいるクオに誘導が終わったと手紙を見せる。そしてヨゾラは高度を上げて離脱していく。あまりに近い場合、爆発に巻き込まれてしまう。


「クオから! みんな点火したって」

「リオ達は無事ですか!? 」

「うん! もう逃げてる! 」


 作業員は点火後、離脱している。もし離れられそうにない場合は、水の中に飛び込む指示を出してある。水の中であれば猟犬は追ってこない。この後、爆弾は起爆し、コロシアムの下へと猟犬たちは落下していく手筈である。


「点火、したんだよな? 」


サマナの頭に、失敗の文字が頭に浮かぶ。導火線かうまく作動しなかったのか。それとも地下に何かあったのか。不発に終わったのか。だが二人の不安は、真下からの衝撃で文字通り吹き飛んだ。最初に、目が焼かれるような閃光。次に、鼓膜が破けそうな莫大な音と、ビリビリと身を切り裂くような衝撃。ヨゾラは衝撃に当てられ、態勢を大きく崩してしまう。


「爆発した!! 」

「成功したわ! 」

《それはいいが、このままじゃセス達まで落ちるぞ》

「サイクルボートだ! ヨゾラを抱えろ! 」

《無茶な事を! 》

「あ、駄目!? 」

《駄目とは言ってない! 》

 

 ボードを素早く作り、足にひっかけ、セスを掲げるようにして持つ。するとボードは真下からの風圧を受け、セスはいとも簡単に上昇していく。


「見ろよカリン。すっげぇ」

「……ええ」

 

 わずかに煙の中から見えた光景は、またすさまじいものだった。コロシアムの中央は完全に破壊され、地下水道と直結している。爆発の威力は観客席部分にも及び、原型を留めていない。。そして、爆心地たる中央部分には、濁った沼のような、ヘドロが貯まっている。


 そのヘドロこそ、猟犬が一番弱った姿。


「成功、したな」

「ええ……」

 

 だが、集めた猟犬すべてがヘドロになった訳でなく、その前の段階、結晶の状態になった猟犬もいる。だが、作戦はおおむね成功と言えた。


「さて、これからもっと忙しくなるな」


 爆破によってコロシアムは使用不可能となった。だが、少なくとも、第十二地区に巣食う猟犬のほとんどを、撃退できたと言える。


「むしろ、これからよ」


 外敵は除去できた。ならば、こんどは生活の為の仕事である。


「これで、陛下にいい報告ができるわ」


 カミノガエにいい報告ができる。なにより、自分の相棒たるコウに、無茶をさせずに済んだ事にカリンは心の底から安堵した。



「ああ、私の子供たちが」


 同時刻。正六角形の中、何者にも触れられぬ領域の中で、女が座り込みながら、ひとり嘆いている。


「子供たちが、力をなにひとつ生かせず、死んでいく。死んでいる」


 嘆いている、否。嘆いているように見えるが、どこか芝居かかっている。親が子を無くしたというのに、彼女は涙ひとつ流さない。


「龍は忌々しい。でも、今はこの地にいる人が、なにより忌々しい」


 嘆いた後は、淡々と、怒りを言葉で表現しようとしている。だがそれもやはり芝居がかっていて、それも感情が籠っていない棒読みで、滑稽ですらある。それも当然。すべて、真似である。


「――やっぱり、あの人みたくできないわ」


 マイノグーラが、セブンの真似をしてみせている。


「でも、やっぱり、人がいるのは嫌だわ」


 だが、ただの真似でも、意思は本物である。龍が忌々しい。人が忌々しい。


「ねぇ、そろそろ、まだ起きれないの? 」

 

 結晶の魔女、マイノグーラが呼びかける。それは自身がこの星に来る為に使った揺り籠。星を渡る力を持つ結晶。その瞼が、少しずつ開こうとしていた。


五年書き続けているそうですが私は正気です。

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