ベイラーと穿孔一閃
断末魔をあげる暇もなく、パーム・アドモントはアイと共に落下していく。コウとアイの、世界を超えた因縁がここに決着した。
「や、やったのか! コウが、姫様が」
その様子を視界の隅でとらえた黒騎士は、勝利を収めたと確信を得るのと同時に、パームをその手で殺めてしまったカリンを前に、大手を振るって喜ぶ事もできなかった。
「(それに、もしサイクル・リ・サイクルの力をつかったなら)」
そしてカリンは、代償をその身に味わっているのを知っている。事実、コウは振りぬいた大太刀を鞘に納める事もできず、だらんと力なく落ちていった。乗り手であるカリンもまた、コックピットから外に出たままであり、ふたりはそのまま、『獣』の腕の上へと真っ逆さまに落ちていく。
「リオ! クオ! 頼めるか! 」
「たのまれる! 」
「るー!! 」
クオとリオは、落下している最中のカリン達を受け止めるべく前へと躍り出る。四本腕であるリクであれば、受け止めるのは容易い。
「行かせると思うのかね? 」
だが、初代剣聖セブン・ディザスターが双子の前に悠然と立ちふさがる。その体には、7本の爪がわなわなと蠢いている。
「鈍重なベイラーだ。これならば簡単に」
「――いくよフランツ!」
「――いくぞナット! 」
セブンの7本の爪が動くより前に、左右それぞれから、別のベイラーが急襲する。一方は鋭い蹴りで、もう一方は、螺旋を描くドリルで、セブンの爪をことごとく打ち砕く。
サイクルから黒煙を上げるのは、ナットのベイラー、ミーンとフランツのベイラー、ジョウ。二人は最高速度で動き回り、セブンをかく乱し続ける。
「フランツ! これ楽! 」
「カクカク動きすぎなんだよ。大回りでいけ! 」
「大回りか! わかった! 」
ミーンとジョウは、その特性が似通っている。最高速度になるまで、加速を限りなく零にできる状態、ナット命名の『暴風形態』。しかし弱点として、あまりに高速で動き回れるために、中にいるナットは、時に骨を折り、時に内臓を傷つけ、血を吐いてしまうほどに肉体が疲弊してしまう。
だが、フランツの助言により、体に負荷をかけない挙動をするおかげで、いつもよりずっとナットの体は楽になっている。
「このまま爪をぶっ壊し続けるぞ」
「うん! 」
一回一回の攻撃ごとに、大回りに旋回するために、連続で攻撃を与えられないものの、ナットの負荷は以前より格段に低減し、精神的にも余裕が生まれている。そしてナットの胸には、フランツとこうして共闘できている事実が、何よりうれしかった。
「(フランツは、ちゃんと僕らと戦ってくれる! )」
関節のサイクルから、黒煙をぶちまけながら移動し続けるナット達を前に、セブンは予想外の苦戦をしていた。いくら爪を壊されようと、その爪は瞬く間に再生する。だが、その再生より、ナットたちの攻撃のほうがわずかに速い。ふたりが2本の爪を壊し続ける事で、3本目まで瞬時に破壊できるようになっていく。事実上3本の爪を封殺している。
「(ベイラーがこれほど速く動くのか)」
「あれはミーンと同じ力!? だがこれなら! 」
セブンの再生速度の上限。そこに目をつけた黒騎士が、ここぞとばかりに追撃する。7つの爪を縦横無尽に動かし続け、7つの内、3つをナットとフランツに、残るは5つ。
「サマナ! シーザァー殿! 」
「「おうさ! 」」
そして、サマナとシーザァーが、黒騎士の声に応え、背中の2本を請け負うべく飛び込んだ。振るわれる爪で切り裂かれぬように、懐に飛び込んで、サマナは根本から切り裂き、シーザァーは爪を叩き砕く。背中の5本は、事実上封殺された。
「惜しいな、まだ両手が――」
「まだまだぁ! 」
黒騎士が、セブンに追いすがる。レイピアで剣聖の左肘を貫き、動きを封じる。しかし、セブンの右手にある爪は、がら空きである。
「あと一手足らなかったな」
セブンは最後に残った爪を、黒騎士の脳天へと、無慈悲に振り下ろす。
「あるに決まってるだろう! 」
剣聖の右手にあたる最後の爪を、黒騎士ははじき返した。
