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「当たった、みたいね」

《なんとかなった》


 主戦場たるティンダロスの上より、後方。ティンダロスが浮上した事で大穴の空いた地中から、這いずるようにして立ち上がるベイラーが居る。その手には、龍殺しの大太刀が、今もなお光輝き続けていた。サイクル・リ・サイクルの代償により、昏睡しようとしていたが、剣を足に突き立て、カリンは強引に覚醒した。そして目覚めた彼らが目にしたのは、ケイオスと対等に渡り合うリクと、そして、理由は定かではないが、空を駆けまわっているミーン達。彼らが協力し、自分たち抜きで、あのケイオス・ベイラーを追い詰めている状況だった。助太刀しようにも、墜落した場所は遠く、たどり着くのにはまだ時間がかかる。


 そこで、コウはあらたな技、『真っ向唐竹大炎砲』を思い付く。それは、『大炎斬』の突きであるが、無論ただの突きでは、ケイオスに切り捨てられる可能性があった。事実『大炎斬』は切り裂かれている。故にコウは、居合斬りの手法を、応用する事にした。


 剣を一度、鞘へと納め、炎を限界まで溜めに溜め解き放つ。問題なのは、鞘から解き放つ方法。薙ぎ払うのであれば単純に剣を鞘から引き抜け、そのまま振ればいいが、突きの場合は、1.鞘から引き抜く 2.構えを取る 3.突きを放つと、どうしてもモーションが一つ多くなってしまう。一度炎が解き放たれてしまえば、せっかくため込んだ炎が無霧してしまう。


 引き抜くと同時に、炎を解き放ち、相手へとぶつけねばならない。その方法は、とても単純かつ明快だった。


「鞘に入ったまま、右手で大太刀を相手に向けて、左手で、()()()()()()なんて」

《ため込んだ炎が、剣先から伸びていたのを思い出した。思い付きだったけど、うまくいった》

「サイクル・ショットよりずっと長い距離まで飛ばせるわね」

《練習すればもっとうまくなるだろうけど》

「そんな時間があって? 」

《無いから悔しんだよ》

「はいはい。早く行きましょ。まだ魔女がいるのよ」


 サイクル・ジェットを吹かし、飛行形態へと移行し、コウが空を飛ぶ。


《(……代償を先延ばしにしたせい、ずっと眠い)》

 

 リ・サイクルの代償を、足に突き立てたとて、無かったことにはならかった。サイクルジェットを吹かしてなお、頭にモヤがかかってようで、思考が鈍い。


《でも、まだ、おわっていない》

 

 それでも、ティンダロスの元へと戻るべく、コウが空を駆けていく。



ケイオス・ベイラーがミーンの蹴りを受け、無様に吹っ飛んでいく。


 ケイオスと龍石旅団との闘いを見守る事もできず、振り向くことなく、ただひたすらティンダロスの外郭を削り続けていたカミノガエは、背後でずっと聞こえていた戦いの音が止んだ事に気が付き、初めて手を止めた。


「ど、どうした? カリン達に何かあったのか? 」

《いや、これは驚くべき事です》


 ジェネラルもまた、その光景を目にして作業の手が止まってしまっている。その上で問いかけに応えない。カミノガエは、ジェネラルが持つ、聞いている側がやきもきするような振る舞いが、彼自身の性質である事を少しずつ理解し始めていた。


 何かを問えば先に彼が感じた感想が飛んできて、その上で結論が出る。談笑している中であれば、単なるおしゃべりとして心地いいかもしれないが、今は戦地で、一刻を争う状態である。そんな状態で結論が後ろに伸びる話し方は、今後もお互いの為にならない。


「貴君、少し思っていたが」

《なんでしょうか》

「余の問いには、まず結論を先に言え。感想は後からいくらでもきいてくれよう」

《承諾。以後そのように》

「分かってくれたならいい。で何事だ? 」

《皆様が、セブンのベイラーを止めました》

「まことか!? カリンめ! やりおったな!! 」


 もたらされた情報は、カミノガエに勝利の予感を感じさせるに十分だった。


「(このままいけばこの化け物を始末できるかもしれない)」


 目論見が、うまく進んでいる事に、高揚感が無かったわけではない。作戦の一番の障害がなくなった今、自らが乗り込んだジェネラルの作戦が完遂されようとしている。


「(今にして思えば、余の命は、いや、皇帝という名は、こいつを始末する術を見つける為だけにあったのだ。それがようやく終わるのか)」


 帝都ナガラが、他国を侵略してなお力を求め続けたのは、地下に眠った獣を倒す術を見つける為であった。だが、その本来の目的を達成しようにも、遅々として進まない獣の解析。どうすれば死ぬのか、時を経て、何世代も重ねた後でも、獣に付いてはなにも分からなかった。


