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ベイラーと大空戦

「さすがは星の守護者といったところかな」

「ええ。今ので決まったと思った」


 ティンダロスの内部で、二人が談笑している。外では、あれだけ投げ出されり、絞めあげられたのに、内部にいる彼らには、なんら影響が出ていない。それはこの内部と外部が、空間的には地続きでない事が影響している。結論、ティンダロスを外部から攻撃したとして、この、セブンとマイノグーラがくつろいでいる空間が壊れる事はないのである。


 空間と時間、それらが歪んで、混ざって、溶けあって、この場所は存在している。故に、生活感を感じさせるような家具などは置く事ができず、二人は、地べたに腰を落ち着け、肩を預け合っている。川の土手で、いじらしく身を寄せ合う学生のように。


 そして結晶越しで、龍の反撃を眺めていた。



「翼が一枚なくなったわよ!? 」

《まずくないか!? 》


 ティンダロスの叫び声が木霊し、龍がその身を削られる。龍めがけて放たれる光線は、まるで餌に食らいつく魚のように、どこまで逃げても追いかけてくる。そして、その光線に当たれば最後、体が凍って動かなくなってしまう。凍る速度も尋常ではなく、巨体の龍、その翼をやすやすと氷漬けにしてしまった。


《(龍の攻撃にはあまり効果がなかった。でも、ティンダロスは、たった一撃で、命中すれば致命傷になる攻撃を持ってる。それって――)》


 龍の攻撃は届かず、当たらず、当たっても効かずにいる。対して、ティンダロスは、たった一回の攻撃で全ての優位に立っている、遠距離から攻撃でき、誘導し、あたりさえすればいい。


《ジェネラル! 龍にも何か、こう、パッとしたのは無いの!? 》

《パッとしたの、とは? 》

《龍は持ってないの!? 口から炎を吐いたり! 》

《炎は吐きません》


 コウの中で、龍、つまりドラゴンには、大きな口から炎ないしソレに類する、いわばブレス攻撃のような物を持つと、偏見を持っている。彼が生前目にした空想の世界にいたドラゴン達は、みなそれぞれブレス攻撃を行っていた。龍もその例に漏れず、ブレス、およびブレスに類する遠距離からの攻撃を行える物だと。


 だが。毅然とした態度で、ジェネラルはそうではないと答えた。コウは一瞬その答えに落胆しつつも、その言葉の意味を、よく頭の中で吟味し、そして再びテンションが上がっていく。


()()って、事は! 》


 ジェネラルの言葉は、確かに炎を吐かないとは言った。だが、他の何かを口から吐き出す事は否定しなかった。


《やっぱり龍にもあるの!? 》

《――使用する際には、龍にも相当の準備と、相応の消耗があるのです》

《消耗? 》

《少なくとも、連発はできません》

《すげぇ。必殺技みたいだ》

《ヒッサツワザ? あの獣が必ず死ぬかどうかまでは》

《あー、ごめん。無視して》


 ブレイダー改め、ジェネラルが首を傾げているのを尻目に、コウは逡巡する。必殺技。それはコウにとっては、ゲームの中でしか見た事がない代物で、この世界で実際にカリンと共に戦い、技を繰り出す事があっても、文字通り。文面通りの必殺に至れる事は少なかった。


 『真っ向唐竹大切斬』や、『真っ向一文字大炎斬』など、当たりさえすれば相手に致命傷を与えられる攻撃こそあるものの、敵は簡単に当たってはくれなかった。


《(でも、もし龍にも、技があるのだとしらた)》


 山脈のような大きな巨体は、思ったよりも器用に動いている。ティンダロスの体を巻き付けて投げ飛ばしたり、締め上げたり、蛇のように体をくねらせて躱したりと、龍の巨大さから来る、イメージとしての鈍重さは、微塵も感じさせない。翼の一枚を手折ってしまってなお、龍の闘志は萎えておらず、その牙を剥きだしにしている。まだ、戦う気でいる。


 一方のティンダロスは、先ほどの光線を撃った後は、ピタリと音が止まっている。あの鳴き声なのかもわからない、奇妙な音は鳴りやんでいる。それでも、見開かれたその目は、じっと龍を見つめている。