黒騎士が使うレイピアの剣術は、突きに特化している、全身を使い、左手の反作用も利用して、最速かつ最大の威力で突きを放てるようになっている。故に、突きの後はがら空きになる。攻撃の後に無防備になるのは、カリンらが使う居合斬りに、性質は似ている。
居合斬りと決定的に違うのは、鞘を持たねばならない居合斬りと違い、突きの場合は、空いた手はいくらでも活用できる点にある。
レイピアで突き刺した右手はそのまま、左手には、彼がこの旅で使い続けた剣を構えている。
「なるほど、二刀流か」
「やっと、抑えたぞ」
ベイラー4人と1人で、セブンのもつ全ての爪を、どうにか押さえつけた。
「(ライさんの二刀流を見ておいてよかった)」
黒騎士が参考にしたのは、選抜大会の折り、ライ・バーチェスの使う二刀流であった。ライの場合、片方は防御に使うソードブレイカーを使っていたが、生憎黒騎士の手持ちには、そんな武器は無い。あったとしても、使った事のない武器であれば、手に取る事もしない。
故に、自分の使い慣れた武器で二刀流を実行してみせた。実際、黒騎士の内心は冷や汗でいっぱいである。間合いに飛び込んだはいいものの、もう一本を弾けるかは、体が動いてみてからでないと分からなかった。練習もなにもしていない、いわば付け焼刃の二刀流が、この土壇場で通用するかどうか。しかし、こうして二刀流を実行した事で、剣聖に打ち勝つ術を、ようやく見出した。
「(こいつの剣戟は確かに強い。ベイラーだって両断できる。でも)」
セブンの攻撃を見切り、弾き、そして切り返していく黒騎士。彼の目には、しっかりとセブンの剣戟が見えていた。見えているからこそ、一手一手の攻撃を読む事ができ、対応し続けられている、
「(勝てない相手じゃ、ない! )」
勝利への道が、ほんのわずかに見えてきている。一方、セブンはと言えば、純粋に、相対したベイラー達に舌を巻いていた。
「(高速で移動し続けるベイラー達、そして何より、二刀流で抑え込んでくる黒騎士)」
なにより、二刀流で確実に抑え込んだ黒騎士の存在は予想外だった。だからこそ、セブンの中で、黒騎士の評価が変わり、目的をわずかに修正する、
「(この黒騎士こそ、計画遂行には邪魔な存在か)」
「みんな! そのまま攻撃を続けてくれ! 」
「言われなくたってぇ! 」
「(パーム君が倒れた今、使える手駒もない)」
黒騎士達が必死の抵抗をしている中、セブンはどこまでも淡々とした態度を崩さない。フランツ達の攻撃により、爪はもう何度も破壊され続けているにも関わらず、決定打を打てない事に、黒騎士は焦りを感じ始めている。
「(パームとの闘いが終わってすぐ落下したってことは、おそらくサイクル・リ・サイクルの力を使いすぎて、二人とも魂が体から離れてしまったんだ。できれば決定打として起きててほしかったが、今更何言っても遅いか)」
レイピアと片刃の剣で何度も何度も剣戟を繰り返す。このまま弾き返すのを繰り返しても、やがて体力がなくなって倒れるのは黒騎士の方であった。
「(その前に、何とかして、こいつをどうにか)」
「――ふむ」
突然、セブンが剣戟を止め、黒騎士達かた離れるように、後ろへと飛び退いた。間合いから自ら逃れた事で、爪の再生が追いつく。セブンの周りを駆け回っていたナット達は、お互いに衝突を避けるべく、体を翻し、『獣』の腕の上で、盛大にスライディングする。
「(なぜ距離を取った? )」
黒騎士は、セブンの突然の行動を理解すべく、彼を凝視し続ける。背中には再生しかけの爪と、黒騎士自身が貫いて開けた手のひら大の穴がある。それ以外は、最初にセブンが現れた時と、何ら変化は見受けられなかった。ベイラーからの攻撃を受けてなお、致命傷になっていないのは脅威という他ないものの、黒騎士は突破口を見出しつつある。
「黒騎士、どうするのさ」
「ナット、そのまま暴風形態を維持できるか? 」
「もちろん」
「奴が何かしたら、一番速く対応できるのはお前たちだ。頼りにしている」
「任せといてよ」