 もはや叶う事の無い、獣殺しの偉業は、やがて風化していき、代わりに、ナガラは人の権力が過剰に集まった、業のるつぼと化していた。


「(母上も、父上も、居たという兄弟も、顔も覚えていない)」


 そのるつぼの中で生を受けたカミノガエにとって、獣はすでに理解も解析もできない異形で、世界にはなんら期待も持てなかった。


「(そんな、余に、友ができたのだ)」


 最初こそ、政略の面があったのは否めない。だが、カリン・ワイウインズは確かに、彼女の意思で、カミノガエの妃となり、名を変えた。


 初めて、世界が色づいた気がした。


「(星の事など、どうでもよい。ただ友の為に、こやつを倒す)」


 今、彼を突き動かしているのは、この世界で、何を、どうして、どれくらい、カリンと過ごせるかどうか。そのために、この星の外から来たものを殺す事に、なんの躊躇もない。


「この、氷め! さっさと削れぬか! 」


 しかしてティンダロスを殺そうにも、外殻が邪魔しているのも事実。ずっと削り続けて作業そのものに飽き飽きし始めた頃。


 今までにない変化が、手元で起こった。


 カミノガエが、外殻を叩いたその瞬間、今まで無かった手応えが伝わる。氷を削り続けていたが、突然、果物をすりつぶしているかのような、柔らかな手触りへと変化している。

 

「な、なんだ? 急に、柔らかく」

《陛下! そのまま! 》

「お、おう」


 ジェネラルはその変化を受け、慌てた様子で、削れて新たに出てきた層を確認するように、両手で撫でまわす。やがて、確認を終えると、静かにつぶやく。


《作業完了です。陛下》

「そうか……そうか!? 」

《はい? 》

「完了した、といったのか? 」

《結論から、先に言うようにと先ほど》

「それはそうだが」

 

 あまりにあっけなく、作業が、終わりを告げた。カミノガエはその、一方的な終了宣言に、気が抜けてしまう。確かに最初に比べれば、ティンダロスの外郭は、2mほど削れており、周りと明らかに差はできている、それでも、ティンダロスの外郭に、薄さを感じられるほどではない。そもそもとして生物のように皮でできておらず、氷のように掴みどころがない。透き通っているのに遠くが見渡せないのも、不安感を煽る。


「こ、これで作業は終わった、のか? 」

《はい。かつてここまで削れた例はありません》

「しかし、まだ削れる余地があるようにみえるが」

《今、ティンダロスは『境界線』を露わにしました》

「境界線?? 」


 見知らぬ単語が出るたびに、カミノガエは、いままでの自分の血脈が、如何にジェネラル達に非協力的だったのかを突きつけられているようで、気が気でない。


《ティンダロスの外殻は破壊可能ですが、それでは意味がないのです。この硬い殻は、外の世界と、ティンダロスとを阻める壁》

「だが龍の雷で破壊できたではないか」

《いくら壁を壊しても、境界の内部には達しません。龍の攻撃は過去に比べても最も激しかった。それでも、弱らせる事しかできなかった》

「そ、そんな」

《境界の外と内では、我々の認識ではたどり着けないほどの断絶がある》

「また、余の分からない事を」

《分からなくていいのです。理解できなくともいいのです》


 ジェネラルは、その手を上へとかざす。それは他のブレイダー達への指令のようで、周りにいた、彼以外の49機のブレイダーが集結していく。


《重要なのは、境界の外からの攻撃では、致命傷とならない》

「でも、内側からなら」

《可能性はあるという事です。陛下》

「貴君の言葉はわかった。で、余はこの後どうすればいい? 楔を打ち込むのであろう? 今から作るのか? 」

《陛下の作業は終了いたしました。あとは、我らにお任せを》

「我ら? 」

《―――一番損傷の少ないブレイダーを選定》

「まさか」


 カミノガエの言葉が終わるより先に、一機のブレイダーが空高く舞い上がった。その姿を、ヒトガタから剣へと変え、カミノガエが掘りみ、削り取った境界へと、その体を落下させていく。ブレイダーは剣士ではない。その体そのものが剣なのだ。そして巨大な剣となったブレイダーがティンダロスへと突き刺さる。