《龍もまだ手があるならまだ》

「ねぇコウ」

《カリン? 》

「少し、気になったのだけど」


 龍の勝機がまだ残されている事に、わずかな希望を見出したコウであったが、胸に収まる乗り手のカリンは、敵であるティンダロスについて、コウとは違った印象を受けていた。


「さっきの、えっとティンダロスの攻撃なのだけど」

《あの氷結レーザー》

「れ、レーザー? 」

《あ、ビームかも。違い分かんない》

「と、とりあえず、あの氷結レーザー」


 ティンダロスの攻撃を、ひとまず仮で命名する。一般的に、レーザーは光線で、ビームは熱線の事を指す事が多いが、コウは、一般的な高校生であり、言葉の意味の違いなど気にした事は無かった。一直線上に進む攻撃を、コウはひとまずレーザーと定義する。


「バスターベイラーも似たような攻撃してたでしょう? 」

《ああ、確かに。誘導はしなかったけど》

「あの時も、攻撃する予兆はあった」

《ティンダロスも、なんか鳴いてたね》


 黒いベイラー、アイの欠片により、憎しみで巨大化したバスターベイラーは、段階を経る事によって、生み出した発射口から熱線を放っている。莫大な熱量を持ったその攻撃は、今でもコウの記憶に鮮烈に残っている。そして、その残った記憶の中で、一つの性質を思い出す。そしてその性質は、この戦場においては、危惧すべき状況を生み出してしまう事も思い出した。


《やばくないか!? 》

「やっぱりそうよね!? 」

《どうしたのです? 》

《ジェネラル! さっきの攻撃って、昔もやってきた!? 》

《はい。一度きりでしたが》

《なら、()()()()()()()()()()()()()()!? 》

《――》


 バスターベイラーが、熱線を放った後、第二射の感覚は、さして長くなかった。そして、ティンダロスが、もしバスターベイラーと同じように攻撃してくるとしたら。


《――》

「ジェネラル! なんとしても発射を阻止しないと」

《いいえ、その必要はありません》

《でも、またアレが発射されたら》

《……いえ、先ほど、『情報が』こちらにもわたりました。二回目以降は、龍は堕ちません》

《情報? 》

《こちらも準備が必要になりました。しばらく指揮に専念します》

《一体、何を》


 ジェネラルは、コウとの会話を突然打ち切り、他のブレイダー達に指示を飛ばし始める。それは、これから先に起こる戦いの余波から、この港を守る為の行動。


《陛下。しばし上昇します。気圧変化で体調が変わるかもしれません》

「貴君の言っている言葉の意味はまったくわからんがとにかく()し! 」


 それは、ジェネラルなりの、急激な気圧変化における、人に対する気遣いであったが、カミノガエは気圧の概念を知らない為に、それが気遣いだと理解できなかった。ジェネラルは承諾を得たものとして、避難船から離れ、空へと上昇する。


 空といっても、龍とティンダロスの元に行くのではなく、三隻ある避難船の上に飛ぶ、低空飛行である。


《各機、サイクルシールドを破棄。のちに15機ずつ、各避難船に散らばり、残り4機は、不測の事態にそなえ、本機に追随せよ》


 ジェネラルの指示のもと、他のブレイダー達が、支えていたシールドを捨て、避難船へと向かってく。サイクルジェットの軌跡が、規則正しく異動し、船へとたどり着く。


《座礁した船を救出。のちに、錨となれ》

「錨? 」

《船を固定するのです。陛下》 

「錨ならば、船にも備え付けてあるだろう? 」

《それでは足りません》

「ならどうやって? 」

《錨は利用いたしますが、それだけではなく、楔とします》

「楔? 」

《ちょうど、あのように》


 ジェネラルの指示は、ブレイダー達を、避難船の錨とすべく行動させる物だった。他のブレイダー達は、指示に従って動いていく。


 船にある錨を、15人のベイラーが持ち上げると、海へと落とす。そこまで見れば、ただ錨を下す、船の停泊方法となんら変わりなかった。だが、錨と落とす時、1人のブレイダーに錨を抱えさせ、そのまま落としていった。


 重りを付け、海に落とす。それは、如何に樹木由来で、比重によって海に浮かぶベイラーであろうと、水底へと沈んでしまう行為。当然、浮き上がる事もなく、ブレイダーは海へと深く沈んでいく。


