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ベイラーと共同作業

 

 ケイオス・ベイラーに、二人のベイラーが相対している。カミノガエが駆る、グレートブレイダー、名をジェネラルと変えた、星の守護者。そしてもう一人は、カリンが駆る白きベイラーコウ。彼ら二人の背後には、ジェネラル以外の、月からやってきたブレイダー達がいる。総勢49人。数字にして、51対1。ケイオス・ベイラーに対しての数は、圧倒的にカリン達の優位にある。背後で未だ動きを見せないティンダロスがどのような手を打ってくるかは不明であるが、数的優位を生かし、このままケイオスを倒してしまった方がいいと判断している。


「倒す術があると言ったな? 」

「倒せるかはわかりませんが、有効打にはなるかと」

「聞かせよ」


 セブンの駆るケイオスは、魔女マイノグーラと、ティンダロスの力も加わった、今までのベイラーとは比べ物にならない力を持つ。そしてセブン自身の、七爪を再現した補助腕(サブアーム)の存在も相まって、接近戦では無類の強さだった。


「――なるほど。それなら」

「ですが同じ手は使えません。一発勝負です」

「どうせ他も手も二度は通じんのだ。それでいこう。佳いなジェネラル? 」

《はい。異論はありません》

「いいわねコウ」

《お任せあれ》


 対セブン用の戦術を組み上げる。セブンとは先ほどから有効打らしい一撃を与えられていない。遠距離からの攻撃も、接近戦も、致命傷になる一歩手前で、マイノグーラの結晶の力によって防がれてしまっている。


 だがそのどれも、セブンが前に居た場合の話。


「(コウには、無差別に周りを吹き飛ばす攻撃がある)」


 サイクル・ノヴァ。コックピットを中心として。全方位にエネルギーを放出する、爆発である。その性質上、遠距離では効果が薄く、密着した状態でこそ真価を発揮する。


「(アレは防ぎようがない)」


 サイクル・ノヴァは、黒いベイラーアイも使用できる。彼女の場合、爆発と爆発のタイミングを合わせ、相殺した事があるが、セブンが同じ事をしてくるとは考えにくかった。むしろ、サイクル・ノヴァをケイオスが使えているのなら、すでに必殺の一撃として使ってきてもおかしくない。


 前動作こそ必要だが、不意打ちでき、かつ圧倒的な威力を前に、命中すれば接近戦では優位に事を運ぶ事ができる。


「(確実に命中させるためには……)」


 そして、不意打ちを確実に決めるには、カミノガエとの連携が必須であった。


「挟みこみます! 」

「合わせるとも! 」


 コウと、ジェネラルが剣を構える。コウの剣は、片刃である『龍殺しの大太刀』。対してジェネラルの構えた剣は、両刃のサイクルブレード。通常のベイラーが造るものより、硬さと粘り強さが特徴の剣だった。


 コウが、セブンからみて右側へと走り込む。一足飛びで間合いへと駆け込んだカリンを見て、カミノガエは反対側、左側へと向かう。カリンが挟み込むといったのであれば、自分の立ち位置はおのずと決まっていく。挟み撃ちの形を取るのであれば、カリン達とは対照的に動き続ければよい。


「即興で連携など、とれるものかよ」


 ケイオスに乗り込んだセブンは、二人の拙い連携に失笑しながら、それぞれふたりを相手どるべく剣を振るう。七本ある剣のうち、二本をカリンへ、五本をカミノガエへと向けた。


「(皇帝を先に潰す)」

 

 セブンはカミノガエとは面識はない。しかしカミノガエの祖先とは、因縁浅からぬ仲ではある。あまりに永く時が過ぎ去ってしまい、カミノガエの方にも、セブンに対して、記憶どころか、記録さえ残っていない。セブンに対する情報のほぼすべてを、完全に忘れさせようとした先人たちの働きは見事に完遂されている。


「余は、貴君の事は何も知らんが」


 二本の剣が、カミノガエを襲う。構えた剣を、とっさの動きで、どうにか間に合わせる形で防いだ。あまりに拙い剣術で、防いだというよりも、敵の剣が、自分の体に当たらないように、間に自分の剣を滑り込ませた。ガチガチと硬い手触りと音が響く。両刃の剣でそんな事をすれば、自分の体に押し付けられた刃がミシミシと食い込んでいく。