「(でもなんで今、距離を開けたんだ。あいつには他の武器があるのか? )」
黒騎士はかつてないほどに思考を加速させている。どのような意図を、どのような意味で、そしてどんな目的で相手が動こうとすつのか、見極めるべく頭が動く続けている。
「(7本の爪、接近戦なら有効だが、あれだけ遠い場所からじゃ間合いが)」
戦いにおいて、間合いがどれほど重要なのかは、黒騎士も骨身に染みている。間合いを制する事ができれば、その戦いの勝敗は決している。あのままセブンと戦い続けていれば、ジリ貧だったのは黒騎士達側であり、セブンがその優位性を、突然捨てた事に驚いていた。
「(間合いの外に出た……まてよ、もしかして)」
「この技は、あまり良くないのだがな」
淡々とした声の中に、わずかにトーンが落ちている。まるで、子供はしたいたずらが、自分の親にばれてしまった時のような、バツの悪さがある。彼の中で、本当に気が進まないのだとわかる。
「だが、出し惜しみで敗北するなど持って他か」
「(何か、何かしてくる!? )」
セブンは、自分の腕を黒騎士へと向けた。肘から先を巨大な爪へと変貌させている彼にとって、刃を向けている状態である。しかしそのままでは、間合いの外にいる黒騎士をどうにかできるはずもない。よしんば踏み込んで斬りつけようにも、黒騎士の両脇には、暴風形態で最速の行動が可能なミーンとジョウがいる。接近戦での対応は不可能だった。腕を向けたまま、セブンがぽつりとつぶやく。
「『穿孔一閃』」
「ッツ!? 」
その技は、ある意味黒騎士の予感が的中した形になる。剣戟の間合いの外に出た理由、それすなわり、剣戟よりも、もっと遠くの間合いから攻撃を仕掛けてくるという事。
爪のように幅広かったセブンの腕は、まるで槍のように細長くなると、一挙にその長さを伸ばしていった。一本の長い長い槍、もとり針が、目にもとまらぬ速さで伸びていく。その針は、黒騎士の心臓目掛け、真っ直ぐに突き進んだ。その速さは、ナット達が反応するのが遅れるほど。
「――カハァ!? 」
「黒騎士? 」
セブンが何をしたのか、そして黒騎士に何が起きたのか。黒騎士の胴体に、長く伸びたその針が突き刺さった瞬間、ようやくナット達は理解できた。鮮血が黒騎士の体からあふれ、足元へぼたぼたと流れている。
サマナはただ、状況を理解できた時、即座に針のように伸びたセブンの爪を叩き壊すしかできなかった。黒騎士は膝から崩れるものの、倒れはしなかった。サマナは相棒から飛び落り、崩れ落ちそうな黒騎士を支える。
「オルレイト!? しっかりしろ! 」
「だい、じょうぶだ、急所は、外れてる」
「急所って」
「――心臓を狙っていたのだが」
セブンの声が震えている。穿孔一閃。彼が体から生やす爪を、長く細く、そして瞬時に伸ばす事で、まるで遠距離から狙撃するように、対象を串刺しにする技。その技をもってして、セブンは黒騎士の心臓を射抜かんとしていた。
その攻撃を、黒騎士は体をわずかに動かし、心臓ではなく、自分の肩へと攻撃を逸らし、致命傷を躱していた。
「『穿孔一閃』を予想したのか」
「あんな大げさに、自分から間合いから離れたんだ。お前はきっと、剣以外での攻撃をしてくると読んでいた」
「ふむ。素晴らしい洞察力だな」
「ああ、ついでに、その攻撃も、連発は効かないと見える」
「……君は、やはり」
「おいのっぽ! お前大丈夫なのか!? 」
「ああ。こんなの姫様たちに比べれば」
一旦は膝を屈したものの、黒騎士は再度立ち上がろうとする。両手に剣を握ったまま、遠くにいるセブンと相対するように、剣を構えようとする。だが、構えようとしたその瞬間、彼はそのまま、受け身もとらず、ドサリと倒れた。
「のっぽ、お前やっぱり無理を……おいのっぽ? 」
「カ……ハ……アア……ハ……」
「(な、なんだこの苦しみ方、痛みで苦しんでいるのとは、また違う)」
倒れ込んだ黒騎士は、体を激しく痙攣させている。彼は何度も立ち上がろうとしているが、その度に痙攣してしまい、身動きが取れていない。