「な、なにをやっている!? 」

《15機のうち、1機が錨そのものを、海の底に、その剣で縫い付けるのです》 

「そんな事をして、一体何を」

《コウ様の言葉を借りれば、ヒッサツワザから、あなた方を守る為です》

「ま、守る? ティンダロスからではなく、龍から? 」

《はい》

「そこまで、なのか」

《そこまでなのです》


 龍の攻撃の方が、ティンダロスの攻撃よりも苛烈だという。どんな威力なのか、どんな規模なのか、そもそもどんな攻撃なのかもわからなくなっていく。


「(さっきから、本当になにひとつ分からぬ。剣聖が剣聖ではなく、あのバケツ頭が剣聖で、災厄を振りまいた存在で、そして今、あの目玉の化け物が、空の上から来たという。空の上とはなんだ? 星の外とは何のことなのだ? そもそも宇宙とは何の事だ? )」


 カミノガエには、この星に生きる人々にとっては、まだ宇宙という存在を理解するに至っていない。星は眺めるものであり、自分達の同じように、知性を持った別の生き物がいるなど、今まで想像もしていない。


「(コウは宇宙について知っておったようだ。もしや、コウはベイラーでありならが賢者でもあったのだろうか。そして、もしかしなくとも、その賢者の乗り手であるカリンを、余は妻として迎えたのか? )」


 頭の中で、ぐるぐると思考が混濁していく。思えば、結婚初日に、戦争がはじまった。そこまでは、カミノガエも予想していた。その上で、ささやかな婚姻の儀を執り行ったのだから、まだ心の余裕を保てていた。だが、幼い頃からの味方であり、慕っていた剣聖ローディザイアの死。そして今は外の星から来た者、ティンダロスと、魔女マイノグーラと戦っている。それも他人事ではなく、自分自身は、月から来たベイラー(どうやって来たのかも分からない)に乗り込み、訳の分からぬまま、最前線に立っている。なにひとつ理解する暇もないまま戦っている。思考はまとまらず、混乱し続けている。


「(それでも、余は、操縦桿を離せずにいるのは)」


 それでも、彼は、ジェネラルの操縦桿を握っている。未知の相手に怯え、恐怖し、脚は震え、唇はわなわなと揺れている。それでも、必死に操縦桿を握り締め、決して離さないようにしている。


 怖がっても、恐ろしくても、立ち向かう術が分からずとも。彼はここにいる。その背中には、己の、迎えた妻がいる。逃げる事ができないとは、己が夫であるからだと、その矜持の為だと。この戦いが始まってからは、そう思っていた。


「(――なんだ、余は存外)」


 逃げないのは、矜持だけではないと、気が付き始めた。気が付いてしまうと、急に顔が赤くなり、体温が上がる。生まれて初めての感情に、戸惑いを覚えると共に、それが一体何なのか。この混乱の最中でも、はっきりと分かっている。


「……後で、伝えねばならんなぁ」

《陛下、貴方は》

「言うでないジェネラル。」  


 言葉に出すには、まだ気恥ずかしかった。彼は15歳の少年である。


「しっかりと余を、余の妻を守れ! 」

《承諾》


 ジェネラルは、それ以上の言及をしなかった。カミノガエにとっても有難(ありがた)く、そして気持ちを切り替えるきっかけとなる。眼下に広がる海の上、楔となったブレイダー達が、しっかりと船を支えているかどうか、視野を広げられるだけの余裕を取り戻す。


「上手くいった、のか? 」

《はい。これで、準備は整い……》


――――La ――la――lA


 もう、聞き間違う事など無かった。


 空にかすかに響く、蚊の鳴くような音。鳴き声と、楽器の音と、雑音とが、無理やり『ラ』でまとめられた、奇妙な音。


「く、来る! 」

《やっぱり、連射できるのか!? 》


 船の上にいたコウ達も、その音は耳に届いている。その音が響いたという事はつまり、攻撃の予備動作が始まったという事。最初は蚊の鳴くような、小さな音が、スピーカーのつまみを上げるように、次第に大きく強く変わっていく。そして、この地域全域に生きる生き物全てに聞こえるほどの、爆音へと。


――La ――la―lA ―La―lあ―lA LalあラaLalあラalA LalあラaLa


《龍は!? どうなってる!? 》

「う、動いてないわ」

《なんだってぇ!? 》


 明らかに、あのレーザーが発射される前兆が強まっている。だというのに、狙いを定められている龍は、三枚になった翼を大きく広げるだけで、其処から微動だにしていない。レーザーが誘導する事を踏まえれば、動くのは無駄と言えたが、それでも、回避する素振りすら見せないのが、異常だった。