「さ、刺さった! 」

《(やはり、境界! )》


 龍の雷のような、莫大な力が無ければ壊れないはずの表皮に、ブレイダーが刺さっている時点で、カミノガエが削った表皮には効果があるのは明らか。

 

 そして、突き刺さった剣は、楔としての役目が確かに果たしている。


「龍の雷を打ち込めば、倒せるのか」

《倒せなかった場合、この星に生きる全ての生き物が喰われます》

「そうで、あったな。龍の方は? あのまま動かないが」

《今、起きたようです》


 低く重い唸り越えが頭上で響く。すでに日は傾きはじめ、昼と夜の境が曖昧になり始めている。荒れ果てた戦場で、夕陽だけが、唯一美しいと言えた。


 その夕陽を背に、翼を広げる紅き龍。翼のひとつは氷漬けとなり、その身から砕けて消えている。山脈と見まがう長い体はとぐろを巻いている。これから、龍は全身全霊の一撃を、ティンダロスに放つだろう。だがその前にしなければならない事がある。


《陛下、ここでは巻き添えになりますので、退避します》

「逃げる? いいのか? 事の顛末を見届けねば」

《あの龍の一撃を至近距離で浴びれば感電死必須です》

「よろしい、退避だ」


 カミノガエも、それ以上は追及しなかった。龍の雷は、龍だけの力ではない。天からの雷も合わせて放つ極光である。その極光を防いでみせたのが、あのセブンの操るケイオス・ベイラーだった。


「(どれほど異端かわかるというものだ)」  


 ふと、カミノガエは、ケイオス・ベイラーが倒された事実を噛みしめている。龍の一撃を耐え、瞬時に相手を凍らせる、剣術の化け物。それを、カリン達が倒したという事実。


「(ケイオスは。倒した……だというのに、なぜ)」


 カミノガエは、どこか底知れぬ不安がぬぐえないでいる。その不安には根拠もないため、自分でもさほど重要視していなかった。


 ジェネラルは、突き刺さったブレイダーを除く、全てのブレイダーを退避させている。自分達は、他に巻き添えが居ないか確認した上で、最後に退避するつもりだった。いわゆる殿である。


「ジェネラル。ケイオスは倒されたのだな? 」

《はい。他のブレイダーも確認しています》

「で、あるか」


 何が不安なのか。何故、心の片隅でどこか焦っているのか。


《陛下、龍が準備を始めました。我々も早く》

「あ、ああ」


 空では、龍がその翼を広げ、あの雷を撃つ準備を始めていた。全身が雷の黄金色に輝き、それらは体の中央から喉、そして口へと集まっていく。空も、いつの間にか暗雲とした雨雲が出来上がり、ゴロゴロと轟いている。


 もうすぐ、天からの雷を喰らい、自身の雷と合わせた咆哮が響く。カミノガエも、頭では納得している。だがどこか心もとない。


「(何か、あるはずだ。何か――)」


 そしてひとつ、不安材料の根拠となるものを見つけ出す。


「――乗っていたセブンはどうなった? 」

《コックピットの損傷が激しく、ブレイダーには確認が不能でした》

「では、死体は見たのだな? 」

《――いいえ、確認は不能と》

「問いに応えよ! ジェネラル! 」

《目視していません》

「――」


 カミノガエが、奥歯をギリリと噛む。


「まだ、終わっておらん」

《陛下。何を? 》

「今すぐケイオス・ベイラーのコックピットからセブンの死体を探せ! 」

《ベイラー、ミーンが蹴り飛ばして変形しています。目視は困難です》

「ならケイオスだけでも回収しろ! あれほどの男が生きていたら、このまま尻尾を巻いて逃げるはずがない! 死んでいたとしても、あのケイオス・ベイラーを。魔女が利用しないはずがない! 急げ! 」

《――了解》


 ケイオスは確かに動かなくなった。だが、乗り手はまだそうではない。それはジェネラルの警戒度を最大に高めるほどの深刻さがある。


《ブレイダーからの視覚共有を開始します》

「貴君そんな事もできたのか!? 」

《お伝えする時間がありませんでした》

「まぁよい! やれ! 」

《了解! 》 


 各ブレイダーの視野の共有。有用な力に見えるが、ジェネラルが使わなかったのには理由がある。49の数もの視野を突然共有しては、乗っている人間の側が混乱しかねない。


《(対象を絞ればいい。ケイオスに一番近いブレイダーの視界を)》


 だが、確認だけであれば、なにも他の全てのブレイダーの視界を共有する必要はない。大勢のブレイダーの中で、倒れたケイオスに一番近いブレイダーを特定し、その視界だけを共有する。