「おい、どうしたんだよ」
「ハ……ハカ……アア」
「(なんだ? しゃべれないのか? なら)」
サマナは、無いはずの右目を黒騎士ことオルレイトへと向ける。彼の心を読む。オルレイトの心は、攻撃を受けてからしきりに混乱しており、本人も状況を飲み込めていない様子だった。
「(舌がブルブル震えてしゃべれない! それに、震えてるのは舌だけじゃない。体のあちこちが、全然言う事を効かない!? なんだこれ)」
「(本人にも、一体何が起こってるのかわかってない……でもこれって)」
オルレイトの体は、全身が麻痺し、身動きが取れなくなっている。だがその症状を見たサマナには、オルレイトの身に何が起きたのかを理解し、同時に、セブンに対して憤慨した。
「お前、剣聖だよな」
「そう、呼ばれていたようだ」
「お前、剣士なんだよなぁ!? 」
「如何にも」
「その剣士が、毒を使うのか!? 」
全身の麻痺症状。その毒を、サマナは知っている。それは、砂漠での一幕。街一帯を攻め入る為に、井戸に投げ込まれようとした毒。ひとたび体内に入り込めば、たちまち身動きが取れなくなってしまう猛毒である。
「なんで、なんでてめぇがこいつを使ってくる!? 」
針の先に毒を仕込んだのか、それとも別の方法か。手段は如何様にも考えられる。だがサマナの怒りは、戦いで毒を使う卑劣さに向いている。敵に手段を問うのは愚行ではあるが、サマナの知る剣士は、パームを除く全ての者が、正々堂々としていた。
「帝都が使ってる麻痺毒! 剣聖のお前がソレを使うのか! 」
「――ふむ」
セブンは、粉々にされた爪を、元の長さに戻しながらつぶやいた。
「問われたので答えるが、帝都が使っている毒。と言ったが、正確には違う。この毒は、元々『私達』の体内より精製されるものだ」
「……な、に? 」
帝都が使っていた毒の正体。それこそ、地下に眠る『獣』由来の物であった。獣由来であるならば、『獣』とつながりのあるセブンが使えるのは道理である。
だが、サマナが聞きたいのは、毒の出処ではない。
「剣士のてめぇがなんで毒つかってるんだって聞いてるんだ! 」
サマナは、剣士に対して高い理想を抱いている。なまじカリンやオルレイト、サルトナ砂漠ではアンリーのような、誇りを持つ気高い戦士たちを知っており、かつ、彼らが毒を使った事など一度もなかった。サマナの剣士とは、気高く、強く、そして美しいかった。
今、目の前にいるセブンは、その理想を踏みにじっている。
「ああ、君の怒りは、正しい」
「な、にぃ? 」
弁明するように、釈明するようにセブンは続けた。だがそれはあまりにも、サマナの心を逆撫でするのに効果的である。
「私も使わないに越したことは無かった。君たちの予想外の強さに、私なりに、敬意を払ったのだ」
「敬意? 毒を使う事がか!? 」
「ああ。毒を使った事は、申し訳なく思うが、これも私の、れっきとした手段の一つなのだ」
「お前は、一体」
会話が、絶妙にかみ合わない。常にセブンが、人間を、ひいては全ての者を下に見ており、等の存在とは一切考えていない為である。
「どこまで人を見下せば気が済むんだ」
「気が済む? 」
ふと、セブンの言葉が一瞬詰まる。そして吐き出された言葉は、何処までも人類を、そしてこの星を憎んでいた。
「この程度で気が済むものか」
「何? 」
「何百年、何千年と地下深くに押し込められ、星の血により焼かれ続けた。この星は報いを受けるべきなのだ」
「お前は、一体、こいつを起して何をする気なんだ」
「聞きたいかね? 」
セブンの声が、先ほどとは比べ物にならないくらいに、嬉々としていた。
「『彼女』に、目覚めの接吻を」
「は、はぁ? 」
「そうして、生まれ来る『愛しい子供』たちと出会うのさ」
「こ、子供? 」
「ああ、そうだとも」
彼の声が上擦り、狂乱ともいえる声色になったころ。再び、『獣』が動き出した。足場としていた腕が大きく揺れると、マグマに沈んでいたであろう体が、そのまま地表に出てくる。脚のようにも見えるその部位は、マグマを周りにぶちまけながらせり上がっていく。