《まさか、翼を失って動けないんじゃ》

「コウ! あの余波がまた来る! シールドを! 」

《お任せあれ! 》

「《サイクr――》」


――LAアアアアアアアアアアアアアアアアアア


 一瞬、生成が遅れた。シールドを生み出すより前に、ティンダロスの眼が、最大に見開かれ、その目から、光線が放たれる。目を焼きそうな光量が、揺らめく煙のような速度で、ゆっくりと龍へと進んでいく。命中すれば、すぐさま結晶となってしまう、コウ命名の、氷結レーザー。


《そんな》

「あれは」


 コウ達は、シールドを作るのも忘れ、その光景を目に、心奪われてしまった。決して、その光線が美しかったからではない。シールドを作るのすら、無意味だと悟ってしまったのである。


 ティンダロスから出た光線。それは、先ほど、一条の光となって放たれていた。低速で誘導性のあるその光線に、龍の翼は、その僅かな部分に命中し、侵食され、凍ってしまった。連射されれば、龍もひとたまりもないと。


 その光線が、()()()()()()()()()()()


 眼球から、蜘蛛の巣を張ったように、文字通り四方八方へと延びる光線。そして、光線は緩いカーブを描きながら、目標たる龍へと奔っていく。


《(一発でも避けられなかったのに、同時に、それも八発!? )》


 龍が、射線の通りやすい空中に居るのも、また避けられない原因でもあった。あの光線の弱点らしい弱点は、対象に命中してしまえば、その後は貫通せず、自然に消滅してしまう点がある。


 もし、遮蔽物があれば、龍はそこに身を隠し、回避できる可能性が生まれてくる。最も、光線自体が誘導する都合、最初から身を隠していては、遮蔽物を乗り越えて光線が襲ってくるのは自明の理である。体に当たるかどうかのぎりぎりを狙い、遮蔽物を身代わりにする事で、回避できるかどうかの瀬戸際であった。


 だが、全方位を囲むように、光線が同時に襲ってくるのであれば、隠れる事はおろか、避ける事などできはしない。


《(龍が、負ける!? )》


 コウも、カリンも、避難船にいる人類も、誰もがそう思った。だが、微動だにしなかった龍が。八方から襲い来る光線を前にし、ついに動き出す。


 大きく広げていた翼を、前へと、光線に向けて羽ばたいた。本来、二対四枚だったのが、今や片方は対を無くした為に三枚となってしまったその翼。


 一度目の羽ばたきで、地上を巻き込む大風が、吹き荒ぶ。地表にあった建物のいくつかは、その風圧で壊され、飛ばされ、山々に生えた木々の一部が、抜け飛んだ。光線は、最初から速くなかった弾速が、さらに遅くなった。


 二度目の羽ばたきで、光線はついに、その空間に縫い付けらたように、ぴたりと静止してしまう。それ以上前に進む事は、龍の生み出した風によって許されなかった。地上には竜巻が一瞬で発生し、瓦礫を巻き上げ、物体を空へと無造作に投げ捨てていく。


 そして、三度目の羽ばたきで、光線そのものを、風量で押しつぶしてしまった。威力を失い、霧散していく氷結レーザーを、コウ達はただ、大風によって生まれた、『瞬間の嵐』を耐え忍びながら、ため息交じりに眺めていた。


《光線が、掻き消えた? 》

「私達、アレに一回吹き飛ばされてるのよね」

《うん、成層圏まで飛んでった》

「今回は、ブレイダー達が、なんとか抑えてくれたけど」


 海の上に居た避難船が、その風によって大きく浮きそうになるのを、あらかじめ楔としていたブレイダー達が抑え込んでいた為に、コウ達は二度目の成層圏到達をせずに済んだ。


「(もう、でたらめな戦いだわ)」 

《カリン》

「どうかして? まさか、さっきので誰か怪我を」

《いや、そうじゃなくって、あの雲》

「雲? 」


 ティンダロスと龍の戦いは、想像だにしない方法の応酬で繰り広げられ、自分達が介入する暇などなく、ただ巻き込まれて命を落とさないようにするのが精いっぱいだった。それでも、何か力になれる事はないかと、コウは観察を続けていると、龍の周りに、不自然な雲が集まっているのに気が付く。