「戦う理由なら、ある」

「剣の素人が何をいうか」

「貴君は剣爺を殺した! 」


 押し付けらた剣を、腕力で押しのけようとして、しかし全く動かないのを見るや、体全身をつかって、己の体に食い込んだ刃を弾き飛ばすようにして、セブンの剣を打ち返す。


「……復讐か」

「応ともさ」

「君たちの住む星が、どうにかなろうという時に、貴方という方は復讐を? 」

「応ともさッ」

「私を殺したとて、彼女が止まる事はない。彼女か、それともティンダロスかを止めたほうがずっといいと思いますが、それでも? 」

「応ともさッツ! 」


 高らかに答え、カミノガエは剣をセブンに向ける。剣の素人が持つには業物が過ぎる刀身は、すでに刃こぼれが起きている。


「余が戦うのは理性ではない。貴君と同じ」

「私と? 」

「貴君は、あの魔女とやらが受けた傷の報いを受けよと言う」

「……ふむ」


 酷く真っ当な反論だった。


「であるならば、この戦いに正しさなどない。気に入らぬから斬る。殺す。それだけの事。大層なお題目など不要! セブン! 余の為に死ぬがよい! 」


 カミノガエが、剣を、大上段に構える。肩に据えるように剣を構え、サイクルジェットを吹かし、突撃する。何もかもを捨てさり、ただの一撃に全てを込める剣術。二の太刀など考えもしない。その剣術は、彼が妻に迎えた者が一番得意とする剣術でもある。


《カリン! 》

「見えてる! 」 


 そして、カミノガエの意図を読み取ったカリンが、彼に合わせる形で構えを取る。肩に大太刀を据え、空から急襲する。二方向、挟み込む形でセブンを襲う。


 剣術の名前も、またシンプルだった。


真っ向(まっこう)ぉお」

唐竹(からたけ)ぇええ」


 間合いに入った直後、体を縦方向に回転させる。星の重力を味方につけ、遠心力と荷重とを最大限に加えた一撃。ジェネラルとコウが、ケイオスを双方から挟撃する。


「「(だい)! (せつ)! (ざん)!! 」」


 技といっても大したものではない。根性と気合と込め、全力で斬り下ろす。声を荒げるのは己を鼓舞する為でもあり、声を出して万が一、敵が怯んだのならば千載一遇のチャンスである。


「ズエァアアアアアアア!! 」

「うわああああああああ!! 」


 カリンは腹から、カミノガエは喉から出せるだけの声を出した。カミノガエは慣れない為にほとんど悲鳴と同じだったが、声量だけは負けていなかった。裂帛の気合とは言い難いが、それでも、声を上げるべき時に声を上げられるのは、カミノガエは戦う上での資質を満たしている。張り上げた声は脳の制御を解除し、筋肉に己の力以上の出力をもたらす。


 それは、剣を振り下ろすという筋肉で行う動作にはこれ以上ないバフ足りえる。


「――」


 セブンは、双方から迫る攻撃を、わずかに一瞥すると、カミノガエの方に、七本のうち五本の剣を向け備えた。そして、残り二本をコウへと向ける。


「(二本で防げるわけが)」

《ッツ! 違う! アレだ! 》

「っとぉ!? 」


 コウは、振り下ろした剣がセブンに当たるより前に、手元を強引に動かし剣閃を逸らすと共に、サクルジェットを吹かし、無様に二回転するようにして、セブンから距離を取った。 


「(あのまま振り落としていたら)」

《(また剣ごと止められてた)》


 ケイオス・ベイラーの持つ結晶の力。ひとたび発揮されれば、その場で、体が凍り付いたように動かなくなってしまう。予備動作も必要なく、手をかざせば即座に発動する。


 コウ達がセブンがからわずかに距離を取っていても、剣を振り下ろしたカミノガエは止まる事は無い。五本の剣を、真正面から叩き伏せるようにして振り下ろす。五本の剣は、ジェネラルの一撃を受け、木っ端微塵に打ち砕かれていく。


「佳し! 」

「――気合は認めるが」


 セブンは、砕かれた剣を惜しむことなく、こともなげに、空いた二本の剣を、コックピットに突き刺さんとする。ベイラーの中で最高の硬度を誇るコックピットを、バターのようにスパスパ切っているのを、カミノガエは目にしている。突きなど放たれようものなら、コックピットに居る人間などひとたまりもない。


「それだけだ。死ぬがいい! 」


 二本の剣がジェネラルへと延びようとした時、背後から腕ごと掴みかかるようにしてコウが抑えた足を蟹ばさみするようにして上を取り、ミシミシと力比べが続く。掴んでいない、残り五本が再生し始めると、カリンが叫んだ。