「マズイ! セス! 乗せな! 」
《応! 》
「ア……アア」
「ああもう! 担いでやるから心配するな! 」
ただでさえ不安定だった足場が『獣』が動き出した事により、もはや足場としては機能せず、移動を余儀なくされる。身動きの取れなくなった黒騎士を肩に担ぎ、サマナはセスの中へと乗り込んでいく。
「ア、アア」
「クソ、この仮面取るぞ! 」
中に入り込むや否や、サマナは黒騎士の仮面を取り去った。素顔となったオルレイトであるが、目は焦点が合わず、唇はブルブルとふるえている。体は強張っており、思うように動いていない。
「おい! 言いたい事があるなら心で話せ! 」
「(こ、こころ? 何言ってるんだ)」
「あたしもシラヴァーズみたいなことできるようになったんだ! 」
「(な、なんだって! )」
オルレイトにとって、サマナの新たな力は驚愕の事実であったが、今は驚いている暇もない。『獣』は動き出し、足場は無くなっていく。上へと飛び上がろうにも、サイクルジェットを使えるベイラーはここにはいない。セスも飛行は可能だが、あくまで流れに乗るだけで、他のベイラー達を抱えて飛べるような方法ではなかった。
「わ、わわ!? 」
「クソ、揺れる」
「お前ら! こっちに戻ってこい! このままじゃ全員落ちる! 」
「わかったぁ! 」
「ゴールデンベイラーと同じになってたまるものか! 」
戦っていたミーン、ジョウ、シーザァーがサマナの掛け声で戻ってくる。バラバラでいるよりも、一か所に固まっていた方がまだ被害が少ないと判断したのである。ひとまず脱出の方法を模索していると、さきほどまで相対していたセブンの様子がおかしい。サマナ達など目もくれず、一点を見つめて動かない。
「(なんだ? あの先になにがある? )」
足場が揺れて無防備で、襲い掛かるとしたら最上のタイミング。そのタイミングをセブンが見逃している。
「(あれも『敬意』てんじゃないだろうな? )」
「サマナちゃーん! 」
「姫様とコウつかまえたぁ!! 」
「よしでかしたぁ!! 」
セブンの行動を怪しんでいたが、この場で最も聞きたかった言葉が彼方から聞こえてくる。リクが、腕にコウとカリンを抱きながら、えっちらほっちら歩いてくる。リオとクオは、しっかりと役目を果たしていた。
「よくやってくれた! 二人は無事か!? 」
「コウはわかんない! 」
「姫様はなんか大変なの! いっぱい怪我してる! 」
「(サイクル・リ・サイクルを自分に使う暇が無かったのか!? )」
、
カリンの怪我はそこかしこにあり、血も流れ出ている。治療しようにも、ひとまずはこの地下空間からおさらばしなければならない。
「でも、どうやって」
《おいサマナ》
「なんか思いついた!? 」
《違う、腕が動くぞ》
「なんだって!? 」
壁にめり込んでいた部分が引き抜かれ、足場が上へ上へと動いていく。当然斜頸はきつくなり、今まで立っていた彼らは、ブヨブヨとした表皮は掴む事もできず、成す術なく下へと落ちていく。
「ちょっとちょっと! 」
「〈サマナ! セスにサイクルボートを作らせろ! 〉」
「ま、まさかボートに全員乗せる気!? 」
「(最悪マグマ以外の場所に落ち着ければいい! )」
「セス! 」
《聞いている! 》
口の動かないオルレイトの心の声に従い、セスが全員が乗れるほどの巨大なボートを作り上げていく。それをみた他の皆も、落下しながらボートになんとか乗り込んでいく。
「空で船に乗るなんて」
《いいじゃないか! 操舵なんて久々だ》
「そういえば、そうだったね」
船の上にいるのが常であったサマナ。帝都の港で船に乗った事はあっても、操舵、ましてや船長としてふるまう事はできなかった。
「今は、コレが私達のレイミール号だ」
《ではいこうか船長》
「全速前進! のちに上昇! 」
《ヨーソロ! 》
二人にとっては、馴染みの掛け声と共に、地下空間から脱出せんと船をこぎ出した。