《共有、開始します》

「うむ……おお! 」


 カミノガエの視界の隅に、小窓のような第三の視野が現れる。現在進行系で視界を共有している。


「なるほど。こうなるのか」 

《距離の分、時間差がありますので、陛下の見ている物は、少し前の視野です》

「……あー、わからんが、分かった」

 

 もはや理解の外にあるものは、即座に『そうである』と切り分ける程度のは、カミノガエはジェネラルの情報の取り扱い方に慣れはじめている。


「綺麗な足跡だ。くっきり残っている」


 ミーンが蹴り込んだコックピットは大きく凹んでいる。コックピットはひび割れ、元の形を保っていない。ミーンの蹴りがすさまじい威力だった証明だが、同時に、そのコックピットには、血の一滴も流れていないなかった。


「どこだ!? どこにいる!? 」


 カミノガエが探そうとした時、ブレイダーから共有していた視界が、突如として真っ二つに斬り裂かれてしまう。


 やがて、その切り裂かれたタイミングから一呼吸おいて、ブレイダーが斬り裂かれたであろう、薪を割るような音が耳に飛び込んでくる。


《共有、途絶》

「ブレイダーを叩き斬れる者など一人しかおらん! 奴は生きている! 」

《ですが、龍の攻撃準備は始まっています。今退避しなければ》

「今逃げれば楔を壊される! 楔はブレイダーでできているのだぞ!? 」


 操縦桿を握りしめ、殿を務めていたジェネラルの足を止めさせる。背後にある楔と化したブレイダーを守護せんとして、やがて来るひとりの剣士の道を阻む。


 そして、カミノガエを言う通り、彼はやってくる。


「なるほど。楔。それが、ティンダロスを壊す秘策」


 感情の籠っていない平坦な声。しかし、最初に見た時の姿が異なっている。背中にあったはずの七本の爪はいびつに歪み、片足は折れて、ずりずりと引きずっている。同じなのは、ずっと彼が被り続けている仮面のみ。


《(体が、再生できていない? )》


 ジェネラルが、セブンの体を見て真っ先に疑問に思ったのは、怪我した体の修復がなされていない事。背中の爪の歪み方や、脚の骨折は、ミーンの一撃によって生じた怪我であるとは推察できるが、その怪我が治り切っていない。


《(接近戦は以前不利。ならば間合いの外から消耗させ続ければ)》


 今のセブンは十全ではない。ならば、まだ勝機はある。


《陛下! 遠距離から狙撃します! 》

「承った! どうすればよい!? 」

《サイクル・ショットを使います! 》


 武器の形状と性質を、頭の中で共有し、即座に作り上げる。サイクル・ショットは、ベイラーが造れる武器の一つ。原理としては両脇に配置し、高速で回転させた小さな二個のサイクルの間に、細い針を入れ撃ちだす、銃というよりは射出機のような構造をしている。


 本来は、乗り手とベイラーとの間で習熟が必要な道具だが、その習熟期間を、ジェネラルは、長年のブレイダー達の積み重なった経験で短縮させる。


「こうするのか」

《弓の要領で狙いを! 》

「分からんが分かった! 」


 本当に分かっているのかどうか定かではない返事だった、カミノガエはしっかりとセブンに狙いを定める。


《全機! 陛下と標準を同期します! 》

「どうき? 分からんから任せる! 」


 そして、ジェネラルはグレイダー達に指令を出す。楔になっていない他のブレイダー達全員は、お互いに誤射しないように、上空で半球状に展開し、セブンに向けてサイクル・ショットの狙いをつける。


《これならば避けようがない! 》


 そして出来上がるのは、セブンと取り囲む包囲網。もはや十字砲火など生易しい。全方位からの攻撃が可能となった陣形。


「ジェネラル! 撃て! 」

《了解! 》


 そしてブレイダー達が、サイクル・ショットを一斉射する。セブンは、手から生み出した剣で、その一斉射を切り払おうとするが、切り払えたのは正面からのサイクルショットだけで、背後、頭上、両脇の分は全く切り落とせなかった。