「陛下! そのまま斬り続けて! 」

「お、おうとも! 」


 相手に斬られるより先に斬る。理屈としては非常に単純な剣戟。ジェネラルはケイオスの腕を、一瞬のうちに何回も何回も切り落とす。それは、ゴロゴロとケイオスの腕だった物があたりに転がり、辺り一面が異様な空間へと様変わりしていた。

 

「どぉおおお!? 」

「ええい離せ! 」


 振りほどこうともがくケイオスだが、暴れようとすればするほど、ジェネラルに腕を切り刻まれて身動きを取れないでいる。腕を切り続けているカミノガエは、もう無我夢中で、ケイオスの腕を切り落とし続けている。


「(これが結果的にカリンを守っている! 余がカリンを守っている! )」


 七本あるうちの五本を抑え込んでいる事実が、強敵のとの闘いで混乱し続けていたカミノガエの頭を叩きなおし、急速に冴えはじめていく。


「(切り上げ、切り下げ、左横薙ぎ、右横薙ぎ)」


 そして明確な目標を、確実に切り落としていく為に、セブンの体で、剣戟の基本を、意図せず学習し、復習し、実戦していた。ただの的と戦うよりも何倍もの速度と濃さで、カミノガエに経験値が積まれていく。斬れば斬るほど、その手に剣がなじんでいく。


「(コレが剣術! コレが剣戟! ココが、剣爺が居た戦場! )」

   

 剣爺と呼んでいた彼が居た場所に、拙くも同じ地平に立っているという実感を伴ってカミノガエの体の中に染み渡っていく。


「(いや、きっと剣爺はずっと先にいる。まだまだ)」

 

 まだ、同じ場所にいるとは到底思えなかった。技術的にも、経験的にも、剣爺ことローディザイアは、カミノガエの遥か先に居た。それでも、同じ地平である事には変わりない。


「(いつか、必ず)」


 いつか、あの剣と同じようになれるかもしれない。そう一瞬でも希望が宿った。しかしその希望は、手にした剣が、その耐久を超えた為、パキリと折れた事で、一瞬で潰えていく。


 まだ、カミノガエには、剣の耐久度を気にできるほどの余裕が無かった。 


「お、折れた!? 」

「よくも」


 憎しみを隠す事もなく、カミノガエの乗るジェネラルに向け、ケイオスが手をかざした。瞬間。ジェネラルの四肢は、その先端からパキパキと凍り始め、力が入らなくなってしまう。


「こ、この力は」

「『結晶の力』――この力まで使わせるとは」

「(な、なんだ? 全く動かせない!? )」


 操縦桿を何度も握り直しても、ジェネラルは一切動く事が出来なかった。ただ凍っただけなのなら、まだ残った力を振り絞る事が出来たかもしれない。


「(そのような次元の話ではない!? この力は一体)」

「理解する必要などないんだ。君たちには」

()()()()()()


 背後で、残り二本の爪を抑え続けていたコウが、その時が来たと言わんばかりに口を開く。蟹ばさみを続けて入おり、未だ二本の爪は押さえつけられ、動かす事が出来ない。


「――何が、言いたい」

《その力、圧倒的だが、無敵じゃない》

「(無敵、じゃない? )」


 現在進行形で凍っているカミノガエからしてみれば、コウの言う事が正しいとは思えなかった。手をかざすだけで、ベイラーの四肢を拘束できるこの力がどうして無敵じゃないのか。現にジェネラルは指一本動かせていない。


《そんなに簡単に動きを止められるなら、俺たちふたりのベイラーを、同時に止める事だってできたはずだ》

「――」

《でも、そうなってない。その力、ずいぶん制約が多いみたいだ。例えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「――」


 セブンは返事をしていない。動いてもない。


《他にも、たぶん、手をかざす事が必要なんだ。だから、俺たちが、こうやって腕を拘束して、手をこちらに向けられないから、俺たちは凍らされていない》

「(お、おお)」


 一瞬でも無理があるとカミノガエは思ったが、コウの推察は、確かに的を射ている。両腕を拘束して、手のひらをコウに向け去られないセブンは先ほどからコウを凍らせていない。


「――よくしゃべる、ベイラーだ」


 口を開いたセブンは、ひどく平坦な声だった。否、平坦に聞こえるように努力している事が、わずかに震えてる唇から伺えた。


「なら、その場で陛下が串刺しにされているのを眺めているがいい」

「(ま、まずい! 逃げなくては! ジェネラル! なんとかならんか!? )」

《(全力でサイクルを回していますが、応答なし)》

「(凍っただけでこんな事になるか!? )」


 ただ凍っただけで、力や意思といったもの、全てが根こそぎ奪い去られてしまったような錯覚さえ感じていた。コウの言うように、もしかしたらこの力は確かに無敵ではないのかもしれない。だがそれは、現在進行形で凍ってしまったカミノガエには意味のない事だった。