 それは、夏場に振る大雨を呼ぶ、積乱雲のように分厚く重い印象のある雲だった。実際、龍の周りにだけ、雨が局地的に降っているようで、紅の鱗が雨に当たりにぬめりを帯びている。


 だが、それよりも、その積乱雲から聞こえる、ティンダロスとはまた違う音が、コウの胸騒ぎを大きくさせている。ティンダロスの攻撃を目にしたときに感じた、諦めの感情とは正反対の、むしろ、龍がこれから行おうとしている事への期待感。


「これ、『雷の音』? 」

《そう、聞こえるけど》


 ティンダロスの鳴き声とは違う、聞き慣れた音。普段であれば恐ろしいはずの、落雷の、ゴロゴロとした音が、奇妙な鳴き声を聞き続けてしまった今では、むしろ安心感さえ覚えている。この星由来の、ゴロゴロゴロと、空が轟いている音。


《まさか、龍が吐き出すのって》


 コウの期待感と予感は、その音を耳して、最高潮に高まっていた。やがて、その期待に応えるように、龍が、大きくその頭を動かす。下あごから伸びた、龍がもつ、長い長い牙。その牙へ、積乱雲から、すさまじい数の落雷が落ちていく。


 落ちる。そう、牙に向かって、落雷が落ち続けているのである。何度も何度も、地上に落ちる時の、あのすさまじい衝撃と破裂とが混じったあの音が、龍の牙に発生している。


 何度も何度も、積乱雲から雷が落ちているが、龍の牙は折れる事なく、むしろ、黄金の雷を受ければ受けるほど、その牙は、より輝いている。そして、龍の体その物にも、変化が訪れる。肌に生えた紅の鱗の内側から、牙に受けた稲妻と同じ、黄金の輝きが発せられていく。バチバチと音を立てて、その光は、龍の口へと、一点に集められていく。


 白く雄々しい牙に、黄金の稲妻が纏われ、龍の持つ、真紅の鱗と相まって、龍の恐ろしさよりも、雄大さと、美麗さを兼ね備えた、一種の風景画のような光景が空に浮かんでいる。


《(あ、あの牙って、何かを喰らう為じゃなくって)》


 ふと、コウが、龍の体の構造ついて、一種の仮説をひらめいた。ずっと、あの大きな巨体に、なぜあれだけ大きな牙が付いているのか疑問だった。無論、ティンダロスのような相手と戦う為には優位だろうが、それにしても大きすぎて、何かと不便ではないかと思えた。


 コウは、そもそも、龍の牙には、咀嚼の役目が無いのではないかと推察する。目の前で起きる、嵐から雷を集め、そして自らもまた雷を生みだしている姿。


《(アレは、そういう器官だったとすれば)》


 雷を生み、操る器官。牙としての機能は、副次的な物なのではないかと。


 その仮説を裏付けるように、龍の口が大きく開かれた次の瞬間。


「GAAAAAAAAAA!! 」


 龍の雄たけびと共に、嵐と、自身から生まれた雷を集約した一撃が放たれた。光線ではあるが、弾速がティンダロスの物の比ではなく、そして、今で、何ら有効打にならなかったはずの、あらゆる攻撃に対して無敵にも思えたティンダロスの表面が、明確に()()()()()


 結晶の破片は、地上に散らばり落ちると、氷のように溶けだす事なく、まるでその場に最初から存在しなかったかのように、跡形もなく消えてしまった。破片の当たった瓦礫さえ、元の位置から動いていない。


 龍の反撃に、そして、龍の攻撃手段に、コウは、両手を挙げてただ喜んでいた。


《龍の、サンダーブレス? いや、ライトニングかな。すっげぇ! 》

「何!? コウ。なんか言った!? 」

《カリン! 龍が反撃したぞ! 》

「聞こえないの! なんか耳がキーンって」


 龍の攻撃に、どのような命名をするか、興奮気味に思案しているが、当のカリンは、龍の攻撃に際し発生した、鼓膜を破らんばかりの爆音に、耳鳴りが止まらずに、一切の音が聞こえていなかった。しかし、龍が反撃したのだけはしっかりと見届けている。


 この戦いが、一方的に終わらない事だけは、カリンも理解できていた。   

 

平成ガ●ラの題名をつけたくてしょうがありませんでしたが、一回つけるとその後もずっとつけたくなるだろうから何とか抑えました。

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