 何より、折れた足を引きずりながらでは限度がある。やがて、躱しきれず、針の数本が、深々と突き刺さる。


《セブンに命中! 》

「撃ちまくるがよい! 余が許す! 」


 そして、カミノガエは、そのまま連射を指示した。バァン! バァン! と炸裂音が空へと響く。豪快な音が鳴り響く中、カミノガエの頭は、その音とは真逆に、事態を冷静に監視している。


「(奴は龍の雷をも防げる。なによりこの攻撃で倒せるとは思えん)」


 再生能力が十全ではないとはいえ、セブンには『穿孔一閃』を含め、ベイラーをいとも簡単に両断できる力がある。そのセブンを、カリン達のような連携ではない、ただのサイクルショットの面制圧で勝てるとは思っていなかった。


「(たとえ、勝てなくてもよい! 奴をここで釘付けにできれば余の、カリンの、皆の勝利となる! )」


 サイクル・ショットの攻撃が止まない中、頭上では、龍の雷が、その口から放たれんと、耳をつんざくような音がずっと轟いている。


「このまま、このまま撃ちつづければ」

「どうなるというのかね? 」


 手を緩める事は無い。サイクル・ショットは嵐のごとく降り注いでいる。


 それでも、包囲したはずの場所から、セブンの声が聞こえてくる。


「――もう一度聞こう。どうなるというのかね? 」

「ジェネラル! 本当に当たっているのだな!? 」

《確認しています! 》


 サイクル・ショットは、修練の差がでるとはいえ、最低でもベイラーに当たれば大穴を開けるほどの威力がある。ジェネラルもそのレベルでの攻撃として繰り出している。生身の人間が喰らえばひとたまりもない。


《(防いだ? だがどうやって)》

「死にかけて、ようやく、ほんの少しだけ、彼女の力を理解し始めた」


 セブンは、避けていない。セブンは、悠々と歩いている。


「凍らせる、とは、つまり、()()()、という事だ」

「ジェネラル! アレは、アレは何がどうなっているのだ!? 」

《あ、アレは》


 カミノガエは、その状況を理解できずジェネラルに助けを求めた。先ほどまで、『分からないもの』として処理する方法を覚えたというのに、セブンが、何をしたのか理解できず、処理できず恐怖している。


 サイクル・ショットの第一射は、確かに命中している。セブンの片足は、サイクル・ショットによって風穴があいている。


 だが、他の撃ちだされたショットは命中していない。避けたのではない。


「彼女は、凍らせるのではなく、()()()()()()()

「セブン! 貴様何をした!? 」


 撃ちだされはずの無数のサイクル・ショットが、セブンの体に当たる寸前で、空中で、止まっている。


「カミノガエ陛下に、理解できるように言うなら、『凍らせた』のだ。私の、周りの空間を」

「凍らせた? 」

「君では、まだそのようにしか理解できなかろう。今は、重要ではない。」


 そして、セブンは、凍り付いた空間の中を、悠々と進んでいく。


「何故、私は君たちに勝てないのか、ずっと分からなかった」

「く、来るな! 来るなぁあ!! 」


 カミノガエは、混乱しながらも、正確にセブンに向けてサイクル・ショットを放ち続けた。しかし、セブンの体に触れる寸前に、針はその場で動きを止め、そのまま、空中で縫い留めらたように動かなくなる。


「認めよう。私は君たち人を、ベイラーを侮っていた」


 足を引きずりながら、一歩一歩、着実に進みながら、セブンは独白を続ける。


「かつて、彼女からもたらされた力を前に、君たちに負けるはずがないと。だが、永い時を経て、君たちは、私が居た時代の人々よりずっと強くなっていたのだな。まったく、気が付かなかった」


 独白の中、サイクル・ショットは撃ちつづけている。何発打っても、セブンの肌に触れる寸前に、やはり止まってしまう。


「ベイラーとの絆もそうだ。以前は取るに足らない存在だったはずだ。弱い生物だったはずだ。だがそれらは、すべて過去の話だった」

「なぜ当たらん!? なぜ! 」

「言っただろう? 私の周りを、凍らせているんだ」


 セブンの認識は、この瞬間、さらなる拡大を見せていた。マイノグーラが与えた力の本質を、わずかながら理解し始めている。


 今まで、空を見る目が無かったものが、その目を、手にしはじめていた。


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