「(どうやったら動けるようになるのだ!? )」

《しゃべりながら眺めるなんてしないよ。ただ》

「こっちもようやく終わったわ」

「――何? 」

《選べ! 陛下を殺すか! その身を守るか!》

 

 すでに、セブンはその手をふりあげ、コックピット向けて突き刺そうとしていた。一体何を選ぶのか、殺されそうになっているカミノガには見当もつかなかった。それはセブンも、カミノガエとほぼ同意見だった。一体何を言っているのか、コウ達の言っている事がまるで理解できなかった。 


 コウの体が、黄金色(こがねいろ)に輝き出した時。ようやく事態を理解できた。


「喰らえ」

《「サイクル・ノヴァ! 」》


 当たり一面が、コウによる爆風と光の膜で覆い尽した。



「――生きて、おる」


 目の前が急に輝いたと思えば、次の瞬間吹き飛ばされていた。カミノガエの意識はその衝撃で少々遠のいてしまい、状況を把握しきれなかった。誰からの説明を欲していると、頭上から声が響く。


《陛下。ご無事で》

「おお、ジェネラル。余は生きているのか」

《はい。生存しています》

「――まて。貴君、もう動けるのか」

《はい。この通りに》


 先ほどまで氷漬けにされていたはずのジェネラルの手足が自由に動いている。動作を確かめるべく、何度もグーとパーを繰り返しては、指の関節に不自然な所が無いかを調べ上げる。


「感覚と視界の共有も問題ないな」

《はい》

「――カリンは!? カリン達はどうなった」 

《すぐ前方に》


 指で指し示す事もいらずに、視界の中に飛び込んでくる、真っ白な体。


 コウは、全身から緑の炎が吹き上がっている。その炎が『サイクル・リ・サイクル』によるもので、それは先ほどの衝撃を放った上でなお、未だコウが臨戦態勢である事を示していた。


「――まさか、あの攻撃で、コウがどこか怪我を? 」

《いいえ、アレは、コウ様自身の気力が昂っているだけです》

「そんな事、あるのか? 」

《コウ様以外には、いないでしょう。立ちます》

「頼む」


 えいや、と掛け声をかけるでもなく、ジェネラルは立ち上がった。損傷らしい損傷は皆無であり、コウのサイクル・ノヴァは、本当にただの余波を受けただけであった。


 そして、緑の炎をたぎらせているコウは、敵対心をむき出しにしながら、眼前の相手に吠えたてる。


《やっぱりそうだ。お前の力、少しずつ分かってきたぞ》

「――そう、らしいな」


 眼前の相手、ケイオス・ベイラー。その乗り手の声は、今までになく苦々しい。


「その技の事を、忘れていた」

《アイの時は光線になってたからな》


 サイクル・ノヴァを使えるのはコウだけではない。黒いベイラー、アイが、サイクル・ノヴァを収束させ、光線としれ撃ちだしている分、アイの方がむしろ得意分野である。だが、元々の使い方は、行き場を無くしたエネルギーの塊を、コックピットを中心として爆裂させる、いわば自爆技である。技の性質上、密着しなければ効果は薄いものの、その威力は、剣戟のソレとは比較にならない。


 しかし、ケイオスの姿を見たカリンの呟きは、畏怖と、諦めとが混ざっている。


「サイクル・ノヴァの直撃を受けても無傷だなんて」 


 ケイオスの肌は、それでも一切の傷を負っていなかった。龍の一撃をしのいだ事を考えれば、ケイオス・ベイラーにそのような防御手段がある事は想定の範囲内である。それでも、いざ目の前で無傷の肌を見てしまい、思わず天を仰いでしまう。


「結晶の力。本当に厄介ね」

《でも、あいつは、すでに凍っていた陛下を投げ捨てて、自分の身を守った》


 だが、ケイオスが無傷である事と、カミノガエが無事である、その二点こそ、コウが最も知りたかった情報。コウがケイオスにむけ、指を一本たてる。


《凍らせるだけなら、俺の攻撃ごと陛下も凍らせられたはず。でもあいつはソレをしなかった》

「それはつまり、凍らせられるのは、限度があるということ」


 今まで、不明瞭だった力が、その先端だけでも、解明され始めている。事実であるか、仮設であるかは、この場で証明する事はできない。ただ一人、結晶の力を使用しているセブンだけが、証人となりえた。


「――それが、どうした? 」

《それに、もうひとつ》


 コウが、まくしたてるように、もう一本の指を立てる。


《お前は、凍らせる時、凍らせる以外の事ができなくなる》

「――なに? 」

《結晶の力を使う時、お前は剣を使ってこなかった。さっきも、お前は律儀に俺たちの剣術に付き合った。最初から凍らせていれば、そもそもそんな事をしなくて済んだはずだ》

「――」

《結晶の力を使うには、プロセスがある。1.手をかざす。2.対象を決める。3.凍らせる。少なくとも3つの過程が必要だ……それは、剣士がやるにはずいぶん多い》


 指折り数え、結晶の力を紐解いていく。接近戦において、三つの行程を挟んだ上で実行しなければ効果がない。


 コウの説明を虚偽であるというのは簡単だった。だが、同時に、それが真実でないと断言する事もできない。なぜなら、コウの説明通り、ケイオスが、カミノガエに使っていた結晶の力を解き、サイクル・ノヴァへと力を方向を変え、そして、爆発力を無力化し、無傷だったのが、何よりも証明となっている。


《お前には、最強の矛も盾もある。だが同時に使えないんだ》

「――彼女の力を前にして、恐れず紐解こうとした、その意思は認めよう」


 ケイオスが、七本の剣を生み出し、構えた。


「だが、肝心な事を忘れている。いくら彼女の力を読み解こうと、いくら私の力を紐解こうと、私の力が落ちる訳ではない。まだ君たちを簡単に惨殺できるのだと」

《ああ、そうだ。お前は、やっぱり強いよ》

「なんだ。分かっているじゃないか」

《でも、お前も忘れている》


 セブンの言葉に、コウは全面的に肯定する。セブンの力も、結晶の力も、ほんのわずかに分かった事が増えただけで、どれもセブンを倒す決定打足りえない。サイクル・ノヴァを命中させる事はできても、致命傷にならない相手である。彼に、勝つ方法が見い出せていない。

 

《俺の味方はカリンだけじゃない》


 瞬間、コウを傍らに降り立つベイラー達。赤色と、空色と、灰色と、黄色。4色の肌が、コウの戦列に加わる。セス、ミーン、ジョウ、リクの4人。

 

「お前たちは、まさか仲間が来るとわかった上で」

「ええ、時間稼ぎさせてもらったわ」


 コウと、ジェネラルも合わせ、計6人のベイラー達が集う。ジェネラルの背後には、49人のブレイダー達もいる。


「皆、結晶の力は、その力を使っている間は他の事ができなくなります。七本の爪を抑え込み、結晶の力を使わせないようにすれば、勝てます」


 それは、作戦というには数の暴力で抑え込むという、あまりに大雑把な作戦だった。それでも、コウとジェネラルでは成し遂げられない作戦でもある。ブレイダー達の操作はどうしても乱雑になりやすく、共同作戦を実行するには、精密さと力強さが必要となる。ここにいる、コウを含め、5人のベイラー達であれば、その条件をクリアできる。セスもミーンもジョウもリクも、実際にセブンの攻撃を抑えこんだ事がある。ブレイダー達にも助力を願いたい所であったが、彼らには何より他にやってもらう作業がある。


「陛下、ティンダロスに楔を」

「あ、ああ! 承った(うけたまわった)! 」


 ブレイダー達は、ティンダロスに楔を打ち込み、龍の一撃にてティンダロスを滅ぼす下準備がある。この戦いの現況であるティンダロスに有力な一手を打てるのは現状、龍の一撃のみであり、コウ達では文字通り歯も立たない。


「(これは)」

  

 セブンは、己の置かれた状況が、かつてないほど危機に瀕しているのを肌で感じ取った。カリンの仲間のベイラー達が強いのは、実際に戦った上で骨身に染みている。その上、ブレイダー達を適宜排除しなければば、ティンダロスに影響が出る。


「(だが、時間稼ぎをしたいのは、こちらも同じ)」


 両者の思惑はありつつも、共通しているのは、ここで相手を倒さば、本懐は遂げられないという事。その本懐を譲るつもりなど、両者にはさらさらなかった。


「皆、ぬかりなく」

「「「「応!! 」」」」


 カリンの号令で、ベイラー達がセブンへと迫る。ティンダロスをめぐる戦いは、佳境を迎えようとしていた。

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